三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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王立能力学園・大賢者編

181 恩師との別れ(2)

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 たった1ヶ月ちょっと会わなかっただけなのに、恩師の顔は頬がこけ、毒の影響か鬱血している部分もあった。
 子供みたいに笑う恩師の顔しか思い出せない。明るく話し掛ける声しか思い出せない。
 こんな、こんな苦しそうな顔なんて知らない。こんな・・・

「ゴメンねツクルデ教授。私が戦地に行かなければ・・・グスン。
 私、ちゃんと発明学科を引っ張っていくから。ちゃんと沢山特許を取るから。
 約束通り新しい魔術具を作って、つ、作って報告するから・・・ううっ」

「大丈夫サンタさん? ツクルデ教授、僕もサンタさんと一緒に頑張ります。
 教授の仇は、絶対に僕たちがとります。だから、サンタさんを見守ってください」

 柩に縋りついて泣く私の肩を優しく抱くようにして隣に立ったアレス君が、絶対に仇をとると約束してくれる。
 
 ……そうだ、今は戦いの最中だった。教授のためにも切り替えなきゃ。

 今度こそ涙を拭き、永遠の眠りについた教授の頬をそっと撫で、頑張って約束を守るからねって心の中でもう一度誓った。
 よし、受付に戻ろうと気持ちを切り替えたところに、教会長が急ぎ足でやって来て、私に軽く礼をとった。

「大賢者様、少し宜しいでしょうか?」
「はい、大丈夫です」

 互いに目配せをして、私とアレス君は何かあったんだと察し控室を出ていく。

「一般人を教会内から出した後、大聖堂の懺悔室に隠れている女を発見しました。
 警備隊が数人で取り押さえ事情を聴こうとしたら、なんと、エイバル王国語をちゃんと話せない者でした。持ち物を検査したいので、立ち会いをお願いします」

「分かりました。アレス君は呪符の方をお願い。教会長、聖布を至急アレス君に貸してください。呪符を詳しく調べます」

「了解しました」と教会長が頷き、アレス君は戦いに挑む騎士のように真剣な表情で「任せて」と返事した。
 アレス君は他の神父と一緒に聖布を取りに行き、私たちは執務棟へと向かう。


 ……さあ、戦いの始まりよ。私は大賢者。みんな、力を貸して!

『了解サンタさん!』と、守護霊全員の声が揃った。
 
 今度はダイトンさんが私の護衛をしてくれて、他のメンバーは教会内と教会の周辺の様子を探ってくれる。
 一番遠くまで離れられるトキニさんは、正門周辺で怪しい者が様子を窺っていないか調査してくれる。サーク爺はアレス君に付いてくれる。
 頼もしい最強守護霊軍団に任せれば、悪人を決して見逃したりしない。


 教会長に連れてこられたのは、執務棟の地下にある特別室だ。
 ここは主に罪人を閉じ込めておく部屋で、窓もなくドアは鋼鉄製だ。
 ドアの前には屈強な教会警備兵が2人立っていて、ドアの鍵は解除の難しい特別製だと聞いている。
 教会長は鍵束を取り出して、特殊な形をした鍵を鍵穴に差し込む。そして右に回しガチャリと開錠する。

 薄暗い部屋の中に居たのは若い女で、椅子に括り付けられていた。
 入室してきた私と教会長を睨み付け、猿轡をされているのに何かを叫ぼうと体を動かしウーウー唸って抵抗する。
 既に警備隊の小隊長と教会警備隊の隊長から、ザルツ帝国の間者だと断定されているせいか、一般信者を装う気はないらしい。

「教会長、聖水の用意をお願いします。この女から黒い呪符の気配がします」

 私がそう言うと、女は信じられないという顔をして、私をじっと凝視する。
 教会長は控えていた神父に急いで聖水を持ってくるよう指示を出し、「やはり呪術師の仲間でしたか」と言って、呪符の気配を探るように全身を見る。
 今回は教会も直接攻撃を受けているから、教会長も臨戦態勢だ。

「私の恩師を呪符で殺したアナタの上司は何処?
 ザルツ帝国の王族である上司は、まだこの国に居るわよね?
 侵攻して奪った辺境伯領は既に奪い返され、戦争はエイバル王国の勝利で終結したというのに、まさかザルツ帝国まで無事に逃げられるとでも思っていたの?」

「ウーウー」

「呪符って、仕掛けた者の寿命を縮めるらしいわね。体調だって崩れるってザルツ帝国から逃げてきた人から聞いてるわ。
 全てを正直に話すなら、公開処刑は止めてあげる。
 うちの国民は穏やかで寛大だけど、理不尽に身内を殺された場合は、倍返しが当然だと考えて刑を執行するの。
 痛くて苦しくて、己の罪を後悔しながら、早く殺してって叫ぶらしいわ」

 もしもこの女の心の中に、教会本部で出会った神父さんのように、呪符で人を殺したり陥れることを後悔し、止めたいと思う良心があるなら泣き脅し作戦に切り替える。
 でも、そんな気持ちが微塵も無いなら容赦しない。目には目を歯には歯をよ。

 私は持ってきてもらった聖水入り水差しを手に、まだ反省の色が見えない女に近付き、頭のてっぺんからチョロチョロと掛けていく。
 殴られるとでも思っていたのか、女は驚いた表情で私を見ると、顔を流れる聖水を首を振って払い除けようとする。
 続いて私は、女の足元に置かれていたショルダーバッグにも聖水を掛けていく。

 禍々しく黒い煙のようなものを漂わせていたショルダーバッグは、聖水を掛けたことで禍々しさが軽減した。
 軽減だ。
 本来なら完全に効力が薄れて消えるのに、ショルダーバッグの中の呪符は余程強力なのかもしれない。直に聖水を掛けないとダメなほどに。

 私は自分のウエストポーチから、教会大学で研究し完成させていた【聖なる効果】のある白い手袋を取り出した。
 呪符の研究をしていた時、1セットだけ完成させた優れものだ。
 聖水に1週間漬け込んだ糸を使用し作った手袋で、教会の重要機密事項になっている【聖石】で作られた【聖なる箱】に、10日間収納し【聖力】を得ている。

 この手袋を着用していると、呪符を直接触っても呪力の影響を受けない。
 だが聖水のように呪力を弱めたり、無効化するような力はない。
 ただ私は、どんな呪符の影響も受けず決して呪われることはない。

 いったい何をする気だ!って探るように私を睨んでいる女からは、後悔の念も懺悔する良心も感じとれない。
 これから呪符の確認をするので呪力が降り掛かることがないよう、教会長と警備隊員にはドアを開けたまま部屋の外に出てもらうことにした。

 私は女の猿轡をわざと外し、ショルダーバッグを逆さにして振り、中身を全て地面に落としていく。
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