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番外編
④ウサちゃん!-Ⅰ
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……信じられない。
この言葉を今まで何度繰り返してきただろう。それもある人限定で。
何があっても醒めた頭で物事を考えるジュードにこの台詞を吐かせることが出来るのは──幼なじみで婚約者で、そして今はジュードの妻となったこの愛しい女性だけだ。
結婚式を終えて夫婦となってからエルフリーデは住み慣れた屋敷を出てジュードが住む王城へと越してきた。そして初夜を迎えた時に使用した別邸が名実ともに二人の新居となり、そこで数名の使用人達と共に慎ましく暮らしている……ある程度は。
「ジュードっ! コレどう思う? 可愛い? 触りたい? 耳伸ばす? もふもふする?」
「……ごめん、状況が分からないんだけど」
一緒にテーブルに付いて午後のティータイムを楽しんでいたら、エルフリーデが突然席を立った。「絶対にそこから動かないでね?」と理由も教えてくれない彼女の言うことをこのとき何故素直に聞いてしまったのか……。ジュードはよく分からないまま頷いてエルフリーデが帰ってくるのを大人しく待っていた。
そうしている間もエルフリーデが消えた部屋の奥からは何やらごそごそと妖しげな音が聞こえてくる。妻がまたとんでもない行動をとるのではないかと、ジュードは落ち着いた物腰で優雅に香り立つティーカップに口を付けながら、やれやれと内心ため息を付く。
そうしてエルフリーデを待つこと数分──
勿論覚悟は決めていた。しかしエルフリーデはジュードの想像を遙かに超える、それもとんでもなく刺激的な格好で部屋の奥から出てきたのだから、言葉がなかなか出てこなかったのは正直仕方が無いと思う。
「……リー、それ何?」
エルフリーデが出てきたタイミングで飲んでいなくてよかった。口に含んでいる時にその格好で来られたら危うく吹き出すところだったと、内心冷や冷やしながらそれをおくびにも出さないジュードの切実な思いとは裏腹に、対するエルフリーデの反応は至極明るい。
「ウサちゃん!」
「うん、それは分かるんだけど……」
知りたいのはそこじゃない。というか、どうしてそこだけ言い方が幼く戻るんだ。可愛いけど……
唇を閉じたまま微笑んで口ごもるジュードが内心どれほど乱されているのかをエルフリーデは全く分かっていない。
いったい何を着ているんだと、妻の格好にジュードは酷く困惑していた。
頭には長くて白いフワフワの素材が付いたカチューシャ。お尻には同じ素材のまあるいフワフワした白い尻尾。黒い編みタイツに歩くとカツカツ音が鳴る高いヒールを履いてこちらへエルフリーデが歩いてくる。
ハイレグのきわどい衣装は両腕が剥き出しで胸元までしか布がない。谷間やお尻がギリギリの所まで見えているし。エルフリーデの大きな胸が今にも衣装からポロッと零れそうで見ていられない。
その衣装はエルフリーデの大きな胸とキュッと締まったお尻、そしてくびれた腰を強調するように身体の線に沿ってピッタリと作られている。
そう、それは以前エルフリーデがジュードに手出しさせようと企んでいたときに、メイドのマリアの前で一度だけ着用して即却下されたお蔵入りの衣装、──バニーガールの姿でエルフリーデはジュードの前に立っていた。
「何処から持ってきたの? それ」
「可愛い?」
「うん、可愛いけど……」
とんでもなく刺激的なバニーガールの格好をして、鼻歌でも歌い出しそうなくらいルンルンとご機嫌な様子のエルフリーデを眼前に、手に持つティーカップを僅かに揺らしてジュードは反応を鈍らせた。ティーカップをゆっくりとテーブルに置くと改めてエルフリーデの格好を上から下まで眺める。
「触る? もふもふする?」
「……うん」
例え酷く困惑させられる格好を何の脈絡もなく眼前に晒されて頭が事態に追い付いていなくても、その官能的な姿をした妻に触るかと聞かれて断る理由はない。
そうして返事を返したらジュードの膝上にエルフリーデがチョコンと可愛く座った。先程から触る? と何故だか楽しそうに聞いてくるのでてっきり耳を差し出してくるのかと思ったら、あろうことかエルフリーデはジュードの手を取り尻尾の方へと誘導した。
「リーって本当に……うん、まあいいや」
時折、無自覚に大胆なことをする妻の行動にジュードは頭を悩ませる。
「ジュードどうしたの? もしかしてもふもふ気持ち良くない?」
「気持ちはいいんだけどね……」
エルフリーデの形の良いお尻にくっついているまあるくて白いウサギの尻尾は、触るとふわふわしていて妙に癒される。が、そういう事じゃない。
「ジュードちょっとはドキッとした?」
ふふっとエルフリーデが嬉しそうに笑って聞いてきた。その表情は悪戯を仕掛けて成功した時の子供そのもので──どうやらジュードはエルフリーデに玩ばれていたらしい。
自覚がないから余計にたちが悪い。そう思ってたのに今回ばかりは違っていたようだ。いったい何処でそんな駆け引きを覚えてきたんだとジュードは眉を顰める。
「リー、もしかしてわざとやったの?」
「うっうん……」
少しだけ表情を硬くして聞くとエルフリーデはぴょこんと素早くジュードの膝上から下りてしまった。
声を詰まらせ短く返事を返される。それも、逃げるようにジュードの膝上から立ち上がった様子からしてわざとだということは分かった。
ジュードはそれを咎めるつもりは毛頭無い。けれどその短い返事だけではエルフリーデがあえてジュードの手をお尻の方へ誘導して反応を試すような真似をしたその真意が分からない。
考えれば考えるほど心がもやもやしてスッキリしない。妙にざわつき始めた気持ちを解消しようとジュードは率直に思ったことを口にした。
「どうして?」
「……えっ?」
「どうして僕を試したの?」
「……あ、あのっ! それは……そのぉ……」
どんなに優しく聞いてもエルフリーデは答えてくれない。寧ろまごつきながらも少しずつジュードとの距離が離れていくのは気のせいではないだろう。そろそろとゆっくり後退しながら徐々にエルフリーデはジュードから逃げ始めている。
こんな中途半端な状態で逃亡されては堪らない。逃げの一手で放置されることを恐れたジュードは仕方なく先手を打つことにした。
「きゃあっ!」
ジュードは有無を言わせずエルフリーデの手を取りその華奢な身体をグイッと自身の方へ引き寄せた。ジュードに引っ張られて勢い余って転けそうになったエルフリーデの身体をすくい上げるように抱き上げる。自身の膝上に再び乗せて懐深く抱き締める。そうしてジュードは完全にエルフリーデを腕の中に捕獲することに何とか成功した。
この言葉を今まで何度繰り返してきただろう。それもある人限定で。
何があっても醒めた頭で物事を考えるジュードにこの台詞を吐かせることが出来るのは──幼なじみで婚約者で、そして今はジュードの妻となったこの愛しい女性だけだ。
結婚式を終えて夫婦となってからエルフリーデは住み慣れた屋敷を出てジュードが住む王城へと越してきた。そして初夜を迎えた時に使用した別邸が名実ともに二人の新居となり、そこで数名の使用人達と共に慎ましく暮らしている……ある程度は。
「ジュードっ! コレどう思う? 可愛い? 触りたい? 耳伸ばす? もふもふする?」
「……ごめん、状況が分からないんだけど」
一緒にテーブルに付いて午後のティータイムを楽しんでいたら、エルフリーデが突然席を立った。「絶対にそこから動かないでね?」と理由も教えてくれない彼女の言うことをこのとき何故素直に聞いてしまったのか……。ジュードはよく分からないまま頷いてエルフリーデが帰ってくるのを大人しく待っていた。
そうしている間もエルフリーデが消えた部屋の奥からは何やらごそごそと妖しげな音が聞こえてくる。妻がまたとんでもない行動をとるのではないかと、ジュードは落ち着いた物腰で優雅に香り立つティーカップに口を付けながら、やれやれと内心ため息を付く。
そうしてエルフリーデを待つこと数分──
勿論覚悟は決めていた。しかしエルフリーデはジュードの想像を遙かに超える、それもとんでもなく刺激的な格好で部屋の奥から出てきたのだから、言葉がなかなか出てこなかったのは正直仕方が無いと思う。
「……リー、それ何?」
エルフリーデが出てきたタイミングで飲んでいなくてよかった。口に含んでいる時にその格好で来られたら危うく吹き出すところだったと、内心冷や冷やしながらそれをおくびにも出さないジュードの切実な思いとは裏腹に、対するエルフリーデの反応は至極明るい。
「ウサちゃん!」
「うん、それは分かるんだけど……」
知りたいのはそこじゃない。というか、どうしてそこだけ言い方が幼く戻るんだ。可愛いけど……
唇を閉じたまま微笑んで口ごもるジュードが内心どれほど乱されているのかをエルフリーデは全く分かっていない。
いったい何を着ているんだと、妻の格好にジュードは酷く困惑していた。
頭には長くて白いフワフワの素材が付いたカチューシャ。お尻には同じ素材のまあるいフワフワした白い尻尾。黒い編みタイツに歩くとカツカツ音が鳴る高いヒールを履いてこちらへエルフリーデが歩いてくる。
ハイレグのきわどい衣装は両腕が剥き出しで胸元までしか布がない。谷間やお尻がギリギリの所まで見えているし。エルフリーデの大きな胸が今にも衣装からポロッと零れそうで見ていられない。
その衣装はエルフリーデの大きな胸とキュッと締まったお尻、そしてくびれた腰を強調するように身体の線に沿ってピッタリと作られている。
そう、それは以前エルフリーデがジュードに手出しさせようと企んでいたときに、メイドのマリアの前で一度だけ着用して即却下されたお蔵入りの衣装、──バニーガールの姿でエルフリーデはジュードの前に立っていた。
「何処から持ってきたの? それ」
「可愛い?」
「うん、可愛いけど……」
とんでもなく刺激的なバニーガールの格好をして、鼻歌でも歌い出しそうなくらいルンルンとご機嫌な様子のエルフリーデを眼前に、手に持つティーカップを僅かに揺らしてジュードは反応を鈍らせた。ティーカップをゆっくりとテーブルに置くと改めてエルフリーデの格好を上から下まで眺める。
「触る? もふもふする?」
「……うん」
例え酷く困惑させられる格好を何の脈絡もなく眼前に晒されて頭が事態に追い付いていなくても、その官能的な姿をした妻に触るかと聞かれて断る理由はない。
そうして返事を返したらジュードの膝上にエルフリーデがチョコンと可愛く座った。先程から触る? と何故だか楽しそうに聞いてくるのでてっきり耳を差し出してくるのかと思ったら、あろうことかエルフリーデはジュードの手を取り尻尾の方へと誘導した。
「リーって本当に……うん、まあいいや」
時折、無自覚に大胆なことをする妻の行動にジュードは頭を悩ませる。
「ジュードどうしたの? もしかしてもふもふ気持ち良くない?」
「気持ちはいいんだけどね……」
エルフリーデの形の良いお尻にくっついているまあるくて白いウサギの尻尾は、触るとふわふわしていて妙に癒される。が、そういう事じゃない。
「ジュードちょっとはドキッとした?」
ふふっとエルフリーデが嬉しそうに笑って聞いてきた。その表情は悪戯を仕掛けて成功した時の子供そのもので──どうやらジュードはエルフリーデに玩ばれていたらしい。
自覚がないから余計にたちが悪い。そう思ってたのに今回ばかりは違っていたようだ。いったい何処でそんな駆け引きを覚えてきたんだとジュードは眉を顰める。
「リー、もしかしてわざとやったの?」
「うっうん……」
少しだけ表情を硬くして聞くとエルフリーデはぴょこんと素早くジュードの膝上から下りてしまった。
声を詰まらせ短く返事を返される。それも、逃げるようにジュードの膝上から立ち上がった様子からしてわざとだということは分かった。
ジュードはそれを咎めるつもりは毛頭無い。けれどその短い返事だけではエルフリーデがあえてジュードの手をお尻の方へ誘導して反応を試すような真似をしたその真意が分からない。
考えれば考えるほど心がもやもやしてスッキリしない。妙にざわつき始めた気持ちを解消しようとジュードは率直に思ったことを口にした。
「どうして?」
「……えっ?」
「どうして僕を試したの?」
「……あ、あのっ! それは……そのぉ……」
どんなに優しく聞いてもエルフリーデは答えてくれない。寧ろまごつきながらも少しずつジュードとの距離が離れていくのは気のせいではないだろう。そろそろとゆっくり後退しながら徐々にエルフリーデはジュードから逃げ始めている。
こんな中途半端な状態で逃亡されては堪らない。逃げの一手で放置されることを恐れたジュードは仕方なく先手を打つことにした。
「きゃあっ!」
ジュードは有無を言わせずエルフリーデの手を取りその華奢な身体をグイッと自身の方へ引き寄せた。ジュードに引っ張られて勢い余って転けそうになったエルフリーデの身体をすくい上げるように抱き上げる。自身の膝上に再び乗せて懐深く抱き締める。そうしてジュードは完全にエルフリーデを腕の中に捕獲することに何とか成功した。
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