レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)

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第二章

第44話 エリン

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「お兄ちゃん、エリン頑張ったんだよ! ほんとにほんとに頑張ったんだよ!」

「あ、ああ。エリンさんは偉いな~」

「さんなんてよしてよお兄ちゃん。あ~お兄ちゃんの匂い……。安心する」

 宿屋に帰ってきてエリンの部屋をルラさんに手配してもらったけど、僕の部屋に入ってくるエリン。リルムちゃんがずっと頬を膨らませてるけど空気を読んでくれてる。ビシャスさんも真似してるけど、自分のことは棚に上げてるのかな。

「ふんっ。急に現れて倒れただけですよねあなた。ティル様に甘えすぎですよ」

「お兄ちゃんはティルって言うんだね。孤児院にいた時は名前なんて知らなくても仲良く出来たから知らなかった」

 ビシャスさんの言葉を完全に無視して僕へと輝く瞳を向けてくる。そんな様子を見て、ビシャスさんは指さして無言で抗議してくる。まあまあ、と手で制すとまたもリルムちゃんと一緒に頬を膨らませてる。

「14歳で騎士になったのはエリンだけなんだよ。褒めて褒めて」

「ああ、褒めてるよ。だけど、そろそろ寝ようね」

「え~ヤダよ~。もっとティルお兄ちゃんとお話ししたい~」

「ダメだよ」

「ヤダヤダ~!」

 寝ようと思ったら駄々をこね始める。さっきまでのキリっとした騎士といった様子が一切なくなって完全に子供になっちゃったよ。再会を嬉しく思うのは僕も同じだけど、今は状況が状況なので眠ってもらうか。確か、魔法使いの魔法に眠らせる魔法があったはず。

「それでねそれでね~」

「エリン。【スリープ】」

「え? お兄ちゃ……ん。……」

 魔法を唱えるとエリンは僕に体を預けていく。

「ティル様は眠らせる魔法も得意なのですね。騎士の鎧には魔法を跳ね返す効果もついているはずなのに」

 ビシャスさんはそういってエリンを抱き上げる。騎士って言うだけあってなかなかいい鎧みたいだ。
 でも、魔法を跳ね返すはずなのに僕の魔法は跳ね返せなかった。強さによってそういった魔法は跳ね返せなくなるってことか。ってことは僕にはそういった守るような魔法は効かないな。良い情報を得た。

「ではこの子は私の部屋に」

「はい。お願いします」

 何とか平穏になった僕の部屋。いつも通り、リルムちゃんとスームと眠ることになった。

 次の日、起きると驚きの光景が目の前に。

「お兄ちゃん。むにゃむにゃ」

 鍵を閉めていたはずなんだけど、リルムちゃんじゃなくてエリンが隣で眠ってた。完全にストーカーだ。っていうかリルムちゃんは!?

「ティルお兄ちゃん……」

 部屋の隅で小さくなってるリルムちゃんとスーム。二人に何があったんだ?

「そのお姉ちゃんが急に入ってきて間に入ってきたと思ったら私達を突き飛ばしてきたの……」

「……」

 こんな子供にも容赦ないほど好かれてるってこと? ちょっとこれは目に余るな~。とりあえず、このままにしてリルムちゃんとスームと避難しておくか。

「おはようティル君」

「おはようございますルラさん、フラさん」

 食堂に着くと二人に迎えられる。席を見るとビシャスさんがすでにいて頬杖をついて僕らを見つめた。なんか機嫌悪そう?

「どうしたんですかビシャスさん」

「はぁ~聞いてくださいよティル様」

 声をかけると大きなため息をついて説明してくれた。
 エリンが夜中に起きたと思ったら抱き着いてきて、僕じゃないとわかるとグーで殴ってきて部屋の外へ行ったらしい。
 その後、僕の部屋に来てリルムちゃん達を追い出したってことか。
 まったく……

「はいよ。今日の朝食」

「ありがとうございますルラさん」

 朝食を運んでくれるルラさんとフラさんにお礼を言う。今日はオーク肉の腸詰めと目玉焼き。パリッと割れるタイプの腸詰め、うん旨い!

「お兄ちゃん! いないからびっくりした」

「エリン!?」

 部屋の方からエリンが僕を見つけて迫ってくる。座る僕の足に抱き着いてくる。なんでこんなに甘えん坊になっちゃったんだ? 孤児院で一緒に暮らしてた時は無口でよく指をしゃぶってたけどな。
 とにかく、今のままじゃみんなから良い目で見られない。ちょっと注意しよう。

「エリン」

「な~にお兄ちゃん」

「僕の仲間の注意を無視するのはいけないよ。ちゃんとみんなと仲良くね」

 ちゃんと目を見てエリンに告げる。みんなと仲良くしてもらわないと一緒にはいられない。これでだめならお別れだ。

「うん。わかった……。リルムちゃん、ビシャスさん。ごめんなさい」

 二人の前に行ってそう告げるエリン。深くお辞儀をしてるからちゃんと反省してるみたいだ。

「分かればいいんです」

「お兄ちゃんはみんなのお兄ちゃんなんだよ。独り占めしちゃダメ」

 反省している様子のエリンに声をかける二人。

「はい。ごめんなさい」

 いやに素直なエリン。まあ、反省してるように見えるし、許してあげよう。

「仲直りしたみたいだね。はい。朝食だよ一緒におたべ」

「あ、ありがとうございます」

 恥ずかしそうに頬を赤く染めるエリン。こうやってると普通の子なんだけどな。
 と思っていた時期も僕にはありました。
 
「お兄ちゃん。あ~んってしてあげる」

「いや、いいよそういうのは」

「「……」」

 腸詰めをフォークで刺して差し出してくるエリン。ビシャスさんとリルムちゃんからの無言の圧が凄い。

「エリンさん。ティル様の邪魔をしてはいけません」

「ビシャスさん。これは邪魔じゃなくて食事の手伝いです。貴族の方はこうやってメイドがやるものなんですよ」

 ビシャスさんが注意してくれるけど、上流階級の常識を振りかざして制す。
 そんなの僕には関係ないな。

「エリン。僕は上流階級、貴族じゃないんだ。食事は自分でやるよ。それにそのプレートの食べ物はエリンのものだよ。全部エリンが食べていいんだ」

「分かりました……。お兄ちゃんは今も優しいんだね。惚れ直しちゃった」

 頬を真っ赤にさせて告げるエリン。あんな思ったことも言えなかったような子がこんなにハッキリと言えるようになってるなんてな~。ちょっと感慨深い。
 でも、はっきりと感情を出すのはあまりよくないと思う。ビシャスさんとリルムちゃんが良い顔してないしね。二人にももっと楽しそうにして欲しいからやめてもらわないとな。
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