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第16話 拉致 ③
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「まずはこちらへ。手荒なことをして申し訳ありません。アレクシア様」
フォンデル公爵令嬢、と呼ばれなかったことに違和感を抱きながらもアレクシアが腰を落ち着ける。クラスター公爵が側仕えに茶を淹れさせるが、アレクシアは軽く首を振った。
さすがにこの状況で飲食できるほど度胸は据わっていない。
苦笑したようにクラスター公爵が口を開いた。
「まあそうでしょうな。お気持ちは御察ししますが、ひとまず話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
アレクシアが頷くのを確認してクラスター公爵が続けた。
「今夜の舞踏会で王家の直系はいなくなった。と世間には流布されるでしょう。ですがそれは違います。なぜなら――」
オリビアが居るから。
そう続く言葉を予想していたアレクシアの耳に届いたのはとんでもない言葉だった。
「アレクシア様。国王陛下と聖女の血を引かれる貴女がおられるからです」
「は?」
聖女の血を引くのはオリビアでは?
それに先ほど王宮で聞いた話ではオリビアは王弟サンダルフォン様と聖女の娘だといわれていたが、なぜそこで国王の名が挙がるのだろう?
様々な疑問が浮かぶアレクシアの前でクラスター公爵がため息をついた。
「さすがに王妃の前でご自分の若気の至りを話すのは気まずかったのでしょう」
クラスター公爵は王宮のあちらこちらへ間者を放っているようで先ほどの話も既に知っているようだった。
「この国の王政はもう死に体です。見掛け倒しの国王に簡単な公務しかしない王妃、そして元王太子は公務を放棄したばかりでなく、婚約者のあなたをないがしろにした」
そこまで聞いてアレクシアの内に疑問が生じる。
クラスター公爵の話によると自分はどうやら国王の娘――王女らしいが、それでいくとユクトルとは婚姻できないのではないだろうか?
この王国では異母兄弟での婚姻は禁じられている。
もっと言えば近隣の諸国でもそのような例はなかった。
「あなた様と元王太子との誕生月の差は三か月。しかも同じ年に生まれているのでは王妃の娘とすることもできない。そこでとある貴族の娘としてあなた様を育てることになりましたが、聖女様があのようなことになったため、早急に、しかも決して見付からないようにあなた様を隠さなければならなくなりました。分かりますね?」
そう聞かれてアレクシアは頷く。
「この国で聖女様はあの方が最後のお一人でした。その血を引く者があると知れれば利用されるのは目に見えています」
更にその者が国王の血も引く、ともあれば。
国政が混乱するのは目に見えていたし、真実の愛で結ばれた王妃の嫉妬も怖い。
そのままであれば生まれると同時に亡き者にされていた可能性が高いだろう。
アレクシアがそう答えるとクラスター公爵はまるで正答を導き出した生徒を褒める教師のような目でアレクシアを見た。
「左様でございます。それでもあなた様を隠してでも生かしたことには理由があります」
「王家存続のためと聖女の血筋を残すため、ですね」
クラスター公爵が満足げに頷く。
「先王の御子は御三方おられましたが、お一方は幼少時にお亡くなりになり、今の国王陛下と王弟サンダルフォン様のみ。そして王弟のサンダルフォン様と妻のテレサ様の間には御子がおられない。そうなるともしユクトル様に万一のことがあった時には非常に困ることになります」
現にその万一が起こってしまっているので何とも言えない気持ちになっていると、クラスター公爵が意外なことを言い始めた。
「そこでアレクシア様にはこのままユクトル様との婚約を維持していただきたいのです」
「……どういうことでしょうか?」
前述したとおり異母兄弟での婚姻は認められていない。
そのことをよく知っているはずのクラスター公爵がなぜそんな発言をするのか意図が分からなかった。
「アレクシア様の疑問はもっともです。このままでは異母兄弟婚に見えますから」
それではまるでユクトルが国王の御子ではないと言っているように聞こえてしまう。
まさか、という思いに捕らわれるアレクシアの耳にとんでもない言葉が届いた。
「ユクトル様に国王陛下の血は流れておりませんから、異母兄弟婚にはなりません」
フォンデル公爵令嬢、と呼ばれなかったことに違和感を抱きながらもアレクシアが腰を落ち着ける。クラスター公爵が側仕えに茶を淹れさせるが、アレクシアは軽く首を振った。
さすがにこの状況で飲食できるほど度胸は据わっていない。
苦笑したようにクラスター公爵が口を開いた。
「まあそうでしょうな。お気持ちは御察ししますが、ひとまず話だけでも聞いていただけないでしょうか?」
アレクシアが頷くのを確認してクラスター公爵が続けた。
「今夜の舞踏会で王家の直系はいなくなった。と世間には流布されるでしょう。ですがそれは違います。なぜなら――」
オリビアが居るから。
そう続く言葉を予想していたアレクシアの耳に届いたのはとんでもない言葉だった。
「アレクシア様。国王陛下と聖女の血を引かれる貴女がおられるからです」
「は?」
聖女の血を引くのはオリビアでは?
それに先ほど王宮で聞いた話ではオリビアは王弟サンダルフォン様と聖女の娘だといわれていたが、なぜそこで国王の名が挙がるのだろう?
様々な疑問が浮かぶアレクシアの前でクラスター公爵がため息をついた。
「さすがに王妃の前でご自分の若気の至りを話すのは気まずかったのでしょう」
クラスター公爵は王宮のあちらこちらへ間者を放っているようで先ほどの話も既に知っているようだった。
「この国の王政はもう死に体です。見掛け倒しの国王に簡単な公務しかしない王妃、そして元王太子は公務を放棄したばかりでなく、婚約者のあなたをないがしろにした」
そこまで聞いてアレクシアの内に疑問が生じる。
クラスター公爵の話によると自分はどうやら国王の娘――王女らしいが、それでいくとユクトルとは婚姻できないのではないだろうか?
この王国では異母兄弟での婚姻は禁じられている。
もっと言えば近隣の諸国でもそのような例はなかった。
「あなた様と元王太子との誕生月の差は三か月。しかも同じ年に生まれているのでは王妃の娘とすることもできない。そこでとある貴族の娘としてあなた様を育てることになりましたが、聖女様があのようなことになったため、早急に、しかも決して見付からないようにあなた様を隠さなければならなくなりました。分かりますね?」
そう聞かれてアレクシアは頷く。
「この国で聖女様はあの方が最後のお一人でした。その血を引く者があると知れれば利用されるのは目に見えています」
更にその者が国王の血も引く、ともあれば。
国政が混乱するのは目に見えていたし、真実の愛で結ばれた王妃の嫉妬も怖い。
そのままであれば生まれると同時に亡き者にされていた可能性が高いだろう。
アレクシアがそう答えるとクラスター公爵はまるで正答を導き出した生徒を褒める教師のような目でアレクシアを見た。
「左様でございます。それでもあなた様を隠してでも生かしたことには理由があります」
「王家存続のためと聖女の血筋を残すため、ですね」
クラスター公爵が満足げに頷く。
「先王の御子は御三方おられましたが、お一方は幼少時にお亡くなりになり、今の国王陛下と王弟サンダルフォン様のみ。そして王弟のサンダルフォン様と妻のテレサ様の間には御子がおられない。そうなるともしユクトル様に万一のことがあった時には非常に困ることになります」
現にその万一が起こってしまっているので何とも言えない気持ちになっていると、クラスター公爵が意外なことを言い始めた。
「そこでアレクシア様にはこのままユクトル様との婚約を維持していただきたいのです」
「……どういうことでしょうか?」
前述したとおり異母兄弟での婚姻は認められていない。
そのことをよく知っているはずのクラスター公爵がなぜそんな発言をするのか意図が分からなかった。
「アレクシア様の疑問はもっともです。このままでは異母兄弟婚に見えますから」
それではまるでユクトルが国王の御子ではないと言っているように聞こえてしまう。
まさか、という思いに捕らわれるアレクシアの耳にとんでもない言葉が届いた。
「ユクトル様に国王陛下の血は流れておりませんから、異母兄弟婚にはなりません」
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