死に戻りの元王妃なので婚約破棄して穏やかな生活を――って、なぜか帝国の第二王子に求愛されています!?

神崎 ルナ

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第21話 シーサンスの店にて

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 シーサンスの店は細い路地を更に奥へ行ったところにある店だった。

 二人には店の外で待つよう指示を出したフリンクは今度はその扉を手慣れた雰囲気で開く。

「やあ」

「なんだ。あんたか」

 顔見知りなのかフリンクの声に気だるげに答えたのは、艶のない銀髪を背の中ほどまで伸ばしたものを項のあたりで紐でくくるという一風変わった髪型をした青年だった。

「なんだはないだろう。見回りも兼ねてるんだ。変わったことはないか?」

 フリンクの問いかけに青年は呆れたように答える。

「ここでそれを聞くのか? かっぱらいや追い剥ぎなんて珍しくもねぇだろ」

 店内はところどころに古びた武具が散らばり、ここが武器屋であることを示唆しているが、活気はなく、武具にも埃が溜まり、開店閉業の状態だということがすぐにわかる。

「そうか。今ちょっと尋ね人がいてな。若い女性なんだが」

「こんなところに若い女がくるはずないだろ」

「まあ、どうだよな。っと失礼。それなら……ん?」

 踵を返し掛けたフリンクが首を傾げた。

「ここには他にも店員がいたのか?」

「いや。見ればわかるだろ。俺一人だし、これ以上他を雇う余裕なんてねぇよ」

「そうか。邪魔をしたな」

 いとまを告げて店の外へ出たフリンクは待機していた二人に軽く目配せをすると足早に店から離れた。

「どうしたんですか?」

「団長?」

 店が見えなくなるところまで引き返すとフリンクは周囲に他に人の気配がないことを確認してから小声で告げる。

「あの店に恐らくだが、女性がいるな」

「「え!?」」

「口閉じてろ。店に入った時に微かだが甘い香りがした。あれば香水だな」

 それを聞いたデュークが走り出そうとする。

「それじゃあすぐに――」

「よせ。デューク。確認と人員の確保が先だ。万が一逃げられたら洒落にならん。ランドルフ、お前は離れたところから店を見張れ。デュークは俺と来い。こっちもそうだがタイゼンからもらった住所のこともある」

「「はっ」」

 ランドルフが慎重に引き返すのを確認してフリンクは大通りへと引き返す。

「さて、何が出るか」

 フリンクの呟きは人気のない路地へ消えていった。



 フリンクが店から出て行くと銀髪の男性は奥の扉を乱暴に開けた。

「った!!」

 とたんに店内に高い声が広がり、珍しい髪色の女性が転がるように出てきた。

「引っ込んでろ、って言ってなかったか?」

 銀髪の男性が咎めるように告げると女性は勢いよく顔を上げる。

「頭打ったじゃないの!! それにちゃんと引っ込んでたじゃない!! だからあの男性も引き返したんでしょ!?」

「どこか訝しむような顔をしてた。河岸を変えるぞ」
 
 銀髪の男性がぞんざいに告げると簡素な意匠の服を着た女性が不満げに口を開く。

「えー。ちょっと早くない? ちゃんと服も変えてあるのに」

 その言葉に顔を顰めた男性が断言した。

「あいつらを甘く見るな。第一第二はどうでもいいが、第三はマズい。あいつらはこの辺りのことをよく知ってる。こんなところにそんな上等な香水をした女が居るはずないってな」

 ちゃんと着替えたのに、と呟きながら服を嗅ぐ女性に男性が鼻を鳴らした。

「自称お貴族様にしては品がないな」

「失礼じゃない!! 今の身分は男爵令嬢だけど本当は公爵令嬢なのよ!!」

 金色の瞳が男を睨むが男は頓着していないようだった。

「分かった分かった。ったくそっちから勝手に転がり込んどいて。協力者が増えるのはいいが妄想はそれくらいにしろ。それじゃあ行くぞ。自称貴族令嬢のオリビアさま」

 どこか小ばかにしたような口調で男が告げて店の奥へ向かう。

「待ってよ、まだ荷物纏めてないわ」

「さっさとしろよ。恐らく表は見張られてるぞ」

 奥へ進む男の歩みには迷いがなかった。

「どうしてそんなことが分かるのよ!!」

 床板を確かめるように叩きながら男が独り言ちる。

「あのフリンクって団長はもっとしつこい奴だ。あいつは元貴族だからな。へんに頭が働くようだ」

 埃まみれの床板を外すとその下には黒い空間が広がり、階段が見えた。

「そうなんだ」
 
 相槌を打ちながらオリビアがその奥を覗きこむ。そんなオリビアに男が小ばかにしたように告げた。

「お嬢さんとは大違いだな」

「何よ、私は本当は公爵令嬢なんだから!!」

 荷物をまとめる、と背を向けたオリビアに言葉が投げかけられる。

「はっ、それで言うなら俺は王太子だ」

「王太子って……まあ、あんたの方がマシかもね」

 棚から荷物を漁るオリビアがどこか実感の籠った口調で答えた。

「知ってるように言うな」

「知ってるもなにも、私は王太子とは恋人同士だったんだから!!」

 その叫びに返って来たのは適当とも取れる相槌だった。

「はいはい」

 苛立ったようにオリビアが重たげな布袋を肩から背負う。

「何よ、シャークの馬鹿!!」

「ほら行くぞ」

 寄越せ、と言われたオリビアがきょとん、とすると男――シャークは苛立し気に頭を掻いた。

「持ってやるってんだよ。寄越せ」

「は? ええ!?」

 驚いているような声を上げたオリビアにシャークは更に苛立ったようだった。

「何だよ、せっかく持ってやるってんだろ。それともいいのか?」

 背を向けかけたシャークにオリビアが慌てて荷物の入った布袋を渡す。

「どうぞ。っていうか急にどうしたのよ」

「嫌なら別に……」

「じゃないわよ!!」

 シャークの言葉を遮るように告げてオリビアが地下への階段へ足を踏みだした。

「行くわよ。って何よ」

 俯いたシャークオリビアが問い掛けるがその答えは小さく、オリビアには届かなかった。

「……素直じゃねぇな」

「行くわよ?」

 訝し気なオリビアとシャークの姿が地下へ消え、床下が元通りにはめ込まれ、室内は沈黙に包まれた。 




 
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