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中編
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ベイジル・リロルット男爵視点
陛下の使者からの書簡を読み、俺は笑った。
内容は“重大な知らせがあるから宮廷を訪れよ”というものだった。俺はついに成功の時が訪れたのだと思った。これは間違いなく、戦地で手柄を立てたため陞爵されるに違いない。数週間前に、邪魔なアデラインとは離縁が成立した。ミアには求婚して、承諾を受けてある。ここに来て陞爵されれば、大手を振って結婚式を挙げられる。ああ、もう輝かしい未来しか見えない。
しかし宮廷にて、俺は呆然とした。
「奪爵……だって? なぜだ……!? 俺は魔王軍に勝ったんだぞ……!?」
爵位剥奪を告げた役人に、俺は食ってかかった。
しかし役人はにべもなく返す。
「そもそもあなたの手柄は一時凌ぎのようなものです。魔王軍の幹部を倒したとしても、代わりの魔物が掃いて捨てるほどいるのですよ」
俺の功績を貶す言葉に、苛々する。
こいつは戦場が分かっていない。あの地獄で、俺は英雄だったんだぞ。誰もが俺を持て囃し、頼っていたあの状況をその目で見ていないから言えるのだ。分からないなら分からせてやる。
「あんたは何も分からないんだ! 俺は英雄だぞ!? 今日だって陞爵されるつもりで来てやったのに、何が奪爵だ! 魔王軍幹部の首を今ここに持ってきて国王陛下に直訴したっていい! ともかく、俺は功績を上げた!」
「ですから、その功績以上に問題を起こしたということです。あなたは元妻の悪評をでっち上げ、一方的に離縁状を送りつけたでしょう?」
「な、なんだと……?」
役人が何を言っているのか分からなかった。元妻とはアデラインのことだろうが、なぜあんなチンケな女にしたことが取り沙汰されるのだ。そもそもどうしてこの俺が悪評を流したことがバレているのだろうか。戦地から従者を使い、こっそりと噂を流させたというのに。
呆然としていると、役人がぽつりと言った。
「戦況は今後変わりますよ。我が国は守護され、魔王軍は手を引かざるを得なくなるでしょう。それもこれもある一人の女性の手柄ですがね」
「ある女の力で戦況が変わる……? 聖女の到来か……? まさかミアが……?」
聖女候補の中で最も力を発揮しているのはミアだ。まさかあいつが覚醒したのだろうか。そんなことを考えていると、役人が残念そうに目を細めた。
「違います。彼女も聖堂に呼び出され、破門を言い渡されている頃でしょう。兎に角、あなたとミアは処罰されました。今後、問題を起こせばもっと厳しい処罰もあり得るでしょう」
「ふ……ふざけるな! どうして俺達が!?」
「これは慈悲ある対応ですよ。心して受け入れて下さい」
そう告げると、役人は俺を追い払った。俺は宮廷人に羽交い締めにされ、廊下を引きずられていく。しかし中庭に差しかかると、一人の女の悲鳴が聞こえた。
「離して! あたしが聖女よ! その偽物を見せなさいよ!」
「……ミア!」
それは俺の愛しい相手だった。
俺はすぐに駆け寄り、ミアの手を取る。
「ベイジル! この国を救うという女が現れたらしいのよ! 聖女に最も相応しいのはあたしだっていうのに!」
「俺も聞いたぞ! そんな女、お前以外いないだろう!? なのに、どうして俺達はこんな目に遭っているんだ!」
その時、不意にファンファーレが聞こえた。向かいの大広間からだ。俺とミアは制止しようとする宮廷人達を振り切り、大広間に飛び込んだ――
陛下の使者からの書簡を読み、俺は笑った。
内容は“重大な知らせがあるから宮廷を訪れよ”というものだった。俺はついに成功の時が訪れたのだと思った。これは間違いなく、戦地で手柄を立てたため陞爵されるに違いない。数週間前に、邪魔なアデラインとは離縁が成立した。ミアには求婚して、承諾を受けてある。ここに来て陞爵されれば、大手を振って結婚式を挙げられる。ああ、もう輝かしい未来しか見えない。
しかし宮廷にて、俺は呆然とした。
「奪爵……だって? なぜだ……!? 俺は魔王軍に勝ったんだぞ……!?」
爵位剥奪を告げた役人に、俺は食ってかかった。
しかし役人はにべもなく返す。
「そもそもあなたの手柄は一時凌ぎのようなものです。魔王軍の幹部を倒したとしても、代わりの魔物が掃いて捨てるほどいるのですよ」
俺の功績を貶す言葉に、苛々する。
こいつは戦場が分かっていない。あの地獄で、俺は英雄だったんだぞ。誰もが俺を持て囃し、頼っていたあの状況をその目で見ていないから言えるのだ。分からないなら分からせてやる。
「あんたは何も分からないんだ! 俺は英雄だぞ!? 今日だって陞爵されるつもりで来てやったのに、何が奪爵だ! 魔王軍幹部の首を今ここに持ってきて国王陛下に直訴したっていい! ともかく、俺は功績を上げた!」
「ですから、その功績以上に問題を起こしたということです。あなたは元妻の悪評をでっち上げ、一方的に離縁状を送りつけたでしょう?」
「な、なんだと……?」
役人が何を言っているのか分からなかった。元妻とはアデラインのことだろうが、なぜあんなチンケな女にしたことが取り沙汰されるのだ。そもそもどうしてこの俺が悪評を流したことがバレているのだろうか。戦地から従者を使い、こっそりと噂を流させたというのに。
呆然としていると、役人がぽつりと言った。
「戦況は今後変わりますよ。我が国は守護され、魔王軍は手を引かざるを得なくなるでしょう。それもこれもある一人の女性の手柄ですがね」
「ある女の力で戦況が変わる……? 聖女の到来か……? まさかミアが……?」
聖女候補の中で最も力を発揮しているのはミアだ。まさかあいつが覚醒したのだろうか。そんなことを考えていると、役人が残念そうに目を細めた。
「違います。彼女も聖堂に呼び出され、破門を言い渡されている頃でしょう。兎に角、あなたとミアは処罰されました。今後、問題を起こせばもっと厳しい処罰もあり得るでしょう」
「ふ……ふざけるな! どうして俺達が!?」
「これは慈悲ある対応ですよ。心して受け入れて下さい」
そう告げると、役人は俺を追い払った。俺は宮廷人に羽交い締めにされ、廊下を引きずられていく。しかし中庭に差しかかると、一人の女の悲鳴が聞こえた。
「離して! あたしが聖女よ! その偽物を見せなさいよ!」
「……ミア!」
それは俺の愛しい相手だった。
俺はすぐに駆け寄り、ミアの手を取る。
「ベイジル! この国を救うという女が現れたらしいのよ! 聖女に最も相応しいのはあたしだっていうのに!」
「俺も聞いたぞ! そんな女、お前以外いないだろう!? なのに、どうして俺達はこんな目に遭っているんだ!」
その時、不意にファンファーレが聞こえた。向かいの大広間からだ。俺とミアは制止しようとする宮廷人達を振り切り、大広間に飛び込んだ――
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