ギフテッド

路地裏乃猫

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2章

6話 矛盾

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「うへぇ……」

 玄関を抜け、廊下の奥へと進んだ漣は目を瞠った。

 収容施設という無骨な響きから、てっきり格安ビジネスホテルのウサギ小屋じみた部屋を宛がわれるのだろうと思っていた。ところが目の前の部屋は、高級マンションのそれと変わらない広さと雰囲気で、予想以上のゴージャスさに漣は呆然となる。

 シックなホワイトフローリングと、モダンかつシンプルな家具類。ここはリビングだろうか、十五畳ほどの広々としたスペースに、ゆったりと置かれたソファセットが何とも贅沢だ。リビングの傍らにはカウンターキッチン。その対面にはスツールが並べられ、まさにバーカウンターといった雰囲気。もちろん、それとは別に二人掛け用のダイニングセットも置かれている。

「寝室はこの奥です。生活に関する細則は、明日、事務員よりなされるかと思いますので、とりあえず今夜は好きに寛いでください」

「はぁ。なんか……贅沢っすね」

 引き返し、廊下の途中にあるドアを開くとそこは洗面所で、さらにその奥には、広さのあるバスルームまで用意されている。アメニティも当然のように充実し、まるで高級ホテルに泊まっているかのようだ。

「え……てか、いいんすか。俺みたいな人殺しがこんな……」

「人殺し……ですか」

 そして嶋野は、なぜか少し寂しげな顔で振り返る。

「君は、ここの運営費がどこから捻出されていると思いますか」

「……えっ?」

 今度は何の話だ。訝る漣をよそに嶋野はキッチンに向かうと、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、それをケトルで沸かしはじめる。背後の棚には、食器類と一緒にインスタントコーヒーの小瓶が置かれていて、それを嶋野は「使いますよ」と断ると、二人分のマグカップに手早くコーヒーを作った。

 そのうちの一杯をカウンター越しに差し出しながら、改めて嶋野は問うてくる。

「で、どこだと思います?」

「どこ、って……」

 差し出されたコーヒーを一口啜る。インスタント特有の気取らないコーヒーの味に、ほんの少し、心が日常へと引き戻される。

「ええと……あれじゃないすか、ニューヨークにある本部、とか?」

「国ですよ。日本国」

「え?」

 国、ということは、つまり――

「税金……ってことすか?」

 このコーヒーも、やたら持ち手が馴染むマグカップも、洒落た家具も……それだけじゃない。この部屋も、それに建物も。

 すると嶋野はカップから顔を上げると、苦笑まじりに「ええ」と頷く。

「我々が収容されるこの施設は、日本国民が払う税金によって運営されています。もっとも、その事実が国民の目に触れることはありませんが……」

 そして嶋野は、マグカップを片手に「こちらへ」と漣をいざなう。キッチンの傍らにはさらに奥へと続く廊下があり、突き当たりに開け放たれたドアの向こうにはベッドが覗いている。どうやら奥は寝室らしい。

 その、手前の廊下の壁にさらにもう一つドアがあり、嶋野に続いて中に入ると、そこは八畳ほどの空き部屋だった。がらんとしているのにやけに圧迫感があるのは、おそらく、窓が一つも見当たらないせい。

「ここは……」

「アトリエです」

「アトリエ?」

「ええ。この施設の住人は、皆、それぞれ個人のアトリエを与えられています。……が、妙だとは思いませんか。ギフトなどという危険な力は本来、存在しないに越したことはない。だからこそ国は、こんな大掛かりな施設を設けてまで我々を隔離しているのです。……にもかかわらず、当施設ではこのように、住人たちが創作に打ち込める環境が整えられている。定期的に企画される鑑賞ツアーもその一環です。国は、ギフテッドを社会から隔離しながらも、一方で彼らのギフトを涵養している」

「矛盾……してますね?」

 すると嶋野は、我が意を得たり、という顔で「ええ」と頷く。

「何故だと思います?」

「えっ? いや、何故と言われても……」

 そもそもこの組織の存在自体、つい半日前に知ったばかりなのだ。なので事情も何も。ところが、嶋野はじっと漣の答えを待っている。どうやら漣の発想力を試しているらしい。

 ただ、一応それらしい答えを思いつきはしても、口にするのはどうしても憚られた。あまりにも馬鹿馬鹿しくて、常識を疑われそうだ。

 常識、か。

 それを言えば、ギフテッドなる存在も、今朝までの漣にしてみればオカルトの範疇でしかなかった。

「ギフトの軍事転用……っすか」
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