夢の中の雪

東赤月

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悪い予感

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「真、深谷さんと、何かあったの?」
 弁当を食べ終わって、弁当箱を片付け午後の授業の準備をしようとした時、僕は再び声をかけられた。顔を向けると、泉広太が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
 広太は中学時代からの付き合いだ。長身の彼は近くにいると迫力があるが、社交的で明るい人柄で誰からも好かれる性格だ。まだ入学してから二か月と少ししか経っていないにも関わらず、高校生になっても彼以外に友達と呼べる人間を持たない僕と違い、教室内で彼のことを知らない人間はいない程有名になっている。生徒会にも所属し、持ち前の行動力を遺憾なく発揮している。そんな彼も文芸部に所属しており、よく部長の道連れとして部室で遊んでいるのだが、彼にはまだ呼び出しの旨は伝わっていないらしい。
「放課後部室に来て欲しいってさ。部長の生贄召還だと思うけど」
「え、俺さっき会ったけど、挨拶だけで何も言われなかったよ」
「あれ? じゃあ僕だけ呼び出されたってこと?」
「多分そうだろうな。ということはまさか、告白するんじゃあ……」
「声量を落とせよ。そんなわけないだろ」
 ちら、とにやにやしている広太の背後を窺うと、ギャラリーと化したクラスメート達の動揺が見て取れた。どうやら聞こえてしまったらしい。
「そんなまさか、彩花さんがあんな根暗を……」
「いや、ないだろ。ただの呼び出しのはずだ。そうに違いない。そうに違いないんだ……!」
「まあ、ありえないだろう。逆に罵られるんじゃないか?」
「それはそれでうらやましいが、万が一の可能性を考慮し、校内アイドル保守会に連絡を」
「や、やっぱり、単なる用事なんじゃないかな?」
「いえ、それなら広太君が呼ばれないはずないわ。少なくとも個人的な用件でしょうね」
「あんなやつのどこに惚れたのかな? 今度聞いてみよう」
「大変だわ、大事なキャラなのに! 甘×夢あまかけるゆめ同好会に報告しないと……!」
 不穏な会話が聞こえてくる。何やら怪しい団体らしき名前が二つ程挙がったような気がするが、聞かなかったことにしよう。
 広太にも後ろの話が聞こえたらしく、声を落とした。
「ああ、悪い。でも、実際何の用があるんだろうな?」
「僕は知らないよ。本人に聞けば教えてくれるかもよ?」
「うーん。あ、もしかして……」
 思案中に右人差し指を額に押しつけるという、彼特有の癖をした広太は、何かを思いついたらしい。彼曰わくこの癖をすることで頭が上手く働くそうだ。科学的根拠のまるでない話だが、難題に直前した際、多くの場合それで解決するそうだから羨ましい。
 果たして、彼は自らの考えを述べた。
「部長の新手の実験だったり……」
「うわぁ……」
 ありえそうだ。というより、言われてみればそれしか納得できる理由がないようにさえ思える。
 僕達が入部している文芸部の部長、霧中望きりなかのぞみ
 あの変人部長は、自分が面白いと思えることに対しては全く妥協をしない。普段は良識のある一般生徒を演じているが、その裏で噂されている、彼女が残した伝説の数々はどれも一般生徒と呼ばれる人間が残すようなものではない。
 曰わく、校庭で花火を打ち上げた、校舎内で単車を乗り回した、屋上から飛び降りて無事だった、などなど。
 実際はどの伝説も証拠は存在せず、あくまで複数の生徒がたまたま目撃しただけだというが、多少尾ひれがついていたとしてもこれだけの噂が流れる部長はただものではない。
 そんな、決して自殺志願者などではない部長の行動原理は、面白そうだったからの一言で表せるという。これもあくまで噂だが、部長の実験を実体験している僕達はその意見が正しいと思っている。
「つまり今回の呼び出しは、また何か面白い映像を撮るために部長が画策したものってことか」
「俺が呼ばれなかったってことは、偽告白を受けた真の反応でも狙っているのかもな」
 溜め息とともに頭を抱える。
「まあ、気をつけろよ。クラスの皆には上手く説明しておくから」
 そういって、広太は席を離れていった。
 一人になった僕は、部長の思惑通りにならぬよう、繰り出されるであろう数々のトラップの予想を試みた。
 同時に、僕は入学当時の忌まわしい記憶を思い出してしまう。
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