借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~

わんた

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第1話 借りていた店舗を追い出される

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 詳しい時期は分からないけど、戦後ぐらいから世界中にスキルを持つ人が生まれるようになった。スキルには「剣術」といった幅が広いものから、「乱れ突き」のような具体的な技術に特化したものまである。非常に珍しいのはSランクスキルを呼ばれ、A、B、C、Dとランクが下がっていくけど、それは能力の強さは考慮されていない。あくまで、所持している人が多いか、少ないかで判断されている。

 またスキルと同時にダンジョンが各地に発生して、魔物と戦い魔石や素材を持ち帰って換金する職業――探索者が生まれると派生の産業も多く出てきた。

 俺は錬金術スキルを持っていたためギルドに入って、傷が瞬時に癒える回復ポーションなどを錬成し、ギルドに貸してもらっているお店で売っていた。

 これからも順調に商売をしていけると思っていたんだけど、錬金術ギルド渋谷支部長の知晴ともはるさんに呼び出されたことで状況は一変してしまう。

 前日に「話がある」と言われて、今日は錬金術ギルドが所有するビルに来ていた。

 受付を済ませてから指定された会議室に入ると、既に待っていた知晴さんが口を大きく開く。

天宮裕真あまみやゆうま、お前は錬金術ギルドの店舗から出て行け! 今日中にだ!」

 怒鳴るのと同時に、中年になって出てしまったお腹がすごく揺れている。
 飽きられることは多かったけど、ここまで怒られるのは初めてで驚いていてしまった。

 俺は錬金術師として研究はしっかりしていた。一部の成果――オリジナルの錬成レシピはギルドにも提出していて、一定の評価を受けていたのに、なぜ追い出されるのだろう。

「どうして俺が出て行かないといけないの?」
「家賃の滞納が半年も続いているんだ! 当然だろっ!」
「ぐ……っ」

 正論を叩きつけられ、反論できなかった。

 錬金術に使うダンジョン産の素材を買い漁っていたら、売上金を使い込んでしまい、家賃を支払う金がなくなっちゃたんだよね。

 一ヶ月滞納したら、二ヶ月、三ヶ月と続き、「ダメだよなぁ」と思いながらも催促状は、ゴミ箱にぽいっと捨てていたのだ。

 結果として、半年ぐらいは店舗の家賃を滞納している。

「わかったなら出て行ってくれ。それが裕真のためになる」

 その後もいろいろと話を聞いてみたけど、錬金術ギルドの決定は覆らないみたい。

 滞納していた俺が悪いんだから仕方ないよね。諦めよう。

「迷惑かけたね」

 錬金術ギルドのビルを出ると、真夏の陽差しが眩しかった。

 道行く人たちは明るい笑顔ばかり。

 見ているだけでむなしくなってきたので、急ぎ渋谷の道玄坂を歩いて店へ戻ると、人工精霊のユミが出迎えてくれた。

「マスターお帰りなさい」

 見た目は10歳ぐらいの少女だ。肌は白く人工的に見える。髪は透明感がある銀青色で、インナー側が薄く発光していた。前髪が切りそろえられたセミロングと、ワンピース姿から落ち着いた雰囲気を感じさせてくる。

「お店の家賃は支払ってきましたか?」
「ごめん! 手遅れだった!」

 手を合わせて謝罪をすると、ユミはため息を吐いた。

「退去命令が出てしまったんですね。期限はどうなっています?」
「…………もう過ぎてた」

 ユミの目がスーッと細くなった。
 だから言ったじゃないか、といった圧力を感じる。

「滞納していたとはいえ、ギルド側の対応は酷いですね」
「もう次が決まっていて早く商売をさせたいらしく、待てないらしいよ」
「だとしても急ぎ過ぎです。今からでも期限の交渉をしませんか?」
「う~ん。止めておく」

 面倒だし、一日に二度も知晴さんに怒鳴られたくはない。

 それに商売には向いてないと思っていたし、結果として良かったのかもと思い直しているところだ。

「マスターはそれで、いいんですか?」
「うん。後悔はしてない。俺には錬金術ギルドの看板は重すぎたんだよ」
「わかりました。では、すぐに退去しましょう。私物と錬金用の道具はマジックバッグに入れるとして、素材はどうします?」
「素材の持ち運びは難しいから、錬成して商品にするしかない」

 錬金術スキルは一瞬にして錬成してくれて便利なんだけど、素材はそうもいかない。保管温度を数度間違えるだけでダメにしてしまうのだ。

 地下保管庫から持っていく際に、半数は使えなくなってしまう。かといって、業者を呼んで運ぶ金も時間もない。
借金してまで買った素材を無駄にしたくないから、錬金術スキルで錬成するしかなかった。

 私物の収納をユミに任せて、俺は地下室にある保管庫の中へ入った。

 壁一面に細かく区切られた棚がある。金属製の扉がついていて、ディスプレイには温度や空調などの状態が表示されている。

 素材ごとに適切な温度や湿度が異なるので、専用の機材で個別に管理しているのだ。

 とりあえず、回復ポーションを作ろう。

 ダイヤルを回して扉のロックを解除すると、棚からブルーボルド草を取り出す。乾燥していてカサカサとした手触りだ。

 これをすり鉢で潰し、粉状にしていく。その際、薬研で魔力をブルーボルド草へ送ることで、素材の品質がさらに高まっていく。

 ミキサーを使ってもいいんだけど、低品質のブルーボルド粉末しか出来ないため、俺は絶対に自動化はしない。職人としてのプライドが許さないのだ。

 丁寧に粉末状にしてから、部屋の中心に置いた大きな樽へ入れる。

 さらに別の棚から純水を取り出した。ポーション系等には必ず使う混じりけの無い水だ。手を近づけて魔力を注いでいくと、エーテル水へ変わっていく。

 これも注ぐ人の魔力の質によって、上級~下級のエーテル水へ分類されることになり、俺の魔力は錬金術と親和性が高いので、必ず上級エーテル水になる。これもブルーボルド粉末を入れた樽に投入だ。

 軽く混ぜて準備は完了である。

 エーテル水とブルーボルド粉末の比率もバッチリだ。

「錬金術スキル起動」

 キーワードを唱えると両手が光って、目の前に本が浮かぶ。今まで作ったことのある物のレシピがまとめられている。意志だけで操作してページをめくり、回復ポーションで止めると、床に手をつけた。

 樽を中心として魔法陣が浮かび上がる。

 体内から魔力が抜かれていき樽の中へ移動していく。

 錬金術で錬成した物の品質は、素材、魔力量、スキルの熟練度によって変わっていく。俺は家賃を滞納してまで最高の素材を集め、錬成ばかりしていたので、素材と熟練度には自信がある。

 魔力量については調べたことないけど、他人よりも多いことぐらいは分かっていた。

 錬成が終わったようで魔法陣は消える。

 樽の中を見ると回復ポーションになっていた。体温計のような形をした測定器を入れると、回復量は最大値を示していた。

 これなら四肢欠損すら治せるだろう。

「問題は、どうやって持って行くかだな」

 樽を持つには重すぎる。回復ポーションを入れる容器は試験管みたいな形をしていて、小分けにすれば持てるようになるんだけど時間はかけたくない。

「うーんどうしよう」
「マスターは錬成した後のことを考えて無かったんですね」

 悩んでいると、ため息を吐きながらユミが地下室に降りてきた。

 私物の回収は終わったようだ。

「計画性という言葉がないのですか?」
「あはは、昔からよく言われている。ユミ、何とかしてくれ」
「……そのままだと、私抜きでは生きれなくなりますよ?」

 また半目で見られてしまった。

 創造主である俺に冷たすぎないか?

「まあいいです。自宅に持って行かせますから、マスターは錬成を続けてください」

 ユミの体から淡い光を放つ青白い無数の蝶が出現した。幽灯蝶ゆうとうちょうと呼ばれる下位精霊の一種らしく、好んで使役している。

 俺が作った人工精霊であっても、ユミは上位精霊のカテゴリに入るため、相性が良い中位までの精霊なら従ってくれるらしい。

 幽灯蝶は樽に集まると細い足で掴むと持ち上げた。見た目からは想像がつかないほどのパワーである。階段の上に行ってしまう。

 肝心のユミは立ったまま俺を見ているだけ。

 先ほどのやりとりもあってちょっと気まずいが、さっさと錬成をしなければ。

 魔力ポーション、解呪ブローチ、マジックバッグといった便利なアイテムから、ミスリル銀、ヒヒイロカネといった金属素材、ゴーレム核、爆発ビン、魔物寄せのお香といった便利グッズまで作っていく。

 それらをすべて幽灯蝶が運んでいく。ユミは動かない。

「暇じゃないか?」
「そんなことありません」

 錬成してる姿を見ているだけのユミを気づかって聞いてみたのだが、即答されてしまった。
 首をかしげて「本当か?」と疑ってみたが、表情一つ変えずに見られていて変化がない。よく分からない性格に育ったみたいだ。

「それよりも時間は大丈夫ですか? もう17時ですよ」

 やばい。まだ素材はたっぷりと残っている!

 0時には終わらないが、朝までには片付くだろう。

 一般社会だと今日中と指定されたら、明日の朝までという意味なので、ギリギリだが間に合うぞ。
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