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98.早速
しおりを挟むその日一日中、レヴェリルインは本当に、僕を離してくれなかった。
あれから、僕は何度も逃げ出そうとした。だってあんなの、ずっとされてたら、僕の体が茹だっちゃう。だけどそのたびに捕まって、いっぱい抱きしめられて、キスされて、逃すかって言われた。
レヴェリルインに抱きしめられて、嬉しいくせに、いっぱい泣いて、せっかくレヴェリルインにもらった服をぐちゃぐちゃにして、僕は風呂場に連れて行かれた。お風呂はさすがに自分で入らせてもらえたけど、そのあと、丁寧に髪を乾かされた。
ご飯も自分で食べさせてもらえなくて、全部食べさせてもらって、いっぱい抱きしめられて。僕が落ち着いたら、レヴェリルインは、魔法の話をしてくれた。
ずっと僕のこと、くすぐるみたいにそばにいてくれた。
何度も捕まって、その度に愛されてろって囁かれて、僕はもう限界だ。
愛されるって何? こんなの、されたことないのに、一度にいっぱいもらって、僕の小さな器じゃ受け止めきれない。
今だってそう。レヴェリルインは、起きたばかりでまだベッドの上で丸くなったままぼんやりしている僕の頬に、ちゅってキスしてくる。
「ひゃっ……! ま、マスター!!」
「どうした? もっとされたいか?」
「…………」
もっとなんてされたら、今度こそ僕、気絶しちゃいそうだ。僕はこんな風にちょっと優しく触れられることだって、初めてなんだ。それなのに一度にされたら、動けなくなっちゃうじゃないか。
マスターだけずるい……平然としてて。僕はキスひとつで真っ赤になるくらい、ドキドキしてるのに。
そんなことをしていたら、部屋をコンコンってノックする音が聞こえた。
レヴェリルインが昨日からずっとかけっぱなしだった魔法の鍵を開けてくれる。
ドアの外にいたのは、ラックトラートさんだった。
彼は、焼きたてのパンとバターの香りがするバスケットを持っている。中にはジュースの瓶も入っていた。
「コフィレー、大丈夫ですか?」
そう聞きながら、部屋に入ってきた彼は、ベッドの上でぼんやりしている僕を見て、びっくりして声を上げた。
「わっ……! ど、どうしたんですか!?」
彼がそう言いたくなるのも無理ない。だって僕、ろくに返事もできないまま、ベッドの上で横になったまま、惚けてるんだから。
温かくてふかふかの布団に横たわっていると、それだけで夢を見ているみたい。ベッドに腰掛けたレヴェリルインは、くすぐるように、僕の頬に触れてくる。もう無理って、何度も言ったのに。レヴェリルインはちっとも聞いてない。
それに、なんだか楽しそう。
彼が楽しそうなのは、いいことなんだけど、くすぐったくて、胸がドキドキしてる。だけど逃げたら絶対、もっと触れられる。震えながら、彼に触られるしかない。
「やっと大人しくなったな」
そう言って、レヴェリルインが満足げに笑う。
レヴェリルインが楽しそうに笑ってくれる。嬉しそうにして、微笑んでくれる。喜んでくれる。
そんなところを見て、僕は初めて、ちょっとだけ、生きていてよかったと思った。そんな風に笑ってくれるなら、体が壊れちゃったって、いいかもしれない。
そしたら、その様子を見ていたラックトラートさんが、心配そうに言った。
「コフィレ……本当に大丈夫ですか? レヴェリルイン様に酷いことされてないですよね?」
ひどいこと? それなら、されたのかもしれない。だって全然知らないこと、一気にされちゃったんだから。
僕が首を横に振って、何もされていませんって言ったら、また誤解を生んだらしく、彼は息を呑んで、レヴェリルインに振り向いた。
「ま、まさか……コフィレに口止めをっ……!! レヴェリルイン様! 嫌がるコフィレを押さえつけて、不埒な真似をしたのではないでしょうね!?」
「した」
「したんですか!!??」
「お前が考えるようなことはしていない。そいつは純潔のままだ」
「じ、じゅ……?」
「俺は、俺の自制心がここまでのものとは知らなかった。一晩中そいつといて我慢したんだ。俺の方が狂いそうだったぞ」
「レヴェリルイン様……」
ラックトラートさんは、今度はレヴェリルインの手をぎゅっと握った。
「素晴らしいです! レヴェリルイン様! 加虐趣味のクソ貴族なんて書こうとしてすみませんでした!!」
「その新聞を寄越せ。今すぐ貴様ごと焼き尽くす」
「大丈夫です! 記事はボツになった上に、編集長にたっぷりお仕置きされましたから!!」
言いながら、ラックトラートさんの尻尾が震えてる。よほど怖かったらしい。
ちょっと涙目になっている彼から、レヴェリルインはバスケットを受け取った。
「なんだ? これは」
「たぬきさんクッキーです!! コフィレが気に入ってたので!! まだ朝食には時間があるので、お腹が空いたらどうぞ!」
「気が効くな」
「コフィレが心配でしたから! でも、元気そうでよかったです。あ……ロウィフを知りませんか?」
「ロウィフ? いや……そうだ。使い魔をつけておかないとな……」
それを聞いて、ラックトラートさんは首を横に振った。
「よくわかりませんが、ロウィフはもう帰ると言っていました。雇い主が大変と話していたので、魔法ギルドに何かあったのではないでしょうか?」
「いいや、コエレシールからはそんな話を聞いたことがない。となると、別の方か……」
「別?」
「なんでもない。後で探しておく」
そう言って、レヴェリルインは、僕に振り向いて笑った。
「お前を可愛がってからな」
まだあるの!? もう無理なのに……
ここにいたら、またレヴェリルインに思う存分抱きしめられちゃう。そんな慣れないこと、一度にされたら困る!
「ま、マスター……僕、もう……ひゃ!!」
立ち上がろうとしたら、早速レヴェリルインに抱きしめられてしまった。
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