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25.教会の実情
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「まず、聖女は大聖女の貴女、貴族令嬢の正聖女、平民の準聖女で構成されています。主に準聖女がこの病の治療にあたっております。患者から得た治療費から紹介料を抜き、聖女に給金として支払われます」
(何だか、派遣会社みたいですね……)
労働者へ大したフォローもしないのに、中抜きだけするブラックな仕組み。
「それで準聖女はどうして従っているんだ」
人差し指を頭に付けて考えているとアンディ様が尋ねた。
「……みな家族を養うために必死なのですよ。平民が得る給料に比べればいいですからね。それでも耐えられなくなって辞める者もいて、ご存じの通り人手不足です」
「……まずは正当な報酬と福利厚生を整えることからですね」
「フクリコウセイ?」
副神官長の疑問の声に慌てる。思わず前世の用語を出してしまった。
「教会の維持費は必要なので、紹介料はいただくとして、その代わりお給金を正当な値段に引き上げること、あとは休日もしっかり定めて交代制にすること、聖女が病にかかっても安心して療養できる体制を整えること……とかですかね」
「……ほう、なるほど。それならば辞めた聖女も呼び戻せるかもしれません」
副神官長が目を丸くする。
「貴族の治療院はそのままで、施設が豪華なので場所代ってことでお金はいただくとして、聖女の付きっきりは無くしましょう。回診で事足りると思います。それで王都の外れも回れますよね?」
「……その金はどうするのです?」
「教会が無くなったら困るので、もちろん維持費や神官、聖女たちのために使ってもらいますよ!」
「…………」
副神官長は何か言いたげに、でも黙ってしまった。
「副神官長、たしかハークロウ家から寄付金を送っているはずだが、何か知っているか?」
「え!?」
アンディ様の問いに副神官長が驚きを見せる。
「……どうやら神官長とリリーのところで止まっていたようだな」
「え!?」
今度は私が驚きの声を上げる。
(私が……アンディ様のご厚意を着服していたんでしょうか……?)
自分のしでかしてきたことに、いい加減泣きそうだ。
「私は副神官長といえど、しょせん神官長とリリー様には逆らえません。せめて聖女たちを守ろうとはしてきましたが、傍観していた私も同罪でしょうね…………」
眉を下げて後悔を見せるその姿に前世の自分が重なった。
「……っ! 今からでも間に合います! 副神官長様、どうか私と一緒に教会を変えてください! そして私がいなくなったあとはどうか、聖女たちを、教会を守ってください!」
立ち上がった私に副神官長は驚いた。でもその優しい眼差しを私に向けると言った。
「私のことはどうかジェイコブと」
差し出された手を取って私も笑顔になる。
「ジェイコブさん、よろしくお願いいたします」
副神官長と話を終えると、私たちはリリーの執務室へと向かった。大聖女である私の決議ならば印章を押せば正式に進められるらしい。
すぐに向かうことになり、記憶がないのでジェイコブさんに途中まで案内してもらった。
「俺もリリーの執務室に入るのは初めてだな」
「そうなんですか?」
「ああ。通されるのはいつも応接室だったからな」
アンディ様の意外な話に驚きながらも部屋の扉を開く。
「なっ……!?」
目の前に広がる光景に言葉を失った。
部屋は副神官長と同じく白を基調にしたシンプルな造りなのに、家具が金ピカで眩しい。そして銀色を主にしたデザイン違いのドレスを着たトルソーがずらりと並んでいる。
(貴族の治療院より豪華です……)
隣のアンディ様も驚いて立ち尽くしている。
(うう……リリーってば派手好きなんですね)
グランジュ家のリリーの部屋は上品で、でもやっぱり高そうな調度品で揃えられていた。派手なドレスや宝石が多く取り揃えられ、そんなに必要かと驚いたほどだ。
(大聖女用のドレス……ですよね? うう、ここにもこんなに……)
リリーの浪費に頭が痛い。
準聖女たちには何の見返りも与えず、自分だけ贅沢をしてきたのだ。
「リリー、君の印章がどこかにあるはずだ」
「は、はいっ!」
落ち込む私にアンディ様が声をかける。
(そうです、今はこのおかしな体制を変えるのが先です!)
執務机に寄り、何個かある引き出しを開けていく。
「ありませんね……」
アンディ様と手分けするも、それらしい物が見当たらない。
「ここだけ鍵がかかっているな」
「鍵?」
アンディ様が一番下の引き出しに手をかけて言った。
「じゃあ、鍵を探さないとですね……」
「いや、必要ない」
人差し指を頭に付けて困っていると、アンディ様が私の手を取った。
急に手を握られ心臓が跳ねる。
「聖魔法で封印がされている。ここに手をかざせば開くはずだ」
「そ、そんなこともできるんですね⁉」
変に意識した自分が恥ずかしい。
アンディ様に寄せられた場所へと手をかざす。
白い光が灯り、カチリという音がする。
「開いたな」
アンディ様の声にごくりと喉を鳴らして引き出しの取っ掛かりに手をかける。
カラカラと音を立てながらその引き出しを開けると、一番目の付くところに印章があった。
「アンディ様、ありました!」
「そうか。しかし印章を押すにもリリーの聖魔法を流す。印章だけあっても他の者には使用できないのに、やけに厳重だな」
顎に手をやり考え込むアンディ様を横目に引き出しに視線を戻す。
印章の下にはびっしりと紙が収められている。
(何でしょう?)
無造作にそのうちの一枚を抜き出してみる。
「ア、アンディ様……っ!」
張り詰めた私の声にアンディ様は何事かと駆け寄った。
(何だか、派遣会社みたいですね……)
労働者へ大したフォローもしないのに、中抜きだけするブラックな仕組み。
「それで準聖女はどうして従っているんだ」
人差し指を頭に付けて考えているとアンディ様が尋ねた。
「……みな家族を養うために必死なのですよ。平民が得る給料に比べればいいですからね。それでも耐えられなくなって辞める者もいて、ご存じの通り人手不足です」
「……まずは正当な報酬と福利厚生を整えることからですね」
「フクリコウセイ?」
副神官長の疑問の声に慌てる。思わず前世の用語を出してしまった。
「教会の維持費は必要なので、紹介料はいただくとして、その代わりお給金を正当な値段に引き上げること、あとは休日もしっかり定めて交代制にすること、聖女が病にかかっても安心して療養できる体制を整えること……とかですかね」
「……ほう、なるほど。それならば辞めた聖女も呼び戻せるかもしれません」
副神官長が目を丸くする。
「貴族の治療院はそのままで、施設が豪華なので場所代ってことでお金はいただくとして、聖女の付きっきりは無くしましょう。回診で事足りると思います。それで王都の外れも回れますよね?」
「……その金はどうするのです?」
「教会が無くなったら困るので、もちろん維持費や神官、聖女たちのために使ってもらいますよ!」
「…………」
副神官長は何か言いたげに、でも黙ってしまった。
「副神官長、たしかハークロウ家から寄付金を送っているはずだが、何か知っているか?」
「え!?」
アンディ様の問いに副神官長が驚きを見せる。
「……どうやら神官長とリリーのところで止まっていたようだな」
「え!?」
今度は私が驚きの声を上げる。
(私が……アンディ様のご厚意を着服していたんでしょうか……?)
自分のしでかしてきたことに、いい加減泣きそうだ。
「私は副神官長といえど、しょせん神官長とリリー様には逆らえません。せめて聖女たちを守ろうとはしてきましたが、傍観していた私も同罪でしょうね…………」
眉を下げて後悔を見せるその姿に前世の自分が重なった。
「……っ! 今からでも間に合います! 副神官長様、どうか私と一緒に教会を変えてください! そして私がいなくなったあとはどうか、聖女たちを、教会を守ってください!」
立ち上がった私に副神官長は驚いた。でもその優しい眼差しを私に向けると言った。
「私のことはどうかジェイコブと」
差し出された手を取って私も笑顔になる。
「ジェイコブさん、よろしくお願いいたします」
副神官長と話を終えると、私たちはリリーの執務室へと向かった。大聖女である私の決議ならば印章を押せば正式に進められるらしい。
すぐに向かうことになり、記憶がないのでジェイコブさんに途中まで案内してもらった。
「俺もリリーの執務室に入るのは初めてだな」
「そうなんですか?」
「ああ。通されるのはいつも応接室だったからな」
アンディ様の意外な話に驚きながらも部屋の扉を開く。
「なっ……!?」
目の前に広がる光景に言葉を失った。
部屋は副神官長と同じく白を基調にしたシンプルな造りなのに、家具が金ピカで眩しい。そして銀色を主にしたデザイン違いのドレスを着たトルソーがずらりと並んでいる。
(貴族の治療院より豪華です……)
隣のアンディ様も驚いて立ち尽くしている。
(うう……リリーってば派手好きなんですね)
グランジュ家のリリーの部屋は上品で、でもやっぱり高そうな調度品で揃えられていた。派手なドレスや宝石が多く取り揃えられ、そんなに必要かと驚いたほどだ。
(大聖女用のドレス……ですよね? うう、ここにもこんなに……)
リリーの浪費に頭が痛い。
準聖女たちには何の見返りも与えず、自分だけ贅沢をしてきたのだ。
「リリー、君の印章がどこかにあるはずだ」
「は、はいっ!」
落ち込む私にアンディ様が声をかける。
(そうです、今はこのおかしな体制を変えるのが先です!)
執務机に寄り、何個かある引き出しを開けていく。
「ありませんね……」
アンディ様と手分けするも、それらしい物が見当たらない。
「ここだけ鍵がかかっているな」
「鍵?」
アンディ様が一番下の引き出しに手をかけて言った。
「じゃあ、鍵を探さないとですね……」
「いや、必要ない」
人差し指を頭に付けて困っていると、アンディ様が私の手を取った。
急に手を握られ心臓が跳ねる。
「聖魔法で封印がされている。ここに手をかざせば開くはずだ」
「そ、そんなこともできるんですね⁉」
変に意識した自分が恥ずかしい。
アンディ様に寄せられた場所へと手をかざす。
白い光が灯り、カチリという音がする。
「開いたな」
アンディ様の声にごくりと喉を鳴らして引き出しの取っ掛かりに手をかける。
カラカラと音を立てながらその引き出しを開けると、一番目の付くところに印章があった。
「アンディ様、ありました!」
「そうか。しかし印章を押すにもリリーの聖魔法を流す。印章だけあっても他の者には使用できないのに、やけに厳重だな」
顎に手をやり考え込むアンディ様を横目に引き出しに視線を戻す。
印章の下にはびっしりと紙が収められている。
(何でしょう?)
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