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閑話
岳鶯3
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廊下を進めば、いるのは女ばかり。
誰も彼もが美しい。
芳しい香がそこらじゅうで焚かれている。
庶民であれば、いや、それなりの身分の者であっても日々は焚けないだろう高級なもの。
それを部屋の中だけでなく廊下にまで。
眩暈がしそうなほどに眩い金銀財宝で飾られ、調度品や
「・・・・・・これが後宮。何という、愚かな」
二百年以上の長きに渡り続いた明と言う国家はこのような事のために、疲弊してしまったのだ。
太った宦官と廊下ですれ違う。一瞬、不審に思われるかと警戒するも、その宦官は平和ボケした顔で暢気に欠伸をしながら行ってしまう。
「ふぬけきっている。宮廷外とはまるで別の国のようだ」
皇帝がこんなところにいるからこの国はこうなってしまったのだろうか。
それとも、堕落した皇帝だからこんなところを作ってしまったからだろうか。
岳鶯はそう考えながらも歩みを止めない。
皇帝がいるという寵姫・鄭皇貴妃の処に向かって。
そうして、寵姫の部屋から出て来た皇帝を見る。
ブヨブヨの体で何一つ考えを持たないような愚かな男。
「・・・・・・陛下。申し上げたきことが」
「む? なんじゃ、朕は今忙しい」
初見の岳鶯を見ても、万暦帝は一切警戒心を抱かない。
ただ鬱陶しそうにしているだけ。
「王安殿を始めとした多くの宦官が不正をおこな――
「忙しいと言っておる!」
岳鶯の言葉など聞く気はないと、そのまま立ち去ろうとする。
「・・・・・・陛下の財を掠めているのですぞ?」
万暦帝は主食や芸事、それに寵姫への貢物などに大金を使い、金に困っていることは誰の目にも明らか。
そして、金に困った金持ちほど儲け話に敏感な者はいない。
岳鶯からすれば、本来であればこの言葉で足を止めて欲しくはなかった。
出来ることなら、国の危急を伝えることで改心してくる。
それが一番だとは思っていた。
だが、万暦帝の顔を見た瞬間に岳鶯はスッと熱が冷めるのを感じた。
この皇帝には何を期待しても無駄だと言う諦観がそうさせたのだろう。
「不正をただせば彼奴等の貯め込んだ財貨は全て陛下のものでございます」
「・・・・・・何じゃと?」
「恐らく、百万両(現在価格に直せませんでした。ただ、他の事例から推測すると数千から数兆くらいの単位ではないかと)は下らないかと存じます」
金額を出した瞬間の万暦帝の喜色満面の下卑た笑顔に内心嫌気がさす。
しかし、それはそれで操りやすいと言う事だ。
「此処では悪宦どもの耳に入ります。是非、別室でお話を聞いていただきたく」
「うむ、うむ、仕方ないのう」
先程までの態度を豹変させた万暦帝を伴い、奥の空き部屋へと進んでいく。
そして、程なくして岳鶯による合図は出され、後宮内に血の嵐が吹き荒れる。
それは大国・明に起きた劇的な変化ではあったが、岳鶯による徹底した情報操作により、しばしの間秀頼を始めとした他国の者には伝わる事さえなかった。
当然、今まさに北京に迫ろうとしている金の君主・ヌルハチも、その情報に接することは出来なかった。
誰も彼もが美しい。
芳しい香がそこらじゅうで焚かれている。
庶民であれば、いや、それなりの身分の者であっても日々は焚けないだろう高級なもの。
それを部屋の中だけでなく廊下にまで。
眩暈がしそうなほどに眩い金銀財宝で飾られ、調度品や
「・・・・・・これが後宮。何という、愚かな」
二百年以上の長きに渡り続いた明と言う国家はこのような事のために、疲弊してしまったのだ。
太った宦官と廊下ですれ違う。一瞬、不審に思われるかと警戒するも、その宦官は平和ボケした顔で暢気に欠伸をしながら行ってしまう。
「ふぬけきっている。宮廷外とはまるで別の国のようだ」
皇帝がこんなところにいるからこの国はこうなってしまったのだろうか。
それとも、堕落した皇帝だからこんなところを作ってしまったからだろうか。
岳鶯はそう考えながらも歩みを止めない。
皇帝がいるという寵姫・鄭皇貴妃の処に向かって。
そうして、寵姫の部屋から出て来た皇帝を見る。
ブヨブヨの体で何一つ考えを持たないような愚かな男。
「・・・・・・陛下。申し上げたきことが」
「む? なんじゃ、朕は今忙しい」
初見の岳鶯を見ても、万暦帝は一切警戒心を抱かない。
ただ鬱陶しそうにしているだけ。
「王安殿を始めとした多くの宦官が不正をおこな――
「忙しいと言っておる!」
岳鶯の言葉など聞く気はないと、そのまま立ち去ろうとする。
「・・・・・・陛下の財を掠めているのですぞ?」
万暦帝は主食や芸事、それに寵姫への貢物などに大金を使い、金に困っていることは誰の目にも明らか。
そして、金に困った金持ちほど儲け話に敏感な者はいない。
岳鶯からすれば、本来であればこの言葉で足を止めて欲しくはなかった。
出来ることなら、国の危急を伝えることで改心してくる。
それが一番だとは思っていた。
だが、万暦帝の顔を見た瞬間に岳鶯はスッと熱が冷めるのを感じた。
この皇帝には何を期待しても無駄だと言う諦観がそうさせたのだろう。
「不正をただせば彼奴等の貯め込んだ財貨は全て陛下のものでございます」
「・・・・・・何じゃと?」
「恐らく、百万両(現在価格に直せませんでした。ただ、他の事例から推測すると数千から数兆くらいの単位ではないかと)は下らないかと存じます」
金額を出した瞬間の万暦帝の喜色満面の下卑た笑顔に内心嫌気がさす。
しかし、それはそれで操りやすいと言う事だ。
「此処では悪宦どもの耳に入ります。是非、別室でお話を聞いていただきたく」
「うむ、うむ、仕方ないのう」
先程までの態度を豹変させた万暦帝を伴い、奥の空き部屋へと進んでいく。
そして、程なくして岳鶯による合図は出され、後宮内に血の嵐が吹き荒れる。
それは大国・明に起きた劇的な変化ではあったが、岳鶯による徹底した情報操作により、しばしの間秀頼を始めとした他国の者には伝わる事さえなかった。
当然、今まさに北京に迫ろうとしている金の君主・ヌルハチも、その情報に接することは出来なかった。
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