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第1章 成長
第8話 兄弟
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「これで3匹目」
「俺はこれで7週目だ~。日がオレンジになってる。そろそろ夜が来るな」
ラッドと依頼をこなす中、時間はすぐに過ぎてく。夕日が落ちてきて、そろそろ町の外にいるのは危険な時間。
この世界の夜は魔物が強くなる。月の光にマナが混ざっているらしくて、魔物はそのマナの影響で強くなる。
人はそのマナの影響を受けないらしい。どういった原理なんだろう。気になるけど、今はそれどころじゃない。
ラッドとその兄弟を養わないと。っていつからそんな使命を……。でも、見捨てることはできない。これでも一姫二太郎を育て切った女なんだから。
今は5歳の美少女だけどね。
「ありがとうジュディーさん。明日もよろしくお願いします」
「ふふ、こちらこそ。また明日」
依頼の報告を済ませてラッドと共に彼らの寝床に向かう。
「へへ、これでみんなにうまいもの食わせられる。ありがとうなファム」
「ううん。こちらこそ、冒険者ギルドに案内してくれてありがと」
ラッドが嬉しそうに銅貨の入った革袋を見つめて笑う。私もお礼を言うと前を向いた。
「ん? おお、嬢ちゃん! それと悪ガキネズミ」
ラッドについて歩いているとそんな声がかけられる。ラッドが盗んだ屋台のおじさんだ。私には微笑んでくれたけど、ラッドには厳しく睨みつける。
「な、なんだよおっさん!」
「まったくお前は。まあいい、それより嬢ちゃんだ。名前を聞いてもいいか? 俺はトトってんだ」
ラッドが私を庇う様に声を荒らげるとおじさんが優しく話しかけてくる。『ファムです』と答えるとトトおじさんはニッコリと微笑んだ。
「さっきの金貨だけどな。ここら辺の悪ガキネズミの被害にあったやつらで分けたよ。流石に肉串一つの値段じゃねえからな」
「ふふ、そうですか。悪ガキネズミの」
トトおじさんの報告を聞いて思わず笑う。するとばつが悪いのかラッドが頭を掻いた。
「これですべて帳消し、とまでは行かねえけど。しばらくは静かになるだろう。知っていたか? 孤児を奴隷にして売ってしまおうとか言う話が持ち上がってたの。危なかったんだぞ」
「え!?」
トトおじさんはそう言ってラッドの頭をガシガシと撫でる。孤児は悪とされてしまったのね。それでお金に変えてしまおうと……。残酷な世界。
「しっかりと働いてるところは今日見させてもらった。俺は奴隷には反対しておく。今度からはちゃんと金を払って買ってくれよ」
「あ、うん……。ありがとうおっさん」
「おっさんじゃなくて”おじさん”な! まったく、悪ガキネズミが」
トトおじさんはなんだかんだ見守ってくれてた人だったんだ。なんだかほっこりしちゃった。店じまいをしてるみたいだけど、食べたいな~。
「あ、トトおじさん! 肉串を10本おくれ! ってこれで足りるかな? 35キットあるんだけど」
「足りないな。5本がせいぜいだな」
「じゃあ5本ください」
「あいよ! 金を払ってくれるならお客さんだ」
食べたいと思っていたらラッドが察してくれて声を上げる。
今日稼いだお金をすべて使って5本の肉串に変える。でも、肉串の一本の値段は10キット、本当は50キットだから3本しか買えない。
トトおじさんを見つめると彼は人差し指を口に当てて口止めの合図をしてくる。私は大きく頷いて15枚の銅貨を屋台に置いた。
「嬢ちゃん。カッコ悪いだろ? しまいな」
「ふふ、はい。わかりました。ありがとうございます」
肉串を焼きながらそう言ってくるトトおじさん。私は微笑んで銅貨を革袋にしまう。
気持ちのいい人。金一郎さんに似てる。人にやさしくて自分に厳しい人。
「何かあったのか?」
ラッドは気づかずに首を傾げる。私は笑いながら首を横に振った。
「兄弟って何人いるの?」
「6人だ。俺が一番上だから食わせねえと」
「「6人!?」」
私はふと何人いるのか気になって兄弟の人数を聞いた。すると驚きの答えが返ってくる。
思わずトトおじさんと顔を見合ってしまった。
「育ち盛りが7人、嬢ちゃんを合わせると8人か。5本じゃ足りねえだろ」
「明日はもっと稼ぐさ! 働けるようになったんだから大丈夫だよ!」
「いや、そうじゃなくてな。今日が……」
トトおじさんは肉を焼きながら困惑してる。知ってしまった以上は優しくしたい。だけど、自分の収入が減ってしまう。その間で迷ってる。
「トトおじさん。それなら私がお金をだすからあと3本ください」
「……あ~、わかったわかった。更に30キットで10本だ! もってけ泥棒!」
私の声に答えて彼はおおまけにまけて10本を用意してくれる。奥さんもいそうなのに大丈夫なのかな?
「こんなことなら金貨の取り分をちょろまかすんだったよ」
「す、すみません」
「あ、いや。嬢ちゃんのせいじゃねえよ。とほほ」
トトおじさんは泣きながら肉を焼いてくれる。やっぱり無理してるみたい。
でも、いい人でホッとした。この世界に来てイブリムおじさんみたいな変なおじさんと最初に会ってしまったから、この世界には優しさがないと思ってた。
王都に来て本当によかった。沢山の優しさに包まれているみたいで幸せだ。
「俺はこれで7週目だ~。日がオレンジになってる。そろそろ夜が来るな」
ラッドと依頼をこなす中、時間はすぐに過ぎてく。夕日が落ちてきて、そろそろ町の外にいるのは危険な時間。
この世界の夜は魔物が強くなる。月の光にマナが混ざっているらしくて、魔物はそのマナの影響で強くなる。
人はそのマナの影響を受けないらしい。どういった原理なんだろう。気になるけど、今はそれどころじゃない。
ラッドとその兄弟を養わないと。っていつからそんな使命を……。でも、見捨てることはできない。これでも一姫二太郎を育て切った女なんだから。
今は5歳の美少女だけどね。
「ありがとうジュディーさん。明日もよろしくお願いします」
「ふふ、こちらこそ。また明日」
依頼の報告を済ませてラッドと共に彼らの寝床に向かう。
「へへ、これでみんなにうまいもの食わせられる。ありがとうなファム」
「ううん。こちらこそ、冒険者ギルドに案内してくれてありがと」
ラッドが嬉しそうに銅貨の入った革袋を見つめて笑う。私もお礼を言うと前を向いた。
「ん? おお、嬢ちゃん! それと悪ガキネズミ」
ラッドについて歩いているとそんな声がかけられる。ラッドが盗んだ屋台のおじさんだ。私には微笑んでくれたけど、ラッドには厳しく睨みつける。
「な、なんだよおっさん!」
「まったくお前は。まあいい、それより嬢ちゃんだ。名前を聞いてもいいか? 俺はトトってんだ」
ラッドが私を庇う様に声を荒らげるとおじさんが優しく話しかけてくる。『ファムです』と答えるとトトおじさんはニッコリと微笑んだ。
「さっきの金貨だけどな。ここら辺の悪ガキネズミの被害にあったやつらで分けたよ。流石に肉串一つの値段じゃねえからな」
「ふふ、そうですか。悪ガキネズミの」
トトおじさんの報告を聞いて思わず笑う。するとばつが悪いのかラッドが頭を掻いた。
「これですべて帳消し、とまでは行かねえけど。しばらくは静かになるだろう。知っていたか? 孤児を奴隷にして売ってしまおうとか言う話が持ち上がってたの。危なかったんだぞ」
「え!?」
トトおじさんはそう言ってラッドの頭をガシガシと撫でる。孤児は悪とされてしまったのね。それでお金に変えてしまおうと……。残酷な世界。
「しっかりと働いてるところは今日見させてもらった。俺は奴隷には反対しておく。今度からはちゃんと金を払って買ってくれよ」
「あ、うん……。ありがとうおっさん」
「おっさんじゃなくて”おじさん”な! まったく、悪ガキネズミが」
トトおじさんはなんだかんだ見守ってくれてた人だったんだ。なんだかほっこりしちゃった。店じまいをしてるみたいだけど、食べたいな~。
「あ、トトおじさん! 肉串を10本おくれ! ってこれで足りるかな? 35キットあるんだけど」
「足りないな。5本がせいぜいだな」
「じゃあ5本ください」
「あいよ! 金を払ってくれるならお客さんだ」
食べたいと思っていたらラッドが察してくれて声を上げる。
今日稼いだお金をすべて使って5本の肉串に変える。でも、肉串の一本の値段は10キット、本当は50キットだから3本しか買えない。
トトおじさんを見つめると彼は人差し指を口に当てて口止めの合図をしてくる。私は大きく頷いて15枚の銅貨を屋台に置いた。
「嬢ちゃん。カッコ悪いだろ? しまいな」
「ふふ、はい。わかりました。ありがとうございます」
肉串を焼きながらそう言ってくるトトおじさん。私は微笑んで銅貨を革袋にしまう。
気持ちのいい人。金一郎さんに似てる。人にやさしくて自分に厳しい人。
「何かあったのか?」
ラッドは気づかずに首を傾げる。私は笑いながら首を横に振った。
「兄弟って何人いるの?」
「6人だ。俺が一番上だから食わせねえと」
「「6人!?」」
私はふと何人いるのか気になって兄弟の人数を聞いた。すると驚きの答えが返ってくる。
思わずトトおじさんと顔を見合ってしまった。
「育ち盛りが7人、嬢ちゃんを合わせると8人か。5本じゃ足りねえだろ」
「明日はもっと稼ぐさ! 働けるようになったんだから大丈夫だよ!」
「いや、そうじゃなくてな。今日が……」
トトおじさんは肉を焼きながら困惑してる。知ってしまった以上は優しくしたい。だけど、自分の収入が減ってしまう。その間で迷ってる。
「トトおじさん。それなら私がお金をだすからあと3本ください」
「……あ~、わかったわかった。更に30キットで10本だ! もってけ泥棒!」
私の声に答えて彼はおおまけにまけて10本を用意してくれる。奥さんもいそうなのに大丈夫なのかな?
「こんなことなら金貨の取り分をちょろまかすんだったよ」
「す、すみません」
「あ、いや。嬢ちゃんのせいじゃねえよ。とほほ」
トトおじさんは泣きながら肉を焼いてくれる。やっぱり無理してるみたい。
でも、いい人でホッとした。この世界に来てイブリムおじさんみたいな変なおじさんと最初に会ってしまったから、この世界には優しさがないと思ってた。
王都に来て本当によかった。沢山の優しさに包まれているみたいで幸せだ。
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