【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫

文字の大きさ
14 / 55

14

しおりを挟む


 ……目を覚ますと、見慣れない天井が目に入った。

 少なくとも、アルカディアのクソド派手なベッドの天蓋ではない。かといって、本来の俺の部屋――日本の築古マンションの物置じみた六畳間でもない。
 飴色の梁と、薄緑色の漆喰で覆われた天井。王宮の寝室ほどではないにせよ、かなり上等な屋敷の一室だろう。そんな上等な部屋のベッドに、どうやら俺は寝かされているらしい。
 窓から差し込むのは、新鮮な朝の光。
 そういえば……この鼻腔を満たす匂いには覚えがある。柑橘に似た、でもどこかほろ苦い香り。一体どこで――

 ――お前のことは、命に代えてでも守る。約束しただろ。

「あっ!」

 おぼろげな記憶が、頭の中で急速に像を結んでゆく。
 そうだ。俺は昨日、イザベラを屋敷へ送り届けた帰りに謎の暴漢に襲われたんだった。けどその直後、なぜかウェリナに助けられて……

「……約束」

 そう、確かにウェリナは言った。俺を守るのが奴の約束だと。
 てっきり俺は、ウェリナに何らかの便宜を図る約束をさせられているものと思っていた。が、昨日のやりとりを踏まえると、個人的にアルカディアの身柄を守ることを指していたようだ。結局、俺はあの後すぐに気を失ってしまったらしく、真意については聞けずじまいに終わったが……
 だが、そんな話がありえるのか?
 俺は、悪役令嬢モノで言えば脇役のひとりにすぎない。その脇役を、物語の準主役たるヒーローがわざわざ助ける義務はあるのか?

 不意にノックの音がして、俺は慌てて布団を被り直す。が、瞼だけは、部屋の様子が伺えるよう、薄くうすーく開いておく。
 やがてドアが開いて、戸口から想像通りの男が現れる。
 ウェリナ=ウェリントン。
 寝具に漂う匂いから何となく察していたが、やはり、ここは奴の屋敷で間違いなさそうだ。

「おはよう、アル」

 それは明らかに俺に向けられた挨拶で、その、あからさまに親密さを含んだ声色に改めて俺は面食らう。そういえば……昨晩もこいつは、俺を親しげに呼んでいた。俺を強く抱き寄せながら。

 ――アル。

 昨晩の、腰にくる低音が耳の奥によみがえる。ぞくぞくと痺れを伴うその感覚は、でも、不思議と不快じゃない。むしろ……
 って、冗談じゃねぇ!
 こいつは、イザベラの愛を巡って俺と争うライバルだ。同じ男として、俺はこいつと競い合っていかなきゃならない。いくら声が良かろうが、俺を抱き寄せる腕が逞しかろうが、屈するわけにはいかねぇんだよ!

 そのライバルことウェリナは、今はカッターシャツにパンツというラフな格好をしている。いわゆる部屋着、というやつだろうか。
 やがてウェリナは、ベッドの縁に腰を下ろすと、身を屈め、俺の顔を覗き込んでくる。……って、近ぇよバカ! そんな国宝級の顔面を寄せられたら、いくらノンケの俺でも、なんかこうドキドキしちまうんだよ!

「ごめん。でも……どうしようもないんだ」

 そう囁くウェリナの声は甘く、でも、どこか苦しげだ。
 ごめん? そいつは、何に対する謝罪だ?

「これから俺がすることを、どうか、赦してほしい」

 そしてウェリナは、ただでさえ近い顔をさらに寄せてくる。そして――
 は?
 こいつは一体、何を。

 やがてウェリナは、おもむろに身を起こす。白い頬はあからさまに紅潮し、普段は冷たく冴えるエメラルドの双眸が、今は、舐め溶かされた飴玉のようにだらしなく蕩けている。

「……アル」

 その、甘い溜息に。
 身体の芯が、ぞく、と痺れる。
 その痺れが、不覚にも俺のくちびるに残された感触と呼応し、鋭く際立つ。じんと疼くくちびる。その重い痺れが、ウェリナの行為を――俺へのキスを、記憶じゃなく本能に刻み込む。……どうして、お前がそんなこと。

「愛してた。ずっと」

 最後に俺の頬をひと撫ですると、ウェリナは、名残を惜しむように振り返りつつ部屋を出ていく。その背中を、薄く開けた瞼越しに見送りながら、俺はまじかよと呆れていた。
 どうやらウェリナが惚れていたのは、イザベラではなくアルカディアの方だったらしい。……えっ、じゃあウェリナはヒーローじゃなかったってことか? ってことは、本当のヒーローは一体……いや、その前にここは本当に悪役令嬢モノの世界なのか? ヒロインじゃなくバカ王子の方がヒーローと結ばれるパターンなんて、少なくとも俺は聞いたことがねぇぞ!?

 ……まさか。
 そう、いうことなのか。

 仮にここが悪役令嬢モノの世界ではなかったとして、じゃあ一体どういう世界か。ウェリナ(男)が俺(男)に惚れているってことは……その、正直、あまり考えたくはないんだが……男同士の恋愛を主軸とした、いわゆるボーイズラブ、の世界である可能性が高い。
 そのボーイズラブには、いわゆる〝攻め〟と〝受け〟なる役割が存在する。
 大抵の場合、〝攻め〟には高身長ハイスペイケメンが、〝受け〟にはバカでノロマで低スペックの残念なイケメンがあてられる……えっ、まんま俺らじゃん。つまり、アルカディアの諸々残念なスペックは、実はこのテンプレに則したものだったわけか。うんうんなるほど――

 って、マジか。





 ……っと、いかんいかん。

 そもそも俺は、すでに一度、このテンプレ思考で失敗しているのだ。
 悪役令嬢モノと思い込んだ挙句、実態を見誤った。同じことが二度起こらないとも限らないわけで、例えばボーイズラブと思いきや、実際はホラーだったりSFだったり、何なら怪獣モノの可能性だってある。
 何が起きても驚いてはいけないし、そういうものだと受け入れ、対処しなくちゃいけない。何でもありのバーリトゥードな世界観で生き延びるには、思考の自由を縛るテンプレはむしろ足枷になる。

 ただ。
 そうは言っても、とりあえず認めなくてはならない事実。

 どうやら俺は、バカ王子破滅ルートとは別の文脈で命を狙われているらしいこと。
 それから……ウェリナの想い人はアルカディア君こと俺であり、しかも奴は、どうやら性的な対象として俺を見ているらしい、ということだ。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

妹に婚約者を取られるなんてよくある話

龍の御寮さん
BL
ノエルは義母と妹をひいきする父の代わりに子爵家を支えていた。 そんなノエルの心のよりどころは婚約者のトマスだけだったが、仕事ばかりのノエルより明るくて甘え上手な妹キーラといるほうが楽しそうなトマス。 結婚したら搾取されるだけの家から出ていけると思っていたのに、父からトマスの婚約者は妹と交換すると告げられる。そしてノエルには父たちを養うためにずっと子爵家で働き続けることを求められた。 さすがのノエルもついに我慢できず、事業を片付け、資産を持って家出する。 家族と婚約者に見切りをつけたノエルを慌てて追いかける婚約者や家族。 いろんな事件に巻き込まれながらも幸せになっていくノエルの物語。 *ご都合主義です *更新は不定期です。複数話更新する日とできない日との差がありますm(__)m

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

処理中です...