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第31話 帝国産の魔道具
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そんなアレクシアの胸中など知らぬようにユージーンが言葉を紡ぐ。
「あの魔道具は二つないと作動しない仕組みになっているんだ。髪と瞳の色を取り替えるという単純なものだが、一度作動すると魔道具が壊れるまで持つまで効果を保つため、両親の色を持たずに生まれて来た子のために一時期多用されていたことがあるけど、不具合が見つかって現在帝国では使用禁止となっているんだよ」
そもそもその魔道具は回収されているので今でも残っているのは珍しいという。
「だから報告を受けた時は信じられなかったよ。まさか、アレクシアがあの……失礼。彼女と魔道具を使っていたとはね」
ユージーンの言葉にアレクシアは疑問を感じた。
この魔道具は二つ使用しないと意味がないという。
一つはアレクシアが持っている。ではもう一方は――
「そこから先は私が話しましょう。アレクシア様が生まれた時、我が侯爵家にも新しい命が生まれていたのです。聖女様の体調が優れず、また暗殺者も絶えないことから、急遽クラスター公爵の主導により魔道具が使用されることになりました」
それはまさか――
「聖女様の髪色を持った娘をこのまま公爵家に置く訳にも行かず、丁度その頃死産した貴族夫人がいると聞き、その家の養女とさせました。――オリビア・ランドール。それが今の名です」
どこか疲れたような表情で話すフォンデル公爵の言葉がアレクシアの頬を撫でた。
オリビア・ランドール男爵令嬢。
フォンデル公爵によると支援はしていたらしいが、男爵家ということもあり、あまり大っぴらにはできなかったようだ。
それでもオリビアは学園に入るまでの学力を身に付けてくれたという。
「あの子は自分の本当の生まれを知りません。それでもきちんと学ぶ姿勢を持ってくれた」
感慨深い、とでも言うようにフォンデル公爵が告げるが、今のアレクシアはオリビアに一度目の生の記憶があることを知っている。
一度目の生のオリビアはアレクシアに対する敵愾心を隠しもせず、ましてや勉学に励むということなどなかった。
よほど一度目の生の革命後にひどい目にあったのだろう。
今のオリビアの態度を見てそう納得していると、一度目の生でのフォンデル公爵や夫人の態度も頷けるものがあった。
フォンデル公爵がどこかアレクシアに対して距離を保っていたのは本当の娘ではない、ということと、本来の身分を知っていたため。
そして公爵夫人が領地へ引きこもってしまったのは、現実を見たくなかったのだろう。
自分の本当の娘は下位貴族の養女へ出すしかなかったのに、目の前にいる娘を自分の娘のように扱わなければならない。
長女である姉が隣国へ嫁したのも、恐らくアレクシアの容姿が家族に似ていない、ということを隠すためだったかもしれない。
この魔道具で交換できるのは色だけで、容姿は含まれていないようだから。
そうアレクシアが告げるとフォンデル公爵が感嘆したように頷いた。
「左様です。聖女様のお相手のこともまた御子が生まれたこともほぼ内密にしましたが、人の口に戸は立てられないので対策は念入りにしなければなりませんでした」
ユクトルの父親が王弟サンダルフォンであることもフォンデル公爵は知っていたという。
「知ったのはアレクシア様との婚約が調ってからですが。最初は異母兄弟婚になるのか、と思い反対していたのですが、クラスター公爵の押しが強かったこともあり、断ることができず誠に申し訳ありません」
傍から見れば申し分のない縁談にしか見えない、ということもフォンデル公爵の悩みだったかもしれない。
だが、とアレクシアは思った。
このままではフォンデル公爵の本当の娘であるオリビアはどうなるのだろう?
貴族とはいえ、下位の男爵であり、嫁ぎ先も上位の貴族は望めないのではないだろうか。
そこでアレクシアは傍と思い出した。
一度目の生でユクトルがオリビアと出会った仮面舞踏会。
あまりにもタイミングがよすぎる。
もしかしたらフォンデル公爵が舞台を整えたのでは。
いや、だとしたらオリビアが側妃になる際に強固に反対した理由が分からない。
あの時反対したのはアレクシアのことを慮ってではなく、実の娘のオリビアが正妃ではなく側妃となってしまうことが気に入らなかったのだろう。
それではあの仮面舞踏会はオリビアの独断だったのだろう。
今聞くことではないし、一度目の生の記憶を持つのは自分とオリビアしかいないのだが、オリビアが口を割るとは思えない。
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありません」
そこで話が一段落したと思ったのかユージーンが再び話し掛けてきた。
「それでは、少しいいでしょうか?」
「はい」
真摯な青い瞳がアレクシアを捕らえる。
「現状は理解できたといただけます。その上で問います。――どうか、私の妃になってくれませんか?」
「あの魔道具は二つないと作動しない仕組みになっているんだ。髪と瞳の色を取り替えるという単純なものだが、一度作動すると魔道具が壊れるまで持つまで効果を保つため、両親の色を持たずに生まれて来た子のために一時期多用されていたことがあるけど、不具合が見つかって現在帝国では使用禁止となっているんだよ」
そもそもその魔道具は回収されているので今でも残っているのは珍しいという。
「だから報告を受けた時は信じられなかったよ。まさか、アレクシアがあの……失礼。彼女と魔道具を使っていたとはね」
ユージーンの言葉にアレクシアは疑問を感じた。
この魔道具は二つ使用しないと意味がないという。
一つはアレクシアが持っている。ではもう一方は――
「そこから先は私が話しましょう。アレクシア様が生まれた時、我が侯爵家にも新しい命が生まれていたのです。聖女様の体調が優れず、また暗殺者も絶えないことから、急遽クラスター公爵の主導により魔道具が使用されることになりました」
それはまさか――
「聖女様の髪色を持った娘をこのまま公爵家に置く訳にも行かず、丁度その頃死産した貴族夫人がいると聞き、その家の養女とさせました。――オリビア・ランドール。それが今の名です」
どこか疲れたような表情で話すフォンデル公爵の言葉がアレクシアの頬を撫でた。
オリビア・ランドール男爵令嬢。
フォンデル公爵によると支援はしていたらしいが、男爵家ということもあり、あまり大っぴらにはできなかったようだ。
それでもオリビアは学園に入るまでの学力を身に付けてくれたという。
「あの子は自分の本当の生まれを知りません。それでもきちんと学ぶ姿勢を持ってくれた」
感慨深い、とでも言うようにフォンデル公爵が告げるが、今のアレクシアはオリビアに一度目の生の記憶があることを知っている。
一度目の生のオリビアはアレクシアに対する敵愾心を隠しもせず、ましてや勉学に励むということなどなかった。
よほど一度目の生の革命後にひどい目にあったのだろう。
今のオリビアの態度を見てそう納得していると、一度目の生でのフォンデル公爵や夫人の態度も頷けるものがあった。
フォンデル公爵がどこかアレクシアに対して距離を保っていたのは本当の娘ではない、ということと、本来の身分を知っていたため。
そして公爵夫人が領地へ引きこもってしまったのは、現実を見たくなかったのだろう。
自分の本当の娘は下位貴族の養女へ出すしかなかったのに、目の前にいる娘を自分の娘のように扱わなければならない。
長女である姉が隣国へ嫁したのも、恐らくアレクシアの容姿が家族に似ていない、ということを隠すためだったかもしれない。
この魔道具で交換できるのは色だけで、容姿は含まれていないようだから。
そうアレクシアが告げるとフォンデル公爵が感嘆したように頷いた。
「左様です。聖女様のお相手のこともまた御子が生まれたこともほぼ内密にしましたが、人の口に戸は立てられないので対策は念入りにしなければなりませんでした」
ユクトルの父親が王弟サンダルフォンであることもフォンデル公爵は知っていたという。
「知ったのはアレクシア様との婚約が調ってからですが。最初は異母兄弟婚になるのか、と思い反対していたのですが、クラスター公爵の押しが強かったこともあり、断ることができず誠に申し訳ありません」
傍から見れば申し分のない縁談にしか見えない、ということもフォンデル公爵の悩みだったかもしれない。
だが、とアレクシアは思った。
このままではフォンデル公爵の本当の娘であるオリビアはどうなるのだろう?
貴族とはいえ、下位の男爵であり、嫁ぎ先も上位の貴族は望めないのではないだろうか。
そこでアレクシアは傍と思い出した。
一度目の生でユクトルがオリビアと出会った仮面舞踏会。
あまりにもタイミングがよすぎる。
もしかしたらフォンデル公爵が舞台を整えたのでは。
いや、だとしたらオリビアが側妃になる際に強固に反対した理由が分からない。
あの時反対したのはアレクシアのことを慮ってではなく、実の娘のオリビアが正妃ではなく側妃となってしまうことが気に入らなかったのだろう。
それではあの仮面舞踏会はオリビアの独断だったのだろう。
今聞くことではないし、一度目の生の記憶を持つのは自分とオリビアしかいないのだが、オリビアが口を割るとは思えない。
「どうかされましたか?」
「いえ、なんでもありません」
そこで話が一段落したと思ったのかユージーンが再び話し掛けてきた。
「それでは、少しいいでしょうか?」
「はい」
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