1 / 35
第一章 新しき世界
第1話 マモル
しおりを挟む
私の名前は湯浅真守(ユアサ マモル)。しがない45歳のサラリーマンだ。
私は今、目の前の光景が信じられなくて心の中で呟いている。現実逃避と言っても差し支えないと思います。
「……異世界? 中世ヨーロッパ?」
そうとしか思えない建物。石造りの城壁に囲まれた中に更に石造りな家々。まるで何かに怯えて作られているような街並み。
「さっきまで家の近くにいたと思ったんですけど」
この景色になる前に時は遡る。
◇
「はぁ~、14連勤をこなしました。この年になると厳しいですね~。私も年です」
会社からの帰り道、一人寂しく虚空へと言葉を投げる。代わり映えしない毎日の一つ。
「さて、朝ご飯の具材を買って帰りますか」
誰かが作ってくれることもないので毎日スーパーでお買い物。自炊しか取り柄がない私は毎日自分で作っている。偶には贅沢して外食と言うのもいいのですが最近では朝に開いているお店も少なくなってきましたしね。致し方ありません。
「ありがとうございました~」
具材を買い終わって店員に見送られる。眩しいほどの店員の若さ、少し元気をもらえたような気がします。
「おはよ~」
「おはよう。あの人のヨオチューブ見た?」
スーパーから出て、家への帰り道。学生の登校時間になったみたいですね。次々と学生とすれ違う。
「私もあんな時代があったな~」
若々しさに目を擦る。するとお腹に衝撃が走る。
「いった~。おじさん! 道の真ん中で何やってるの!」
衝撃に目を向けると小学生の少女が頭をぶつけてきていた。自分からぶつかってきたのに文句を口にしてます。
「こら! サクラ! すみません」
「あ~いえいえ。この子のいう通りですよ、こちらことすみません」
少女のお母さんかな? 謝ってくれて頭を下げてくれる。私も答えると少女が睨みつけてきた。
「お母さんは謝るけど、サクラは謝らない!」
「こら! 本当にすみません」
胸を張って言ってくるサクラちゃん。お母さんは謝ってばかり。はて、サクラちゃんは初めて見ますけど、お母さんは見たことがあるような? まあ、他人の空似ですかね。
「いいんですよ。では」
「すみません。……え?」
「「え?」」
立ち去ろうと背中を向けるとサクラちゃんとそのお母さんが光り輝く。そして二人に挟まれていた私も一緒に輝いていた。
◇
そして気がつくと、今に至る。
「これは……巻き込まれたってやつですか?」
若い社員が話していた小説のやつですね。巻き込まれて何も持たずに異世界に行ってしまうおじさんの話。私も何も持っていないのでしょうか?
「スーパーの袋。そして、日本銀行券とカード」
スーツ姿でいつもの持ち物。これは詰みでは?
「この世界の先立つ物、お金をどうにか手に入れないと。私は死にたくありませんからね」
仕事をうまく探さないと初手で死が確定してしまう。この世界の人手は足りているのでしょうか? 人手が足りないなら猫の手も借りたいお店があるはず。住所不定な私でも雇ってくれるはず。
「出店がいいかもしれません。市場を周ってみましょう」
そう思って街並みを歩く。すれ違う人はみんな私に振り返る。服がスーツだから目立つようですね。
「ミミズが張ったような文字。だけど普通に読める。ありがたいけど不思議ですね」
町を歩いているとお店の看板や値札が見える。全部知らない文字、日本語と英語を少々な私でも読めてしまう。見たことのない文字、異世界だと再確認しました。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ん、おっさん! 肉買うか?」
出店が立ち並ぶ噴水広場についた。市場と言うよりも公園と言った感じですね。出店のおっさんにおっさんと言われてしまった。
「買い物じゃないです」
「なんだよ。冷やかしかよ。買わねえならどっかいけよ。シッシ」
手で払われてしまった。ですが私は諦めません。
「働き口を探していまして」
「なんだよ。無職か。ん~そうだな。変わった服装だし、人がつくかもしれねえな。じゃあ、うちで働くか。肉焼いて客に売るだけだからだれでもできる」
「いいんですか!?」
頭を掻きながら呟くと出店のおっさんが私を雇ってくれるようです。初対面なのに雇ってくれるなんておっさんなんて言っちゃダメですね。
「いいに決まってるぜ。安く雇えるならおっさんでも歓迎だ」
「安く……」
「ん? いいんだぜ~俺はよ~。雇わなくても」
やはりおっさんみたいですね。私を安く雇うつもりみたいだ。ですが背に腹は代えられぬ。
「うそ! 嘘ですよお兄様」
「うげっ。お兄様なんてきもちわりい。俺の名前はカシムってんだ。名前で呼べ」
折角お兄様と呼んであげたのに顔を歪めるおっさんカシム。しかし、捨てる神あれば拾う神ありといいますが本当ですね。
「いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 美味しい美味しいファングディアのお肉ですよ~。はい、3本ですね~。毎度ありがとうございます」
声をあげるとすぐにお客さんがやってくる。しかし、ファングディアとはどういった動物なんでしょう。
「おいおい。素人じゃねえなマモル。頼もしいぜ」
「いえいえ、これでも社畜なので何でもできますよ」
「社畜? 意味はわからんが凄い自信だな。よし、明日からはマモル一人に任せて別の店を作るか」
カシムさんはそう言って考え込む。今日あったばかりの私に出店を任せるって、どんだけ私優秀なんでしょう。
「給料の話だけどよ。宿代が一日大銅貨2枚で泊れるから大銅貨10枚でどうだ?」
カシムさんは早速給料の話をしてくる。大銅貨とはどのくらいの価値なんでしょうか。
ファングディアの焼き肉が一本銅貨5枚、10枚で大銅貨になるようなのですが次は?
「もしや金の価値分かってないかマモル?」
「ははは、実はそうなんです」
「ん~、やっぱりそうか」
カシムさんに常識がないことがバレてしまった。結構お金に汚そうな彼にバレたのは結構危ないですかね?
「まずだ。大銅貨って言うのは銅貨の一つ上の硬貨だ。10枚で次の硬貨になるんだが銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあがる」
「ほうほう」
カシムさんは親切に教えてくれる。その間にもお客さんが来てファングディアの焼き肉を売っていく。
「ん~、マモルは結構商売上手だからな~、物怖じもしねえし……。銀貨1枚と大銅貨5枚をだそう!」
「ええ、あげてくれるんですか?」
ケチっぽいカシムさん。どうやら、私が出来る男と分かったようです。これは幸先いいですよ。
私は今、目の前の光景が信じられなくて心の中で呟いている。現実逃避と言っても差し支えないと思います。
「……異世界? 中世ヨーロッパ?」
そうとしか思えない建物。石造りの城壁に囲まれた中に更に石造りな家々。まるで何かに怯えて作られているような街並み。
「さっきまで家の近くにいたと思ったんですけど」
この景色になる前に時は遡る。
◇
「はぁ~、14連勤をこなしました。この年になると厳しいですね~。私も年です」
会社からの帰り道、一人寂しく虚空へと言葉を投げる。代わり映えしない毎日の一つ。
「さて、朝ご飯の具材を買って帰りますか」
誰かが作ってくれることもないので毎日スーパーでお買い物。自炊しか取り柄がない私は毎日自分で作っている。偶には贅沢して外食と言うのもいいのですが最近では朝に開いているお店も少なくなってきましたしね。致し方ありません。
「ありがとうございました~」
具材を買い終わって店員に見送られる。眩しいほどの店員の若さ、少し元気をもらえたような気がします。
「おはよ~」
「おはよう。あの人のヨオチューブ見た?」
スーパーから出て、家への帰り道。学生の登校時間になったみたいですね。次々と学生とすれ違う。
「私もあんな時代があったな~」
若々しさに目を擦る。するとお腹に衝撃が走る。
「いった~。おじさん! 道の真ん中で何やってるの!」
衝撃に目を向けると小学生の少女が頭をぶつけてきていた。自分からぶつかってきたのに文句を口にしてます。
「こら! サクラ! すみません」
「あ~いえいえ。この子のいう通りですよ、こちらことすみません」
少女のお母さんかな? 謝ってくれて頭を下げてくれる。私も答えると少女が睨みつけてきた。
「お母さんは謝るけど、サクラは謝らない!」
「こら! 本当にすみません」
胸を張って言ってくるサクラちゃん。お母さんは謝ってばかり。はて、サクラちゃんは初めて見ますけど、お母さんは見たことがあるような? まあ、他人の空似ですかね。
「いいんですよ。では」
「すみません。……え?」
「「え?」」
立ち去ろうと背中を向けるとサクラちゃんとそのお母さんが光り輝く。そして二人に挟まれていた私も一緒に輝いていた。
◇
そして気がつくと、今に至る。
「これは……巻き込まれたってやつですか?」
若い社員が話していた小説のやつですね。巻き込まれて何も持たずに異世界に行ってしまうおじさんの話。私も何も持っていないのでしょうか?
「スーパーの袋。そして、日本銀行券とカード」
スーツ姿でいつもの持ち物。これは詰みでは?
「この世界の先立つ物、お金をどうにか手に入れないと。私は死にたくありませんからね」
仕事をうまく探さないと初手で死が確定してしまう。この世界の人手は足りているのでしょうか? 人手が足りないなら猫の手も借りたいお店があるはず。住所不定な私でも雇ってくれるはず。
「出店がいいかもしれません。市場を周ってみましょう」
そう思って街並みを歩く。すれ違う人はみんな私に振り返る。服がスーツだから目立つようですね。
「ミミズが張ったような文字。だけど普通に読める。ありがたいけど不思議ですね」
町を歩いているとお店の看板や値札が見える。全部知らない文字、日本語と英語を少々な私でも読めてしまう。見たことのない文字、異世界だと再確認しました。
「いらっしゃい! いらっしゃい! ん、おっさん! 肉買うか?」
出店が立ち並ぶ噴水広場についた。市場と言うよりも公園と言った感じですね。出店のおっさんにおっさんと言われてしまった。
「買い物じゃないです」
「なんだよ。冷やかしかよ。買わねえならどっかいけよ。シッシ」
手で払われてしまった。ですが私は諦めません。
「働き口を探していまして」
「なんだよ。無職か。ん~そうだな。変わった服装だし、人がつくかもしれねえな。じゃあ、うちで働くか。肉焼いて客に売るだけだからだれでもできる」
「いいんですか!?」
頭を掻きながら呟くと出店のおっさんが私を雇ってくれるようです。初対面なのに雇ってくれるなんておっさんなんて言っちゃダメですね。
「いいに決まってるぜ。安く雇えるならおっさんでも歓迎だ」
「安く……」
「ん? いいんだぜ~俺はよ~。雇わなくても」
やはりおっさんみたいですね。私を安く雇うつもりみたいだ。ですが背に腹は代えられぬ。
「うそ! 嘘ですよお兄様」
「うげっ。お兄様なんてきもちわりい。俺の名前はカシムってんだ。名前で呼べ」
折角お兄様と呼んであげたのに顔を歪めるおっさんカシム。しかし、捨てる神あれば拾う神ありといいますが本当ですね。
「いらっしゃいませ! いらっしゃいませ! 美味しい美味しいファングディアのお肉ですよ~。はい、3本ですね~。毎度ありがとうございます」
声をあげるとすぐにお客さんがやってくる。しかし、ファングディアとはどういった動物なんでしょう。
「おいおい。素人じゃねえなマモル。頼もしいぜ」
「いえいえ、これでも社畜なので何でもできますよ」
「社畜? 意味はわからんが凄い自信だな。よし、明日からはマモル一人に任せて別の店を作るか」
カシムさんはそう言って考え込む。今日あったばかりの私に出店を任せるって、どんだけ私優秀なんでしょう。
「給料の話だけどよ。宿代が一日大銅貨2枚で泊れるから大銅貨10枚でどうだ?」
カシムさんは早速給料の話をしてくる。大銅貨とはどのくらいの価値なんでしょうか。
ファングディアの焼き肉が一本銅貨5枚、10枚で大銅貨になるようなのですが次は?
「もしや金の価値分かってないかマモル?」
「ははは、実はそうなんです」
「ん~、やっぱりそうか」
カシムさんに常識がないことがバレてしまった。結構お金に汚そうな彼にバレたのは結構危ないですかね?
「まずだ。大銅貨って言うのは銅貨の一つ上の硬貨だ。10枚で次の硬貨になるんだが銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨とあがる」
「ほうほう」
カシムさんは親切に教えてくれる。その間にもお客さんが来てファングディアの焼き肉を売っていく。
「ん~、マモルは結構商売上手だからな~、物怖じもしねえし……。銀貨1枚と大銅貨5枚をだそう!」
「ええ、あげてくれるんですか?」
ケチっぽいカシムさん。どうやら、私が出来る男と分かったようです。これは幸先いいですよ。
88
あなたにおすすめの小説
タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜
夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。
不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。
その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。
彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。
異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!?
*小説家になろうでも公開しております。
最強ドラゴンを生贄に召喚された俺。死霊使いで無双する!?
夢・風魔
ファンタジー
生贄となった生物の一部を吸収し、それを能力とする勇者召喚魔法。霊媒体質の御霊霊路(ミタマレイジ)は生贄となった最強のドラゴンの【残り物】を吸収し、鑑定により【死霊使い】となる。
しかし異世界で死霊使いは不吉とされ――厄介者だ――その一言でレイジは追放される。その背後には生贄となったドラゴンが憑りついていた。
ドラゴンを成仏させるべく、途中で出会った女冒険者ソディアと二人旅に出る。
次々と出会う死霊を仲間に加え(させられ)、どんどん増えていくアンデッド軍団。
アンデッド無双。そして規格外の魔力を持ち、魔法禁止令まで発動されるレイジ。
彼らの珍道中はどうなるのやら……。
*小説家になろうでも投稿しております。
*タイトルの「古代竜」というのをわかりやすく「最強ドラゴン」に変更しました。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
ラストダンジョンをクリアしたら異世界転移! バグもそのままのゲームの世界は僕に優しいようだ
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はランカ。
女の子と言われてしまう程可愛い少年。
アルステードオンラインというVRゲームにはまってラストダンジョンをクリア。
仲間たちはみんな現実世界に帰るけれど、僕は嫌いな現実には帰りたくなかった。
そんな時、アルステードオンラインの神、アルステードが僕の前に現れた
願っても叶わない異世界転移をすることになるとは思わなかったな~
【村スキル】で始まる異世界ファンタジー 目指せスローライフ!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は村田 歩(ムラタアユム)
目を覚ますとそこは石畳の町だった
異世界の中世ヨーロッパの街並み
僕はすぐにステータスを確認できるか声を上げた
案の定この世界はステータスのある世界
村スキルというもの以外は平凡なステータス
終わったと思ったら村スキルがスタートする
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる