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第22話 カイルが育った農園(2)
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翌朝、目が覚めたアレシアは、ネティが運んでくれた水差しから水を使って、顔を洗った。
ネティが着替えを用意してくれる。
それは、綿の小花プリントのワンピースだった。スカートの裾からは、下に履いている白いレースのペチコートがちらりと見える。
ワンピースの上には、フリルの付いた白のエプロンを付ける。
アレシアの長い髪は、服に合わせて、ネティが三つ編みに編んでくれた。
足元には、丈夫な革の編み上げブーツが用意されていた。
外歩き用に、だろうか。ネティはワンピースとお揃いの布で作られたボンネットまで手にしていた。
「さあ、お食事に行きましょう。エミリア様から、準備ができたら台所に来るように、と言われています」
アレシアがネティを見ると、ネティも同じく綿のワンピースを着ていた。もっとも、アレシアの服と比べて、フリルなどの装飾はかなり控えめだ。
アレシアのワンピースも、ネティのワンピースも、丈はくるぶしが出る丈で、普段着ている服よりも、断然歩きやすい。
アレシアは一瞬、目を見張ったが、嬉しそうに微笑むと、勢いよく階段を駆け降りていった。
「お嬢様、よく眠れましたか?」
そんな言葉とともに、エミリアが厚手のマグカップを渡してくれる。中身はもちろん、熱々の紅茶だ。
テーブルの真ん中には大きなティーポットがあり、サラがまさに今お代わりのお茶をマグカップに注いでいるところだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶を交わしながらアレシアがテーブルに着くと、次々に料理を盛りつけたお皿が回ってくる。
カリカリに焼き上げたベーコン。
ふわふわのスクランブルエッグに両面をしっかり焼いた目玉焼き。
汁気たっぷりのソーセージ。
程よい焦げ目のついたジャガイモの炒め物。
台所中においしい匂いが漂っている。
「パンケーキは何枚?」
エミリアが黒いフライパンを片手に尋ねる。
「い、1枚でお願いします」
「このパンケーキは小さいから、2枚あげるわ」
「!!」
「アレシア様、このメープルシロップ、絶品ですよ」
サラが笑いながら、メープルシロップの入った壺を回してくれた。
「すごい量の朝食ね。すごく美味しいけれど、でもすごい量」
「農園で働いてくれる使用人達も来ますから。毎日、母は大量のお料理を作るんです。その合間に掃除も洗濯もするし、菜園の手入れもありますし。農園では仕事は山のようにありますから、エドアルドやわたしが帰省すると、もうそれは鬼のようにこき使われるんですよ」
アレシアは感心した。
「すごいわ……」
「カイル様は母の料理が大好きで。今でもお忍びで来られる度に、まあ食べるわ食べるわ。今朝ももう朝食を済ませているんですよ。そうだ! アレシア様、お料理はできますか?」
アレシアは苦笑して首を振った。
「したことないわ」
「それでは、農園にいる間に、お料理を母に習ってみませんか? 庭仕事も楽しいですけれど、結果が出るまでに時間がかかりますからね。でもお料理ならすぐ自分でも試すことができるでしょう?」
そんな成り行きで、アレシアが料理を習うことが決まったのだった。
「カイル様!」
ある朝、アレシアが母家の周りを歩いていると、馬屋の方に向かうカイルの姿を見かけた。
農園の敷地は広かった。
母家があり、納屋があり、馬屋があり、物置小屋があり、使用人が住む別棟があり、牛舎、鶏小屋、ヤギ小屋、羊小屋があり、アヒルの暮らす池もある……敷地も牛達のための牧草地、母家の周囲に作られた家庭菜園もあり、本格的な菜園や果樹園まで敷地内に造られていた。
カイルはカイルですることがあるらしく、アレシアのことは女性達に任せきり。時折、アレシアを誘って散歩をしたり、馬で遠乗りに連れて行ってはくれるが、基本的に食事時くらいしか顔を合わせることはなかった。
そのため、アレシアはカイルを見かける度に、ただ挨拶をするためだけでも、こまめに声をかけることにしていた。
「おはようございます、カイル様!」
アレシアは今日も綿の小花模様のワンピース姿だ。ドレスよりも短めの丈に、しっかりした革のブーツで、足元も安定している。
アレシアは小走りに走ってくると、カイルに追いついて挨拶をした。
カイルはアレシアのために立ち止まりながら、目を細めて、眩しそうにアレシアを見た。
「……宮殿にいるわけでもないし、そんなに礼儀を気にしないでもいい。私もそれほど愛想がある方ではないのを知っているだろう? あなたにあまり話しかけないし、お茶に誘ったり、贈り物をするわけでもない。それに、私がオブライエンに何て言っていたか、あなたも聞いたはずだ」
今朝は、カイルにしてはよく喋ってくれている。
アレシアはじっと、言われたことを考えた。
それはそうなのだ。だが、アレシアをこの農園に連れてきてくれたのもまた、紛れもなくカイルである。
元々はアレシアの思いつきからだった。カイルが育ったところを見たい。
そんな1言を真剣に考えてくれて、時間を取ってまでここに連れてきてくれた。
アレシアは滞在は1週間くらい、と聞いていた。
カイルは帝国の皇帝だ。それが簡単なことではないくらい、アレシアでも想像がつく。
「カイル様は……今でも、わたしに帝国を出ていってほしいと、思っていらっしゃいますか?」
アレシアはためらいながらも、はっきりと尋ねた。
アレシアはわかっていたのだ。
カイルは、優しい。
口ではどんなことを言っても、カイルの態度が冷たくても、見ていればわかる。
カイルの行動を見ていれば、そこにアレシアへの思いやりが隠れ見える。
「それは……今も、思っている」
カイルはそっとため息をついた。
「カイル様は、優しいです。なのに……それはどうしてですか?」
カイルはアレシアをまっすぐ見つめた。
「アレシアは、私と最初に会った時のことを覚えている?」
アレシアは首を振った。
「……だろうね。あなたは3歳だったはずだ。母君はすでに亡く、伯母であるエレオラ様が亡くなったのは、婚約してから1年後。あなたの兄上もまだ幼かっただろう。あの時のことを覚えていて、あなたに話せる人はいないはずだ。アレシア、あなたはね、私とこの農園で会ったんだよ」
「え?」
その時、風がふわっと通った。
アレシアの長い銀色の髪を結った三つ編みが風に揺れた。
「あなたが私の育った場所を見たい、と言った時、いろいろなことを話すいい機会だと思ったんだ」
カイルはアレシアの手を取ると、ゆっくりと歩き始めた。
「私の母は、前皇帝の側室だった。皇帝には5人の子供達がいたんだ。皇后のエレオラ様にはお子がいなかったので、全員、側室の子供だ。しかも母親はそれぞれ違う。それなのに、エレオラ様は、どの子に対しても、我が子のように接しておられた」
アレシアは黙って聞いていた。
「子供達の中で、私だけが宮殿で育たなかった。なぜか、皇帝が私だけを密かに乳母に預け、私はこの農園で12歳まで育ったんだ。あなたと出会った頃までには、宮殿にいた子供達はさまざまな理由で、全員死亡していた。12歳のある日、宮殿から迎えが来た。皇帝が崩御したと。皇帝位を継ぐのは私だと、宮殿に連れて行かれた」
カイルの青みがかったグレーの目が、まっすぐアレシアを見つめている。
2人の視線が合っている。これは初めてじゃないだろうか、そんなことをアレシアは思いながら、カイルの言葉に耳を傾けていた。
「アレシア、人々が何と言っていたか、わかるか? 皇家の呪い、だと。この国では、皇帝の後継者は、死ぬ。私の大切な人は全員死んだ。あなたが帝国に来たら、私の妻になったら、あなたもまた、死ぬかもしれない。だから、この国から、出て行ってほしいんだ。アレシア、私はあなたを死なせたくない」
風が、一際強く吹いた。
アレシアの髪がほどけた。1面に銀の光が散らばる。
カイルの顔に、黒髪がかぶさっていた。カイルの瞳は見えない。
美しい、青みがかった、グレーの瞳。
その瞳は静かで、落ち着いていて、感情を現すことはあまりない。
「カイル様」
アレシアが囁いた。
「カイル様、お顔を見せてください」
アレシアはそっと、その細い指で、カイルの顔にかかった髪を横に流した。
カイルの目には、涙が溢れていた。ふっと、カイルはアレシアから目を背けた。
すると、アレシアは言った。
「……わたしは、帰りません」
「え?」
「カイル様は幼い時のわたしを覚えていて、わたしを大切だと思ってくださっているのでしょう? わたしも、あなたと一緒に、呪いを解きます。わたし、これでも、神殿の姫巫女ですよ。お忘れですか?」
カイルは目を瞬いた。
「いや、それは……もちろん忘れるわけがない。しかし……」
カイルは戸惑ったように、アレシアを見つめた。
無理もない。カイルは、女神神殿で参拝者の話を聞き、一緒に祈るアレシアの姿しか知らない。
「緑の谷の姫巫女は、普通のご令嬢とは違います。今は詳しくは言えませんが。お役に立てるように、頑張りますから、協力させてください。わたしでも何かできることがあるかもしれません。だって、カイル様とわたしは……ええと、幼なじみ、と言ってもいい関係ではありませんか?」
アレシアは笑った。
無邪気で、愛らしい笑顔。なのに、どこか力強い。
緑の草原で出会った幼い女の子の姿が見えてくる。
大切な人は、全て失ったと思っていた。
なのに、ここにまだ、カイルと一緒に頑張ろう、と言う少女がいる。
カイルはまっすぐにアレシアを見つめた。
その表情が引き締まるのが、アレシアにもわかった。
長い沈黙が流れた。
「……わかった。その代わり、時には私の指示に従ってもらう必要も出てくると思う。あなたは私が守る。あなたを傷つけさせはしない」
アレシアはそっと右手を差し出した。
カイルがその手を握る。
まるで男の友人同士のように握手をして、アレシアが帝国に来て再会して以来、初めて笑い合った。
「約束」
アレシアの言葉にうなづくカイルの表情は、とても清々しかった。
ネティが着替えを用意してくれる。
それは、綿の小花プリントのワンピースだった。スカートの裾からは、下に履いている白いレースのペチコートがちらりと見える。
ワンピースの上には、フリルの付いた白のエプロンを付ける。
アレシアの長い髪は、服に合わせて、ネティが三つ編みに編んでくれた。
足元には、丈夫な革の編み上げブーツが用意されていた。
外歩き用に、だろうか。ネティはワンピースとお揃いの布で作られたボンネットまで手にしていた。
「さあ、お食事に行きましょう。エミリア様から、準備ができたら台所に来るように、と言われています」
アレシアがネティを見ると、ネティも同じく綿のワンピースを着ていた。もっとも、アレシアの服と比べて、フリルなどの装飾はかなり控えめだ。
アレシアのワンピースも、ネティのワンピースも、丈はくるぶしが出る丈で、普段着ている服よりも、断然歩きやすい。
アレシアは一瞬、目を見張ったが、嬉しそうに微笑むと、勢いよく階段を駆け降りていった。
「お嬢様、よく眠れましたか?」
そんな言葉とともに、エミリアが厚手のマグカップを渡してくれる。中身はもちろん、熱々の紅茶だ。
テーブルの真ん中には大きなティーポットがあり、サラがまさに今お代わりのお茶をマグカップに注いでいるところだ。
「おはようございます」
「おはようございます」
挨拶を交わしながらアレシアがテーブルに着くと、次々に料理を盛りつけたお皿が回ってくる。
カリカリに焼き上げたベーコン。
ふわふわのスクランブルエッグに両面をしっかり焼いた目玉焼き。
汁気たっぷりのソーセージ。
程よい焦げ目のついたジャガイモの炒め物。
台所中においしい匂いが漂っている。
「パンケーキは何枚?」
エミリアが黒いフライパンを片手に尋ねる。
「い、1枚でお願いします」
「このパンケーキは小さいから、2枚あげるわ」
「!!」
「アレシア様、このメープルシロップ、絶品ですよ」
サラが笑いながら、メープルシロップの入った壺を回してくれた。
「すごい量の朝食ね。すごく美味しいけれど、でもすごい量」
「農園で働いてくれる使用人達も来ますから。毎日、母は大量のお料理を作るんです。その合間に掃除も洗濯もするし、菜園の手入れもありますし。農園では仕事は山のようにありますから、エドアルドやわたしが帰省すると、もうそれは鬼のようにこき使われるんですよ」
アレシアは感心した。
「すごいわ……」
「カイル様は母の料理が大好きで。今でもお忍びで来られる度に、まあ食べるわ食べるわ。今朝ももう朝食を済ませているんですよ。そうだ! アレシア様、お料理はできますか?」
アレシアは苦笑して首を振った。
「したことないわ」
「それでは、農園にいる間に、お料理を母に習ってみませんか? 庭仕事も楽しいですけれど、結果が出るまでに時間がかかりますからね。でもお料理ならすぐ自分でも試すことができるでしょう?」
そんな成り行きで、アレシアが料理を習うことが決まったのだった。
「カイル様!」
ある朝、アレシアが母家の周りを歩いていると、馬屋の方に向かうカイルの姿を見かけた。
農園の敷地は広かった。
母家があり、納屋があり、馬屋があり、物置小屋があり、使用人が住む別棟があり、牛舎、鶏小屋、ヤギ小屋、羊小屋があり、アヒルの暮らす池もある……敷地も牛達のための牧草地、母家の周囲に作られた家庭菜園もあり、本格的な菜園や果樹園まで敷地内に造られていた。
カイルはカイルですることがあるらしく、アレシアのことは女性達に任せきり。時折、アレシアを誘って散歩をしたり、馬で遠乗りに連れて行ってはくれるが、基本的に食事時くらいしか顔を合わせることはなかった。
そのため、アレシアはカイルを見かける度に、ただ挨拶をするためだけでも、こまめに声をかけることにしていた。
「おはようございます、カイル様!」
アレシアは今日も綿の小花模様のワンピース姿だ。ドレスよりも短めの丈に、しっかりした革のブーツで、足元も安定している。
アレシアは小走りに走ってくると、カイルに追いついて挨拶をした。
カイルはアレシアのために立ち止まりながら、目を細めて、眩しそうにアレシアを見た。
「……宮殿にいるわけでもないし、そんなに礼儀を気にしないでもいい。私もそれほど愛想がある方ではないのを知っているだろう? あなたにあまり話しかけないし、お茶に誘ったり、贈り物をするわけでもない。それに、私がオブライエンに何て言っていたか、あなたも聞いたはずだ」
今朝は、カイルにしてはよく喋ってくれている。
アレシアはじっと、言われたことを考えた。
それはそうなのだ。だが、アレシアをこの農園に連れてきてくれたのもまた、紛れもなくカイルである。
元々はアレシアの思いつきからだった。カイルが育ったところを見たい。
そんな1言を真剣に考えてくれて、時間を取ってまでここに連れてきてくれた。
アレシアは滞在は1週間くらい、と聞いていた。
カイルは帝国の皇帝だ。それが簡単なことではないくらい、アレシアでも想像がつく。
「カイル様は……今でも、わたしに帝国を出ていってほしいと、思っていらっしゃいますか?」
アレシアはためらいながらも、はっきりと尋ねた。
アレシアはわかっていたのだ。
カイルは、優しい。
口ではどんなことを言っても、カイルの態度が冷たくても、見ていればわかる。
カイルの行動を見ていれば、そこにアレシアへの思いやりが隠れ見える。
「それは……今も、思っている」
カイルはそっとため息をついた。
「カイル様は、優しいです。なのに……それはどうしてですか?」
カイルはアレシアをまっすぐ見つめた。
「アレシアは、私と最初に会った時のことを覚えている?」
アレシアは首を振った。
「……だろうね。あなたは3歳だったはずだ。母君はすでに亡く、伯母であるエレオラ様が亡くなったのは、婚約してから1年後。あなたの兄上もまだ幼かっただろう。あの時のことを覚えていて、あなたに話せる人はいないはずだ。アレシア、あなたはね、私とこの農園で会ったんだよ」
「え?」
その時、風がふわっと通った。
アレシアの長い銀色の髪を結った三つ編みが風に揺れた。
「あなたが私の育った場所を見たい、と言った時、いろいろなことを話すいい機会だと思ったんだ」
カイルはアレシアの手を取ると、ゆっくりと歩き始めた。
「私の母は、前皇帝の側室だった。皇帝には5人の子供達がいたんだ。皇后のエレオラ様にはお子がいなかったので、全員、側室の子供だ。しかも母親はそれぞれ違う。それなのに、エレオラ様は、どの子に対しても、我が子のように接しておられた」
アレシアは黙って聞いていた。
「子供達の中で、私だけが宮殿で育たなかった。なぜか、皇帝が私だけを密かに乳母に預け、私はこの農園で12歳まで育ったんだ。あなたと出会った頃までには、宮殿にいた子供達はさまざまな理由で、全員死亡していた。12歳のある日、宮殿から迎えが来た。皇帝が崩御したと。皇帝位を継ぐのは私だと、宮殿に連れて行かれた」
カイルの青みがかったグレーの目が、まっすぐアレシアを見つめている。
2人の視線が合っている。これは初めてじゃないだろうか、そんなことをアレシアは思いながら、カイルの言葉に耳を傾けていた。
「アレシア、人々が何と言っていたか、わかるか? 皇家の呪い、だと。この国では、皇帝の後継者は、死ぬ。私の大切な人は全員死んだ。あなたが帝国に来たら、私の妻になったら、あなたもまた、死ぬかもしれない。だから、この国から、出て行ってほしいんだ。アレシア、私はあなたを死なせたくない」
風が、一際強く吹いた。
アレシアの髪がほどけた。1面に銀の光が散らばる。
カイルの顔に、黒髪がかぶさっていた。カイルの瞳は見えない。
美しい、青みがかった、グレーの瞳。
その瞳は静かで、落ち着いていて、感情を現すことはあまりない。
「カイル様」
アレシアが囁いた。
「カイル様、お顔を見せてください」
アレシアはそっと、その細い指で、カイルの顔にかかった髪を横に流した。
カイルの目には、涙が溢れていた。ふっと、カイルはアレシアから目を背けた。
すると、アレシアは言った。
「……わたしは、帰りません」
「え?」
「カイル様は幼い時のわたしを覚えていて、わたしを大切だと思ってくださっているのでしょう? わたしも、あなたと一緒に、呪いを解きます。わたし、これでも、神殿の姫巫女ですよ。お忘れですか?」
カイルは目を瞬いた。
「いや、それは……もちろん忘れるわけがない。しかし……」
カイルは戸惑ったように、アレシアを見つめた。
無理もない。カイルは、女神神殿で参拝者の話を聞き、一緒に祈るアレシアの姿しか知らない。
「緑の谷の姫巫女は、普通のご令嬢とは違います。今は詳しくは言えませんが。お役に立てるように、頑張りますから、協力させてください。わたしでも何かできることがあるかもしれません。だって、カイル様とわたしは……ええと、幼なじみ、と言ってもいい関係ではありませんか?」
アレシアは笑った。
無邪気で、愛らしい笑顔。なのに、どこか力強い。
緑の草原で出会った幼い女の子の姿が見えてくる。
大切な人は、全て失ったと思っていた。
なのに、ここにまだ、カイルと一緒に頑張ろう、と言う少女がいる。
カイルはまっすぐにアレシアを見つめた。
その表情が引き締まるのが、アレシアにもわかった。
長い沈黙が流れた。
「……わかった。その代わり、時には私の指示に従ってもらう必要も出てくると思う。あなたは私が守る。あなたを傷つけさせはしない」
アレシアはそっと右手を差し出した。
カイルがその手を握る。
まるで男の友人同士のように握手をして、アレシアが帝国に来て再会して以来、初めて笑い合った。
「約束」
アレシアの言葉にうなづくカイルの表情は、とても清々しかった。
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