ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ

カムイイムカ(神威異夢華)

文字の大きさ
18 / 57
第一章 ゲームの世界へ

第18話 みんなに分配

しおりを挟む
「ルドマン、ありがと!」

「タダではないぞ」

 近くの森から帰ってくるとルドマンさんのお店に行列が出来てる。
 行列の正体は装備を取りに来る冒険者。今、ドーシャさん達が受け取っていて、後ろにはアドラーさん達もいる。冒険者全員が来てるかも。50人くらいかな? みんなやる気があるな~。

「やあ、ランカ君」

「あ、ルガーさん」

 行列を見て思わず笑っているとルガーさんが声をかけてくる。

「俺達ももらい受けに来たんだ。冒険者は情報が速いな」

「先越されちゃいましたね」

 情報は命だからな。早い者勝ちなら冒険者には勝てそうにないな。

「まさか、生産者もレベルを上げないと強い武器が作れないとはな」

 ルガーさんがため息混じりに呟く。彼が知ったようにほとんどの人が知ることとなった。レッドが王都にも知らせているだろうから、全ての人が知ることになるだろうな。そうなると活発になるぞ、魔物狩りが。

「ルドマンはいいやつだが、金もうけを考えようとするやつが牛耳っている町は危ないかもな」

「え? 危ないって? 何がですか?」

「魔物の群れだよ」

「魔物の群れ……、そういえばそんなイベントがあったな~」

 ルガーさんと行列を見ながら話す。魔物が大挙して街にやってくるイベントだ。ゲーム内では祝い事の時にやるものだったが、現実になると大変なイベントになるだろう。命がかかっているんだからね。

「イベント? そんな楽しいもんじゃない。血で血を洗う戦いになる。幾千幾万の魔物と城壁戦だぞ」

「す、すみません……」

 軽い言葉で話してしまうとルガーさんが憤りを露わにする。兵士をしていると城壁戦で命を落としかけることも多いだろうからな。怒るのも無理はないな。

「大丈夫ですよ! 師匠がいます!」

「アスノ君。根拠になってないよ」

 話している内容が聞こえたのか。ルドマンさんの手伝いをしていたアスノ君が声をあげる。ルガーさんは笑顔で彼の頭を撫でると頷く。

「そういうことだ。危ないっていうのはな。ランカ君やルドマンがいないってことだよ」

「ああ、そういうことか」

 ルガーさんの声に納得の声をあげる。
 僕とルドマンさんがいなかったら武具が行き渡らない。そうなると耐久値の低い武具で戦わないといけなくなるわけだよな。そうなるとどんなに強い武器でも10回振れば壊れてしまうくらいの耐久値だ。幾千幾万の魔物が来るのに10回じゃ足りないよな。

「一人で武具を抱え込んで高い金で売りつける。そんな奴がいる町じゃ厳しいだろう」

 ルガーさんの声に心当たりがあるぞ。まあ、あそこは教会の本部がある町だ。魔法で何とかなると思う。

「少しでも皆さんの為になれたなら嬉しいです」

「はは、みんながランカ君のような子なら争いなど起きないんだがな」

 ガシガシと僕の頭を撫でてくるルガーさん。彼も行列に並んで武器を手に入れていく。彼の同僚の人達にも行き渡った。今の段階だとこの町の戦力が世界一かもしれないな。

「これで全部かな?」

 行列が無くなってあたりを見回す。
 誰もいないな。

「ま、待ってくれ!」

「え!? オスター?」

 松葉杖で歩くオスターが声をあげる。驚いて彼を支えてあげると切れている息を整えるように手で胸を抑える。

「ゆ、弓を作ってくれないか?」

 整った息も落ち着かないうちに口を開くオスター。よく見ると目の下にくまが出来てる。足が自由に動かなくなって悩んでいたのかもしれないな。

「よし! とっておきのものを作ってやるぞ。冒険者が集めてくれた鉄はまだまだあるからな!」

 鼻息荒く答えるルドマンさん。オスターは決意で瞳を輝かせている。大剣をあきらめて狩人でも目指すつもりなのか。

「……ランカ。大根なんて言ってすまなかったな」

「え? ああ、別に気にしてないよ」

 オスターは肩を貸す僕に謝ってくる。恥ずかしそうに顔が赤くなって頬を掻いてる。

「本当にすまなかった……こうやって力を無くしてみると言われる側の気持ちが分かる。やりたいのに決めつけてくる」

「仲間に言われたの?」

「いや、冒険者のみんなは優しいさ。でもよ、昔の俺が言ってくるんだ。『役に立たない奴は家で寝てな』ってな」

 オスターを苦しめているのは彼自身ってことか。それで眠れないほど悩んで狩人に。強い人だな。僕だったら一生家にこもってしまうよ。

「強いですね」

 思わず心で思っていたことを呟いてしまうと彼は目頭を押さえてしまう。

「つ、強くねえよ。まだな! 俺は【弓騎士】を目指す。城壁上から敵を射抜けるくらい強くなってこの街を守るんだ……」

 彼は涙声で決意を口にする。弓騎士か、狩人から派生する弓の上位職だな。大根剣士だと50でなれる職業だな。オスターならなれるだろうな、だって”昔の俺が言ってくる”と言っているように、過去とは決別しているんだから。過去の彼よりは必ず強くなれる。

「ほれ! 出来上がったぞ!」

「すまねえ! 恩に着る! 今銀貨を」

「いらねえよ。出世払いで大金貨で寄こしな」

「!? き、聞いてたのかよ。チィ! 分かったよ! 大金貨どころか白銀貨で買ってやる!」

 ルドマンさんの声に弓を受け取ると顔を真っ赤にして去っていくオスター。彼の去っていく方向に同じ弓を持っている人がいた。鉱山に助けに行ったときにゴブリンの見張り台に残った人達だな。彼らがオスターに助言したのかもな。いい仲間たちだな。

「オスターは強くなれそうかな?」

「あ! アドラーさん」

 彼らの背中を見つめているとアドラーさんが声をかけてきた。今までずっと見ていたのかな?

「忙しそうだったからな。声をかけずにいたんだ。今いいかい?」

「あ、はい」
 
 改めて了承を得るアドラーさん。外ではなんだとルドマンさんにお店に入るように促される。

「お茶しかないぞ」

 向かい合わせに椅子に座ると机にお茶が置かれていく。

「改まってどうしたんですか?」

 仰々しく感じで聞くとアドラーさんは少し考えるように視線を上下に動かす。少しすると頭を下げてきた。

「ど、どうしたんですか? 頭下げて?」

「色々考えて頭を下げることにした」

「ど、どういうことですか?」

 困惑して声をあげるけど、彼から明確な答えは出ない。アスノ君やルドマンさんと顔を見合うけどみんな検討が付かないみたいだ。

「彼は自分のやるべきことを見誤っていたと思っているんだよ。そうだろアドラー?」

「レッド?」

 困惑してると店の扉が開いてレッドが入ってきた。

「本来は私がルドマンを鍛え、武器を整えなくてはいけないと思った……」

「この通り、不器用な男だ。私はランカなら気にしないと伝えたんだけどね」

 アドラーさんの声にレッドが呆れて声を漏らした。僕が働きすぎって話かな?

「師匠は凄いから仕方ないです!」

「ははは、アスノ君はしばらく黙っているように」

「ええ!? 本当の事なのに」

 アドラーさんの声に嬉しそうにしているアスノ君。話が進まないので黙ってほしいんだけどな。

「それで頭を下げてきたんですか?」

「ああ、ギルドマスターをしていることが恥ずかしくなってしまった。本当にすまない」

 なるほど、肩書が彼の重荷になっているって感じかな。そんなこと気にしなくていいのにな。

「誰がどれだけ偉いとか関係ないですよ。みんなそれぞれ、必要なことをしているだけでしょ」

「だが」

 僕の言葉に熱心に答えようとするアドラーさん。それでも言葉が出ないみたいで僕は思わず大きなため息をつく。

「はぁ~。いいですかアドラーさん。例えば王様。王様が剣を作れますか?」

「王が剣? たぶん作れないだろう?」

「そうですよね。王様ですから剣は作れません。ではルドマンさんはどうですか?」

「つ、作れる?」

 分かりやすく話し出すと首を何度もかしげるアドラーさん。

「そうです、ルドマンさんは鍛冶屋さんなので作れますね。でも偉くないでしょ?」

「あ、ああ……」

「偉いからどんなことにも気が付いて、どんなことにもいち早く対処できる。そんなことはないんですよ。ルドマンさんは強いものが作れなくなって悩んで僕と出会って道を切り開いた。重要なのは”気付き”です。どれだけその物事に早く順応するか。分かりましたか?」

 思わず賢者の眼鏡を装着して指導してしまう。熱が入ってしまってアドラーさんが困惑してる。でも、何か気付いたみたいで自分の胸を抑えて目を瞑りだした。

「ありがとう、君の指導は胸に来たよ」

「分かってくれたんですね。よかった」

 アドラーさんは胸を抑えていた手で握手を求めてくる。それに答えると顔を赤くして店を出ていった。急に恥ずかしくなっちゃったかな?

「ふふ、ランカは人たらしだな」

 レッドがクスクスと笑いながらアドラーの座っていた椅子に座る。たらしこんだことないけどな。彼女の笑みに思わず僕も笑顔になってしまう。

「師匠は凄いから仕方ないです。だけど、一番弟子は僕ですからね」

「はいはい」

 レッドと笑い合っているとアスノ君が頬を僕の頬にぶつけてくる。弟子はアスノ君だけで十分だからとらないけどね。
しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...