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第一章 ヴォルフ・ガーナイン王国編
第2話 死との戦いと決意
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――――どれくらい歩いただろうか。俺はあてのない荒野をフラフラと彷徨っていた。
気温は何度だろう。容赦なく照り付ける太陽がジリジリと首筋を焼いていく。シャツはもう絞れるような状態だ。飲み水なんかもあるわけがない。
見渡す限り何も見えない……左には雪をかぶった巨大な山脈が連なっているだけだ。あの山脈を越えるのは無理と判断した俺は、とりあえず何の根拠もない勘を頼りに歩いている。
こっちの方角が正しいのかなんて全く分からない。
それにしても重い!!!なんなんだよこの重さは!!!
俺は空から落ちてきた石の玉を両手で抱えながら歩いている。正直しんどい。
もう限界だと石の玉を置いた俺はその場でしゃがみ込み、朦朧とした意識の中、ストレイアが話したことを思い出していた。
------------------------
「俺がこの星の生物を滅ぼすって……なんなんですかそれ!」
「…………この200年というもの、世界は戦乱の世を繰り返しています。様々な種族がいがみ合い、憎しみ合い、傷つけ合っています。
戦場に渦巻く怨み、妬み、怒り、悲しみ。そして戦場や策略で散って行った者たちの無念の魂、亡骸が、この星に溢れている大量のマナを汚して、この世界に猛毒の瘴気を生み出し始めています。
このままでは、何れこの星は生物の住めない死の星になるでしょう。そこで、本当に身勝手なお願いですが、凛人さん、あなたにこの星の者たちへ滅びの道を与えてほしいのです」
俺は拳を握り締めた。
「なんでそうなるんですか!女神なら他に何か手があるでしょう!」
間髪容れずに、被せるようにストレイアは「ありません」と強く言い放った。
「私は、この星を維持し、生命を生み出すことはできますが、直接の干渉はできないのです。それでも間接的にできる限りの行使はしました。
疫病、台風、大地震、大津波、噴火。それでも知恵ある者たちは生き延び、たくましく繁栄を続けました。そう……本当にたくましく……」
「で、でも、俺なんか死ぬのを恐れ続けてるただの臆病な一般人ですよ!?そんな重責……」
「ええ、だからこそあなたを選んだのですよ。凛人さん、まずはこの世界を広く見聞してください。そして知ってください。そうす……ば、あな……べき道が……くる……す」
「ど、どうしたんですか!?」
電波の悪い携帯電話のようにストレイアの声は途切れ始めた。
「異世界への干渉と転移に力を使い過ぎたようです。これから私はしばし眠りにつきます。次に目を覚ました時、願わ……私が……であっ…………願っ……ります」
それ以降、ストレイアとの交信は完全に途絶えた。
-----------------------
そうして、星を救うために召喚された救世主たる俺なわけだが…………
「このままじゃ俺が滅んじまうよぉ――――――!!!!!!!!あ……もう、ダメ、だ……ストレイア様……助け……て……」
残る力を振り絞って叫び、俺は力なくその場にうつぶせで倒れ込んだ。
「へへ……あん……なに、死ぬのが……怖かったのに……案外……あっけない……もんだな」
「それに……ただのサラ……リーマンに……そんなこと……無理な……話だ…………」
俺は静かに目を閉じ、40年という短い人生は幕を閉じた――――――――
「わけあるかぁぁぁ――――――――――――!!!!!!!!って……あれ?」
俺はガバっと起き上がり、あたりをキョロキョロと見渡した。
「俺、確かに……さっき」
そう、俺は確かに死んだはず……今まで体験したこともなかったあの感覚が生々しく残っている。でも俺はこうして生きている。
まさか本当に不死になったのか!?と頭をよぎったが、まだ信じ切れない自分がいた。
服はまだ汗でビシャビシャのままだ。暑さで気を失っていたと仮定しても長くて数分くらいか。
それに、なぜかリセットされたように身体は好調だ。むしろ以前より軽くも感じる。
「よ、よくわからないけど、とりあえず早くここから脱出しないと」
俺は石の玉を抱えて、再び歩き始めた。
心なしか石が軽く感じる気がするし、暑さもさっきほど気にならない。
俺はとりあえず前を向いて歩を進めた。道しるべなんてものはどこにもないし、とにかく歩くしかなかった。
――――暑さにへばることもなく俺は順調に歩き続けた。
太陽が沈んできているので7時間くらいは歩いたか。意識を取り戻したあと、なかなかのハイペースで歩いたから40キロ以上は歩いたはずだ。
遠方に複数の岩山が見える。
やっと殺風景な場所から抜けられるかもと、俺は足取り軽く駆け寄った。
そこは渓谷だった。
「うわぁ、すげえ……」
俺は日本では目にしたことがない壮大な景色に目を奪われた。辺りを見回し、ふと目線を下に向けると、少し先に渓谷にかかるつり橋を見つけた。
「あはは!橋だ!!」
俺は歓喜した。人工物があるということは、この辺りには人の往来があるということだからだ。
有頂天でつり橋へと駆け寄った俺だが、不意に聴こえたとある音にすくみ上がった。
「こ、これは狼の遠吠え!?この世界にも狼がいるのかよ」
日も沈みかけている、夜になったら非常にまずい。死ぬのが嫌なのはもちろんだが、人間として、食われて死ぬのだけは絶対に避けたい。何が何でも避けたい。
狼の狩りは主に夜間や夕暮れ、明け方に行われる。
この世界の狼にも当てはまればの話だが……
俺は躊躇なくつり橋を渡り始めた。出来がいいとは言えない粗末な造りだが、それよりも狼への恐怖の方が勝った。
渡り終えると、明らかに人の手が加わったであろう道らしきものがある。
「やっぱり!多分これ人の作った道だ、このまま進めば街とかにたどり着くかもしれない」
崖沿いの狭い道を進んでいくと、遠くの方にあるものを発見した。
「あれは……森だな、なんか変なモヤがかかってるけど。でもこのままのペースで行くと、あの森には夜に入ることになるな……どうしたものか」
そう考えながら歩いていくと、広めの岩石地帯が広がっていた。
「もう日没だしこの辺りで朝を待つしかないか。たぶん狼もあの森にいるはず。ここならたぶん大丈夫だ」
俺は少しでも居心地が良さそうな場所を探し回ったが、どこも同じか、と呟き、適当な岩の陰に腰を下ろした。
「はぁ、それにしても腹が減った……」
食べるものは何もない、もちろん狩りなんかしたこともないしサバイバル術も持っていない。
俺は自分に与えられた使命について、今は考えることをやめることにしていた。
今はまず、生きて人の住む場所にたどり着くことが先決だ。
そのことについて考えるのはその後でいい。
でも、それはそれとして問題がある。文化的に人が生きるには身銭が必要不可欠だ。
当然働かないといけないだろう。
「落ち着くまではホームレス生活か……まさか真面目に18年リーマンやってきてこんなことになるなんて思わなかったよ。会社のみんなはどうしてるかな。指示した手前、編集長も心配してるだろうなぁ」
俺には家族がいない。
9歳の時両親を事故で亡くし、俺を引き取ってくれたじいちゃんも15の時に心臓の病気で突然他界した。
それからかもしれない。俺が死というものを過度に恐れるようになったのは。俺を孤独にした死というものを。ある日突然、後ろから肩を叩いてくる存在……
「あっちでの生活は忙しすぎてこんなこと考える余裕もなかったな。忙しくて、でも充実してた。こっちでも俺はうまくやっていけるだろうか」
久しぶりに物音ひとつしない静寂な空間に、おれは様々な想いを馳せていた。
――――やがて夜になり、いつの間にか寝てしまっていた俺は、物音で目を覚ました。
本能が身体を硬直させた。
それらはすぐ目前に迫っていた。
荒い息づかいがそこかしこから聞こえてくる。
「うっまずい!囲まれた!?」
俺は慌てて石の玉を抱え上げ辺りを見回した。
逃げ場はどこにもなかった。それは狼と言うにはあまりにも大きく、銀の鬣をなびかせていた。
闘牛ほどもあろうかというそいつらは、ジリジリと距離を詰めてくる。
しかし、一定距離からは近づいてこない。何かに警戒しているようだった。
襲ってこないなら逃げられるかも。そう考えた次の瞬間、一匹が後ろから飛び掛かってきた。
かろうじて身をひるがえしたものの、鋭い爪は左腕の上腕を深く抉った。
「ぐああああああああああああっっ!!!!!」
俺は断末魔を上げ、壁によろよろともたれかかった。
「ま、マジいてぇ、どうしよう。どうしよう。殴られたこともないのに、こんな……」
現状は、壁を背にした俺を狼たちが扇状に囲んでいる。
熱い液体がドロリと大量に肘の方に滴り落ちてくる。もう、ダメかもしれない……
諦め混じりの覚悟を決めた途端、また狼たちの動きが止まった。
また何かに警戒してるような、唸り声を上げているが、一定距離から進んでこない。
も、もしかしてこの石を警戒してるのか!?
俺は震えながら石を前に突き出した。すると狼たちが後ずさりを始めた。
「やっぱりだ!この石を警戒してる!」
俺は決して背中を見せないように、石を掲げながら移動する。100メートルほど移動した時、ある異変に気付いた。
「あれ、腕の痛みがなくなってる?アドレナリンのせいか?」
これはありがたい。あの痛みではこの石を掲げながら移動するのは困難だった。
ヒリヒリとした攻防を続けながら数時間が経過した。いつまで諦めないんだよこいつら、と苛立ちを覚えながら移動していると、いつの間にか森の入り口まで来ていた。
この道沿いに木が伐採されていて広めの林道になっている。
「やっぱりだ、この森を抜ければ街か村があるかもしれない」
俺は狼たちに背を向けないように林道へと入っていった。
「あれ?」
狼たちは森の入り口を右往左往している。試しに、恐る恐る石を奴らに向けないようにしても狼たちは追ってこなかった。
「助かった……のかな?」
俺は安堵し、へたり込みたい気持ちを抑えて森の奥へと歩を進めた。しかし今は深夜の森の中、いつ別な危険が襲ってくるかわからない。
でも、恐怖も麻痺してきているのか俺は進むことに決めた。
少し進むと、俺はいつの間にか濃い霧に包まれていた。
「紫の霧とか気味悪すぎでしょ……この世界では普通なのか?」
と、その瞬間
「うっっ!!!!」
俺は突然とてつもない吐き気に襲われ嘔吐していた。
「おえええぇぇ……はぁ、はぁ、なんだ……これ!」
強烈な吐き気とともに、肺が焼けるような激痛と頭が割れそうなほどの激しい頭痛。
俺はその場でのたうち回った。
やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!!!!!
俺は這いずりながら引き返したが、入り口ではまだ奴らが虎視眈々と俺を狙い、たむろしていた。
まるで引き返すのをわかっていたように……
「な、なんで俺がこんな……目に!!!ストレイアーーーーーーーーーー!!!!!!!」
逃げ場が無くなった俺は苦しみにもがきながらこの状況を呪った。
逃れられない恐怖と激しい苦しみ、そしてぶつけどころがない怒りが断末魔の叫びに変わった。
人生で初めて誰かを恨んだかもしれない。でも、俺はこの時もう薄々気付いてたんだ。
ここに来る途中、確認したらあれだけ深く抉られた腕の傷もいつの間にか完治してた。そしてあの時、荒野で俺は死んでいたんだ。
でも俺はこうして生きている。多分、俺はここで死んでもまた生き返る。
だからこそ今決めたよ……
「俺は!絶対に滅ぼしたりなんか!しない!!!!」
這いつくばり血の涙を流しながら、俺はこの世界で二度目の死を迎えた。
気温は何度だろう。容赦なく照り付ける太陽がジリジリと首筋を焼いていく。シャツはもう絞れるような状態だ。飲み水なんかもあるわけがない。
見渡す限り何も見えない……左には雪をかぶった巨大な山脈が連なっているだけだ。あの山脈を越えるのは無理と判断した俺は、とりあえず何の根拠もない勘を頼りに歩いている。
こっちの方角が正しいのかなんて全く分からない。
それにしても重い!!!なんなんだよこの重さは!!!
俺は空から落ちてきた石の玉を両手で抱えながら歩いている。正直しんどい。
もう限界だと石の玉を置いた俺はその場でしゃがみ込み、朦朧とした意識の中、ストレイアが話したことを思い出していた。
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「俺がこの星の生物を滅ぼすって……なんなんですかそれ!」
「…………この200年というもの、世界は戦乱の世を繰り返しています。様々な種族がいがみ合い、憎しみ合い、傷つけ合っています。
戦場に渦巻く怨み、妬み、怒り、悲しみ。そして戦場や策略で散って行った者たちの無念の魂、亡骸が、この星に溢れている大量のマナを汚して、この世界に猛毒の瘴気を生み出し始めています。
このままでは、何れこの星は生物の住めない死の星になるでしょう。そこで、本当に身勝手なお願いですが、凛人さん、あなたにこの星の者たちへ滅びの道を与えてほしいのです」
俺は拳を握り締めた。
「なんでそうなるんですか!女神なら他に何か手があるでしょう!」
間髪容れずに、被せるようにストレイアは「ありません」と強く言い放った。
「私は、この星を維持し、生命を生み出すことはできますが、直接の干渉はできないのです。それでも間接的にできる限りの行使はしました。
疫病、台風、大地震、大津波、噴火。それでも知恵ある者たちは生き延び、たくましく繁栄を続けました。そう……本当にたくましく……」
「で、でも、俺なんか死ぬのを恐れ続けてるただの臆病な一般人ですよ!?そんな重責……」
「ええ、だからこそあなたを選んだのですよ。凛人さん、まずはこの世界を広く見聞してください。そして知ってください。そうす……ば、あな……べき道が……くる……す」
「ど、どうしたんですか!?」
電波の悪い携帯電話のようにストレイアの声は途切れ始めた。
「異世界への干渉と転移に力を使い過ぎたようです。これから私はしばし眠りにつきます。次に目を覚ました時、願わ……私が……であっ…………願っ……ります」
それ以降、ストレイアとの交信は完全に途絶えた。
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そうして、星を救うために召喚された救世主たる俺なわけだが…………
「このままじゃ俺が滅んじまうよぉ――――――!!!!!!!!あ……もう、ダメ、だ……ストレイア様……助け……て……」
残る力を振り絞って叫び、俺は力なくその場にうつぶせで倒れ込んだ。
「へへ……あん……なに、死ぬのが……怖かったのに……案外……あっけない……もんだな」
「それに……ただのサラ……リーマンに……そんなこと……無理な……話だ…………」
俺は静かに目を閉じ、40年という短い人生は幕を閉じた――――――――
「わけあるかぁぁぁ――――――――――――!!!!!!!!って……あれ?」
俺はガバっと起き上がり、あたりをキョロキョロと見渡した。
「俺、確かに……さっき」
そう、俺は確かに死んだはず……今まで体験したこともなかったあの感覚が生々しく残っている。でも俺はこうして生きている。
まさか本当に不死になったのか!?と頭をよぎったが、まだ信じ切れない自分がいた。
服はまだ汗でビシャビシャのままだ。暑さで気を失っていたと仮定しても長くて数分くらいか。
それに、なぜかリセットされたように身体は好調だ。むしろ以前より軽くも感じる。
「よ、よくわからないけど、とりあえず早くここから脱出しないと」
俺は石の玉を抱えて、再び歩き始めた。
心なしか石が軽く感じる気がするし、暑さもさっきほど気にならない。
俺はとりあえず前を向いて歩を進めた。道しるべなんてものはどこにもないし、とにかく歩くしかなかった。
――――暑さにへばることもなく俺は順調に歩き続けた。
太陽が沈んできているので7時間くらいは歩いたか。意識を取り戻したあと、なかなかのハイペースで歩いたから40キロ以上は歩いたはずだ。
遠方に複数の岩山が見える。
やっと殺風景な場所から抜けられるかもと、俺は足取り軽く駆け寄った。
そこは渓谷だった。
「うわぁ、すげえ……」
俺は日本では目にしたことがない壮大な景色に目を奪われた。辺りを見回し、ふと目線を下に向けると、少し先に渓谷にかかるつり橋を見つけた。
「あはは!橋だ!!」
俺は歓喜した。人工物があるということは、この辺りには人の往来があるということだからだ。
有頂天でつり橋へと駆け寄った俺だが、不意に聴こえたとある音にすくみ上がった。
「こ、これは狼の遠吠え!?この世界にも狼がいるのかよ」
日も沈みかけている、夜になったら非常にまずい。死ぬのが嫌なのはもちろんだが、人間として、食われて死ぬのだけは絶対に避けたい。何が何でも避けたい。
狼の狩りは主に夜間や夕暮れ、明け方に行われる。
この世界の狼にも当てはまればの話だが……
俺は躊躇なくつり橋を渡り始めた。出来がいいとは言えない粗末な造りだが、それよりも狼への恐怖の方が勝った。
渡り終えると、明らかに人の手が加わったであろう道らしきものがある。
「やっぱり!多分これ人の作った道だ、このまま進めば街とかにたどり着くかもしれない」
崖沿いの狭い道を進んでいくと、遠くの方にあるものを発見した。
「あれは……森だな、なんか変なモヤがかかってるけど。でもこのままのペースで行くと、あの森には夜に入ることになるな……どうしたものか」
そう考えながら歩いていくと、広めの岩石地帯が広がっていた。
「もう日没だしこの辺りで朝を待つしかないか。たぶん狼もあの森にいるはず。ここならたぶん大丈夫だ」
俺は少しでも居心地が良さそうな場所を探し回ったが、どこも同じか、と呟き、適当な岩の陰に腰を下ろした。
「はぁ、それにしても腹が減った……」
食べるものは何もない、もちろん狩りなんかしたこともないしサバイバル術も持っていない。
俺は自分に与えられた使命について、今は考えることをやめることにしていた。
今はまず、生きて人の住む場所にたどり着くことが先決だ。
そのことについて考えるのはその後でいい。
でも、それはそれとして問題がある。文化的に人が生きるには身銭が必要不可欠だ。
当然働かないといけないだろう。
「落ち着くまではホームレス生活か……まさか真面目に18年リーマンやってきてこんなことになるなんて思わなかったよ。会社のみんなはどうしてるかな。指示した手前、編集長も心配してるだろうなぁ」
俺には家族がいない。
9歳の時両親を事故で亡くし、俺を引き取ってくれたじいちゃんも15の時に心臓の病気で突然他界した。
それからかもしれない。俺が死というものを過度に恐れるようになったのは。俺を孤独にした死というものを。ある日突然、後ろから肩を叩いてくる存在……
「あっちでの生活は忙しすぎてこんなこと考える余裕もなかったな。忙しくて、でも充実してた。こっちでも俺はうまくやっていけるだろうか」
久しぶりに物音ひとつしない静寂な空間に、おれは様々な想いを馳せていた。
――――やがて夜になり、いつの間にか寝てしまっていた俺は、物音で目を覚ました。
本能が身体を硬直させた。
それらはすぐ目前に迫っていた。
荒い息づかいがそこかしこから聞こえてくる。
「うっまずい!囲まれた!?」
俺は慌てて石の玉を抱え上げ辺りを見回した。
逃げ場はどこにもなかった。それは狼と言うにはあまりにも大きく、銀の鬣をなびかせていた。
闘牛ほどもあろうかというそいつらは、ジリジリと距離を詰めてくる。
しかし、一定距離からは近づいてこない。何かに警戒しているようだった。
襲ってこないなら逃げられるかも。そう考えた次の瞬間、一匹が後ろから飛び掛かってきた。
かろうじて身をひるがえしたものの、鋭い爪は左腕の上腕を深く抉った。
「ぐああああああああああああっっ!!!!!」
俺は断末魔を上げ、壁によろよろともたれかかった。
「ま、マジいてぇ、どうしよう。どうしよう。殴られたこともないのに、こんな……」
現状は、壁を背にした俺を狼たちが扇状に囲んでいる。
熱い液体がドロリと大量に肘の方に滴り落ちてくる。もう、ダメかもしれない……
諦め混じりの覚悟を決めた途端、また狼たちの動きが止まった。
また何かに警戒してるような、唸り声を上げているが、一定距離から進んでこない。
も、もしかしてこの石を警戒してるのか!?
俺は震えながら石を前に突き出した。すると狼たちが後ずさりを始めた。
「やっぱりだ!この石を警戒してる!」
俺は決して背中を見せないように、石を掲げながら移動する。100メートルほど移動した時、ある異変に気付いた。
「あれ、腕の痛みがなくなってる?アドレナリンのせいか?」
これはありがたい。あの痛みではこの石を掲げながら移動するのは困難だった。
ヒリヒリとした攻防を続けながら数時間が経過した。いつまで諦めないんだよこいつら、と苛立ちを覚えながら移動していると、いつの間にか森の入り口まで来ていた。
この道沿いに木が伐採されていて広めの林道になっている。
「やっぱりだ、この森を抜ければ街か村があるかもしれない」
俺は狼たちに背を向けないように林道へと入っていった。
「あれ?」
狼たちは森の入り口を右往左往している。試しに、恐る恐る石を奴らに向けないようにしても狼たちは追ってこなかった。
「助かった……のかな?」
俺は安堵し、へたり込みたい気持ちを抑えて森の奥へと歩を進めた。しかし今は深夜の森の中、いつ別な危険が襲ってくるかわからない。
でも、恐怖も麻痺してきているのか俺は進むことに決めた。
少し進むと、俺はいつの間にか濃い霧に包まれていた。
「紫の霧とか気味悪すぎでしょ……この世界では普通なのか?」
と、その瞬間
「うっっ!!!!」
俺は突然とてつもない吐き気に襲われ嘔吐していた。
「おえええぇぇ……はぁ、はぁ、なんだ……これ!」
強烈な吐き気とともに、肺が焼けるような激痛と頭が割れそうなほどの激しい頭痛。
俺はその場でのたうち回った。
やばい!!やばい!!やばい!!やばい!!!!!!
俺は這いずりながら引き返したが、入り口ではまだ奴らが虎視眈々と俺を狙い、たむろしていた。
まるで引き返すのをわかっていたように……
「な、なんで俺がこんな……目に!!!ストレイアーーーーーーーーーー!!!!!!!」
逃げ場が無くなった俺は苦しみにもがきながらこの状況を呪った。
逃れられない恐怖と激しい苦しみ、そしてぶつけどころがない怒りが断末魔の叫びに変わった。
人生で初めて誰かを恨んだかもしれない。でも、俺はこの時もう薄々気付いてたんだ。
ここに来る途中、確認したらあれだけ深く抉られた腕の傷もいつの間にか完治してた。そしてあの時、荒野で俺は死んでいたんだ。
でも俺はこうして生きている。多分、俺はここで死んでもまた生き返る。
だからこそ今決めたよ……
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