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第一章 ヴォルフ・ガーナイン王国編
第4話 国境の街 エブンズダールでの悲劇
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――――朝が来た。
正直、硬くて寝心地のいいベッドではなかったが、精神的に疲れ果てていたので泥のように眠ることが出来た。エンデルさんは俺にベッドを譲って床で寝ていたので、感謝こそあれ文句は言えない。
時計がないので何時かはわからないが、俺は目覚ましをセットしなくても7時には起きていたので、たぶんそれくらいの時間だろう。
エンデルさんの姿が見当たらないので、俺より早く起きているらしい。
炊事場からいい匂いが漂ってくる。コレットが朝ご飯を作ってくれているようだ。
「おはようございます」
「リントさん、よく眠れましたか?粗末なベッドで申し訳ない」
「あ!兄ちゃんおはよう!」
食卓にはエンデル一家がみんな揃っていた。
「おはようリーヤ。とんでもないです。布団で寝られて感謝ですよ」
俺も席に着くと、コレットが朝食を運んでくれた。
スクランブルエッグとソーセージ、そしてスープか。とてもうまそうだ。
「リントさん、食事を済ませたらすぐにでも出発しましょう。もう仲間が来てますので。日が落ちる前に着きたいですからね」
「わかりました。お願いします」
足早に食事を済ませた俺たちは、村のゲートへと向かった。
村を歩いてると、エンデルさんはいろいろな人に笑顔で声をかけられていた。
エンデルさんはなかなかの人格者のようだ。
ゲート前には、武器を携えた男性が二人と、高齢の男性がいた。
「リントさん、こっちです」
エンデルさんが俺を呼ぶと、腰に剣を携えた男が笑顔で話しかけてきた。
「君がリント君か。オルボイ・ランデだ、よろしく頼むよ」
「俺はオーリス・ブラントだ。街までよろしくな」
「あ、瀬川凛人です。こちらこそよろしくお願いします」
見たところ、みんな40歳くらいのパーティだ。ベテランなんだろうか。
槍を背負ったオーリスが話しかけてきた。
「しかし、本当に見ない顔立ちだな。南の出身なんだっけ?」
「は、はい。そうです」
この世界では日本人のような黄色人種は珍しいらしい。ひょっとしたらいないのかもしれない。
だとしたら、少し考えないといけないな。もし世界中を旅してるような冒険者に会ったら、なんて説明して良いのかわからない。
70歳くらいの老人が話しかけてきた。
「マカロ村の村長、ローベルです。リーヤの件は本当にどうお礼をしたらいいのか。若者はこの村にとって何よりの宝、本当にありがとう」
「お礼だなんて、コレットちゃんの料理が食べられただけで十分です」
会話もそこそこに俺たちは村を出た。リーヤが涙ぐんでいたので、少しもらい泣きしそうになった。
俺も実際は40歳。彼くらいの子供がいても何ら不思議ではないのだ。
彼はきっといい冒険者になるだろう。なんとなくそんな予感がする。
――――3時間ほど歩いたところで、エンデルさんが小休憩しましょうと提案した。
俺たちはちょうどいい岩場の辺りに腰を下ろした。
「リントさん、疲れませんか?ちょっと旅路を急ぎ過ぎたかと思いまして。水をどうぞ」
エンデルがそう言いながら袋を渡してきた。
「ありがとうございます。ええ、問題ないです」
「さっきから気になってたんだけどさ、大事に抱えてるその石はなんだい?」
槍使いのオーリスが指をさしてきた。
「ああ、これは~、え~と……これはですね。うちの商品でして、幸運を運ぶまじないが施された石です」
ちょっと苦しいか?でも、咄嗟に思いつくのはそんな事だった。だが、みんなあっさりと納得してくれた。
何気ない会話をしていたその時、エンデルさんが指を口に当てた。
「静かに。聞こえたか?」
静まり返った空間に、ゴソゴソという音が複数聞こえ、近づいてくる。
「ストーンモールだ!9時の方向に陣形!!」
エンデルさんが叫ぶと、二人も武器を取り逆三角形の立ち位置につき構える。
魔物は土を盛り上がらせながら迫ってきた。数にして7匹くらいだ。
「姿を見せたら俺とオルボイでアタック!オーリスは後方から槍で支援だ!!打ちもらすな!リントさんは俺たちの後ろへ!」
「了解!!」
「オッケー!」
「は!はい!!」
エンデルさんとオルボイさんは土から飛び出して来る魔物を次々と斬り捨てて行った。オーリスさんは後方からリーチを活かして支援しつつ、前衛の二人をすり抜けた個体を槍で突き刺していく。見事な陣形だった。
――――あっという間に魔物は掃討され、爪などの素材回収を行っている。
なにより、目の前で繰り広げられた光景に俺は感動していた。
「す、すごいですね!みなさん!」
「なに、昇格したてとはいえ私たちもBランク冒険者チーム。ストーンモール程度に後れは取りませんよ」
エンデルさんがニコリと振り返った。
「で、その素材はどうするんですか?」
「爪や牙、毛皮はギルドに持って行くと買い取ってくれるのさ。それを商業ギルドや商人が買い取って、君たちの商品になるってわけだ。商人なのに知らないのか?」
オーリスさんがツッコんでくる。
まずいと思いながら、俺は誤魔化した。
「あ、ああそうですね。買い付けは他のものがやっていたのであまり詳しくなくて」
俺はあまりにもこの世界について無知すぎる。怪しまれない程度に少し聞いてみよう。
「あの、俺は冒険者にあまり詳しくなくて。エンデルさんたちのBランクってすごいんですか?」
「リント君、もしかして箱入りの坊ちゃんとかなのか?」
オーリスが驚いている。ちょっとまずかったか!?
「す、すみません。俺の国には冒険者がほとんどいなかったので」
口数の少なかったオルボイが説明をしてくれた。
「俺たちは中堅って所だな。Cランクは畑を食い荒らす小型の魔物退治や村の警護とかが主な仕事だが、Bランクになると貴族様や商人などの壁外護衛の仕事も任されるようになる」
続いてエンデルが口を開いた。
「一気に収入が上がるので、他の労働者よりもいい生活が出来るようになるのもBランクからです。Aランクになるとダンジョンなどに入る許可が下りるんですが、その分危険度も高くなるのでBランクを目標にして留まる冒険者も多いんです」
「なるほど!じゃあエンデルさんたちも貴族の護衛とかしてるんですね!すごい!」
「……いや」
エンデルさんの顔が曇った。聞いてはいけなかったのかな?オルボイがエンデルさんの肩に手を置いた。
「さっきの村、良い所だったでしょう」
「みんな明るくていい村でした」
「あの村は、罪人が集まってできた村なんですよ……」
ざ、罪人の村!?みんなそんな風には見えなかったし、エンデルさんだってすごくいい人だ。
信じられない……
「まあ、それも数世代前の話なんですけどね、これを見てください」
エンデルは手首を見せてきた。そこには、何か刻印のようなものが浮かび上がっていた。
「これは、刑期を終えた罪人が王都外に追放されるときに刻まれる呪印です。この印は、その子孫にも受け継がれ、10世代は消えないと言われています。だから、私のせいで一番の稼ぎになる貴族の護衛はできないんですよ、王都に入らなくても刻印持ちは貴族から嫌がられますからね……仲間にも迷惑を……」
そんな事情が……しかし、仲間の二人は笑顔だ。
「エンデル、気にするな。俺は今の生活で十分満足してるぞ」
「俺もだよ、それにこのチーム以外では冒険者をしたくないしな」
「オルボイ、オーリス……ありがとう」
オーリスが寝転んで話し始めた。
「だから俺は、早くウィザードでも仲間にしてAランク目指そうって言ってるのによ。Aランクになれば商人の護衛でも今より報酬が上がるし、一攫千金を狙えるダンジョンにも行けるしエンデルも気が楽になるだろ?」
ウィザード?魔法使いのことか!魔法あるんだ!と俺は少年のように目を輝かせた。
「だがなぁ……ウィザードは数が少ないゆえに獲得の競争率も激しい。無所属がいたとしたら登録したての若いウィザードだ。こんな中年チームに入るわけがないだろう。第七階級の見習い徒弟魔導士でも、成長を見越して有力なチームにスカウトされている」」
そう言うとエンデルさんがため息をついた。
「だよなぁ……どっかにソロの美人ウィッチでもいないかなぁ」
オーリスがそういうと、「いるわけがない」とオルボイが一蹴した。
「その、ウィザードがいないと怪我をした時も大変なんじゃないですか?」
俺がそう聞くと、エンデルさんがフフッと困った笑みを浮かべながら話し出した。
「少ないウィザードの中でも回復魔法が使えるものはさらにごくわずかなんですよ。才あるものが神聖魔法を学び習得できたとしても、多くは王都の大聖堂や星の神を信仰している神星皇国に行くものばかりでしょう。中級以上の回復魔法が使えるものは、女性なら聖女として王宮に囲われるほどです」
「そうそう、教会に入れば衣食住は寄付や高額な治療費で保障されるし。なにも危険な冒険者になる奴は少ないよな」
「確かにな……傷薬の薬草や毒消しなんかは安価で手に入りますが、回復薬のポーションは王都や都市の一般的な労働者のひと月分の給金が軽く飛びます。我々も各々一個ずつは常備してますが、そう簡単に手に入りません」
なるほど、回復が出来ないとなると、怪我=死に直結するわけか。厳しい世界だ。
さらに話を聞くと、貴族やある程度の裕福な家庭でもないと学校にも行けない人が多く、字の読み書きもできない人が多いらしい。そんな人たちは、領主に税を納めるために農奴として作物などを育てるか、墓掘り、下水、死体処理などの低賃金で命を削る底辺労働をするしかないという。
貧民や平民が逆転するには、鍛冶屋などに弟子入りして技術を磨いたりする道もあるが、それもセンスや資質を必要とし、店を持てる者、貴族や国から依頼を受けるようになれるものはごくわずか。
だから、腕に自信のある人たちは冒険者となり、ランクを上げることに夢を見ているという。
貧民、平民出身の者でも、Bランク以上の冒険者は周りからの憧れや尊敬を集める存在となる。
まさに平民にとってのアメリカン・ドリームだ。
その分、夢半ばで散っていくものも多いのが現状であり、ギルドも回復術師を募集したり色々と手を尽くしてはいるが、なかなかうまく行っていないようである。
――――日も暮れてきた。あの後、昼食のひと休憩だけして歩き続けた俺たちはエブンズダールへと辿り着いた。
「リントさん、あれがエブンズダールです。珍しく魔物ともほとんど遭遇せずに無事に着きましたね」
俺は圧倒された。見上げるほどの高い壁に囲まれた立派な城塞都市である。
規模もなかなかもので、人口も多そうだ。
「それじゃあ、街に入りましょう。Cランク以上の冒険者リングを付けている者と一緒なら通行料がタダになりますので」
街への入り口は比較的小さい。門の脇には鎧を着込んだ門兵が二人立っている。
エンデルさんはリングを門兵に見せ、行きましょうと街へ入って行った。
俺の方を見て、門兵が水晶のようなもので何やら話していたが……
「おお!すごい!」
すごい活気のある街だ、東京の人混みほどではないが、たくさんの人が往来している。
と、感動もつかの間、俺は突然兵隊に囲まれてしまった。
「な、何事ですか!!」
エンデルさんが叫ぶと、兵士はこう答えた。
「そちらの者にだけ用がある。カッセル辺境伯がお呼びです。至急屋敷までご同行願います。」
「ええええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」
俺は街に入って早々、兵士たちに拘束されてしまった。
正直、硬くて寝心地のいいベッドではなかったが、精神的に疲れ果てていたので泥のように眠ることが出来た。エンデルさんは俺にベッドを譲って床で寝ていたので、感謝こそあれ文句は言えない。
時計がないので何時かはわからないが、俺は目覚ましをセットしなくても7時には起きていたので、たぶんそれくらいの時間だろう。
エンデルさんの姿が見当たらないので、俺より早く起きているらしい。
炊事場からいい匂いが漂ってくる。コレットが朝ご飯を作ってくれているようだ。
「おはようございます」
「リントさん、よく眠れましたか?粗末なベッドで申し訳ない」
「あ!兄ちゃんおはよう!」
食卓にはエンデル一家がみんな揃っていた。
「おはようリーヤ。とんでもないです。布団で寝られて感謝ですよ」
俺も席に着くと、コレットが朝食を運んでくれた。
スクランブルエッグとソーセージ、そしてスープか。とてもうまそうだ。
「リントさん、食事を済ませたらすぐにでも出発しましょう。もう仲間が来てますので。日が落ちる前に着きたいですからね」
「わかりました。お願いします」
足早に食事を済ませた俺たちは、村のゲートへと向かった。
村を歩いてると、エンデルさんはいろいろな人に笑顔で声をかけられていた。
エンデルさんはなかなかの人格者のようだ。
ゲート前には、武器を携えた男性が二人と、高齢の男性がいた。
「リントさん、こっちです」
エンデルさんが俺を呼ぶと、腰に剣を携えた男が笑顔で話しかけてきた。
「君がリント君か。オルボイ・ランデだ、よろしく頼むよ」
「俺はオーリス・ブラントだ。街までよろしくな」
「あ、瀬川凛人です。こちらこそよろしくお願いします」
見たところ、みんな40歳くらいのパーティだ。ベテランなんだろうか。
槍を背負ったオーリスが話しかけてきた。
「しかし、本当に見ない顔立ちだな。南の出身なんだっけ?」
「は、はい。そうです」
この世界では日本人のような黄色人種は珍しいらしい。ひょっとしたらいないのかもしれない。
だとしたら、少し考えないといけないな。もし世界中を旅してるような冒険者に会ったら、なんて説明して良いのかわからない。
70歳くらいの老人が話しかけてきた。
「マカロ村の村長、ローベルです。リーヤの件は本当にどうお礼をしたらいいのか。若者はこの村にとって何よりの宝、本当にありがとう」
「お礼だなんて、コレットちゃんの料理が食べられただけで十分です」
会話もそこそこに俺たちは村を出た。リーヤが涙ぐんでいたので、少しもらい泣きしそうになった。
俺も実際は40歳。彼くらいの子供がいても何ら不思議ではないのだ。
彼はきっといい冒険者になるだろう。なんとなくそんな予感がする。
――――3時間ほど歩いたところで、エンデルさんが小休憩しましょうと提案した。
俺たちはちょうどいい岩場の辺りに腰を下ろした。
「リントさん、疲れませんか?ちょっと旅路を急ぎ過ぎたかと思いまして。水をどうぞ」
エンデルがそう言いながら袋を渡してきた。
「ありがとうございます。ええ、問題ないです」
「さっきから気になってたんだけどさ、大事に抱えてるその石はなんだい?」
槍使いのオーリスが指をさしてきた。
「ああ、これは~、え~と……これはですね。うちの商品でして、幸運を運ぶまじないが施された石です」
ちょっと苦しいか?でも、咄嗟に思いつくのはそんな事だった。だが、みんなあっさりと納得してくれた。
何気ない会話をしていたその時、エンデルさんが指を口に当てた。
「静かに。聞こえたか?」
静まり返った空間に、ゴソゴソという音が複数聞こえ、近づいてくる。
「ストーンモールだ!9時の方向に陣形!!」
エンデルさんが叫ぶと、二人も武器を取り逆三角形の立ち位置につき構える。
魔物は土を盛り上がらせながら迫ってきた。数にして7匹くらいだ。
「姿を見せたら俺とオルボイでアタック!オーリスは後方から槍で支援だ!!打ちもらすな!リントさんは俺たちの後ろへ!」
「了解!!」
「オッケー!」
「は!はい!!」
エンデルさんとオルボイさんは土から飛び出して来る魔物を次々と斬り捨てて行った。オーリスさんは後方からリーチを活かして支援しつつ、前衛の二人をすり抜けた個体を槍で突き刺していく。見事な陣形だった。
――――あっという間に魔物は掃討され、爪などの素材回収を行っている。
なにより、目の前で繰り広げられた光景に俺は感動していた。
「す、すごいですね!みなさん!」
「なに、昇格したてとはいえ私たちもBランク冒険者チーム。ストーンモール程度に後れは取りませんよ」
エンデルさんがニコリと振り返った。
「で、その素材はどうするんですか?」
「爪や牙、毛皮はギルドに持って行くと買い取ってくれるのさ。それを商業ギルドや商人が買い取って、君たちの商品になるってわけだ。商人なのに知らないのか?」
オーリスさんがツッコんでくる。
まずいと思いながら、俺は誤魔化した。
「あ、ああそうですね。買い付けは他のものがやっていたのであまり詳しくなくて」
俺はあまりにもこの世界について無知すぎる。怪しまれない程度に少し聞いてみよう。
「あの、俺は冒険者にあまり詳しくなくて。エンデルさんたちのBランクってすごいんですか?」
「リント君、もしかして箱入りの坊ちゃんとかなのか?」
オーリスが驚いている。ちょっとまずかったか!?
「す、すみません。俺の国には冒険者がほとんどいなかったので」
口数の少なかったオルボイが説明をしてくれた。
「俺たちは中堅って所だな。Cランクは畑を食い荒らす小型の魔物退治や村の警護とかが主な仕事だが、Bランクになると貴族様や商人などの壁外護衛の仕事も任されるようになる」
続いてエンデルが口を開いた。
「一気に収入が上がるので、他の労働者よりもいい生活が出来るようになるのもBランクからです。Aランクになるとダンジョンなどに入る許可が下りるんですが、その分危険度も高くなるのでBランクを目標にして留まる冒険者も多いんです」
「なるほど!じゃあエンデルさんたちも貴族の護衛とかしてるんですね!すごい!」
「……いや」
エンデルさんの顔が曇った。聞いてはいけなかったのかな?オルボイがエンデルさんの肩に手を置いた。
「さっきの村、良い所だったでしょう」
「みんな明るくていい村でした」
「あの村は、罪人が集まってできた村なんですよ……」
ざ、罪人の村!?みんなそんな風には見えなかったし、エンデルさんだってすごくいい人だ。
信じられない……
「まあ、それも数世代前の話なんですけどね、これを見てください」
エンデルは手首を見せてきた。そこには、何か刻印のようなものが浮かび上がっていた。
「これは、刑期を終えた罪人が王都外に追放されるときに刻まれる呪印です。この印は、その子孫にも受け継がれ、10世代は消えないと言われています。だから、私のせいで一番の稼ぎになる貴族の護衛はできないんですよ、王都に入らなくても刻印持ちは貴族から嫌がられますからね……仲間にも迷惑を……」
そんな事情が……しかし、仲間の二人は笑顔だ。
「エンデル、気にするな。俺は今の生活で十分満足してるぞ」
「俺もだよ、それにこのチーム以外では冒険者をしたくないしな」
「オルボイ、オーリス……ありがとう」
オーリスが寝転んで話し始めた。
「だから俺は、早くウィザードでも仲間にしてAランク目指そうって言ってるのによ。Aランクになれば商人の護衛でも今より報酬が上がるし、一攫千金を狙えるダンジョンにも行けるしエンデルも気が楽になるだろ?」
ウィザード?魔法使いのことか!魔法あるんだ!と俺は少年のように目を輝かせた。
「だがなぁ……ウィザードは数が少ないゆえに獲得の競争率も激しい。無所属がいたとしたら登録したての若いウィザードだ。こんな中年チームに入るわけがないだろう。第七階級の見習い徒弟魔導士でも、成長を見越して有力なチームにスカウトされている」」
そう言うとエンデルさんがため息をついた。
「だよなぁ……どっかにソロの美人ウィッチでもいないかなぁ」
オーリスがそういうと、「いるわけがない」とオルボイが一蹴した。
「その、ウィザードがいないと怪我をした時も大変なんじゃないですか?」
俺がそう聞くと、エンデルさんがフフッと困った笑みを浮かべながら話し出した。
「少ないウィザードの中でも回復魔法が使えるものはさらにごくわずかなんですよ。才あるものが神聖魔法を学び習得できたとしても、多くは王都の大聖堂や星の神を信仰している神星皇国に行くものばかりでしょう。中級以上の回復魔法が使えるものは、女性なら聖女として王宮に囲われるほどです」
「そうそう、教会に入れば衣食住は寄付や高額な治療費で保障されるし。なにも危険な冒険者になる奴は少ないよな」
「確かにな……傷薬の薬草や毒消しなんかは安価で手に入りますが、回復薬のポーションは王都や都市の一般的な労働者のひと月分の給金が軽く飛びます。我々も各々一個ずつは常備してますが、そう簡単に手に入りません」
なるほど、回復が出来ないとなると、怪我=死に直結するわけか。厳しい世界だ。
さらに話を聞くと、貴族やある程度の裕福な家庭でもないと学校にも行けない人が多く、字の読み書きもできない人が多いらしい。そんな人たちは、領主に税を納めるために農奴として作物などを育てるか、墓掘り、下水、死体処理などの低賃金で命を削る底辺労働をするしかないという。
貧民や平民が逆転するには、鍛冶屋などに弟子入りして技術を磨いたりする道もあるが、それもセンスや資質を必要とし、店を持てる者、貴族や国から依頼を受けるようになれるものはごくわずか。
だから、腕に自信のある人たちは冒険者となり、ランクを上げることに夢を見ているという。
貧民、平民出身の者でも、Bランク以上の冒険者は周りからの憧れや尊敬を集める存在となる。
まさに平民にとってのアメリカン・ドリームだ。
その分、夢半ばで散っていくものも多いのが現状であり、ギルドも回復術師を募集したり色々と手を尽くしてはいるが、なかなかうまく行っていないようである。
――――日も暮れてきた。あの後、昼食のひと休憩だけして歩き続けた俺たちはエブンズダールへと辿り着いた。
「リントさん、あれがエブンズダールです。珍しく魔物ともほとんど遭遇せずに無事に着きましたね」
俺は圧倒された。見上げるほどの高い壁に囲まれた立派な城塞都市である。
規模もなかなかもので、人口も多そうだ。
「それじゃあ、街に入りましょう。Cランク以上の冒険者リングを付けている者と一緒なら通行料がタダになりますので」
街への入り口は比較的小さい。門の脇には鎧を着込んだ門兵が二人立っている。
エンデルさんはリングを門兵に見せ、行きましょうと街へ入って行った。
俺の方を見て、門兵が水晶のようなもので何やら話していたが……
「おお!すごい!」
すごい活気のある街だ、東京の人混みほどではないが、たくさんの人が往来している。
と、感動もつかの間、俺は突然兵隊に囲まれてしまった。
「な、何事ですか!!」
エンデルさんが叫ぶと、兵士はこう答えた。
「そちらの者にだけ用がある。カッセル辺境伯がお呼びです。至急屋敷までご同行願います。」
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