三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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王立能力学園・大賢者編

183 呪術と魔法(1)

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 ◇◇ 呪術師 ヨカラン ◇◇

 正門を通過した300人は、全て視力が落ちる。
 たかが視力と思われがちだが、教会内は石段や花壇などもあり、注意しないと転倒する。しかも呪力は半年間継続する優れものだ。
 直ぐに発動し、発動後はどんな薬を使っても視力回復することはない。

 今回使った呪符は全て呪力継続期間も検証済みだ。
 体調の崩し方も、殺し方も死に至る期間も自由に設定できる。
 王子の馬車に貼らせた呪符とネイシアに持たせた呪符は、目的は殺しだが内容は全く違う。私にくる反動の少ない殺し方を選んでいる。

 ……それでも呪符が発動を開始したら、胸の痛みくらいはある。

 教会から戻って3時間後、ネイシアに持たせていた呪符の発動を感じ取った。
 呼吸が苦しくなり頭が痛むが、この程度なら葬儀終了時間には回復する。
 どうやらネイシアは上手く任務を果たし、教会長の部屋に呪符を貼ったようだ。
 私の邪魔をする者は、教会であろうと容赦しない。
 
 ……私は歴代呪術師の中で、最強の天才だと自負している。
 ……古代呪術こそが最強であり、呪術師こそが世界を操る中心となるのだ。


 だが、私が天才でも、自然現象まで操作することはできない。
 前回も今回も、洪水が原因で撤退を余儀なくされた。
 何度も堤防を補強するよう進言したのに、無能な帝王も大臣も今年は洪水にならないと豪語し、最優先事項を後回しにした。

 この私の努力を踏みにじるのは、誰であれ許せない!

 無能大臣には、国を出る前に呪符で鉄槌を下しておいた。
 次こそは・・・ん?・・・本当に次があるのか?
 ザルツレム領のザルツ帝国軍は、エイバル軍に負け捕虜になったという噂と、洪水によりザルツ帝国軍は撤退したという噂があるのに?

 情報は錯綜している。
 だが、教会で呪符を貼っていた時、信じられない寝言を聞いた。
 古代都市ロルツの北ゲートも、エイバル軍が奪還したという寝言だ。
 あり得ない。北ゲートには息子ヨニイルが居たのだ。負けるはずがない。

 もしも敵軍に囲まれても防衛線に呪符を仕掛ければ、敵兵は気力や体力を失い前の戦争の時のように無力化できるはずだ。
 ヨニイルに持たせている呪符は20枚くらいあったはずだ。弱い効力の呪符ならヨニイル自身も作れる。
 もしも戦闘になったとしても必ず生き延びて、自国に帰っているはずだ。

 ……もしも息子ヨニイルに何かあれば、この国の王族を皆殺しにする。


「ヨカーラム様、ご指示通りに王子の馬車が到着するのを待って、王宮騎士団の馬車にも呪符を貼ることができました。
 これで奴等は、成す術もなく倒れ、死を待つ憐れな敗者となるでしょう。
 王子が来たので警備隊も警護のため増員され、一般人は教会内から出されましたが、ネイシアは潜入に成功したようです」

 キルラムが戻ってきて、全て予定通りだと報告する。

「つい先程、ネイシアの呪符が発動を開始した。上手く教会長の執務室に潜入したのだろう。
 私は教会の正門に近いカフェで様子を窺う。今日は鑑定士だけを拉致する。最後まで気を抜かず段取りしろ」

「了解しました。学園の鑑定士は何度か顔を確認しているので大丈夫です。
 鑑定士協会の偉い鑑定士も参列するとの情報も得ております。受付近くで様子を窺い、どちらか必ず拉致します」

 こんなに警備が緩い国なら、王宮だって学園だって呪符は貼り放題だ。
 教会だって、王子の警護に気を使っているだけだから、我々を気にする者など居ないし、捕らえられることもない。

 所詮、私の敵ではない。


 ◇◇ 教会長 ◇◇

 この危機的状況で、もしも大賢者様がお戻りになっていなかったら、教会で大惨事を招くところだった。
 まさか正門にまで堂々と呪符を貼るとは、完全に教会と敵対する気だ。
 教会に来たから倒れた。教会で葬儀に参列したから目が見えなくなった。教会は呪われているなどと噂になれば、信者は混乱し信仰が揺らいでしまう。

 サンタ様の仰る通り、これは戦争ではなく喧嘩だ。
 教会に売られた喧嘩なら、完膚なきまでに叩き潰して勝利せねばならない。
 ガリア神様を冒涜する行いを、本部も大司教様も赦されることはないだろう。
 先程サンタ様は、呪術師に呪術返しをされた。当然の報いではあるが、ちと生温いと思った私は罪深いのだろうか?

 それにしても大賢者様は、本当に8歳の子供なのだろうか?
 教会本部の文献を詳しく調べたら、大賢者様が前回顕現されたのは、千年近くも前だった。
 千年に1人の尊い存在だと考えれば普通と違っていて当たり前だが、その知識、判断力、行動力、察知能力など、ただ驚嘆するばかりだ。

 つい最近までバザーでお菓子を売っておられた幼さは消え、各部隊の責任者たちを指揮する凛々しさの方が板についておられる。
 先程は恩師が殺され、涙で顔をぐちゃぐちゃにされていたが、それでも直ぐに大賢者の顔に切り替えられたお姿を見て、思わず目頭が熱くなった。

 強大な悪と戦う時、神は大賢者様をこの世に顕現させてくださるのだろう。
 幼い御身にいくつもの責任を背負わせ、戦わせ、守っていただいている。
 ならば神に仕える者は、大賢者様に従い、共に戦い人々を守らねばならない。
 弟子であるアンタレス様も懸命に支えておられる。もっと励まねば。

 ……この難局を乗り越え、大陸の安寧を守るため、私も早く呪符が視えるようにする必要がある。魔法を学ばねばならない。

「教会長様、ご指示通り地下牢の女の猿轡を外したままにし、縛り付けていた縄も解きました。すると直ぐに、全てを話すから部屋から出してくれと叫び始めました」

「他者には平気でも、自分は呪われたくないということか。なんと自分勝手な。
 食事は日に1食。簡易トイレもあるから何の問題もない。口を割ることがあっても、決して許してはならない。あれは人ではないのだ」

 報告に来た神父に新たな指示を出し、私は葬儀の準備をするため礼拝堂へと向かう。
 礼拝堂に貼られていた呪符は2枚。
 その内容は、祈りを捧げると胸が苦しくなるものと、集中力を奪い思考を鈍らせるというものだった。
 王立能力学園で生活する優秀な学生や教師を狙った攻撃だ。許すまじ!

 ……今は心を込めて祈りを捧げ、恩師の魂を送ることに集中しよう。 
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