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第59話 マスターとユミの後悔
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防具をもらってすぐ帰るのも悪いと思って、ばーちゃん家で泊まることにした。
夜ご飯はアジの開きにアサリの味噌汁、白米、ほうれん草のおひたしだ。シンプルな和食で俺は物足りなかったけど、ユミは満足していたみたい。確信がないのは、俺が話しかけても無視されるからだ。
頬で遊んだことに、まだ怒っているらしい。
今晩は、ばーちゃんと一緒に寝ると言っていて、俺は大きな部屋で一人、布団を敷いている。
ユミと出会ってからずっと一緒だった。自宅には個人の部屋がないので、ベッドは別だったけど同じ空間にはいたので、誰もいないというのは久々である。
「思っていたよりも寂しいな」
声に出してみると、より孤独感を覚えた。
夏だというのに心が寒い。
調子に乗って頬をイジったことが、ここまで問題を長引かせるとは思わなかった。
既に何回か謝ったけど、ユミは許してくれない。言葉だけじゃ足りないのだろうけど、俺にはどうすればいいか分からない。
頼れる友人に相談しようと思ってスマホを取り出す。電源が切れていたので充電すると、しばらくしてディスプレイが光った。
スマホを操作して誠にチャットを送る。
『ユミが怒って許してくれないんだけど、どうすればいいかな?』
返信はこない。
寝ちゃってるのかな。
スマホを放り投げようとすると、通知が来た。誠だ。
返信が早い!
やっぱり頼れる男だ。
『何をしたんだ?』
『頬を伸ばして遊んでただけなんだ』
『お前……女の子に、そんなことしたらダメだろ』
誠は呆れているようだ。やっぱり良くなかったんだ。
お餅みたいですごく良かったんだけどなぁ。幸せだったのは俺だけだったみたい。
『俺も学んだよ。もう二度としない』
『それがいい』
『でさ、どうしたら許してくれると思う?』
返信が止まった。
早く来ないか、そわそわしている。
スマホを床に置き、布団の上で正座ながら真っ黒になったディスプレイをじっと見る。
数分すると、通知が来た。
すぐにスマホを持って内容を確認する。
『圭子に聞いた。相手が喜ぶプレゼントをして、もう一度謝りなさい、らしい』
プレゼント作戦か!
同性の圭子さんが言うならまちがいない! 早速用意しないとね!
『ありがとう。プレゼントを作ってみる』
スマホを投げ捨てると、部屋を出て倉庫へ入った。
ここには錬金術の素材が沢山あるけど、今回はスキルを使うつもりはない。
手作りの方が気持ちは伝わると思ったからだ。
ただ時間はかけたくない。一晩で完成する物がいいな。
倉庫の棚を開けながら使えそうな素材を確認していると、色とりどりの糸を見つけた。これはクロちゃんと同じ蜘蛛の魔物から採取したものだ。
非常に丈夫で探索者用の服にも使われる。錬金術スキルを使って、鉱石と合成すればより頑丈になり、刃物よりも鋭い糸にすることも可能だ。
「これと過去に作ったマジックバッグを組み合わせれば……」
倉庫には錬金術で作った物も沢山転がっている。
錬成物の山を探していると、俺が最近作った水色のポーチ型のマジックバッグを発見した。これは使える。
ばーちゃんの家に戻って刺繍用の針を持ってくると、部屋で作業を開始した。
何度か失敗して指が傷ついてしまったけど、今は作業を優先するためポーションを飲むのは後回しだ。
マジックバッグに糸を通して、脳内に浮かんだムカデを描いていく。
最近見たから鮮明に形は覚えているんだけど、写真のように再現するのは不可能だ。お店で買ったワッペンのようにデフォルメしたデザインにする予定である。
何度か指を刺しながらも、喜んでくれるかなと思いながら作業を進めていく。
ムカデの体がマジックバッグを囲うようなデザインにしてしまったため、大量の糸を使ってしまっている。時間もかかって、空が明るくなってきた。
現在の完成度は9割ほど。ユミが起きるまで……あと2時間ぐらいか。
寝ている間に終わらせておきたいけど、完成度を下げたくはないので、焦るなと言い聞かせながら黙々と刺繍を進める。
ちゅん、ちゅんと、鳥の鳴き声が聞こえたところでようやく完成した。
「終わった~~!!」
集中力が切れて急に眠気が襲ってきたけど、寝るわけにはいかない。
ばーちゃん家には今時珍しく固定電話があり、隣にメモ帳があったので一枚拝借すると、「ごめんね」と文字を書く。
まだ二人とも寝ているようなので、寝室の前にマジックバッグと一緒に紙を置いて部屋に戻った。
指がチクチク痛むけど眠気の方が勝っている。
ポーションを飲むのは、起きてからにするか。
布団に入ったら、すぐに意識が薄れて眠ってしまった。
* * *
朝起きて部屋を出たら、床にマスターのメモが落ちていた。
拾ってみると「ごめんね」とだけ書かれている。不器用なマスターらしい気づかいで、思わず笑みがこぼれてしまった。
一晩寝たら頬で遊ばれたことなんて、どうでもよくなっていたんだけど、言わない方がいいかな。
「え? これは……」
私が使っているのとは色違いのマジックバッグが置かれていた。大好きなムカデの刺繍が施されている。
こういったデザインは市販されないので、マスターの手作りなんだと思う。
錬金術で作った物は何度かもらったことがあったけど、手作りは初めて。
じんわりと温かい気持ちが広がっていく。
お礼を言いたくなって、マジックバッグを抱えてマスターの部屋へ入る。
お布団の中で寝ていた。しかも掛け布団代わりのタオルケットの上で。
私が入っても気づかないほど熟睡しているみたい。
起こしてあげようと思って近づくと、ふと血が滲んでいる指が視界に入った。よく見ると、小さな刺し傷がいくつかある。私が寝る前には、なかったものだ。
もしかして……夜中に刺繍をしていたの!?
だから、朝なのにずっと寝ているのかな。辻褄は合う。
私が不機嫌な態度を取っただけで、寝る時間を削って怪我をさせるようなことをしてしまったみたい。さっきまであった温かい気持ちは吹き飛んで、罪悪感で心が締めつけられる。
膝をついて、傷だらけになったマスターの手を取る。
「私こそ、ごめんなさい」
返しきれないほどの恩がある人に怒っていた自分を叱りつけたい。
話しかけられたときに無視するんじゃなかった。
これからの行動でマスターに謝罪をしよう。頬だって何度引っ張ってもいいからね。
浮かんできた涙を拭いて、気持ちを切り替える。
マスターからもらったマジックバッグには探索用のポーションが沢山入っていたので、一つ取り出して指にかけると傷はすぐに治った。うん。これで体は大丈夫だね。
次に下敷きになっているタオルケットを引っ張り取って、マスターの上に乗せる。
夏とはいえ、クーラーの効いた部屋だからお腹は隠さないと。
後は温かいご飯を作っておかなきゃ。マスターが起きたときにお腹が減っているかもしれないからね。
夜ご飯はアジの開きにアサリの味噌汁、白米、ほうれん草のおひたしだ。シンプルな和食で俺は物足りなかったけど、ユミは満足していたみたい。確信がないのは、俺が話しかけても無視されるからだ。
頬で遊んだことに、まだ怒っているらしい。
今晩は、ばーちゃんと一緒に寝ると言っていて、俺は大きな部屋で一人、布団を敷いている。
ユミと出会ってからずっと一緒だった。自宅には個人の部屋がないので、ベッドは別だったけど同じ空間にはいたので、誰もいないというのは久々である。
「思っていたよりも寂しいな」
声に出してみると、より孤独感を覚えた。
夏だというのに心が寒い。
調子に乗って頬をイジったことが、ここまで問題を長引かせるとは思わなかった。
既に何回か謝ったけど、ユミは許してくれない。言葉だけじゃ足りないのだろうけど、俺にはどうすればいいか分からない。
頼れる友人に相談しようと思ってスマホを取り出す。電源が切れていたので充電すると、しばらくしてディスプレイが光った。
スマホを操作して誠にチャットを送る。
『ユミが怒って許してくれないんだけど、どうすればいいかな?』
返信はこない。
寝ちゃってるのかな。
スマホを放り投げようとすると、通知が来た。誠だ。
返信が早い!
やっぱり頼れる男だ。
『何をしたんだ?』
『頬を伸ばして遊んでただけなんだ』
『お前……女の子に、そんなことしたらダメだろ』
誠は呆れているようだ。やっぱり良くなかったんだ。
お餅みたいですごく良かったんだけどなぁ。幸せだったのは俺だけだったみたい。
『俺も学んだよ。もう二度としない』
『それがいい』
『でさ、どうしたら許してくれると思う?』
返信が止まった。
早く来ないか、そわそわしている。
スマホを床に置き、布団の上で正座ながら真っ黒になったディスプレイをじっと見る。
数分すると、通知が来た。
すぐにスマホを持って内容を確認する。
『圭子に聞いた。相手が喜ぶプレゼントをして、もう一度謝りなさい、らしい』
プレゼント作戦か!
同性の圭子さんが言うならまちがいない! 早速用意しないとね!
『ありがとう。プレゼントを作ってみる』
スマホを投げ捨てると、部屋を出て倉庫へ入った。
ここには錬金術の素材が沢山あるけど、今回はスキルを使うつもりはない。
手作りの方が気持ちは伝わると思ったからだ。
ただ時間はかけたくない。一晩で完成する物がいいな。
倉庫の棚を開けながら使えそうな素材を確認していると、色とりどりの糸を見つけた。これはクロちゃんと同じ蜘蛛の魔物から採取したものだ。
非常に丈夫で探索者用の服にも使われる。錬金術スキルを使って、鉱石と合成すればより頑丈になり、刃物よりも鋭い糸にすることも可能だ。
「これと過去に作ったマジックバッグを組み合わせれば……」
倉庫には錬金術で作った物も沢山転がっている。
錬成物の山を探していると、俺が最近作った水色のポーチ型のマジックバッグを発見した。これは使える。
ばーちゃんの家に戻って刺繍用の針を持ってくると、部屋で作業を開始した。
何度か失敗して指が傷ついてしまったけど、今は作業を優先するためポーションを飲むのは後回しだ。
マジックバッグに糸を通して、脳内に浮かんだムカデを描いていく。
最近見たから鮮明に形は覚えているんだけど、写真のように再現するのは不可能だ。お店で買ったワッペンのようにデフォルメしたデザインにする予定である。
何度か指を刺しながらも、喜んでくれるかなと思いながら作業を進めていく。
ムカデの体がマジックバッグを囲うようなデザインにしてしまったため、大量の糸を使ってしまっている。時間もかかって、空が明るくなってきた。
現在の完成度は9割ほど。ユミが起きるまで……あと2時間ぐらいか。
寝ている間に終わらせておきたいけど、完成度を下げたくはないので、焦るなと言い聞かせながら黙々と刺繍を進める。
ちゅん、ちゅんと、鳥の鳴き声が聞こえたところでようやく完成した。
「終わった~~!!」
集中力が切れて急に眠気が襲ってきたけど、寝るわけにはいかない。
ばーちゃん家には今時珍しく固定電話があり、隣にメモ帳があったので一枚拝借すると、「ごめんね」と文字を書く。
まだ二人とも寝ているようなので、寝室の前にマジックバッグと一緒に紙を置いて部屋に戻った。
指がチクチク痛むけど眠気の方が勝っている。
ポーションを飲むのは、起きてからにするか。
布団に入ったら、すぐに意識が薄れて眠ってしまった。
* * *
朝起きて部屋を出たら、床にマスターのメモが落ちていた。
拾ってみると「ごめんね」とだけ書かれている。不器用なマスターらしい気づかいで、思わず笑みがこぼれてしまった。
一晩寝たら頬で遊ばれたことなんて、どうでもよくなっていたんだけど、言わない方がいいかな。
「え? これは……」
私が使っているのとは色違いのマジックバッグが置かれていた。大好きなムカデの刺繍が施されている。
こういったデザインは市販されないので、マスターの手作りなんだと思う。
錬金術で作った物は何度かもらったことがあったけど、手作りは初めて。
じんわりと温かい気持ちが広がっていく。
お礼を言いたくなって、マジックバッグを抱えてマスターの部屋へ入る。
お布団の中で寝ていた。しかも掛け布団代わりのタオルケットの上で。
私が入っても気づかないほど熟睡しているみたい。
起こしてあげようと思って近づくと、ふと血が滲んでいる指が視界に入った。よく見ると、小さな刺し傷がいくつかある。私が寝る前には、なかったものだ。
もしかして……夜中に刺繍をしていたの!?
だから、朝なのにずっと寝ているのかな。辻褄は合う。
私が不機嫌な態度を取っただけで、寝る時間を削って怪我をさせるようなことをしてしまったみたい。さっきまであった温かい気持ちは吹き飛んで、罪悪感で心が締めつけられる。
膝をついて、傷だらけになったマスターの手を取る。
「私こそ、ごめんなさい」
返しきれないほどの恩がある人に怒っていた自分を叱りつけたい。
話しかけられたときに無視するんじゃなかった。
これからの行動でマスターに謝罪をしよう。頬だって何度引っ張ってもいいからね。
浮かんできた涙を拭いて、気持ちを切り替える。
マスターからもらったマジックバッグには探索用のポーションが沢山入っていたので、一つ取り出して指にかけると傷はすぐに治った。うん。これで体は大丈夫だね。
次に下敷きになっているタオルケットを引っ張り取って、マスターの上に乗せる。
夏とはいえ、クーラーの効いた部屋だからお腹は隠さないと。
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