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四章 散らばった真実をかき集めて
25-1 男の子ですから?
しおりを挟む「もう、笑わないでくださいよ……」
「ふふふ。ごめんごめん」
「あんまりにも必死だったから」と理由になっているのかなっていないのか、わからない返答をされる。
俺が口を尖らせて例れば、「夕飯作ってあげるからさ、許して?」と顔を覗き込まれた。
……そんな言い方されたら、何でも許してしまいそうだ。
「ところで蜜希さん、その格好……」
「うん? ああ、ごめんね。あのまま傘ないまま帰ったらびちょびちょでさ。お風呂借りちゃった」
それはいい。それはいいのだが。
俺は気まずさに視線を逸らす。
蜜希さんは俺の部屋着をどこからか出して身に纏っていた。
それはいい。別に構わない。
――チョイスが高校時代のジャージじゃなければ。
(俺、捨ててたと思ってたんだけどな)
まさか残っていた上、蜜希さんに発掘されて、蜜希さんに着られているなんて。
急に男のロマン(というか下心)をぶち抜かれた気分だ。
「暁月くん?」
「な、何でもないです」
「そう?」
「それより、早くお風呂入って来なよ。外寒かったでしょ、風邪引くよ」と言われ、俺は頷く。
お客さんである蜜希さんを放置していくのは心苦しかったが、そんなことを言ったら風呂にまで着いてきそうだ。
それは避けたい。
蜜希さんの為にも、俺の理性の為にも。
「それじゃあ、お好きなようにくつろいでいただいて大丈夫なので……」
「なんで急に畏まってるのさ」
クスクスと蜜希さんは笑う。
控えめな笑い方は、蜜希さんの代名詞みたいなものだと、俺は思っている。
「ちゃんと温まって来るんだよー」という声を背に、俺は脱衣所に入った。
さっきまでは気にしていなかったが、雪道を走ったせいで足元がびしょびしょに濡れている。
靴下も濡れているので、後で廊下を拭かなければ。
服を脱いで、洗濯機に突っ込もうとして、止まる。
中には蜜希さんの服がすでに入っていた。
一瞬過る、邪な想像を服と一緒に丸め込んで、洗濯機の中に突っ込む。
蜜希さんに会ってから、自分の中にあった欲が今にも爆発したそうに燻っている。
深呼吸を繰り返し、理性を保つ。
(平常心……平常心……)
俺は我慢できる男だ。
強靭な精神力を持つアルファである。例え好きな人、オメガであっても、理性は簡単に手放さない種族である。
「大丈夫、大丈夫……」
呪いのように何度も呟き、風呂の扉を開ける。
ぶわりと湯気が舞った。
「えっ」
風呂が、溜められている……?
いつ。誰が。いや、蜜希さんしかいない。
(もしかして、あの電話の後に溜めてくれたのか……?)
蜜希さんが?
俺の為に?
それは何という、至福だろうか。
俺は感謝と愛おしさに持ち上がりそうになる期待を宥めつつ、有難く風呂を頂戴した。
雪で冷えた体に、湯の温かさが沁みる。
同時に蜜希さんの優しさまで沁みて来るようだった。
「幸せだ……」
浴槽に浸かりながら呟く。声が小さく反響し、湯気と一緒に宙を踊っている。
あの時は大胆なことをしてしまったかと思ったが、こんな時間が待っているなら鍵を渡してよかったと思う。
風呂を上がれば、蜜希さんがいて。
久々に一緒に夕食を食べることが出来て。
きっと一緒に寝ることも出来るだろう。
(一緒に、寝る……)
ふと、俺は大事なことを忘れているんじゃないかと思い当たる。
思い切って蜜希さんを誘ったはいいが、この家に来客用の布団なんて物はない。
つまり、寝具を使うとなれば俺のベッドしかないわけで。
「……いや、いやいやいや」
無理だ。絶対に無理。
よりによって、俺のベッドで、俺の隣で、俺の服を着た蜜希さんを寝かせるなんて。
絶対に間違いが起きる。
こんなことで自信を持つのも嫌だが、好きなのだから仕方がない。
(でも、添い寝のチャンスだと思えば……)
頭の中が悶々としてくる。
欲と理性が綯い交ぜになってグルグルと回る中、変な期待をした下半身が反応していることに気が付いた。
全く、アルファってやつは。
俺は自分の劣情をアルファ性のせいにしながら、仕方なしに処理をする。
どうせこの後蜜希さんは入らないのだ。ちゃんと流しさえすれば、バレることはない……はずだ。
というか、そう思ってないと羞恥と申し訳なさで、蜜希さんと顔が合わせられなくなる。
俺は慎重に、静かに欲を吐き出すと、念入りに風呂場を掃除した。
換気扇まで回した俺は、何となく気まずくて視線を下げながら、風呂を出た。
……蜜希さんと目、合わせられるだろうか。
俺は不安になりながら、リビングへと戻って行った。
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