三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

文字の大きさ
172 / 190
王立能力学園・金級ハンター編

172 金級ハンターサンタさん動く(6)

しおりを挟む
 時は来たれり。
 あれだけ激しく降っていた雨が止み、闇の中に静寂が広がる。
 住民たちは家の中で、何が起るのだろうと不安を抱きながら眠れぬ夜を過ごしているだろう。
 兵士たちは早々に仕事を放棄し、午後6時には夕食も終え酒を飲み、まだ9時だというのにホテルの窓に明かりの灯っている部屋は少ない。

 私とカーレイル叔父さんはシリスと一緒に、午後6時に仕事という名の強制労働を終えたハンターを装い、ホテルの向かいにある雑貨屋に立ち寄った。
 あまりに雨が激しく降るので、少し雨宿りをさせて欲しいと頼み、ホテルの様子を窺っていた。

 閉店時間の午後7時になって、自分たちはアルバの町を救うためにやって来たモエナ支部のハンターだと告げ、午後9時まで居させて欲しいと頼んだ。
 店の御夫婦は、人質にとられている13歳の娘のことを凄く心配していて、どうか早くザルツ帝国軍を追い出して欲しいと頭を下げた。

 人質になっているのは10歳から19歳までの独身女性で、逆らったりしたら人質を自国の娼館に売ったり、兵士の相手をさせると脅されているそうだ。
 人質の数は40人くらいで、ハンター支部の3階に閉じ込められており、兵士が常に10人は見張りについていて、食事は日に1度だけ与えられているという。

『女、子供を人質にするのは分かるけど、もしも手を出すような下衆野郎がいたら、手加減は必要ないわよサンタさん』

『そうねパトリシアさん。殺してくれと頼まれるくらいには痛い目に遭わせるべきだわ』

 うちの女性陣は弱者を虐める下衆には容赦ない。今夜のマーガレットさんは、いつもより過激だ。

『あのメンバーなら間違いなくハンター支部を制圧できると思うけど、今回の作戦にはサンタさん以外の女性が居ないわ。
 この店の奥さんをハンター支部に連れて行って、人質の女性たちの状況を確認してもらった方がいいわ。もしかしたらケアーが必要な人が居るかもしれないから』

『うん、分かったマーガレットさん』

「あの、午後9時に奪還作戦を実行しますが、敵兵を制圧したら、奥さんは人質になっている女性の様子をみに行ってもらえますか?
 女性に気遣いできる者が、今回の作戦を実行する者の中には居ないんです」

「分かったわ。勿論なんでも協力するわ。お隣の娘さんも人質になっているから、一緒にハンター支部に行くわ。心遣いありがとうお嬢さん」

 奥さんは涙声で私の手を握り、助けに来てくれてありがとうと何度も頭を下げた。ご主人も、なんでも手伝いますとカーレイル叔父さんに言っている。



 この静寂で、爆音機の音は町中に響き渡るだろう。
 ホテルの入り口に灯った明りだけが、通りを少しだけ照らしている。
 どうか作戦が成功しますようにと祈りながら、2棟並んで建っているホテルの間にある小道を少し入った場所に、私は魔術具を置いた。

 自軍の兵士とD班メンバーが配置についているのを確認し、決めていた開始の合図である魔核付きの杖を取り出し、薄っすら光らせて通りに出ると、頭上でクルクルとゆっくり回した。
 ホテルを取り囲んでいる兵士の方からも、同じように合図が返ってきた。
 あれはきっと、高位・魔術師のヘンリーさんとドレイプさんだろう。

 魔術具まで戻った私はカチッとスイッチを押し、急いで向かいの雑貨屋さんの建物の陰まで走る。そして耳を塞いでしゃがみ、起動する瞬間を待つ。
 なんだか雨で濡れた体が寒いなぁなんて、余計なことが頭を過った瞬間、ドガーン! と爆音が響いて、ホテルの窓ガラスや雑貨屋さんの窓ガラスがガタガタと震える。

 2度目の爆音が鳴り響いた時には、ホテルの小道側の窓ガラスの殆どが割れてバラバラと落ちていく。大通り側の窓ガラスも、数枚が割れたようで通りに降ってきた。
 ホテルの正面にある雑貨屋さんの窓ガラスも、2枚だけ割れてしまった。

 ……ああ良かった、逃げておいて。
 ……伯爵屋敷は高級ガラスだから、あのくらいの被害だったんだ。

 早い者は1分後、遅い者は3分後くらいにホテルから飛び出してきた。 
 ある者は軍服姿で、ある者は平服で、またある者は下着姿のままで大通りに飛び出して、何が起ったのだろうかと慌てている。
 剣や武器を持っている者は半数もおらず、ランプを手に持っている者は2人だけだった。


「行け―!」と、大声で突撃命令を出したのは、私に同行していたカーレイル叔父さんだ。
 私はウエストポーチから広域ランプを取り出し、雑貨屋さんの前で大通りを照らしていく。
 ヘンリーさんとドレイプさんも魔核付き杖を高く掲げて、魔核を眩しく光らせながら指揮を執る。

 外に出てきた敵兵の数は130人くらいで、その全てを無力化し、逃げ出した兵士には、うちのシリスが容赦なく噛み付いている。
 ヘンリーさん率いるD班は、指揮官が居ると情報を得た右側のホテルに突入していく。

「ギャーッ!」とか「止めろ卑怯者!」とか「死ねエイバル王国の兵士」って声が、割れた窓から聞こえてくる。
 主に3階の部屋から聞こえるから、指揮官や偉い上官は3階の部屋を使っていたんだろう。

 上官なのに何故出てこなかった?って首を捻っていたら、毛布にくるまったお姉さんたちも一緒に連行されていた。

「あの女の人達って・・・人質の女性?」って、様子を窺っていた雑貨屋の御夫婦に、私は小さな声で質問した。

「いいえ、あの3人は、そういう店の女性たちです。あの娘たちのお陰で」と言った奥さんは、3人の女性に手を合わせていた。

「カーレイル叔父さん、雑貨屋の御夫婦と隣の奥さんを護衛しながらハンター支部に行ってください」

「了解サンタさん」と返事をして、スタンバイしていた伯父さんが3人を連れて移動を始めた。


 捕らえた敵兵は後ろ手に縛られ、ホテルのホールに座らせられている。
 味方に大ケガをした者はおらず、敵側には剣で斬られた者が20人くらい居て、敵の軍医が応急手当をしていく。

『サンタや、大丈夫か?』って、サーク爺の声がする。

「魔術具で仲間を大量に殺した卑怯者め! 絶対に同じ目に遭わせてやる!」

 敵の指揮官が鬼の形相で喚き、私を睨んだ気がした。

 ……魔術具で大量に殺した卑怯者? 私が?

『サーク爺、なんだか寒い』
  
「どうしたサンタさん! しっかりしろ!」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

スラム街の幼女、魔導書を拾う。

海夏世もみじ
ファンタジー
 スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。  それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。  これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

領主にならないとダメかなぁ。冒険者が良いんです本当は。

さっちさん
ファンタジー
アズベリー領のミーナはとある事情により両親と旅をしてきた。 しかし、事故で両親を亡くし、実は領主だった両親の意志を幼いながらに受け継ぐため、一人旅を続ける事に。 7歳になると同時に叔父様を通して王都を拠点に領地の事ととある事情の為に学園に通い、知識と情報を得る様に言われた。 ミーナも仕方なく、王都に向かい、コレからの事を叔父と話をしようと動き出したところから始まります。 ★作品を読んでくださった方ありがとうございます。不定期投稿とはなりますが一生懸命進めていく予定です。 皆様応援よろしくお願いします

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...