17 / 181
1. 出会い
ケージとの対峙
しおりを挟む
落下の勢いも利用した踵での蹴りを、外套を着た相手は当たる直前に左腕で防ぐ。
「むうっ!?」
「はぁあああっ!」
けれど衝撃を受けきれなかったのか、外套の男はそのまま吹っ飛んでいった。
僅かに早く着地した俺は、崩れ落ちるシルファの体を支える。
「大丈夫か!?」
シルファは激しく咳き込んだ。意識を失っているようだけど、まだ息があることに安心する。
「はははははは!」
声のしたほうを振り向くと、外套の男が立ち上がっていたところだった。腕に防がれたとはいえ、もっと遠くにいると思っていたのに。
「まさか俺が動かされるなんてな。そこそこやるとは思っていたが、まだお前のことを見くびっていたようだ、ユート」
「……やっぱりお前だったか、ケージ」
そうは思いたくなかった。だけどもう誤魔化せない。俺は覚悟を決めてケージと向かい合った。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「大人しくついてこなかったのでな。少しの間眠っていてもらうつもりだった」
「シルファをどこに連れていくつもりだったんだ?」
「なに、ついてくれば分かるさ。お前も招待してやろう」
「っ!」
俺はシルファの背中と膝裏に手を回して抱えると、思い切り跳び退いた。ケージは笑みを浮かべたままこちらに歩み寄ってくる。
「何をそんなに怯える? 魔術式を形成したわけでもあるまい」
「とぼけるな」
確かに魔術式を形成したわけではない。けれど確実に何かをしたはずだ。思い出すのは面接試験の時、リュード先生から感じた得体の知れない何かだった。
いや、それよりももっと、禍々しい。
「くく、やはりお前は面白いな。ここで楽しんでいってもいいが、生憎その時間もない」
残念そうに言うケージは、その手の先に魔術式を形成した。俺は即座に逃走を開始する。
「死んだら諦めるか」
逃げる俺の背後から、光弾が飛んでくる。俺は木を盾にしながら走り続けた。
多分、ケージは俺なんかよりもずっと強い。不意打ちした時だって、完全に死角からの攻撃だったっていうのに防いで見せた。まさかじいさん以外にあんなことできる奴がいるなんて。
シルファのことも心配だし、ここは逃げるに限る。幸いここは森の中だし、身を隠しながら移動できる。魔法じゃ敵わなくても、走る速さなら――
「『ニードル』」
ズドッ!
それは、木を貫通して飛んできた、光の槍のような魔法だった。俺は咄嗟に横に動いて回避する。俺を追い越した魔法は、太い木の幹に深く突き刺さって消えた。
「よく避けた。しかし今度はよけきれるかな?」
わずかに見えたケージとの間には、三本の木が立っている。ケージの魔法は、それを全部貫通してきたのか。
「ごめん、シルファ!」
できるだけ負担をかけたくなかったけれど、俺はシルファを肩に担ぐようにし、片手を自由にする。そうしている間に、ケージの魔術式が、その一部を木の陰から覗かせる。
あの大きさの魔術式を、もう……!
「『ニードル・スウォーム』」
そして木々を貫通して、光の槍が大量に飛来した。俺は防御魔法による防御と強化魔法による回避でどうにかやり過ごそうとするも、あまりの数に一つ食らってしまう。薄膜のおかげで事なきを得たが、代わりに薄膜が消失してしまった。もう次はない。
くそ、せめて少しでも時間を稼げたら……。
「ほう、防御魔法か。ならもう少し強めでもよさそうだな」
まだ距離があるのにケージの声が聞こえる。それはまるで、次の手を教えてやるから死んでくれるな、と言ってきているようだった。
こうなったらやむを得ない。俺は素早くシルファを地面に横たえた。少し荒くなってしまったけど、許してほしい。
「『ニードル・スウォーム』」
その直後に第二波がやってくる。俺は振り向きながら、両手の先に楕円形魔術式を形成した。
ガガガガガガガガガガガガッ!
体を低くして、飛んでくる槍一つ一つを防御魔法で防ぐ。防御魔法は楕円形にすることで強度を増しただけでなく、攻撃に対して正面からは受けずに、斜めに構えることで弾くようにした。
やがて攻撃が止む。俺の逃げ道をなくそうと広範に放った分、小さい範囲だけなら防ぎきることができた。
バキバキバキバキ!
「しまった!」
俺が逸らした魔法により蜂の巣にされた背後の木々が、折り重なるようにしてこちらに倒れてくる。俺はシルファを両手で抱えると、急いでその場を離れる。
「……っく、うぅ、ユート?」
その衝撃で気づいたのか、シルファがうっすらと目を開ける。
「シルファ! 良かった。気がつ――っ!」
その時にはもう、目の前まで光弾が迫っていて。
これはもう間に合わないな、とどこか俯瞰しているように思って。
そして――
ボォン!
俺の額に、光弾が炸裂した。
◇ ◇ ◇
「ユート!」
目を覚ました私が最初に目にしたのは、ユートの顔に光弾が当たるところだった。ユートの体は茂みの奥まで飛ばされ、支えを失った私の体は地面に落ちる。
「ユート、うっ……!」
姿の見えなくなったユートに駆け寄ろうとするも、体が思ったように動かず、立ち上がることさえままならない。
「多少は楽しめたな」
背後からの声に振り向くと、消耗している気配すらないケージが立っていた。その威圧感に、歯が震えそうになる。
「……っ! よくも、ユートを!」
それでも、私は強く歯を食い縛りケージを見据えた。ケージは口だけで笑う。
「この状況でなお強がって見せるか。やはりお前はいいな。俺の后にしてやろうか?」
「な、なにを、んむっ!?」
突然口を何かに塞がれると、私の体が空中に持ち上がる。まただ。こいつは魔術式も形成していないのに、どうやって……。
疑問が顔に出ていたのか、ケージはふむ、と顎に手を添える。
「どうやらお前はまだ、魔界を知らないようだな」
マカイ? それがこの現象を引き起こしているものの正体?
「まあどうでもいいか。起きて早々だが、また眠ってもらうぞ」
「んん、んーっ!」
ケージの手が迫る。どうにか抵抗しようとするも、こんな状態じゃなにもできないに等しい。
誰か、誰か助け――
「――無駄な抵抗はやめろ、弱者が」
「っ!」
顔を掴まれ、体が恐怖に震え上がる。暗闇の中、ケージの声が重く響いた。
「確かにお前はよくやったが、あの程度の魔物相手にこの体たらくでは、どうあがいても俺には敵わない。こうして捕まえられては逃げることも不可能だ。ならばもう、大人しく強者に従え」
「ん、ぐぁ……」
グッ、と指の力が強くなる。抵抗の意志が握りつぶされていくようだった。
「それに見ろ。お前が余計な時間稼ぎをしたせいで、他の弱者が一人巻き添えになったぞ」
「………………!」
そ、うだ……。私のせいで、ユートが。
「加減はしたつもりだが、生身で光弾に当たったのだ。死んでいてもおかしくないだろうな。奴の弱さ故ではあるが、お前が悪あがきしたのも原因の一端だとは思わないか?」
「………………」
私は、どの口で助けを呼んでいるのだろう。
一人で強がって、一人じゃどうしようもない事態に陥って、結局誰かを頼って、助けに来てくれたユートも巻き添えにして。
こうなったのも全部、自業自得じゃないか。
そう悟った私は、自分が急速に冷めていくのを感じる。
……なら、もう仕方ない。全部自分で招いたことなら、自分は報いを受けるべきだ。助けなんていらない。これ以上、私のせいで誰かが傷つくのなんて見たくない。
感情の失せた私の目から、涙が流れた。それは自分の中に残った、最後の熱のようだった。
「そうだ、全てを強者に委ね――」
ブオ!
突然視界が晴れると、私の目の前を何かが高速で通過した。私は地面に落ちると、そのままへたりこむ。
今のは何? と思う間もなくもう一つ飛んでくる。私から距離を取ったケージが避けると、それは穴だらけになった木にぶつかって跳ね返ってきた。
木が倒れる音を聞きながら、目の前に落ちたそれを見る。
「……靴?」
それは学院指定の靴だった。それなりに重さがあるこの靴が、あの速さで飛んでくるなんて。
ドガッ!
「ほう……?」
鈍い音に、反射的に顔を上げた。
「ユート……!」
ケージに攻撃しているのは、紛れもなくユートだった。さっきの攻撃で切れたのか、額から血を流しながらも、ユートはケージに打撃を加えていく。しかしケージは防御魔法を発現させ、ユートの攻撃を防いでいた。
まだ生きていた。そのことに安心するのも一瞬で、私はすぐに声を張り上げる。
「何してるのよ! 無事だったのなら、私を置いて逃げなさい!」
私の言葉に、けれどユートは動きを止めなかった。ケージの防御魔法で防がれつつも、攻撃の手を緩めない。
「さっき攻撃を受けたでしょ? 勝てる見込みが薄いなら、一旦退いて助けを呼んでくればいいのに、どうしてわざわざ共倒れしに戻ってくるのよ!?」
「ふっ。ああ言われているぞ? ユート」
「………………」
それでもユートは淡々と攻撃を続ける。しかしいくら攻撃しても防御魔法を破るには至らなかった。逆に攻撃したユートの拳からは血が出ている。
「止めなさい! 私なんかのために、なんでそこまでするのよ!?」
「……なんか、なんて言うなよ」
至近距離から放たれたケージの光弾を避けながら、ユートはようやく口を開いた。
「シルファは俺よりすごい魔法が使えるし、俺に優しくしてくれたじゃないか」
「それは、下心があったから……」
言い切ってから、ハッとする。つい本心を漏らしてしまった。けれどユートは首を横に振る。
「そうだとしても、俺は嬉しかった」
「……いいから逃げなさい! あなたには夢があるんでしょう!? こんなところで倒れてどうするのよ!」
「ここで逃げたら意味がないんだ!」
バキィン!
ユートの拳が防御魔法を破った。拳を受けたケージが僅かに後退する。
「俺はどんなに強い奴が相手でも、誰かを守れるようになりたくて、それで最強の魔法使いになるって目標を立てたんだ」
「最強だと? 俺にすら勝てない弱者が――」
「だからシルファ!」
ケージの光弾を飛び退いてかわしたユートは、私を背にして叫んだ。
「お前は俺が守る!」
「あ…………っ!」
もう出ないと思っていた涙が、熱が、私の中から溢れだした。
「口先だけなら何とでも言えるがな」
そして、ケージが魔術式を形成しようとした時だった。
ドッドッ!
「えっ……?」
何が起きたのか分からなかった。
いつの間にか、目の前にいたユートが消え、ケージの前に立っていた。ケージにとっても予想外だったのか、驚いたように口を開けている。
ドッ! と地面を踏み込む音がここまで届き、ユートはその拳をケージへと打ち込んだ。
「むうっ!?」
「はぁあああっ!」
けれど衝撃を受けきれなかったのか、外套の男はそのまま吹っ飛んでいった。
僅かに早く着地した俺は、崩れ落ちるシルファの体を支える。
「大丈夫か!?」
シルファは激しく咳き込んだ。意識を失っているようだけど、まだ息があることに安心する。
「はははははは!」
声のしたほうを振り向くと、外套の男が立ち上がっていたところだった。腕に防がれたとはいえ、もっと遠くにいると思っていたのに。
「まさか俺が動かされるなんてな。そこそこやるとは思っていたが、まだお前のことを見くびっていたようだ、ユート」
「……やっぱりお前だったか、ケージ」
そうは思いたくなかった。だけどもう誤魔化せない。俺は覚悟を決めてケージと向かい合った。
「どうしてこんなことをしたんだ?」
「大人しくついてこなかったのでな。少しの間眠っていてもらうつもりだった」
「シルファをどこに連れていくつもりだったんだ?」
「なに、ついてくれば分かるさ。お前も招待してやろう」
「っ!」
俺はシルファの背中と膝裏に手を回して抱えると、思い切り跳び退いた。ケージは笑みを浮かべたままこちらに歩み寄ってくる。
「何をそんなに怯える? 魔術式を形成したわけでもあるまい」
「とぼけるな」
確かに魔術式を形成したわけではない。けれど確実に何かをしたはずだ。思い出すのは面接試験の時、リュード先生から感じた得体の知れない何かだった。
いや、それよりももっと、禍々しい。
「くく、やはりお前は面白いな。ここで楽しんでいってもいいが、生憎その時間もない」
残念そうに言うケージは、その手の先に魔術式を形成した。俺は即座に逃走を開始する。
「死んだら諦めるか」
逃げる俺の背後から、光弾が飛んでくる。俺は木を盾にしながら走り続けた。
多分、ケージは俺なんかよりもずっと強い。不意打ちした時だって、完全に死角からの攻撃だったっていうのに防いで見せた。まさかじいさん以外にあんなことできる奴がいるなんて。
シルファのことも心配だし、ここは逃げるに限る。幸いここは森の中だし、身を隠しながら移動できる。魔法じゃ敵わなくても、走る速さなら――
「『ニードル』」
ズドッ!
それは、木を貫通して飛んできた、光の槍のような魔法だった。俺は咄嗟に横に動いて回避する。俺を追い越した魔法は、太い木の幹に深く突き刺さって消えた。
「よく避けた。しかし今度はよけきれるかな?」
わずかに見えたケージとの間には、三本の木が立っている。ケージの魔法は、それを全部貫通してきたのか。
「ごめん、シルファ!」
できるだけ負担をかけたくなかったけれど、俺はシルファを肩に担ぐようにし、片手を自由にする。そうしている間に、ケージの魔術式が、その一部を木の陰から覗かせる。
あの大きさの魔術式を、もう……!
「『ニードル・スウォーム』」
そして木々を貫通して、光の槍が大量に飛来した。俺は防御魔法による防御と強化魔法による回避でどうにかやり過ごそうとするも、あまりの数に一つ食らってしまう。薄膜のおかげで事なきを得たが、代わりに薄膜が消失してしまった。もう次はない。
くそ、せめて少しでも時間を稼げたら……。
「ほう、防御魔法か。ならもう少し強めでもよさそうだな」
まだ距離があるのにケージの声が聞こえる。それはまるで、次の手を教えてやるから死んでくれるな、と言ってきているようだった。
こうなったらやむを得ない。俺は素早くシルファを地面に横たえた。少し荒くなってしまったけど、許してほしい。
「『ニードル・スウォーム』」
その直後に第二波がやってくる。俺は振り向きながら、両手の先に楕円形魔術式を形成した。
ガガガガガガガガガガガガッ!
体を低くして、飛んでくる槍一つ一つを防御魔法で防ぐ。防御魔法は楕円形にすることで強度を増しただけでなく、攻撃に対して正面からは受けずに、斜めに構えることで弾くようにした。
やがて攻撃が止む。俺の逃げ道をなくそうと広範に放った分、小さい範囲だけなら防ぎきることができた。
バキバキバキバキ!
「しまった!」
俺が逸らした魔法により蜂の巣にされた背後の木々が、折り重なるようにしてこちらに倒れてくる。俺はシルファを両手で抱えると、急いでその場を離れる。
「……っく、うぅ、ユート?」
その衝撃で気づいたのか、シルファがうっすらと目を開ける。
「シルファ! 良かった。気がつ――っ!」
その時にはもう、目の前まで光弾が迫っていて。
これはもう間に合わないな、とどこか俯瞰しているように思って。
そして――
ボォン!
俺の額に、光弾が炸裂した。
◇ ◇ ◇
「ユート!」
目を覚ました私が最初に目にしたのは、ユートの顔に光弾が当たるところだった。ユートの体は茂みの奥まで飛ばされ、支えを失った私の体は地面に落ちる。
「ユート、うっ……!」
姿の見えなくなったユートに駆け寄ろうとするも、体が思ったように動かず、立ち上がることさえままならない。
「多少は楽しめたな」
背後からの声に振り向くと、消耗している気配すらないケージが立っていた。その威圧感に、歯が震えそうになる。
「……っ! よくも、ユートを!」
それでも、私は強く歯を食い縛りケージを見据えた。ケージは口だけで笑う。
「この状況でなお強がって見せるか。やはりお前はいいな。俺の后にしてやろうか?」
「な、なにを、んむっ!?」
突然口を何かに塞がれると、私の体が空中に持ち上がる。まただ。こいつは魔術式も形成していないのに、どうやって……。
疑問が顔に出ていたのか、ケージはふむ、と顎に手を添える。
「どうやらお前はまだ、魔界を知らないようだな」
マカイ? それがこの現象を引き起こしているものの正体?
「まあどうでもいいか。起きて早々だが、また眠ってもらうぞ」
「んん、んーっ!」
ケージの手が迫る。どうにか抵抗しようとするも、こんな状態じゃなにもできないに等しい。
誰か、誰か助け――
「――無駄な抵抗はやめろ、弱者が」
「っ!」
顔を掴まれ、体が恐怖に震え上がる。暗闇の中、ケージの声が重く響いた。
「確かにお前はよくやったが、あの程度の魔物相手にこの体たらくでは、どうあがいても俺には敵わない。こうして捕まえられては逃げることも不可能だ。ならばもう、大人しく強者に従え」
「ん、ぐぁ……」
グッ、と指の力が強くなる。抵抗の意志が握りつぶされていくようだった。
「それに見ろ。お前が余計な時間稼ぎをしたせいで、他の弱者が一人巻き添えになったぞ」
「………………!」
そ、うだ……。私のせいで、ユートが。
「加減はしたつもりだが、生身で光弾に当たったのだ。死んでいてもおかしくないだろうな。奴の弱さ故ではあるが、お前が悪あがきしたのも原因の一端だとは思わないか?」
「………………」
私は、どの口で助けを呼んでいるのだろう。
一人で強がって、一人じゃどうしようもない事態に陥って、結局誰かを頼って、助けに来てくれたユートも巻き添えにして。
こうなったのも全部、自業自得じゃないか。
そう悟った私は、自分が急速に冷めていくのを感じる。
……なら、もう仕方ない。全部自分で招いたことなら、自分は報いを受けるべきだ。助けなんていらない。これ以上、私のせいで誰かが傷つくのなんて見たくない。
感情の失せた私の目から、涙が流れた。それは自分の中に残った、最後の熱のようだった。
「そうだ、全てを強者に委ね――」
ブオ!
突然視界が晴れると、私の目の前を何かが高速で通過した。私は地面に落ちると、そのままへたりこむ。
今のは何? と思う間もなくもう一つ飛んでくる。私から距離を取ったケージが避けると、それは穴だらけになった木にぶつかって跳ね返ってきた。
木が倒れる音を聞きながら、目の前に落ちたそれを見る。
「……靴?」
それは学院指定の靴だった。それなりに重さがあるこの靴が、あの速さで飛んでくるなんて。
ドガッ!
「ほう……?」
鈍い音に、反射的に顔を上げた。
「ユート……!」
ケージに攻撃しているのは、紛れもなくユートだった。さっきの攻撃で切れたのか、額から血を流しながらも、ユートはケージに打撃を加えていく。しかしケージは防御魔法を発現させ、ユートの攻撃を防いでいた。
まだ生きていた。そのことに安心するのも一瞬で、私はすぐに声を張り上げる。
「何してるのよ! 無事だったのなら、私を置いて逃げなさい!」
私の言葉に、けれどユートは動きを止めなかった。ケージの防御魔法で防がれつつも、攻撃の手を緩めない。
「さっき攻撃を受けたでしょ? 勝てる見込みが薄いなら、一旦退いて助けを呼んでくればいいのに、どうしてわざわざ共倒れしに戻ってくるのよ!?」
「ふっ。ああ言われているぞ? ユート」
「………………」
それでもユートは淡々と攻撃を続ける。しかしいくら攻撃しても防御魔法を破るには至らなかった。逆に攻撃したユートの拳からは血が出ている。
「止めなさい! 私なんかのために、なんでそこまでするのよ!?」
「……なんか、なんて言うなよ」
至近距離から放たれたケージの光弾を避けながら、ユートはようやく口を開いた。
「シルファは俺よりすごい魔法が使えるし、俺に優しくしてくれたじゃないか」
「それは、下心があったから……」
言い切ってから、ハッとする。つい本心を漏らしてしまった。けれどユートは首を横に振る。
「そうだとしても、俺は嬉しかった」
「……いいから逃げなさい! あなたには夢があるんでしょう!? こんなところで倒れてどうするのよ!」
「ここで逃げたら意味がないんだ!」
バキィン!
ユートの拳が防御魔法を破った。拳を受けたケージが僅かに後退する。
「俺はどんなに強い奴が相手でも、誰かを守れるようになりたくて、それで最強の魔法使いになるって目標を立てたんだ」
「最強だと? 俺にすら勝てない弱者が――」
「だからシルファ!」
ケージの光弾を飛び退いてかわしたユートは、私を背にして叫んだ。
「お前は俺が守る!」
「あ…………っ!」
もう出ないと思っていた涙が、熱が、私の中から溢れだした。
「口先だけなら何とでも言えるがな」
そして、ケージが魔術式を形成しようとした時だった。
ドッドッ!
「えっ……?」
何が起きたのか分からなかった。
いつの間にか、目の前にいたユートが消え、ケージの前に立っていた。ケージにとっても予想外だったのか、驚いたように口を開けている。
ドッ! と地面を踏み込む音がここまで届き、ユートはその拳をケージへと打ち込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
完結 シシルナ島物語 少年薬師ノルド/ 荷運び人ノルド 蠱惑の魔剣
織部
ファンタジー
ノルドは、古き風の島、正式名称シシルナ・アエリア・エルダで育った。母セラと二人きりで暮らし。
背は低く猫背で、隻眼で、両手は動くものの、左腕は上がらず、左足もほとんど動かない、生まれつき障害を抱えていた。
母セラもまた、頭に毒薬を浴びたような痣がある。彼女はスカーフで頭を覆い、人目を避けてひっそりと暮らしていた。
セラ親子がシシルナ島に渡ってきたのは、ノルドがわずか2歳の時だった。
彼の中で最も古い記憶。船のデッキで、母セラに抱かれながら、この新たな島がゆっくりと近づいてくるのを見つめた瞬間だ。
セラの腕の中で、ぽつりと一言、彼がつぶやく。
「セラ、ウミ」
「ええ、そうよ。海」
ノルドの成長譚と冒険譚の物語が開幕します!
カクヨム様 小説家になろう様でも掲載しております。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる