三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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王立能力学園・金級ハンター編

170 金級ハンターサンタさん動く(4)

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 領都モエナからトレジャーハンターモエナ支部まで馬車で5時間。
 馬車の中で私は、モエナ伯爵家のヘンリーさん28歳に、魔法の基礎をレクチャーしながら、当たっても痛くないハンカチを使って魔法を実践してもらった。

「なんですかこれは! 長々と詠唱する必要もなく、思った通りに物体を動かせるなんて・・・うぅ、あんまりだ。何故私が王立能力学園の学生だった頃に、教えてくださらなかったのですかー!」

 ……いや、まだ生まれてないし。

 本気で嘆いているヘンリーさんを見て、戦争が終わったら地方の魔術師にも魔法講座を受講させてあげようと思った。

「大賢者様は何処まで石を飛ばすことができるのですか?」

「う~ん、何処までって挑戦をしたことがないから分からないなぁ」

 距離に挑戦したことがないから、今度の講義で距離を測るのもアリかな。

「戦争にも有用な魔法は当然ありますよね?」

「どんな魔法でも、使おうと思えば戦争にも有用だよ。でも、私は魔法を教える時に、魔法で人を殺さないと誓約書を書かせているわ。
 もしもこの国が戦争だからと魔法で人を殺そうとするなら、私もアロー公爵家のアンタレス君も、直ぐにこの国を出ていく。王様にもそう伝えてあるの」

 ワクワクした表情で質問するヘンリーさんに、私は真顔でキッパリ答えた。
 えっ?そうなのって表情をしたヘンリーさんを見て、誰にも上級魔法を教えるべきじゃないと再確認した。

「昨年中位・魔術師試験を受けた時に、試験官と勝負したんだけど、負けを認めない試験官は、無抵抗の私に向かってファイヤーボールを放ったことがある。
 悪意で私を殺そうとした試験官に、魔術師協会は資格剝奪を言い渡した。
 魔術師だって、人を悪意で殺さないという決まりと、誇りがあるでしょう?」

「ウッ、そうですね。ただ今回の戦争でも、魔法陣を使った罠や攻撃はしています。それはザルツ帝国軍も同じですが、魔術に関しては我が国の方が実力は上です」

「あ~ぁ、私、まだ8歳の子供なのに、なんで戦争の心配までしてるんだろう。
 なんで戦争なんか始めるんだろう。私は人を殺すための魔術具なんて作りたくない。でも、この国も守りたい。
 だから、殺し合わない方法でアルバの町を奪還したい。理想論だと笑われてもいいの」

 そう言って窓の外を見る私に、ヘンリーさんは「そうだね」と言って作り笑いをした。

「サンタさんの父上は、先の戦争で亡くなった。ケガをしていても戻ってきて欲しかったと、サンタさんの母上でもある私の姉がよく言っていた。
 敵兵にも家族はいる。悪いのは欲をかいたザルツ帝国の帝王だ」

 そう言ってカーレイル叔父さんは、私の頭を優しく撫でた。



 お昼過ぎに到着したモエナ支部で、私を待っていたのはゲートル支部の懐かしいハンターたちだった。
【最速踏破者】の6人は勿論だけど、銀級パーティー【ロードの申し子】の5人と、他にも銀級パーティー2組が駆け付けてくれていた。

「みんなありがとう。凄く嬉しい」

「サンタさんには、何度も命を救われている。このくらいの恩返しは当たり前だし、困っているアルバの町の住民やハンターを助けるのは、同じハンターとして当然のことだ。礼には及ばん」

 うちのパーティーと仲良しの、【ロードの申し子】のリーダーが胸を張って笑顔で言ってくれる。
 
「ゲートル支部からの参加者は全員で20人だ。モエナ支部からも20人が奪還作戦に参加する。うちの支部も銀級以上に限定したからな」

 私の依頼を即実行してくれた、モエナ支部のチーフも胸を張る。
 参加してくれるモエナ支部のハンターたちも、皆が笑顔で親指を立てて任せろと口々に言ってくれる。

「勿論、俺たちも参加するぞ」と言って、ゲートル支部のサブチーフが、モエナ支部のサブチーフと一緒に遅れて顔を出した。
 2人のサブチーフは、ハンター時代からの知り合いらしい。

「本当にありがとう。嬉し過ぎて涙が出そうになったよ」

 溢れて零れそうになった涙を拭きながら、私も親指を上にして皆の前に出した。

「今回の作戦に参加するモエナ伯爵家嫡男のヘンリーだ。今回私は、金級ハンターであるサンタさんの指揮下に入る。
 作戦名は【最強ハンター南ゲート奪還作戦】だ。王太子様も了承されている。
 国のため民にため、自主的に動いてくれる皆さんに、アロー公爵様も感謝の言葉を述べられた」

 ずいっと前に出てきた高位・魔術師のローブを着たヘンリーさんが、自分も今回の作戦に参加することと、この作戦が王太子とアロー公爵の承認を得ていることを説明する。

「オオーッ!」と、皆から歓声が上がる。高位・魔術師の参戦は大歓迎だ。

 王太子とアロー公爵の承認と、ハンター協会の承認があれば、もしもの時には見舞金が支給されることになる。
 まあ今回は、ハンター協会本部の了承を得ている訳ではないけど、2つの支部のチーフが許可を出している。最悪でも支部から見舞金が出る。

「みんな、出発は明日の朝7時。詳しい作戦はこれからチーフやサブチーフと決めるから、役割分担や作戦内容は、出発してから教えるね」

 もしかしたらザルツ帝国の間者が支部に紛れているかもしれないから、詳しい内容は話さない。
 会議をする前にポートさんにお金を渡して、45人の3日分の食料の買い出しに行ってもらう。
 今回ポートさんは留守番だ。何か不測の事態が起こった時に、知らせに走る人が必要だから。



 翌朝は今にも降り出しそうな曇り空で、南ゲートの方角は真っ暗な空だった。
 ゲートの入り口に到着すると同時に、激しい雨が降り出した。
 この時期の雨曇は北から流れてくる。そして3日間くらい降り続くことが多い。
 ということは戦地や国境では、昨日から大雨になっているはずだ。

 これから向かうアルバの町も、暫く雨が続く可能性が高い。
 きっと敵兵の見張りの数も減る。住民たちも外出を控えるだろう。
 この時は、この雨が戦況を大きく変えることになるなんて、誰も気付いていなかった。

「これは、恵みの雨になりそうです」

「そうだなサンタさん。ザルツ帝国軍の灯りは昔ながらの松明だ。ランプを使ったとしても照らせる範囲は狭いだろう」

 ヘンリーさんも、厚い雨雲を見て頷く。

「フフフ、雨なら人員を半分に分けられます」
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