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第23話 王弟サンダルフォン
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王弟サンダルフォンは現王とは年子であり、すらりとした体躯と甘い顔立ちで、滅多に公の場に出て来ないとはいえ、女性の人気が高い王族である。
学園時代の成績も優秀で、現王が『真実の愛』を見付けた際には王に推そうとする動きがあったことでも知られている。
四十に差し掛かった今でもその魅力は衰えていないように見えたが、以前より少し窶れて見えた。
それでも魅力が損なわれていないというのはすごいというべきか。
王位は継承しなかったが、王位継承権は放棄していないと聞いている。
これは王族の数が少ないこともあるが本人の意向もあるらしい。
「これはサンダルフォン様。わざわざお越しくださり恐悦至極にございます」
丁重にクラスター公爵が口上を述べるが、それを半ば遮るようにサンダルフォンが口を開いた。
「ごたくはいい。これは一体どういうことだ?」
その視線は私の方を向いているように見えた。
ではこの件はクラスター公爵の独断ということなのかしら。
状況を把握しようと努めているとクラスター公爵が静かに返した。
「どうとは?」
「姪御殿をここへ匿うなどという話は聞いていない、というんだ」
多少苛立ったように告げるサンダルフォン様にクラスター公爵は落ち着いて答えを返す。
「ご報告が遅くなりましたのはお詫び申し上げます。昨夜の舞踏会にて不測の事態が起きたため、アレクシア様の身の安全のために急ぎ身柄を確保しなくてはならず、このようになりました次第にございます」
「不測の事態?」
どうやらサンダルフォン様には昨夜のユクトルの愚行は届いていないらしい。
クラスター公爵の説明を聞いたサンダルフォン様は額に手を当てて上を向いた。
「あいつは何をやっているんだ」
「恐らくアレクシア様があまりにも優秀ですので、嫉妬心が沸いてしまったのかと」
「それにしてもこれは――」
そこまで言ったところでサンダルフォン様がこちらを見た。
すかさずクラスター公爵が気遣うように告げる。
「アレクシア様も昨日の今日でさぞお疲れでしょう。お休みになられてはいかがでしょう」
どう見てもこれから何かよからぬ相談をする体にしかみえなかったが、ここで逆らって向こうの心証を悪くしてはこちらの不利になる。
「それではお言葉に甘えて失礼させていただきます」
廊下へ出ると再び侍従に案内されて部屋についた。
アレクシアが部屋へ入るとほとんど同時に施錠される音が聞こえる。
やっぱりそうするわよね。
簡素な作りの椅子に腰かけ軽くため息をつく。
結局ユクトルの父親が誰かについてはまだ謎のままになってしまった。
だがクラスター公爵の言い分も分からなくもない。
表面上はフォンデル公爵令嬢のままユクトルと婚約を維持した方がおかしな波風は立たないのよね。
国内の情勢を考えるとアレクシアの本当の身分をバラすのは得策ではないだろう。
貴族の婚姻に私情は無用だと言われてるが、今のアレクシアには納得できなかった。
私だってできれば本当に好きな人と婚姻したい。
ふいに脳裏に一人の人物が浮かび、アレクシアは慌てて首を振った。
それほど話をした訳ではない。
きっと彼はユクトルとの婚約破棄が進みやすいように協力してくれているのだろう。
だがそれで彼に何の利点があるのだろうか。
もしかしたら帝国の第二王子という立場は強いようでいて案外脆いのかもしれない。
父であるフォンデル公爵が言っていたではないか。
帝国の第一王子は非常に優秀だ、と。
自分は一応公爵令嬢なので、それなりの後ろ盾にはなれるだろう。
いや本当は公爵令嬢ではなく、王女だったようだが。
公にはしないまでも王女だということを彼が知ったらどんな顔をするだろうか。
これまで自分より身分が下だと思っていた相手が上だと知ったら、あまり気分は良くないかもしれない。
ユクトルを基準にしてはいけないとは思うものの、これまでがこれまでだったため、どうしてもその思考のクセが抜けない。
本当に私でいいのかしら。
ユクトルと婚約破棄をしてユージーンの案に乗るとなると、一度目の生で出会った彼の子ケインが生まれなくなる可能性がある。でももしかしたらその女性とはこれから先に出会うのかもしれない。
最初会ったケインはとても大人しい子だった。
後で事情を知って驚いたけれど、そんなことを少しも悟らせずに落ち着いて敬語を使っていたケインを何とか説き伏せ、少しずつくだけた態度になって行く様子を見るのがとても楽しかった。
一度目の生であの頃が一番楽しかったのかもしれない。
外交の場なので頼めばケインのお菓子のお代わりなどすぐに出て来たし、にこにこと笑みを浮かべてお菓子を頬張る小さな子を眺めるのは癒しになる。
しばらくケインとの思い出にふけってから、つと思う。
もしケインの母親らしい女性が彼の前に現れたら、潔く身を引かなくてはならないわね。
アレクシアがそう決意を固めたとき、扉が叩かれる音がした。
「どうぞ」
鍵が開けられ、入室して来た侍従が告げる。
「旦那様からの御伝言です。急ぎ出立するので身支度を整えてほしいとのことです」
学園時代の成績も優秀で、現王が『真実の愛』を見付けた際には王に推そうとする動きがあったことでも知られている。
四十に差し掛かった今でもその魅力は衰えていないように見えたが、以前より少し窶れて見えた。
それでも魅力が損なわれていないというのはすごいというべきか。
王位は継承しなかったが、王位継承権は放棄していないと聞いている。
これは王族の数が少ないこともあるが本人の意向もあるらしい。
「これはサンダルフォン様。わざわざお越しくださり恐悦至極にございます」
丁重にクラスター公爵が口上を述べるが、それを半ば遮るようにサンダルフォンが口を開いた。
「ごたくはいい。これは一体どういうことだ?」
その視線は私の方を向いているように見えた。
ではこの件はクラスター公爵の独断ということなのかしら。
状況を把握しようと努めているとクラスター公爵が静かに返した。
「どうとは?」
「姪御殿をここへ匿うなどという話は聞いていない、というんだ」
多少苛立ったように告げるサンダルフォン様にクラスター公爵は落ち着いて答えを返す。
「ご報告が遅くなりましたのはお詫び申し上げます。昨夜の舞踏会にて不測の事態が起きたため、アレクシア様の身の安全のために急ぎ身柄を確保しなくてはならず、このようになりました次第にございます」
「不測の事態?」
どうやらサンダルフォン様には昨夜のユクトルの愚行は届いていないらしい。
クラスター公爵の説明を聞いたサンダルフォン様は額に手を当てて上を向いた。
「あいつは何をやっているんだ」
「恐らくアレクシア様があまりにも優秀ですので、嫉妬心が沸いてしまったのかと」
「それにしてもこれは――」
そこまで言ったところでサンダルフォン様がこちらを見た。
すかさずクラスター公爵が気遣うように告げる。
「アレクシア様も昨日の今日でさぞお疲れでしょう。お休みになられてはいかがでしょう」
どう見てもこれから何かよからぬ相談をする体にしかみえなかったが、ここで逆らって向こうの心証を悪くしてはこちらの不利になる。
「それではお言葉に甘えて失礼させていただきます」
廊下へ出ると再び侍従に案内されて部屋についた。
アレクシアが部屋へ入るとほとんど同時に施錠される音が聞こえる。
やっぱりそうするわよね。
簡素な作りの椅子に腰かけ軽くため息をつく。
結局ユクトルの父親が誰かについてはまだ謎のままになってしまった。
だがクラスター公爵の言い分も分からなくもない。
表面上はフォンデル公爵令嬢のままユクトルと婚約を維持した方がおかしな波風は立たないのよね。
国内の情勢を考えるとアレクシアの本当の身分をバラすのは得策ではないだろう。
貴族の婚姻に私情は無用だと言われてるが、今のアレクシアには納得できなかった。
私だってできれば本当に好きな人と婚姻したい。
ふいに脳裏に一人の人物が浮かび、アレクシアは慌てて首を振った。
それほど話をした訳ではない。
きっと彼はユクトルとの婚約破棄が進みやすいように協力してくれているのだろう。
だがそれで彼に何の利点があるのだろうか。
もしかしたら帝国の第二王子という立場は強いようでいて案外脆いのかもしれない。
父であるフォンデル公爵が言っていたではないか。
帝国の第一王子は非常に優秀だ、と。
自分は一応公爵令嬢なので、それなりの後ろ盾にはなれるだろう。
いや本当は公爵令嬢ではなく、王女だったようだが。
公にはしないまでも王女だということを彼が知ったらどんな顔をするだろうか。
これまで自分より身分が下だと思っていた相手が上だと知ったら、あまり気分は良くないかもしれない。
ユクトルを基準にしてはいけないとは思うものの、これまでがこれまでだったため、どうしてもその思考のクセが抜けない。
本当に私でいいのかしら。
ユクトルと婚約破棄をしてユージーンの案に乗るとなると、一度目の生で出会った彼の子ケインが生まれなくなる可能性がある。でももしかしたらその女性とはこれから先に出会うのかもしれない。
最初会ったケインはとても大人しい子だった。
後で事情を知って驚いたけれど、そんなことを少しも悟らせずに落ち着いて敬語を使っていたケインを何とか説き伏せ、少しずつくだけた態度になって行く様子を見るのがとても楽しかった。
一度目の生であの頃が一番楽しかったのかもしれない。
外交の場なので頼めばケインのお菓子のお代わりなどすぐに出て来たし、にこにこと笑みを浮かべてお菓子を頬張る小さな子を眺めるのは癒しになる。
しばらくケインとの思い出にふけってから、つと思う。
もしケインの母親らしい女性が彼の前に現れたら、潔く身を引かなくてはならないわね。
アレクシアがそう決意を固めたとき、扉が叩かれる音がした。
「どうぞ」
鍵が開けられ、入室して来た侍従が告げる。
「旦那様からの御伝言です。急ぎ出立するので身支度を整えてほしいとのことです」
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