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26.着服と疑い
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がくがくとその場に腰をつき、震えた。
「リリー⁉ どうした!」
駆け寄ったアンディ様が背中を支えてくれる。
私は震えながらも引き出しを指差した。
「? …………これは⁉」
一枚一枚紙を引き出し、アンディ様が驚愕する。
私が見たのは、実際に教会に入っているお金の流れと、王家に提出する報告書に実際に書かれた数字が並んだ物だった。
(リリーは本当に教会のお金を着服して……)
アンディ様が次々に引き出している紙にも、中抜きしている証拠が並んでいる。合わせてそのお金で散財していたドレスや宝石の領収書も出てきた。
(まさか……)
部屋の奥にあるクローゼットにふらふらと近付くと、そこにも封印がしてあり、私が手をかざすことで開いた。
(やっぱり……)
クローゼットの中には聖女用以外のドレスや宝石、アクセサリーがずらりと並んでいた。
「リリー」
アンディ様の呼びかけにびくりと肩が揺れる。
自分のしでかした大きな罪にいまさらながら恐ろしくなる。
(アンディ様はせっかく今の私を認めてくれていましたのに……)
彼に軽蔑の目を向けられるのが耐えられなかった。
目覚めたときの関係に戻るのが怖かった。
「リリー」
「も、申し訳……」
言葉を絞り出そうとして涙が出てきた。
(泣いて済まされることではありません……)
それなのに涙が止まらない。
縮こまる私をアンディ様が後ろから優しく抱きしめた。
「……アンディ様?」
「なぜ泣いているんだ」
「だって……私はこんな大罪を」
「君がしてきたことは消えない。でも、変えることはできる。君にしかできないことだ」
私を落ち着かせるように低く優しい声が響く。
その声色に安心して、ぽろりと不安が口から出る。
「またアンディ様に失望されたかと……」
「……バカだな。今の君は昔の君じゃない」
ぎゅっと言葉とともに強く抱きしめられる。
「それで泣いていたのか?」
くるりと体を彼のほうへ向かされる。
恥ずかしくて顔を俯けば、人差し指で涙を拭われた。
「最近の君は泣き虫だ。でも俺のために泣いていたのだと思うと……」
「アンデイ様?」
彼の顔が迫り、唇が付きそうな距離に思わず目をつぶった。
「……っ!」
アンディ様は私の肩に置いていた手を一瞬揺らすと、頬に口付けをし、そのまま唇で涙を拭ってくれた。
(アンディ様はやっぱりキス魔です)
見つめるアッシュグレーの瞳は何だかバツが悪そうにしている。
(アンディ様は新しい婚約者にもキス……するのでしょうか)
そんなことを考えてますます泣きそうになった。
「……アンディ様、これで証拠は揃いましたので私を捕まえられますよね」
教会のお金を王家に偽って着服していたのだ。
私が出頭するしないはもう関係ない。でも。
「どうか、教会を変える猶予をください。外れの治療院も見届けたいですし……」
「……君は本当にバカだな」
逞しい腕の中へと身体を収められる。
「最後まで見届けると約束しただろう?」
「はい……」
きっとアンディ様とのお別れの日は近い。
それでも、最後まで私に付き合ってくれるという彼に心から感謝した。
「じゃあ、この書類はアンディ様にお預けしておきますね」
「ああ……」
そっと身体を離した私は引き出しを指差した。
アンディ様の元にあったほうが安心だ。
ごっそりと紙を引き上げると、下が隠し棚になっているのに気付く。
(何でしょう?)
仕切りを取り外すと、装丁の綺麗な本が出てきた。
「どうした?」
アンディ様が後ろから覗き込む。
私はその本をめくる。
「これは――」
それは本ではなく、力強い筆跡でびっしりと書かれた計画書だった。
「魔物討伐による病を流行らせる……教会国家計画⁉」
アンディ様と目を合わせる。またとんでもない物が出てきた。
そこには、流行り病の病原菌が冬に活発になるある魔物から伝染すること、教会のスパイである聖騎士がわざと罹り、人々に感染させていき、罹患者が増えたタイミングで式典を開き、感染を爆発させるといった計画が書かれていた。
「こんな……」
神殿の主要人物にはあらかじめ浄化魔法をかけてあり、感染の恐れはないこと、それによって教会を神格化しお金を集め力をつけ、王家からこの国を簒奪しようという。――――この計画は国家反逆罪だ。
「わた……私、投獄で済みませんよね……きょ、極刑とか……」
ガクガクと震える私の身体をアンディ様がまた抱きしめてくれた。
「大丈夫だリリー。君がどの程度関わっていたのかまだわからない」
「でも、この計画書……」
「これはリリーの字ではない。おそらく、神官長のものだろう」
抱きしめる腕に力を入れ、アンディ様が続ける。
「君は一応大聖女で侯爵令嬢だ。極刑にはならない。もしそうなりそうになっても、俺がさせない」
力強い彼の言葉に涙が溢れる。
「アンディ様ありがとうございます」
「これも俺が預かっておこう」
アンディ様が私を抱きしめたまま計画書を受け取る。
「⁉」
パラパラとそれをめくっていたアンディ様の手が止まった。
目をやると、聖騎士団のことが書かれているページだった。
「ルート⁉」
そこに書かれていた名前にアンディ様は驚きの表情を見せた。
「そうか……どうやら本当に聖騎士団には教会に通じている者がいたらしい」
「リリー⁉ どうした!」
駆け寄ったアンディ様が背中を支えてくれる。
私は震えながらも引き出しを指差した。
「? …………これは⁉」
一枚一枚紙を引き出し、アンディ様が驚愕する。
私が見たのは、実際に教会に入っているお金の流れと、王家に提出する報告書に実際に書かれた数字が並んだ物だった。
(リリーは本当に教会のお金を着服して……)
アンディ様が次々に引き出している紙にも、中抜きしている証拠が並んでいる。合わせてそのお金で散財していたドレスや宝石の領収書も出てきた。
(まさか……)
部屋の奥にあるクローゼットにふらふらと近付くと、そこにも封印がしてあり、私が手をかざすことで開いた。
(やっぱり……)
クローゼットの中には聖女用以外のドレスや宝石、アクセサリーがずらりと並んでいた。
「リリー」
アンディ様の呼びかけにびくりと肩が揺れる。
自分のしでかした大きな罪にいまさらながら恐ろしくなる。
(アンディ様はせっかく今の私を認めてくれていましたのに……)
彼に軽蔑の目を向けられるのが耐えられなかった。
目覚めたときの関係に戻るのが怖かった。
「リリー」
「も、申し訳……」
言葉を絞り出そうとして涙が出てきた。
(泣いて済まされることではありません……)
それなのに涙が止まらない。
縮こまる私をアンディ様が後ろから優しく抱きしめた。
「……アンディ様?」
「なぜ泣いているんだ」
「だって……私はこんな大罪を」
「君がしてきたことは消えない。でも、変えることはできる。君にしかできないことだ」
私を落ち着かせるように低く優しい声が響く。
その声色に安心して、ぽろりと不安が口から出る。
「またアンディ様に失望されたかと……」
「……バカだな。今の君は昔の君じゃない」
ぎゅっと言葉とともに強く抱きしめられる。
「それで泣いていたのか?」
くるりと体を彼のほうへ向かされる。
恥ずかしくて顔を俯けば、人差し指で涙を拭われた。
「最近の君は泣き虫だ。でも俺のために泣いていたのだと思うと……」
「アンデイ様?」
彼の顔が迫り、唇が付きそうな距離に思わず目をつぶった。
「……っ!」
アンディ様は私の肩に置いていた手を一瞬揺らすと、頬に口付けをし、そのまま唇で涙を拭ってくれた。
(アンディ様はやっぱりキス魔です)
見つめるアッシュグレーの瞳は何だかバツが悪そうにしている。
(アンディ様は新しい婚約者にもキス……するのでしょうか)
そんなことを考えてますます泣きそうになった。
「……アンディ様、これで証拠は揃いましたので私を捕まえられますよね」
教会のお金を王家に偽って着服していたのだ。
私が出頭するしないはもう関係ない。でも。
「どうか、教会を変える猶予をください。外れの治療院も見届けたいですし……」
「……君は本当にバカだな」
逞しい腕の中へと身体を収められる。
「最後まで見届けると約束しただろう?」
「はい……」
きっとアンディ様とのお別れの日は近い。
それでも、最後まで私に付き合ってくれるという彼に心から感謝した。
「じゃあ、この書類はアンディ様にお預けしておきますね」
「ああ……」
そっと身体を離した私は引き出しを指差した。
アンディ様の元にあったほうが安心だ。
ごっそりと紙を引き上げると、下が隠し棚になっているのに気付く。
(何でしょう?)
仕切りを取り外すと、装丁の綺麗な本が出てきた。
「どうした?」
アンディ様が後ろから覗き込む。
私はその本をめくる。
「これは――」
それは本ではなく、力強い筆跡でびっしりと書かれた計画書だった。
「魔物討伐による病を流行らせる……教会国家計画⁉」
アンディ様と目を合わせる。またとんでもない物が出てきた。
そこには、流行り病の病原菌が冬に活発になるある魔物から伝染すること、教会のスパイである聖騎士がわざと罹り、人々に感染させていき、罹患者が増えたタイミングで式典を開き、感染を爆発させるといった計画が書かれていた。
「こんな……」
神殿の主要人物にはあらかじめ浄化魔法をかけてあり、感染の恐れはないこと、それによって教会を神格化しお金を集め力をつけ、王家からこの国を簒奪しようという。――――この計画は国家反逆罪だ。
「わた……私、投獄で済みませんよね……きょ、極刑とか……」
ガクガクと震える私の身体をアンディ様がまた抱きしめてくれた。
「大丈夫だリリー。君がどの程度関わっていたのかまだわからない」
「でも、この計画書……」
「これはリリーの字ではない。おそらく、神官長のものだろう」
抱きしめる腕に力を入れ、アンディ様が続ける。
「君は一応大聖女で侯爵令嬢だ。極刑にはならない。もしそうなりそうになっても、俺がさせない」
力強い彼の言葉に涙が溢れる。
「アンディ様ありがとうございます」
「これも俺が預かっておこう」
アンディ様が私を抱きしめたまま計画書を受け取る。
「⁉」
パラパラとそれをめくっていたアンディ様の手が止まった。
目をやると、聖騎士団のことが書かれているページだった。
「ルート⁉」
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