2 / 50
第2話 アレシアの夢
しおりを挟む
時は遡る。
アレシアの輿入れより数ヶ月前のこと。
「あれなぁに?」
「あれは?」
幼い、たどたどしい言葉で質問ばかりしているのは、まだ小さかった頃のアレシアだ。
アレシアの背後で、ほがらかに笑う女性の声がしている。
ああ、あれは懐かしい伯母様。
亡き母上の面影のある、たった1人の姉は、ランス帝国皇帝の元へと嫁いだ。
天使のように美しい姉妹。
だから2人はあっという間に天国へと旅立ってしまったのかもしれない。
アレシアは思う。
あれはいつのことだったのだろう。
懐かしくて、何度か夢に見た。
母上はすでに亡く、美しい姉妹と讃えられた母の姉はランス帝国で暮らしていた。
深い森と深い谷。大きな緑色の川が流れるリオベルデの景色とはまったく異なる、どこまでも続く緑の草原。
その景色を思い出すと、その記憶はいつも、ある少年の記憶へとつながっていく。
少年は、艶やかな黒髪が風になびいていて、悲しみを湛えた、青みがかった美しいグレーの瞳をしていた。
黒髪と対照的な明るい色の瞳がとても鮮やかで印象的だった。
* * *
アレシアは真っ白な寝具で整えられた、簡素な寝台の上で、ぱちっと目を開けた。
まるで見る人が吸い込まれるような、深い青の瞳だ。長い銀色の髪がシーツの上に広がっている。
アレシアが寝台の上に起き上がると、まるでそれを待っていたかのように、部屋の外から声がかかった。
「アレシア様、お目覚めですか?」
「ええ」
アレシアの答えを待って、扉が静かに開いた。
小柄な若い女性が微笑みながら入ってくる。アレシアの身の回りの世話をしてくれる、侍女のネティだ。
「アレシア様、おはようございます。よくお休みになれましたか?」
茶色の髪に茶色い目をしたネティは一見大人しそうだが、実際は年齢以上の落ち着きを持った、しっかり者だ。
ネティはほがらかに声をかけながら、てきぱきとアレシアを隣にある浴室へと連れて行った。洗面器にはすでに温かなお湯が用意されていて、浴室には香りのよい蒸気が満ちていた。
アレシアの衣装はけして多くない。
決まった種類の服が、必要な数だけ用意されている。
夜着は室内着兼用、生成り色の麻布で作られた、長袖、くるぶしまでの丈のシンプルな長いドレスだ。
ちなみに、同じ型、同じ素材で、漂白した麻布で作られたものは、神殿でのお務めの際に着用する。
「びっくりなさいますよ。今朝は、王宮からクルス様がお見えになっています。朝食を一緒になさるのだそうで」
「お兄様が?」
顔をお湯で洗っていたアレシアが、驚いて顔を上げる。
瞬く間に、頬がピンクに上気した。
「まあ! まあ!」
アレシアはピョンと小躍りするようにして、浴室を飛び出した。
深窓の姫君、神殿で女神に仕える姫巫女とは思えないほど、その動作は身軽で、足も早かった。
「姫様!」
ネティが慌ててアレシアの着ている普段用のドレスと同素材のガウンを抱えて、小走りに後を追った。
アレシアの輿入れより数ヶ月前のこと。
「あれなぁに?」
「あれは?」
幼い、たどたどしい言葉で質問ばかりしているのは、まだ小さかった頃のアレシアだ。
アレシアの背後で、ほがらかに笑う女性の声がしている。
ああ、あれは懐かしい伯母様。
亡き母上の面影のある、たった1人の姉は、ランス帝国皇帝の元へと嫁いだ。
天使のように美しい姉妹。
だから2人はあっという間に天国へと旅立ってしまったのかもしれない。
アレシアは思う。
あれはいつのことだったのだろう。
懐かしくて、何度か夢に見た。
母上はすでに亡く、美しい姉妹と讃えられた母の姉はランス帝国で暮らしていた。
深い森と深い谷。大きな緑色の川が流れるリオベルデの景色とはまったく異なる、どこまでも続く緑の草原。
その景色を思い出すと、その記憶はいつも、ある少年の記憶へとつながっていく。
少年は、艶やかな黒髪が風になびいていて、悲しみを湛えた、青みがかった美しいグレーの瞳をしていた。
黒髪と対照的な明るい色の瞳がとても鮮やかで印象的だった。
* * *
アレシアは真っ白な寝具で整えられた、簡素な寝台の上で、ぱちっと目を開けた。
まるで見る人が吸い込まれるような、深い青の瞳だ。長い銀色の髪がシーツの上に広がっている。
アレシアが寝台の上に起き上がると、まるでそれを待っていたかのように、部屋の外から声がかかった。
「アレシア様、お目覚めですか?」
「ええ」
アレシアの答えを待って、扉が静かに開いた。
小柄な若い女性が微笑みながら入ってくる。アレシアの身の回りの世話をしてくれる、侍女のネティだ。
「アレシア様、おはようございます。よくお休みになれましたか?」
茶色の髪に茶色い目をしたネティは一見大人しそうだが、実際は年齢以上の落ち着きを持った、しっかり者だ。
ネティはほがらかに声をかけながら、てきぱきとアレシアを隣にある浴室へと連れて行った。洗面器にはすでに温かなお湯が用意されていて、浴室には香りのよい蒸気が満ちていた。
アレシアの衣装はけして多くない。
決まった種類の服が、必要な数だけ用意されている。
夜着は室内着兼用、生成り色の麻布で作られた、長袖、くるぶしまでの丈のシンプルな長いドレスだ。
ちなみに、同じ型、同じ素材で、漂白した麻布で作られたものは、神殿でのお務めの際に着用する。
「びっくりなさいますよ。今朝は、王宮からクルス様がお見えになっています。朝食を一緒になさるのだそうで」
「お兄様が?」
顔をお湯で洗っていたアレシアが、驚いて顔を上げる。
瞬く間に、頬がピンクに上気した。
「まあ! まあ!」
アレシアはピョンと小躍りするようにして、浴室を飛び出した。
深窓の姫君、神殿で女神に仕える姫巫女とは思えないほど、その動作は身軽で、足も早かった。
「姫様!」
ネティが慌ててアレシアの着ている普段用のドレスと同素材のガウンを抱えて、小走りに後を追った。
0
あなたにおすすめの小説
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
学園では婚約者に冷遇されていますが、有能なので全く気になりません。〜学園でお山の大将されてても、王宮では私の方が有能ですから〜
織り子
恋愛
王都カラディナにある国立魔術学園では、満十六歳の生徒たちの社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが開かれていた。
侯爵令嬢タレイア・オルトランは、婚約者である第二王子アスラン・オグセリアの迎えを待つも、結局ひとりで会場へ向かうことになる。
学園では身分の差がないとはいえ、アスランが公然とタレイアを侮辱し続けてきたことで、彼女は生徒たちから冷笑と蔑視の的となっていた。しかしタレイアは、王城で政務を担ってきた聡明さと矜持を失わず、毅然と振る舞う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる