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第18話 捜索 ①
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「そんなことがあるものか!! 彼女は先に帰ったんだ!!」
フォンデル公爵邸の執務室で俺――ユージーン・シグルド――は柄にもなく怒鳴り声を上げていた。
舞踏会が終わり、俺は彼女とは別々に帰宅した。
本当は送って行きたかったが固辞されてしまい、やはりまだ信頼されていないのかと落ち込んでいたのだが、夜半になってフォンデル公爵家からの急使が来たのだ。
その内容はフォンデル公爵令嬢がまだ舞踏会から戻らないため、なにか心当たりはないかというもので、とっくに帰宅していたものと思っていた俺は慌ててフォンデル公爵邸へ向かった。
執務室に案内されるとどこか焦燥した様子のフォンデル公爵に出迎えられ、俺が彼女を隠したかのように言われたので前述のような発言になってしまったのだ。
だが俺は彼女に断られているのでそのことを伝えるとようやくフォンデル公爵は納得したようだった。
「そうなると他にどこを当たったものか」
友人のランズベルト侯爵令嬢も当たったのか、と聞くとフォンデル公爵は頷いた。
「ああ。だがあまり目立つといらぬ醜聞を呼ぶことになる」
公爵令嬢が行方不明、とくればよからぬ想像をする輩もいるだろう。
とかく女性には厳しい世の中だと思う。
「一応ランズベルト侯爵家には内密に、と伝えておいたが」
向こうも娘がいるのでその辺りの機微はわかっているだろう。
室内に沈黙が流れたとき扉が返答も待たずに開かれた。
「どうした?」
慌ただしい様子で扉を開けたのはフォンデル公爵の執事であり、背後に腕を庇うようにしている人物を従えていた。
「申し訳ございません。火急のため失礼いたします。このヨハンが言うには――」
そこまで言いかけて俺の方を窺うように見たので、先を促すようにうなずく。
フォンデル公爵も同じようにするのを確認して執事が報告を始めた。
「お嬢様を迎えに馬車を出したのですが、その途中で無頼者に襲われ、先ほどまで倒れていたとのことです」
「何だと!?」
「……は?」
思わぬ内容にフォンデル公爵と俺の言葉が被り、ヨハンが床に身を投げた。
「申し訳ございません!! 俺、さっきまで気を失ってました!! お嬢様がこんなことになったのは俺のせいです!!」
詳しく話を聞くとヨハンはいつも通り馬車で待機していたところ、衛兵に声を掛けられて人気のないところへおびき寄せられ、そこで数人の男達に暴力を受けたのだという。
「気を失っているうちにこんなことになってるなんて、本当に申し訳ございません!!」
「待て。衛兵がお前を呼んだのか?」
「はい。ですがこれまで見たことのない顔でしたので、新しく配置換えになった相手かと思い、つい」
そこまで聞いたところでフォンデル公爵は考え込んでしまったが、それは俺も同じだった。
衛兵が誘拐の手引きをするとは考えにくい。
となると衛兵の制服を着た誰か、ということになるが衛兵の制服は悪用などされないよう厳重に管理されているはずだ。
一体どうやって――
そこまで考えたところで俺はある可能性に気付いた。
まさか他にも一度目のことを覚えている者がいるのか!?
そうだとしたら事が前倒しになっているかもしれない。
あの革命は厳しい税を課す王家と側近ばかりを重んじるコントワーズ王への不満が積もった北のゴブル辺境伯が起こしたものだが、あれほど早くことが進んだのにはゴフル辺境伯以外にも不満を持つ者が多かったことが挙げられる。
俺は幾つかの貴族を思い浮かべるが、今の俺の立場は帝国の第二王子とはいえ、ただの留学生だ。
一度目の記憶だけで何人もの貴族を罰する訳にもいかないだろう。
なかでも一番あやしいのは黒幕と言われていたクラスター公爵なんだが。
彼女の本当の身分をもし知っているのだとしたなら、今夜の舞踏会で王太子ユクトルが失脚したのを見て彼女の身柄を確保するために動いたに違いないだろう。
手段としては間違っているが、現在この国の王位継承権を持つ直系は彼女しかいないのだから、その判断は革命側からすれば間違っていない。
そうなると俺が取るべき手立ては――
思案にくれていた時間が少し長かったらしく、気が付くとフォンデル公爵が物問いたげに見ていた。
「どうしました?」
帝国の第二王子、という俺の身分を配慮した言葉遣いに心の中では恐縮しながら、俺は口を開いた。
「いえ、何でもありません」
いくらなんでもここで前世の話をするのはおかしいし、今の俺の沈黙に思い当たった様子が見られないことからフォンデル公爵には一度目の記憶がないのだと分かったのだから、そう答えるしかなかった。
だがフォンデル公爵はそんな俺の胸中を読んだかのように人払いをすると俺に向き直った。
「これでよろしいでしょう。何か気になることがおありでしたら、小さなことでも構いません」
口外はしない、と続けられて悩んだが結局情報源は帝国の伝手ということにして話すことに決めた。
彼女を心配するのはフォンデル公爵も同じ。
例えそれが本当の娘ではないとしても。
それではフォンデル公爵の本当の娘はどうしたんだ?
疑問が掠めたが今はアレクシアのことが最優先だ。
俺は先を話すべく口を開いた。
フォンデル公爵邸の執務室で俺――ユージーン・シグルド――は柄にもなく怒鳴り声を上げていた。
舞踏会が終わり、俺は彼女とは別々に帰宅した。
本当は送って行きたかったが固辞されてしまい、やはりまだ信頼されていないのかと落ち込んでいたのだが、夜半になってフォンデル公爵家からの急使が来たのだ。
その内容はフォンデル公爵令嬢がまだ舞踏会から戻らないため、なにか心当たりはないかというもので、とっくに帰宅していたものと思っていた俺は慌ててフォンデル公爵邸へ向かった。
執務室に案内されるとどこか焦燥した様子のフォンデル公爵に出迎えられ、俺が彼女を隠したかのように言われたので前述のような発言になってしまったのだ。
だが俺は彼女に断られているのでそのことを伝えるとようやくフォンデル公爵は納得したようだった。
「そうなると他にどこを当たったものか」
友人のランズベルト侯爵令嬢も当たったのか、と聞くとフォンデル公爵は頷いた。
「ああ。だがあまり目立つといらぬ醜聞を呼ぶことになる」
公爵令嬢が行方不明、とくればよからぬ想像をする輩もいるだろう。
とかく女性には厳しい世の中だと思う。
「一応ランズベルト侯爵家には内密に、と伝えておいたが」
向こうも娘がいるのでその辺りの機微はわかっているだろう。
室内に沈黙が流れたとき扉が返答も待たずに開かれた。
「どうした?」
慌ただしい様子で扉を開けたのはフォンデル公爵の執事であり、背後に腕を庇うようにしている人物を従えていた。
「申し訳ございません。火急のため失礼いたします。このヨハンが言うには――」
そこまで言いかけて俺の方を窺うように見たので、先を促すようにうなずく。
フォンデル公爵も同じようにするのを確認して執事が報告を始めた。
「お嬢様を迎えに馬車を出したのですが、その途中で無頼者に襲われ、先ほどまで倒れていたとのことです」
「何だと!?」
「……は?」
思わぬ内容にフォンデル公爵と俺の言葉が被り、ヨハンが床に身を投げた。
「申し訳ございません!! 俺、さっきまで気を失ってました!! お嬢様がこんなことになったのは俺のせいです!!」
詳しく話を聞くとヨハンはいつも通り馬車で待機していたところ、衛兵に声を掛けられて人気のないところへおびき寄せられ、そこで数人の男達に暴力を受けたのだという。
「気を失っているうちにこんなことになってるなんて、本当に申し訳ございません!!」
「待て。衛兵がお前を呼んだのか?」
「はい。ですがこれまで見たことのない顔でしたので、新しく配置換えになった相手かと思い、つい」
そこまで聞いたところでフォンデル公爵は考え込んでしまったが、それは俺も同じだった。
衛兵が誘拐の手引きをするとは考えにくい。
となると衛兵の制服を着た誰か、ということになるが衛兵の制服は悪用などされないよう厳重に管理されているはずだ。
一体どうやって――
そこまで考えたところで俺はある可能性に気付いた。
まさか他にも一度目のことを覚えている者がいるのか!?
そうだとしたら事が前倒しになっているかもしれない。
あの革命は厳しい税を課す王家と側近ばかりを重んじるコントワーズ王への不満が積もった北のゴブル辺境伯が起こしたものだが、あれほど早くことが進んだのにはゴフル辺境伯以外にも不満を持つ者が多かったことが挙げられる。
俺は幾つかの貴族を思い浮かべるが、今の俺の立場は帝国の第二王子とはいえ、ただの留学生だ。
一度目の記憶だけで何人もの貴族を罰する訳にもいかないだろう。
なかでも一番あやしいのは黒幕と言われていたクラスター公爵なんだが。
彼女の本当の身分をもし知っているのだとしたなら、今夜の舞踏会で王太子ユクトルが失脚したのを見て彼女の身柄を確保するために動いたに違いないだろう。
手段としては間違っているが、現在この国の王位継承権を持つ直系は彼女しかいないのだから、その判断は革命側からすれば間違っていない。
そうなると俺が取るべき手立ては――
思案にくれていた時間が少し長かったらしく、気が付くとフォンデル公爵が物問いたげに見ていた。
「どうしました?」
帝国の第二王子、という俺の身分を配慮した言葉遣いに心の中では恐縮しながら、俺は口を開いた。
「いえ、何でもありません」
いくらなんでもここで前世の話をするのはおかしいし、今の俺の沈黙に思い当たった様子が見られないことからフォンデル公爵には一度目の記憶がないのだと分かったのだから、そう答えるしかなかった。
だがフォンデル公爵はそんな俺の胸中を読んだかのように人払いをすると俺に向き直った。
「これでよろしいでしょう。何か気になることがおありでしたら、小さなことでも構いません」
口外はしない、と続けられて悩んだが結局情報源は帝国の伝手ということにして話すことに決めた。
彼女を心配するのはフォンデル公爵も同じ。
例えそれが本当の娘ではないとしても。
それではフォンデル公爵の本当の娘はどうしたんだ?
疑問が掠めたが今はアレクシアのことが最優先だ。
俺は先を話すべく口を開いた。
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