夢の中の雪

東赤月

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夢現化

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「とりあえず、僕が精神的に殺されそうだったってことは改めて実感しましたが、それが襲われた時期とどういう関係が?」
「お主が、初めての被害者になりそうだったということじゃ」
 僕は暫く、言葉を失った。
「それは、どういう」
「彩花は恐らく、まだ精神的に影響が出るほどには霊力を喰らっておらぬはずじゃ。あやつの周りで最近大きな変化をした者はおらぬし、遠出をしたという話も聞かぬしの」
「何故部長がそれを知っているんですか」
 こんな時だが、改めて部長を恐ろしいと思った。
「儂は他人の霊力を知る特別な方法を持っておるのじゃよ。正確にとは言えぬが、ある程度の目星はつく。じゃから深谷には前々から目をつけておったのじゃ。彩花の家に訪問して親御さんから話を聞くこともできたしの」
「家はどうやって知ったんですか?」
「あとをつけた」
「つまりはストーキングしたと」
「お主のような被害者を出さぬための探偵調査と言わぬか」
「けれど僕は被害者になりそうでしたよ」
「四六時中守れるわけがなかろう」
「予防策くらいあってもよかったんじゃないですか」
「ビデオカメラは仕掛けておる、と伝えてはいた」
「ではどうして僕は襲われたんですか?」
「嘘だとばれたのじゃろう」
 部長は、昨日トランプで負けた時と同じ苦笑いをしている。緊張感とは違う意味で重い空気が漂った。
 とはいえしかし、確かに悪くはない策ではある。無いビデオカメラは見つかりっこないから、常にどこかから撮られていると意識させることはできる。なんだかんだ僕のことを気遣ってくれているし、これ以上責める気は起こらなかった。
 僕は沈黙を破るために、一つ咳払いをする。
「それで、どうして僕が第一の被害者になりそうだったんですか?」
「夢現化が進んでおるのじゃ」
 気を取り直し、普段の笑みを取り戻した部長が言う。
「夢現化、とは?」
「霊力は意思に影響される。そして、逆もまた然り、じゃ。意思は自分の霊力を通じて空気の霊力にも影響を与える。そして空気の霊力は他人の霊力を媒介にして意思に働きかける。それと同様、霊力もまた意思に働きかける」
 僕は頷く。深谷さんも霊力で僕を縛ったはずである。
「つまりは自分の意思と霊力は相互作用しているわけじゃが、稀に、自分の意思で大きな影響を受けた強い霊力の一部が、本人の意思とは別に意思を持つことがある。これを夢現化と呼ぶのじゃ」
「霊力が、意思を持つ……」
 それは、どういうことだ? 力が意思を持つ、ということは? 
 嫌な予感がする。
「さながら、二重人格のようなものじゃ。そうなってしまえばもはや霊力ではなく、霊と言った方が正しいかの。当初は霊力も少なく意思を持ってはおらぬが、それは無意識のうちに成長しようと他人の霊力を食い、時を重ねることで自分の霊力を増やし、やがて意思を持つのじゃ」
「それで、どうなるんですか?」
「乗っ取られる」
 戦慄、した。
 自分の生み出したものに自分が凌駕される。コンピュータの反乱だとかSFの物語で時折耳にするそれが、意思においても生じるなんて。
 深谷さんも、今まさに乗っ取られているということだろう。いや、深谷さんだけじゃない。もしかしたら僕が知らないだけで、他にも身近に体を乗っ取られている人がいるかもしれない。そして彼ら彼女らは、だんだんと成長しながら、自分の餌となる相手を見定めていく……。
 その事実と、それを笑みを保ったまま言う部長の姿に、恐怖せざるを得なかった。
 何故笑っていられるのだろう。翻弄される僕が面白いのだろうか。
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