普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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75.恋しい?

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 レヴェリルインとアトウェントラ、コエレシールとバルアヴィフが、魔法具の回収に向かうことになり、残された僕とラックトラートさん、ロウィフとドルニテットは、ギルドの二階にある部屋に案内された。

 部屋について早々、窓に駆け寄ると、レヴェリルインたちが連れ立って去っていくのが見えた。

 なんで置いて行かれちゃったんだろう。
 寂しい。本当は一緒に行きたかった。
 だけど、断られた。やっぱり、僕じゃダメなのかな。レヴェリルインだって、そばに置くなら、僕みたいなのより、もっと役に立つ人の方がいいのかな……

 じーっと外を見ていたら、僕のそばにラックトラートさんが駆け寄ってきた。

「コフィレー。大丈夫ですか?」
「…………はい……」
「そんなに落ち込まなくても、すぐに帰ってきます! 僕たちはここでのんびり待ちましょう!」
「……はい…………」

 レヴェリルインがいなくても、ずっとレヴェリルインのことばっかり考えてしまう。そんな僕の足元で、今度はウサギの姿のロウィフが言った。

「そんなにレヴェリルインたちが恋しいの?」
「え…………」

 恋しい?? そんなふうに思ってるのか? だから今、こんなに苦しいのか??

 自分でも、よく分からなくてうつむく僕。

 ラックトラートさんがロウィフに「ロウィフは余計なこと言わないでください!!」って言い出して、喧嘩になってる。

「ロウィフはコフィレを惑わせないでください!!」
「僕は見たままを言っただけ。そいつは昨日からずーーっとレヴェリルインだけを見てる。レヴェリルインが全く気にしていないのが不思議なレベル。普通に考えたら、ちょっと怖い」

 それを聞いて、ラックトラートさんは「そんなことない!」って言ってくれてたけど、僕は気になって仕方なかった。

 怖い……? そんなふうに見えるのか?
 確かに僕は、レヴェリルインのこと、朝からじっと見てる。ずっとそばにいたいって思ってる。だけど、そんなの誰にも気づかれてないと思ってた。それがまさか、気づかれていたなんて。き、気をつけなきゃ……

「コフィレ? 大丈夫ですか? 意地悪ウサギの言うことなんて、気にしなくていいんです!!」
「ラックト……」

 彼はそう言うけど……やっぱり気になる……

 だってそんなのバレてたら、レヴェリルインにも、嫌がられるかもしれない。僕のこと、嫌いになっちゃうかもしれない。もしかして、それで連れて行ってくれなかったのか!? 僕がレヴェリルインの事を見ていたのがバレたから、僕をそばに置きたくなくなっちゃったのか!?

「あ、あのっ……! ロウィフさん……」
「……なに? 目が怖いんだけど」
「…………それって……マスターも、気づいてる……と思いますか?」
「……それ?」
「……僕が、マスターのこと、見てたこと……」
「相手はあのレヴェリルインだし、気づくだろ」
「……」
「あ、でも、あいつは全く気にしてないみたいだったけど」
「ほ、本当ですか!?」
「……だから目が怖いよ」
「す、すみません! でも……」
「本当。多分、本人は気にしてないと思う」
「そうですか……」

 よかった……それなら少なくとも、レヴェリルインには、嫌われてないんだ。
 そう思ったら、ひどくホッとした。さっきまでの恐怖が薄れていく。

 なんだかずっと、ひどい恐怖と嬉しい気持ちに翻弄されてる気がする。

 ラックトラートさんが心配そうに言った。

「コフィレー。大丈夫ですか? お茶を淹れるので、ちょっと落ち着いてください」
「は、はい……ありがとうございます……あ! 僕……手伝います……」

 リュックからティーカップを出しているラックトラートさんに近づくと、彼はお礼を言って、ティーカップを渡してくれる。

「えーっと、何人ですか? 僕とコフィレと……そこの意地悪ウサギと、あれ? ドルニテット様は?」

 彼は振り向いてキョロキョロしてる。だけど、ドルニテットはどこにもいない。

 すると、ロウィフがドアを指して言った。

「ドルニテット様なら、さっき出て行った。ギルドの人から海岸線の情報聞いてくるって。僕らの相手するのが嫌になったんだろ。レヴェリルインに、ここを頼むって言われてたのに…………迂闊なやつ」

 それを聞いて、ラックトラートさんが、彼に詰め寄った。

「なんですか!? 今、迂闊とか言ってませんでしたか!?」
「だから、今ここには僕らだけ」
「話を逸らさないでください!! ドルニテット様がいないのなら、僕、ロウィフが悪いことしないように見張ります!」
「悪いことなんかしてない。言いがかりだ」

 そう言って、ロウィフは僕の方を見上げた。

「そんなことより、気になるなら、ついて行ってみる?」
「え?」
「気になるんだろ? レヴェリルインのこと。だったら、ついていくのはどう?」
「で、でも……」

 そんなの、絶対にダメだ。だって、レヴェリルインは僕に、待ってろって言ったんだ。それなのに勝手についていくなんて、ダメに決まっている。

「だ、ダメです! マスターは……待ってろって言ったんです! それなのに、勝手についていくなんて……」
「……その、マスターっていうのだけど、なんでコフィレはレヴェリルインに仕えてるの?」
「え……?」
「だって、レヴェリルインのせいで、コフィレは魔力を失ったんだろ? それなのに、なんで仕えてるの?」
「だ、だって……レヴェリルインは僕の、恩人なんですっ……! 僕が……毒の魔法を使う道具にされそうだったところを、た、助けてくれて……今だって、僕を守ってくれて魔力だって返そうとしてくれてるんですっっっ!!!!」

 気づいた時には、僕は怒鳴っていた。ラックトラートさんもロウィフも、びっくりして僕を見上げている。

 ハッとして、口元を押さえた。こんな大声を上げるなんて、僕はどうしたんだ。
 だって、レヴェリルインのことを馬鹿にされた気がして、抑えきれなかったんだ。彼に仕えていることを、否定された気がして。

 どうかしてる……ロウィフだって、そんなこと言ってないのに。

「……すみません……」
「……別にいいけど……ちょっと落ち着いたら?」

 ロウィフにまでラックトラートさんと同じことを言われて、僕は大人しくテーブルについた。

 あの城にいる時は、こんなふうに感情が揺れ動くことなんかなかった。毎日言われたことをこなして、僕を廃棄しようとする人から逃げるばっかりの毎日だった。
 今はあそこを出て、レヴェリルインのそばにいられるようになったのに……僕、どうしちゃったんだろう。

 ラックトラートさんも、心配そうにお茶を淹れてくれた。

「コフィレは、ちょっと疲れてるんですよ」
「い、いえ……そんなことは……あ、あの! ラックト……ぼ、僕が、注ぎます……」

 言ったら、彼は僕にティーポットを渡してくれた。
 それを使って、一つ一つのカップにお茶を注いでいたら、ウサギの姿のロウィフが、テーブルに乗って、ティーカップに近づいてきた。

「元マスターに、そこまで肩入れしなくてもいいと思うけどな」
「も、元マスターって……マスターはずっとマスターです!!」
「落ち着いてよ。そんなに無理して仕えたりしなくていいと思うけど。魔力なくしたのはレヴェリルインのせいなんだし、向こうは、罪悪感でそうしてくれてるだけなのかもしれないんだから」
「そんなことっ……」
「それに、今だって置いていかれてるじゃん」
「……それはっ……!」

 置いていかれてはいるけど、僕はレヴェリルインに精一杯仕えるって決めてる。誰に何を言われたって、僕はレヴェリルインの従者だ。それを他人に否定されると、腹が立って仕方ない。怒りは次々に湧いてくる。

 ロウィフは、じっと僕を見上げていた。

「じゃあ、そんなに大事な人が危ないところに向かっているのに、お前はここにいていいの?」
「……危ないところ?」
「あいつは、魔法使い嫌いが多いところに、一度売り払った魔法具を返してもらいに行ったんだ。今のレヴェリルインに、買い戻すための金があるとも思えない。魔法具を人質に、何か酷いことをされたり……あいつなら、する方かな? 無理やり、魔法具を奪い返してるかもよ?」
「マスターはそんなことしません!」

 怒鳴る僕を置いて、ロウィフは窓の方に行ってしまう。

「じゃあ、僕が一人で行こうっと」
「えっ……ま、まって!!」

 伸ばした僕の手をすり抜けて、ロウィフはピョンっと跳ねて窓を開けると、そこから外に飛び出して行ってしまった。

 しまった。本当に、レヴェリルインのところに行く気だ。

 僕はロウィフを追って、部屋から飛び出した。

 後ろからラックトラートさんもついてくる。

「コフィレ!! 僕も行きます! あのウサギは何をするかわかりません!!」
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