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第1話 王子サイラス視点
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失踪していたクラリッサを見つけたかもしれない――その知らせを持ち込んだのは、僕の叔母上でありクラリッサの母である公爵夫人ポーラだった。
「その子は……本当にクラリッサなのですか……?」
時刻は正午。ファラクト国の宮廷。人払いされた貴賓室。そこに第二王子である僕の問いかけが響く。向かいにはユクル公爵とその夫人である叔母上が座っていたが、二人とも感情を抑えるのがやっとという感じで表情を強張らせていた。
やがて叔母上は震え始め、その目から涙を滴らせる。
「まだ分からないわ……。でもその子は名前を“クララ”と言い、十二歳で、金髪に夕陽色の瞳を持っているそうなの……」
その返答に、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。
公爵令嬢クラリッサ……彼女が生きていれば十二歳。失踪時、四歳だったクラリッサは自分自身のことを“クララ”と愛称で呼んでいた。さらには、金髪と夕陽色の瞳という見た目も一致している。その少女は、僕の婚約者なのだろうか?
次いで、クラリッサの父であるユクル公爵が詳細を語り出した。
「一昨日、妻はサフィル街にある聖堂へ寄付に向かいました。すると昨日、老司祭が三日前に起きた事件について語ってくれたのだそうです。ハリオット伯爵家で女中をしているクララが聖堂近くの空き家で罪を犯し、治安官に拘束されたと」
「何だって……? 一体どんな罪を犯したのだ……?」
「男性を殴って強姦したのだと――」
「嘘だろう……」
そう呟くと、ユクル公爵と叔母上が震え出した。
「私達も嘘だと思いました……! 悪い夢だと思いました……! しかしその少女は、現に傷害と強姦の罪で拘束されているのです……!」
「サイラス、どうか力を貸して……! その娘がクラリッサなのか調査して……! 見た目が一致していても、本当にクラリッサなのか分からないのよ……――」
泣き崩れる二人。貴賓室に響く嗚咽。僕の胸が激しく痛む。
クラリッサの失踪後――
王家とユクル公爵家は総力をあげてクラリッサの捜索を行った。王都、街、農村をくまなく探し、貴族の許可を得て領地や屋敷内までも探し切った。しかしクラリッサは見付からず……そして失踪から八年後の今、ようやく希望が見えたのだ。
この僕が、必ず真実を突き止めてやる――
僕はユクル公爵と叔母上に、すぐ行動すると約束した。
まず従者サムを呼び出し、サフィル街にある治安官事務所を見張るように命じる。さらに従者ベンをハリオット伯爵家へ小間使いとして侵入させ、クララの情報を集めさせる。十数名の従者には、クララが起こしたという事件を調査させる。
酷く取り乱しているユクル公爵と叔母上には、宮廷で休養を取らせることにした。今後のことを考え、体力と精神力を温存させるべきだ。
叔母上が事件を知ったのは昨日。事件が起きたのは四日前。通常は、犯人拘束から二十日程度で裁判となる。つまり残された日数は、十五日ほど。もし有罪判決を受け、刑が執行されたら手遅れになる。
しかし僕達にできるのは、待つことだけだ。もし拘束されているクララに接触し、クラリッサだと感じても証拠が足りない。クララを公爵令嬢だと認めるには、確実な証拠が必要なのだ。だから僕達は知らせを待ち続けた――
明後日の朝、サフィル街を調査したひとりの従者の伝書鳥が、僕の元へ飛んできた。その足の筒には、重要な手紙が入れられていた。
「何だと……? 老司祭は、治安官に嘘の証言をしたのか……?」
叔母上に事件を語った老司祭は、ハリオット伯爵から金銭を受け取ったらしい。そして“クララがマイルズを犯したことにしなければ、酷い目に遭わせる”と脅されたそうなのだ。
その発言は、従者が聖堂へ大金を寄付したことで聞き出せたようだ。さらに老司祭は、クララは強姦などしていないと語る。従者は目撃者の住民からも、重要な証言を引き出した。クララは、むしろ男達に襲われそうになっていたようだと。
つまりクララは罪を犯していない……ハリオット伯爵に陥れられたのだ。
そして夕方、伝書鳥が二羽飛んできた。ひとつは従者ベンからの手紙で、ひとつは従者サムからの手紙だ。僕はまずベンの手紙を見た。
「何ということだ……! 女中クララの肩にはライオン型の痣があるだと……!? それはクラリッサと全く同じじゃないか……!?」
クラリッサには生まれつきの痣がある。それはライオンが座った形をした薄桃色の痣なのだ。伯爵家の女中によると、クララにはその痣があるという。さらにクララは孤児で、六歳の時に伯爵家へ雇われたらしい。そして“お嬢様だった記憶がある”と周囲に語っていたというのだ――
間違いない! 女中クララは、公爵令嬢クラリッサだ!
すぐに従者サムからの手紙も見る。そこには“翌夕、クララの裁判が行われます。街を騒がせた凶悪犯罪のため、早急に裁くそうです”と書かれていた。この王都からサフィル街まで、馬を駆らせても丸一日かかる。
早く出発しなくては! クラリッサが危ない!
「ユクル公爵! 急いでサフィル街の裁判所へ向かおう!」
「サイラス様……! 必ずクラリッサを救い出しましょう……!」
「ああ、二人共……! どうかクラリッサを守ってちょうだい……!」
クラリッサを陥れたハリオット伯爵を必ず潰す――僕も、ユクル公爵も、叔母上も、言葉を交わさずとも同じ気持ちだった。
「その子は……本当にクラリッサなのですか……?」
時刻は正午。ファラクト国の宮廷。人払いされた貴賓室。そこに第二王子である僕の問いかけが響く。向かいにはユクル公爵とその夫人である叔母上が座っていたが、二人とも感情を抑えるのがやっとという感じで表情を強張らせていた。
やがて叔母上は震え始め、その目から涙を滴らせる。
「まだ分からないわ……。でもその子は名前を“クララ”と言い、十二歳で、金髪に夕陽色の瞳を持っているそうなの……」
その返答に、僕は雷に打たれたような衝撃を受けた。
公爵令嬢クラリッサ……彼女が生きていれば十二歳。失踪時、四歳だったクラリッサは自分自身のことを“クララ”と愛称で呼んでいた。さらには、金髪と夕陽色の瞳という見た目も一致している。その少女は、僕の婚約者なのだろうか?
次いで、クラリッサの父であるユクル公爵が詳細を語り出した。
「一昨日、妻はサフィル街にある聖堂へ寄付に向かいました。すると昨日、老司祭が三日前に起きた事件について語ってくれたのだそうです。ハリオット伯爵家で女中をしているクララが聖堂近くの空き家で罪を犯し、治安官に拘束されたと」
「何だって……? 一体どんな罪を犯したのだ……?」
「男性を殴って強姦したのだと――」
「嘘だろう……」
そう呟くと、ユクル公爵と叔母上が震え出した。
「私達も嘘だと思いました……! 悪い夢だと思いました……! しかしその少女は、現に傷害と強姦の罪で拘束されているのです……!」
「サイラス、どうか力を貸して……! その娘がクラリッサなのか調査して……! 見た目が一致していても、本当にクラリッサなのか分からないのよ……――」
泣き崩れる二人。貴賓室に響く嗚咽。僕の胸が激しく痛む。
クラリッサの失踪後――
王家とユクル公爵家は総力をあげてクラリッサの捜索を行った。王都、街、農村をくまなく探し、貴族の許可を得て領地や屋敷内までも探し切った。しかしクラリッサは見付からず……そして失踪から八年後の今、ようやく希望が見えたのだ。
この僕が、必ず真実を突き止めてやる――
僕はユクル公爵と叔母上に、すぐ行動すると約束した。
まず従者サムを呼び出し、サフィル街にある治安官事務所を見張るように命じる。さらに従者ベンをハリオット伯爵家へ小間使いとして侵入させ、クララの情報を集めさせる。十数名の従者には、クララが起こしたという事件を調査させる。
酷く取り乱しているユクル公爵と叔母上には、宮廷で休養を取らせることにした。今後のことを考え、体力と精神力を温存させるべきだ。
叔母上が事件を知ったのは昨日。事件が起きたのは四日前。通常は、犯人拘束から二十日程度で裁判となる。つまり残された日数は、十五日ほど。もし有罪判決を受け、刑が執行されたら手遅れになる。
しかし僕達にできるのは、待つことだけだ。もし拘束されているクララに接触し、クラリッサだと感じても証拠が足りない。クララを公爵令嬢だと認めるには、確実な証拠が必要なのだ。だから僕達は知らせを待ち続けた――
明後日の朝、サフィル街を調査したひとりの従者の伝書鳥が、僕の元へ飛んできた。その足の筒には、重要な手紙が入れられていた。
「何だと……? 老司祭は、治安官に嘘の証言をしたのか……?」
叔母上に事件を語った老司祭は、ハリオット伯爵から金銭を受け取ったらしい。そして“クララがマイルズを犯したことにしなければ、酷い目に遭わせる”と脅されたそうなのだ。
その発言は、従者が聖堂へ大金を寄付したことで聞き出せたようだ。さらに老司祭は、クララは強姦などしていないと語る。従者は目撃者の住民からも、重要な証言を引き出した。クララは、むしろ男達に襲われそうになっていたようだと。
つまりクララは罪を犯していない……ハリオット伯爵に陥れられたのだ。
そして夕方、伝書鳥が二羽飛んできた。ひとつは従者ベンからの手紙で、ひとつは従者サムからの手紙だ。僕はまずベンの手紙を見た。
「何ということだ……! 女中クララの肩にはライオン型の痣があるだと……!? それはクラリッサと全く同じじゃないか……!?」
クラリッサには生まれつきの痣がある。それはライオンが座った形をした薄桃色の痣なのだ。伯爵家の女中によると、クララにはその痣があるという。さらにクララは孤児で、六歳の時に伯爵家へ雇われたらしい。そして“お嬢様だった記憶がある”と周囲に語っていたというのだ――
間違いない! 女中クララは、公爵令嬢クラリッサだ!
すぐに従者サムからの手紙も見る。そこには“翌夕、クララの裁判が行われます。街を騒がせた凶悪犯罪のため、早急に裁くそうです”と書かれていた。この王都からサフィル街まで、馬を駆らせても丸一日かかる。
早く出発しなくては! クラリッサが危ない!
「ユクル公爵! 急いでサフィル街の裁判所へ向かおう!」
「サイラス様……! 必ずクラリッサを救い出しましょう……!」
「ああ、二人共……! どうかクラリッサを守ってちょうだい……!」
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