三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん

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サンタさん、魔術師になる

78 トレジャーハンター協会本部(4)

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 思ってもいなかったことを、ハウエン協会長は私に告げた。
 軍事的? そんなことに利用するモノなのこれ?
 戦争なんて、5歳児の私に言われても困るし、極力関わりたくない。

「サンタさん、前回のザルツ帝国との戦争時、我がハウエン辺境伯家は物資調達担当で、補給部隊を指揮していた。
 ザルツ帝国は、補給物資に火を放ち、補給部隊を執拗に攻撃したんだ。
 この魔術具を物資保管に使えば、敵に内容物や残量を知られることもないし、水や炎の攻撃を受けても問題ない」

 先の戦争を思い出しながら、悔しそうにハウエン協会長が語る。
 きっとハウエン辺境伯家は、領兵や物資で大きな損失を出したんだろうな。
 まだ前回の戦争について詳しいことを習ってないし、政治的なことなんて分からない。

 ……もう、戦争なんかしなきゃいいのに。

「ハウエン協会長、いくら私でも戦争の話はちょっと早すぎるよ。
 確かに父様を先の戦争で亡くしたから、何か役に立ちたいとは思うけど、この魔術具、きっと星の再生紀の初期に作られたものだと思う。
 だから、素材的にも技術的にも複製はきっと無理だよ?」

 間違いなく超古代魔法の【空間】が関係してるから、複製するには私と同じ【空間】属性持ちの人が作成に協力しなきゃいけないはずだ。
 それが公になったら、きっと私の安全と命が脅かされる。
 強制的に魔術具作成させられる未来なんて、絶対に無理。絶対に嫌。

「どうしたの師匠? 大丈夫?」

「えっ?」

 アレス君が心配そうに私の顔を見て訊くから、自分が涙を流しているって気付いた。
 やっとクソババアや意地悪な従姉から逃げられたのに、また命の危機?って最悪の未来を想像したら辛くなったみたい。

「これはすまなかったサンタさん。お父上を戦争で亡くしたんだったね」

 父様を思い出して私が泣いていると思ったハウエン協会長が、あわあわしながら謝ってきた。
 
「どうしたんだサンタさん、何があった?」

 簡易空間魔術具から出てきたチーフが、ぎょっとした顔で心配する。
 滅多と泣かない幼児の私が泣いていたので、びっくりさせちゃったみたい。

「なんでもないよチーフ。ハウエン協会長が高く買ってくれるって言うから、嬉しくて泣いちゃった」

 そう言って私は、頑張って笑顔を作った。
 ハウエン協会長は、今後、私の身に危険が及ぶ可能性に気付いていない。
 彼は歴史学者だから、魔術具の仕組みや魔法の特異性について考慮できない。

「ハウエン協会長、ボルロさん、購入額が決定したら後日でいいので教えてください。できれば白金貨5枚以上で。
 私これから王都見学するので失礼します。お爺様、アレス君、行こう。
 あっ、今後は魔核充填に協力できません。それは魔術師協会の仕事ですから」

 皆が凄い発見だと興奮し騒いでいるうちに、さっさとこの場を去りたい。
 何が何だか分からない様子のお爺様は、もう帰るのか?って不満そうだけど、このまま居たら危険なんだよお爺様!

『大丈夫サンタさん?』って、パトリシアさんが心配してくれる。

『心配なら、アロー公爵に相談するんがいいんちゃうか?』

『そうじゃな、限られた者しか【空間】属性のことを知らんが、魔力学会で発表され、その場に簡易空間魔術具が置かれれば、人々は【空間】という未知の属性の有用性に気付くじゃろう』

『でも、王都で会うのは危険。今回はアレス君も一緒だから、第二期調査が始まってから相談する』

 後日ホッパー商会に届いた家令のコーシヒクさんからの手紙で、この時の私の判断が、アロー公爵屋敷でヒバド伯爵に遭遇する危機を回避したのだと知った。
 でも、アロー公爵に相談するタイミングが、第二期調査時では遅かったと、僅か2週間で後悔することになる。



 本当は2泊くらいしたかったけど、あの簡易空間魔術具に充填した魔力が、いつ効果切れになるか分からないから、早く王都から逃げたくて逃げたくて仕方なかった私は、自分で買った家ではなくホテルに泊まることにした。
 できれば我が家の場所を、あのメンバーには知られたくない。
 
「サンタや、何故買った家に泊らないんだ? 母や兄に会いたくないのか?
 明日は魔術具協会に顔を出し、あの魔術具の研究に立ち会いたいんじゃが?」

 そこそこにお高いホテルの部屋に入ると、明日帰ると言った私に、お爺様が文句を言ってきた。
 私の家族に会うことを楽しみにしていたアレス君も、困惑した表情で私を見る。

「暫くの間、トレジャーハンター協会本部に行くのは絶対にダメ。
 お爺様、はっきり言うから真面目に聞いてね。
 このまま王都に居たら、私とアレス君は国やハンター協会本部に、便利に使える魔核充填人として利用されるわ」

「そんな大袈裟な・・・魔核は高額じゃから充填できてお金も貰えるんなら、手伝えばいいんじゃないか? 魔術具の研究者には有難い存在だぞ」

 ……ああ、やっぱりお爺様は何も気付いてない。

「私を確保して言いなりにするには、お爺様を脅せばいいと高位貴族は思うわ。
 お爺様が王都に居たら人質にとられて、私は魔力切れで死にそうになっても働かされる。
 大事な祖父を助けたいなら、タダで魔力を国のために使えってね。
 お爺様は、あの場に居た権力者に逆らうことなんて無理でしょう?」

 これだけ言ってもお爺様は、いったい何をい言っているんだって?って顔をして首を捻っている。
 アレス君は、私の話す内容を直ぐに理解したようで、今からでもゲートルの町に帰ろうと心配そうに言ってくれる。

「そんな非道なことをするような人たちでは・・・」

「お爺様って、私を愛していても、守る気はないよね。
 今日だって、魔術師協会の人に罵倒されても睨み付けられても、お爺様は何も抗議しなかった。ミエハール部長が止めなければ、私は殴られていたわ。
 お爺様は昔も今も、私がバカにされ見下されても、ただ見ているだで助けたことなんてないもの」

 別にお爺様と喧嘩したい訳じゃないけど、ポッパーさんが言っていたように、お爺様は中央の権力者の汚さを知らない。
 いや、私もよく知らないけど、お爺様より危機感はあるだろう。

 暫く互いに無言のまま、なんとなく気まずい空気が漂う。
 お爺様は驚いた顔から、情けない表情になって「すまなかった」と、ぽつりと言った。
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