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第41話 (知晴視点)錬金術ギルドのイラ立ち
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ドラゴンの素材は探索者ギルド主体で市場に放出され、売上金の一部は錬金術ギルドの渋谷支部にも流れている。
本来なら一円も入ってこないはずだったのだが、裕真が討伐に参加して活躍したため、幹部同士が話し合い利益の5%ぐらいはもらえる話になったのだ。
たった5%だと感じるかもしれないが、それでも数十億の金が動く。
それほどドラゴンの素材は貴重な上に、今回は状態も非常に良かった。使える場所が多い。
支部として単月どころか年間の売上も更新できそうで、状況は非常に良い……と言えれば、どれほど幸せだったか。
報告書は工作して人工精霊やミスラム、絶刃の存在は隠しておいたが、それでも裕真が回復ポーションを提供して活躍した事実は消せない。さらには強化ポーションまで錬成、提供したのだから、必然として上層部の注目を集めてしまったのだ。
* * *
俺は本部がある大手町まで呼び出され、錬金術ギルドの自社ビルにいる。
30階まで上がると、通常は役員が会議している部屋に入った。
細長いテーブルの奥にはギルド長と呼ばれている木島礼子が座っていた。第一世代で師匠とは、ライバルであり友人でもあったと聞いている。
他は各地域を統括するエリア部長が勢揃いしていて、俺をじろりと睨んでいた。
好意的な視線はない。
胃が痛くなってきたぞ。
「錬金術ギルド渋谷支部、宇田川知晴だな。空いている席に座れ」
言われたとおり、出入り口に近い席へ腰を下ろした。
これから裕真が保有する肉体強化ポーションのレシピについての話が始まる。
緊張で喉は渇くが、俺だけ飲み物が用意されていない。
歓迎されていないことは、この事実からも読み取れた。
「お前の支部に天宮裕真という男がいるな?」
「はい」
口を開いたのは、関東エリアを取りまとめている男――村田だ。俺が成績を伸ばしていることで、立場を追われるんじゃないかと勘違いし、目の敵にされている。
師匠から頼まれていることもあって、裕真の面倒を見るのに忙しいから、偉くなるつもりはないんだけどな。
「その男が肉体強化ポーションを錬成したらしいな。また効果が非常に高い、画期的な回復ポーションも錬成できると聞いている。レシピは提供させただろうな?」
「打診はしましたが断られました」
村田の眉がピクリと上がった。
「どうして強制させない?」
「できないからですよ。それは村田さんもご存じですよね」
錬金術はレシピさえ分かれば再現しやすい。また料理のレシピと同様に著作権で保護されていないため、錬金術師は飯の種を簡単には明かさないのだ。
ギルドがレシピを開示してもらう際は金を用意するのが、たいていの場合は錬金術師が満足する量は用意できず、断られることの方が多かった。
「それを何とかするのが、支部長の仕事だろっ!」
「では、ドラゴンで得た利益の一部を使わせてください。天宮が活躍して発生した臨時収入なのですから、レシピ購入に使っても問題ないのでは?」
「既に使い道は決まっている。それはできん」
でしょうね。知っているよ。断ると思ったから提案したんだ。
「出世をちらつかせてはどうだ?」
「天宮は職人気質の男です。出世には興味ありません」
身内になら簡単に公開してくれるのだが、それを知られたらいいように使われてしまうだろう。
俺が惚れた才能は絶対に守る。
幹部たちには、絶対に公開しない男だと印象付けておきたかった。
「だったら借金をなくす線で交渉はできないか?」
木島のばーさんが、低く枯れた声で割り込んできた。
「数日前に完済しています。ドラゴン討伐の報酬を使ったのでしょう」
錬金術ギルドに突っ込まれると分かっていたので、ユミに金を貸して返済は終わらせていた。現在、裕真は俺に対して借金をしていることになる。
つまりギルド側は債権を持っていないので、交渉のカードとしては使えないのだ。
「そういうことですか。職人気質の割には用意周到なようで」
あ、やばい。木島のばーさんは、俺が手を回していると気づいているようだ。
違法なことはしてないので、深く切り込まれても大丈夫だとは思うが、相手は混乱期を乗り越えた化け物だ。
何をしてくるかわからない怖さがあって、緊張感が高まっていく。
「天宮には優秀な助手がいるので、彼女が対応したのでしょう」
「報告にあった契約精霊ですね。知能が高いのは、間違いないかしら?」
「はい」
人工精霊だとバレたら危機的な状況になるため、余計なことは言わない。
同意して口を閉じ、木島の反応を待つ。
胃がキリキリして痛い。後で薬を飲もう……。
「契約した経緯についても詳しく知りたいけど、教えてくれそう?」
「レシピと同じぐらい秘匿性が高いので難しいかと」
「それは残念」
木島はあっさりと引き下がった。
ポーションレシピ公開に関する尋問は、これで終わりと言うことだろう。
「今回は残念な結果になりましたが、チャンスがあればまた交渉はしてみます」
席を立ち上がろうとすると、村田が止める。
「待ちたまえ。話は残っている」
「何でしょう?」
「天宮に辞令を出す。関東の山奥にある放置ダンジョンの調査に同行して欲しい」
世界各地にダンジョンがあり、有益な素材が手に入るところは人が大勢訪れる。
だが利益にならないダンジョンだと、誰も訪れないのだ。そこで国は、定期的に安全確認の義務をギルドに押しつけていた。
通常は年末頃に行われるのだが、渋谷に出現したドラゴンのような例外が出てきたので、前倒しになったんだろうな。緊急調査ってヤツだ。
「錬金術師の同行が必要なほどの状況なのでしょうか?」
「長期調査になる可能性があるので、念のため派遣するだけだ。例年通りなら危険なことはないだろう」
「期間はどれほどで?」
「最低でも一ヶ月、長ければ無期限だ。ダンジョンの近くには宿泊兼監視用の山小屋があるから、調査をするに不自由はしないだろう」
山の奥にある放置ダンジョン。しかも無期限になる可能性もあるのか。
裕真がダンジョンで行商をしていることは錬金術ギルドを把握している。
高性能な回復ポーションを安値で売られたら、改革という名の価格つり上げ計画の邪魔になると思われたのだろう。
放置ダンジョンを定期的に調査するのは、探索ギルドと錬金術ギルドに課せられた使命だ。国からの命令でもあるので、断れば免許剥奪される。
理由もなく反発すれば、俺が裕真の味方をしていると宣言することになり、今後も裏でサポートするためには避けたい。
これは飲み込むしかなさそうだ。
「わかりました。辞令をもらい次第、天宮に伝えます」
「よろしい。では、話は以上だ」
もう用済みだと言われたので、席を立って会議室を出る。
廊下にある窓から、そびえ立つビル群が見えた。
裕真は渋谷が便利だから好きだと言っていたが、しばらくはこの光景ともお別れになるだろうな。
田舎でユミとゆっくり過ごしていてくれ。
本来なら一円も入ってこないはずだったのだが、裕真が討伐に参加して活躍したため、幹部同士が話し合い利益の5%ぐらいはもらえる話になったのだ。
たった5%だと感じるかもしれないが、それでも数十億の金が動く。
それほどドラゴンの素材は貴重な上に、今回は状態も非常に良かった。使える場所が多い。
支部として単月どころか年間の売上も更新できそうで、状況は非常に良い……と言えれば、どれほど幸せだったか。
報告書は工作して人工精霊やミスラム、絶刃の存在は隠しておいたが、それでも裕真が回復ポーションを提供して活躍した事実は消せない。さらには強化ポーションまで錬成、提供したのだから、必然として上層部の注目を集めてしまったのだ。
* * *
俺は本部がある大手町まで呼び出され、錬金術ギルドの自社ビルにいる。
30階まで上がると、通常は役員が会議している部屋に入った。
細長いテーブルの奥にはギルド長と呼ばれている木島礼子が座っていた。第一世代で師匠とは、ライバルであり友人でもあったと聞いている。
他は各地域を統括するエリア部長が勢揃いしていて、俺をじろりと睨んでいた。
好意的な視線はない。
胃が痛くなってきたぞ。
「錬金術ギルド渋谷支部、宇田川知晴だな。空いている席に座れ」
言われたとおり、出入り口に近い席へ腰を下ろした。
これから裕真が保有する肉体強化ポーションのレシピについての話が始まる。
緊張で喉は渇くが、俺だけ飲み物が用意されていない。
歓迎されていないことは、この事実からも読み取れた。
「お前の支部に天宮裕真という男がいるな?」
「はい」
口を開いたのは、関東エリアを取りまとめている男――村田だ。俺が成績を伸ばしていることで、立場を追われるんじゃないかと勘違いし、目の敵にされている。
師匠から頼まれていることもあって、裕真の面倒を見るのに忙しいから、偉くなるつもりはないんだけどな。
「その男が肉体強化ポーションを錬成したらしいな。また効果が非常に高い、画期的な回復ポーションも錬成できると聞いている。レシピは提供させただろうな?」
「打診はしましたが断られました」
村田の眉がピクリと上がった。
「どうして強制させない?」
「できないからですよ。それは村田さんもご存じですよね」
錬金術はレシピさえ分かれば再現しやすい。また料理のレシピと同様に著作権で保護されていないため、錬金術師は飯の種を簡単には明かさないのだ。
ギルドがレシピを開示してもらう際は金を用意するのが、たいていの場合は錬金術師が満足する量は用意できず、断られることの方が多かった。
「それを何とかするのが、支部長の仕事だろっ!」
「では、ドラゴンで得た利益の一部を使わせてください。天宮が活躍して発生した臨時収入なのですから、レシピ購入に使っても問題ないのでは?」
「既に使い道は決まっている。それはできん」
でしょうね。知っているよ。断ると思ったから提案したんだ。
「出世をちらつかせてはどうだ?」
「天宮は職人気質の男です。出世には興味ありません」
身内になら簡単に公開してくれるのだが、それを知られたらいいように使われてしまうだろう。
俺が惚れた才能は絶対に守る。
幹部たちには、絶対に公開しない男だと印象付けておきたかった。
「だったら借金をなくす線で交渉はできないか?」
木島のばーさんが、低く枯れた声で割り込んできた。
「数日前に完済しています。ドラゴン討伐の報酬を使ったのでしょう」
錬金術ギルドに突っ込まれると分かっていたので、ユミに金を貸して返済は終わらせていた。現在、裕真は俺に対して借金をしていることになる。
つまりギルド側は債権を持っていないので、交渉のカードとしては使えないのだ。
「そういうことですか。職人気質の割には用意周到なようで」
あ、やばい。木島のばーさんは、俺が手を回していると気づいているようだ。
違法なことはしてないので、深く切り込まれても大丈夫だとは思うが、相手は混乱期を乗り越えた化け物だ。
何をしてくるかわからない怖さがあって、緊張感が高まっていく。
「天宮には優秀な助手がいるので、彼女が対応したのでしょう」
「報告にあった契約精霊ですね。知能が高いのは、間違いないかしら?」
「はい」
人工精霊だとバレたら危機的な状況になるため、余計なことは言わない。
同意して口を閉じ、木島の反応を待つ。
胃がキリキリして痛い。後で薬を飲もう……。
「契約した経緯についても詳しく知りたいけど、教えてくれそう?」
「レシピと同じぐらい秘匿性が高いので難しいかと」
「それは残念」
木島はあっさりと引き下がった。
ポーションレシピ公開に関する尋問は、これで終わりと言うことだろう。
「今回は残念な結果になりましたが、チャンスがあればまた交渉はしてみます」
席を立ち上がろうとすると、村田が止める。
「待ちたまえ。話は残っている」
「何でしょう?」
「天宮に辞令を出す。関東の山奥にある放置ダンジョンの調査に同行して欲しい」
世界各地にダンジョンがあり、有益な素材が手に入るところは人が大勢訪れる。
だが利益にならないダンジョンだと、誰も訪れないのだ。そこで国は、定期的に安全確認の義務をギルドに押しつけていた。
通常は年末頃に行われるのだが、渋谷に出現したドラゴンのような例外が出てきたので、前倒しになったんだろうな。緊急調査ってヤツだ。
「錬金術師の同行が必要なほどの状況なのでしょうか?」
「長期調査になる可能性があるので、念のため派遣するだけだ。例年通りなら危険なことはないだろう」
「期間はどれほどで?」
「最低でも一ヶ月、長ければ無期限だ。ダンジョンの近くには宿泊兼監視用の山小屋があるから、調査をするに不自由はしないだろう」
山の奥にある放置ダンジョン。しかも無期限になる可能性もあるのか。
裕真がダンジョンで行商をしていることは錬金術ギルドを把握している。
高性能な回復ポーションを安値で売られたら、改革という名の価格つり上げ計画の邪魔になると思われたのだろう。
放置ダンジョンを定期的に調査するのは、探索ギルドと錬金術ギルドに課せられた使命だ。国からの命令でもあるので、断れば免許剥奪される。
理由もなく反発すれば、俺が裕真の味方をしていると宣言することになり、今後も裏でサポートするためには避けたい。
これは飲み込むしかなさそうだ。
「わかりました。辞令をもらい次第、天宮に伝えます」
「よろしい。では、話は以上だ」
もう用済みだと言われたので、席を立って会議室を出る。
廊下にある窓から、そびえ立つビル群が見えた。
裕真は渋谷が便利だから好きだと言っていたが、しばらくはこの光景ともお別れになるだろうな。
田舎でユミとゆっくり過ごしていてくれ。
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