ギフテッド

路地裏乃猫

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2章

29話 ショー・ザ・フラッグ②

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 それからほどなく、凪は仕事の邪魔だと部屋から追い出される。そうして一か月ぶりの自室へと向かいながら、凪は、三原たちに嫌われるきっかけとなったトラブルを思い出していた。

 あれは、凪にとってもひどく後味の悪い一件だった。

 簡単に言えば、審美眼の低い相手への、無許可での作品の譲渡。ただ、それも協会のスタッフやキュレーターにバレさえしなければいい。……逆に言えば、目についてしまった場合、どうあっても取り締まらずにはいられない。

 凪が、田柄麻美が東雲瑠香の作品を使っていることを知ったのは、彼女が、東雲のスプーンを握りしめながら声をかけてきたからだ。以前から凪に好意を寄せていた田柄は、デートのつもりだろう、ランチにと誘ってきたのだ。が、その勇気を、よりにもよって借りてはならない力に頼ってしまった。他人の、それも、自分の審美眼が追いついていない作品のギフトに。

 長く患った鬱病のせいで判断力が落ちていたのか。あるいは単に、恋が彼女を狂わせていたのか。

 何にせよ、それを見つけてしまった以上は職員として上に報せる義務がある。そして上には、報せを受けた以上は作品を回収し、しかるべき処罰を下す義務が。……結果、東雲のスプーンを奪われた田柄の鬱病はふたたび悪化。ついには自ら死を選んでしまう。

 それが三原に嫌われる理由だと明かしたなら、間接的にせよ田柄に手を下した組織の長、こと高階は、一体、どんな顔をしただろう。

 もっとも、凪は決してあの時の判断を後悔していない。協会の職員として――何より、として、正しい判断を下しただけ。

 ――心を持たないお人形。

 田柄の葬儀で、そう、凪のことを囁く人間がいた。あれは、たしか東雲だったか。おそらく規則の中でしか生きられない凪を揶揄する言葉だったのだろう。が、人形で何が悪い。どのみち我々ギフテッドには二つの道しか用意されていない。協会に守られながら、その条理の中で生きるか、あるいは、あの人のやり方に従うか。そして……後者を選び取る勇気が持てない以上、大人しく口を噤むしかないのだ。それこそ人形のように。

「……あの子は」

 ふと足を止め、呟く。

 あの子は、どちらを選ぶだろう。てっきりあの人の同種かと思いきや、自らの行ないに真っ当に傷つき、涙したあの子は。そして……あるいは自分は、その答えを知るためだけに罪悪感のはけ口をあの子に与えたのかもしれない。

 答えを出せずにいるのは、凪とて同じなのだ。
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