死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第9話 オリビア・ランドール男爵令嬢 ④

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 放課後、アレクシアはオリビアと進路相談室の続き部屋となっている資料室に来ていた。

 ユージーン達は心配して一緒に来ると言ってくれたが、一度オリビアときちんと話してみたかったアレクシアはそれを断った。

 この資料室を使用するには教師の許可がいるため、邪魔される懸念はない。

 壁一面に本棚が配置され、細長いテーブルに椅子が二脚置かれた室内は二人も入れば窮屈なくらいだった。

「お時間を取らせてしまい、申し訳ありません」

 殊勝気にオリビアが顔を俯かせる。

 その様子はいかにも申し訳ないという気持ちでいっぱいのようで、もしここに男性が居れば庇護欲を掻き立てられていただろうが、ここにいるのは女性のアレクシアのみである。

「構いませんわ。それでなんのお話ですの」

 アレクシアとしては普通に返したつもりだったが、オリビアにはその言葉だけで充分だったようで何かを納得したように頷いた。

「やっぱりそうですの」

「ランドール男爵令嬢?」

「フォンデル公爵令嬢にも記憶があるんですね」

 疑問形ではない口調に一瞬アレクシアの動作が止まる。

 すぐに表情を取り繕うがその一瞬だけでオリビアには充分だったようだった。

「つい最近までの私に対する態度が違いましたから。思い出したのはやはりここ最近ですか?」

「ええ」

 勢いに押される形でアレクシアが認めると、オリビアはよかったと軽く手を打ち合わせた。

「やっぱり。でしたら協力願えないでしょうか?」

 その言葉にアレクシアは首を傾げる。

 一度目の生でオリビアはとてもいい人生を送っていたはずであるが、あの後オリビアに何があったのだろう。
 
 そう聞くとオリビアは頭を振って答えた。

「とんでもありませんわ。あの後革命軍に捕らえられた私は処刑されてしまいました。今度も同じようになるなんてごめんですわ!!」

 確かに革命軍からすれば側妃という立場にあるオリビアも処刑対象だろう。

 アレクシアがそう考えているとオリビアが畳み掛けるように続けた。

「そのようなわけですので、どうか協力して欲しいのです」

 言っていることにおかしなことはない。

 だが、アレクシアは少しだけ違和感を感じたような気がした。

 どこ、と具体的には言えないが何かがおかしい。

 それは微かなもので思考を深める前に淡く消えてしまったため、アレクシアは反射的に頷いていた。

「ええ。勿論ですわ」

 オリビアの記憶によると、あの革命は寵臣ばかりを重んじるユクトルに不満を持った北の辺境伯が首謀者となり、民達を先導して起こしたものらしい。

「ということは次の王は辺境伯が成るおつもりでしたの?」

 北のゴブル辺境伯は堅実な領政をしており、自分が前へ出るような性格ではなかったはずである。

 アレクシアがそう問い掛けるとオリビアは違うんですの、と反駁した。

「本来は王太子殿下以外にも直系のお子さまがいらしたらしく、その方を次の王へ立てるつもりだったようですけど」

 ユージーン以外にも嫡子が!?

 初めて聞く事実にアレクシアは驚きを隠せなかった。

 現王は伯爵令嬢だった王妃と結婚する際、幼少からの婚約者を捨てて真実の愛を貫いた、と言われている。

 今のアレクシアの状況に似通っているが、王妃は王太子妃教育をこなし、王妃となった後は公務をこなし、どうしてもできないところだけ補佐に任せていると聞く。

「私はその方を見る前に処刑されてしまったので、それ以上は分からないのですが」

 そう前置きしてオリビアは懇願するように続けた。

「ですから私はもう死にたくないのです。なのでぜひともフォンデル公爵令嬢にはこのまま王太子殿下との婚約を継続していただきたいのです!!」

「……は?」

 だがそれではいずれは革命が起き、皆命を落としてしまうのでは?

 アレクシアの困惑を察したようにオリビアが言葉を紡ぐ。

「前回革命が起きてしまったのは、王太子殿下が自分のお気に入りの者達だけを重用してしまったからです。ですからそこを調節すれば革命なんて起きませんわ」

 理屈は合っているが、アレクシアとしてはまたあの生を繰り返すつもりはなかった。

 どう答えたものか、と悩んでいるアレクシアにオリビアが潤んだ金色の瞳を向けた。

「前回、フォンデル公爵令嬢に公務などいろいろ押し付けてしまったのは本当に申し訳なかった思いますわ。今度は私も反省しましたの。勉強もしておりますし、フォンデル公爵令嬢だけに重荷を背負わせるつもりはありませんわ」

 懇願するオリビアにアレクシアは絆されそうになったが、ぎりぎりのところで堪えたが口が滑ってしまった。

「お話は分かりましたわ。でも、あまりにも思いがけない内容ですから、婚約の件に関してはすぐにはお答えできませんわ」

「ではやはり婚約解消に向けて動いているのですね?」

 思わぬところを突かれ、アレクシアは王太子妃教育で培った鉄面皮で返す。

「詳しいことはお話できませんわ。それに反省されているとおっしゃるのでしたらあの時私が受けた屈辱も分かってくださっているものと思いましたけれど」

「申し訳ありません」

 言い過ぎた、と思った時にはオリビアが謝っていた。

 そして互いに動揺もまだ収まらない段階で話を進めるのは危険だろう、ということで合意し、時折り時間を作って話をすることに決まった。

「それでは失礼いたします」

 オリビアが辞去した後、アレクシアはほっと息をついた。

 まさか彼女にも一度目の生の記憶があるなんて。

 正直なところ彼女にはあまりいい印象はなかったが本人が反省しているというのなら、少しは信用してもいいのではないだろうか。

 そんなことを思いながらアレクシアは日々を過ごす。

 だが――



「アレクシア・フォンデル公爵令嬢!! お前には王太子妃となる資格などない!! 今日この場をもってお前との婚約を破棄する!!」

 王室主催の舞踏会でユクトルに宣言されてしまうことになるとは露ほども思っていないアレクシアだった。



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