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しおりを挟むその晩、俺たちはディナーのあとで遊戯室に移った。
俺には、二人きりの場所でウェリナに問い質したいことがあった。それはウェリナも同様だったらしく、俺が遊戯室に向かうと、誘わなくともウェリナは勝手についてきた。
メイドに紅茶と軽食を頼み、チェスボードを挟む。
当然のようにゲームはウェリナ優位で進む。そもそも俺は、昔からこの手のボードゲームが苦手だった。前世でも麻雀卓を囲むたびに先輩にカモられたものだ。
けど今夜の勝負は、チェスボードの上で決まるわけじゃない。
「今日、カサンドラ妃が押しかけて来たようだな」
「どうせ盗聴してたんだろ。だったら説明はいらねぇな」
「ああ。だが視覚情報については、風の精霊頼りとはいかない。マリーが機密情報らしきものをカサンドラ妃に手渡そうとしていたそうだが、内容は掴めたか?」
「や、実は……」
そこで俺は、昼間の中庭でのトラブルをかいつまんで語して聞かせた。その間、俺はチェスで二度、ウェリナに勝ちを譲った。
「……わけがわからないな」
ひととおり話を聞き終えたあとで、ウェリナが発した第一声がそれだった。
「ああ。俺も正直、混乱してる」
てっきり当初は、俺に関する情報を欲しているものと思っていた。が、実際のカサンドラは、俺に対しては終始無関心で、金を払って殺したいほどの憎悪はついに見出だせなかったのだ。
そのくせマリーの報告書を失ったときの、あの悲しみよう。
実際よほどショックだったのか、その後しばらく、カサンドラはあの場を動けずにいた。メイドたちが気付け用のブランデーを用意してはじめて我に返ったほどなのだ。
これはあくまで勘だが、彼女はおそらく黒幕じゃない。
そうなると、じゃあ誰が本当の黒幕かという話になるが、そちらは全く見当がつかない。何にせよ、カサンドラ黒幕説に固執するのは危うい気がする。
と、いったことをウェリナに話して聞かせると、案の定、ウェリナは渋い顔をした。当然だ。そもそもカサンドラ黒幕説はコイツが持ち込んだのだから。
「俺は引き続き、カサンドラを追及すべきだと思う」
「やりたきゃ勝手にしろ。俺はただ、ひとつの考えに固執するのはマズいんじゃねぇのと言いたいだけだ」
「そうだな、肝に銘じておこう」
またウェリナの勝ち。それなりに考えて駒を動かしているつもりでも、いつの間にか敵の流れに絡め取られ、気づくと王手をかけられている。毎度毎度、その繰り返し。
「さすがに強いなぁ。勝てるビジョンが見えねぇわ」
「アルは強かった。俺なんかよりずっと」
「……へぇ」
沈黙がチェスボードの周囲に満ちる。それは、しかし明らかに一触即発の緊張をはらんでいる。そのことに、おそらくウェリナも気づいている。だから何も言わず、あるいは何も言えず、俺の次の一手を待っているんだろう。
多分、こいつは気づいている。
「そういえば……お前にひとつ、聞きたいことがあるんだが」
「聞きたいこと?」
「ああ。お前が読んでた本のことなんだが」
するとウェリナは、静かに俺を見つめ返す。見開かれたその目に浮かぶのは、緊張と、それから恐怖。
確かに……怖いよな。
確かめてしまえば最後、二度とこれまでの日々には戻れなくなる。そして、ここでいう〝これまで〟は、ウェリナが愛したアルカディアとの日々も含んでいるのだ。
それでもウェリナは目を逸らさない。こいつなりに、真実と向き合う覚悟を固めているのだろか。
その覚悟に応えるように、俺は問う。
「何なんだ。その……〝転生〟、って」
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