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44.エピローグ
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「リリー様! 目を覚まされたんですね!」
寝ていた部屋とは別の部屋に通されると、涙目のアネッタが抱きついてきた。
「アネッタ……怖い思いをさせてすみませんでした」
私が抱きしめ返すと、彼女はきょとんとして、すぐに笑顔になった。
「ふふ、どうしてリリー様が謝るんですか? やっぱりあなたは人のことばかりですね」
「アネッタ、さあ時間がないよ!」
部屋の奥から見知ったハークロウ家のメイドたちがわらわらとやって来た。
よく見れば、アネッタもお揃いのお仕着せを着ている。私の視線に気づいたアネッタが嬉しそうに言った。
「リリー様、私、ハークロウ家のお屋敷で雇ってもらえることになったんです!」
「本当ですか? 良かった……」
後ろにいるアンディ様を振り返れば、彼は優しい笑顔で頷いてくれた。
アンディ様のお屋敷なら、アネッタも幸せに働ける。そう思った私は安心した。
「それに、リリー様の専属を賜りましたので、これからもずっと一緒です!」
「えっ?」
嬉しそうに話すアネッタに、またアンディ様を振り返る。
「俺と結婚するのだから、君がここに住むのは当然だろう」
「ええと……?」
しれっとそんなことを言うアンディ様に私は人差し指を頭に付けた。
「さあ坊ちゃん、そのためにも急ぎませんと!」
「ああそうだな、頼む」
急かすメイドにアンディ様はくすりと笑うと、私との距離を詰めて顔を寄せた。
「皆に任せるといい。また後でな」
「!!」
ちゅ、と頬にキスをされてしまった。
笑顔で去って行くアンディ様を見送る私の後ろでは、アネッタとメイドたちがにやにやと見守り、私は恥ずかしくてここから逃げ出したくなってしまった。
「ラブラブですねえ」
「ラ……」
満足そうににっこりとするアネッタにますます赤くなる。
「さあ、リリー様」
メイドに促され、部屋の奥に進むと、そこには大聖女用の銀色のドレスを着たトルソーが置かれていた。
「さあ、支度をしましょう」
一人のメイドの合図で私はあっという間にそのドレスに着替えさせられた。
「あの……」
「まああ、お似合いですわ! さすが坊ちゃまの奥様になられるお方!」
メイドたちは私を称賛しながらも髪をハーフアップにし、お化粧を施していく。
「あの……皆さんはアンディ様のお相手が私なんかでいいのでしょうか?」
リリーの中にいたとき、お嫁さんとして望んでくれていたけど、それは地味な私なんかじゃなかった。
不安を吐露すれば、皆きょとんとする。
「私はリリー様のように美人ではないですし、地味ですし、貧乏令嬢ですし……」
私の声がだんだん小さくなったところでアネッタがくわっと目を開いた。
「リリー様は綺麗な方ですよ!! あ、えっと、リリアン様のことですからね!? 私、言いましたよね?」
「そうですよ、私たちはあの悪女が婚約者だなんて認めておりませんでした。でも、あなたしか考えられないと言ったお相手は、あのリリー様なんかではなく、あなたなんです」
「リリアン様、どうかハークロウ家に嫁いできてください!」
「そうですよ! 坊ちゃんを幸せにできるのは貴女だけなんです!」
アネッタに続いてメイドたちが一斉に私を囲んだ。
「みなさん……」
「どうか自信を持ってくださいリリー様。私たちが望むのはリリアン様だけなのですから」
私の頭にティアラをそっと載せてくれたアネッタが私を鏡の前に連れて行く。
鏡に映る私は、みんなが綺麗に着飾ってくれたおかげで、聖女のようにキラキラとしている。
「あ、あの、これからもリリー様って呼んでもいいですか? 私のリリー様はリリアン様だけなので」
鏡越しに私を窺うアネッタに私は思わずくすりと笑って言った。
「はい! もちろんです」
アンデイ様もアネッタも、リリーは私だと言ってくれる。それが嬉しくて、温かい気持ちになった。
「それではいってらっしゃいませ」
アネッタ以外のメイドたちに見送られ、部屋を出た。
「リリー……綺麗だ」
「……リリー様にも同じことを言っていましたよね?」
部屋を出るなり、アンディ様がうっとりとした瞳を向けてくるものだから、私は恥ずかしくなって可愛くないことを言ってしまった。
「……俺があの悪女に気付かれなかったのは君のおかげなのにな」
アンディ様がじっと私を見つめる。
「俺はずっと君に接するつもりであいつを見ていた。だからあのときの言葉も全部君へのものだ」
「!?」
「本当は君に触れたくて、君に直接言いたくてたまらなかった」
「ア、アンディ様!?」
どんどん近付く彼の顔にたじたじになる。
「俺の心は君だけにあると何度も伝えているのに……君はやっぱり悪女だ」
目を伏せたアンディ様に、傷付けてしまったかと不安になり手を伸ばした。
彼はその手を取ると、逆の手を私の背中に回し、引き寄せた。
「そんな可愛いことを言って俺の心を惑わせるなんて」
「かっ!?」
至近距離で甘い言葉を吐くアンディ様に顔が熱くなる。
「君に伝わるまで何度でも言おう。俺のリリーは君だけだと」
目を細め、キスしようとするので、私は慌てて彼の胸を両手で押しのけた。
「アンディ様、キャラ変わってませんか!? 初めてお会いしたときは、もっと冷たくて……」
「君は俺のことを優しいと言ってくれた」
アンディ様の言葉にうぐっとなる。まさか覚えてくれていたなんて。
「俺が変わったとしたら、君が変えたんだ。俺も自身の中にこんな気持ちがあるなんて知らなかった――」
「ア、アンディ様……」
彼の胸を押していた手を取られ、私はあっけなく唇を奪われてしまう。
彼の愛しいという気持ちが溢れ出て、私に伝わる。
「……アンディ様のキス魔……」
ようやく解放された私がアンデイ様を赤い顔で睨めば、彼は嬉しそうに目を細めた。
「君にだけだ。だからこれからも覚悟して欲しい」
そう言うと、またキスされてしまった。
「やーっとお出ましですか!」
「ダンさん!?」
アンデイ様に解放されて屋敷の外に出ると、馬車の前にダンさんが立っていた。空気を読んでいつの間にかいなくなっていたアネッタも。
「俺もハークロウ家で雇ってもらえることになったんですよ! よろしくお願いします、リリーお嬢様……じゃねえ、奥様!」
「おく!?」
みんな、なじみすぎじゃないだろうか。私だけ頭が追い付かないというのに。
「じゃあ行こうか」
くすくすと笑うアンディ様に手を取られ、私は馬車に乗り込んだ。
「あの……それでどこに行かれるのですか?」
私は大聖女の恰好をさせられている。まさか、と思いつつも疑問を口にした。
アンディ様は口の端を持ち上げると何も言わず、私の頬にキスをした。
「リリー!!」
「シスター!」
馬車が止まった場所はやはり教会で、アンディ様の手を借りて降りるとシスターが走って来た。
私もドレスの裾を持ち上げ、急いでシスターの元へ行く。
「シスター! 巻き込んでしまってすみませんでした」
勢いよく下げた私の頭からティアラが落ちそうになって、シスターがそっと支えてくれた。
「あなたこそ巻き込まれた張本人でしょう。なぜ謝るのですか」
「そうですよリリアン」
「副神官長様……」
優しい二人が元気そうで良かった。
「ジェイコブと呼ぶように言ったでしょう?」
「でもそれは、大聖女のリリー様だったときの話ですので……」
副神官長は今度こそ神官長としてこの教会の頂点に立つ人だ。私とは身分が違いすぎて、気安く呼べない。そう思っていると。
「次の大聖女は貴女なのですから、問題ありませんよ?」
「………………え?」
聞き違いかと一瞬固まった私は、副神官長に聞き直す。
「リリアン、教会を預かる私が貴女を大聖女に任命いたします。王家からも承認を得ております」
「ええ!?」
「これからは堂々と私を支えてくださいね」
驚く私の手を握り、副神官長が茶目っ気のある笑顔で言った。
「これでハークロウ侯爵である父も俺たちの結婚を認める。俺は肩書きなんてどうでもいいが、一緒になるためには必要だからな」
後ろで私たちの会話を聞いていたアンディ様が得意げに話す。
「ええ……職権乱用で捕まりませんか?」
「ふふ、元々リリアンこそ相応しいと思っていたので大丈夫ですよ。ほら」
副神官長が指し示した先には元準聖女だった子たちが神殿の入り口に並んで手を振っていた。
「おめでとうございます!」
「私たち、あなたがいる教会でなら力を尽くします!」
こちらに向かって叫ぶ彼女たちを見て、副神官長が笑みを向けて言った。
「貴女がこの教会を変えてくれたのですよ。これからもどうか力を貸してください」
「さあ、これから大聖女の就任式だ」
アンディ様が私の肩に手を添えて言った。
「い、今から!? あ、だからこの服装!?」
「そのまますぐに結婚式もしよう」
「えええええ!?」
怒涛の超展開に目を白黒させる。
「ははは、諦めろ、こいつからは逃げられやしないんだ」
「本当ですね。聖騎士団団長に目を付けられたら最後です」
マークさん、副団長さんもいつの間にか合流して、呆れて笑った。
「みんなリリー様の大聖女ご就任を見たくて集まったんですよ!」
アネッタが嬉しそうに笑っている。
私を望んでくれているのが嬉しくて、私はみんなの顔を見渡すと覚悟を決めた。
「……はい。こんな私ですが、精一杯努めてまいりたいと思います」
「リリー!」
「きゃっ!」
みんなに頭を下げたあと、アンディ様に横抱きに抱えられる。
「先に行ってますね」
「早く来いよ」
私たちに笑顔を向けると、みんなが聖堂へと足を向けた。
「ア、アンディ様? 私も行かなくてはならないのでは……」
「君は皆に愛されているからな。少しだけ独占させてくれ」
「ええっ!?」
私を抱えたアンディ様が顔を寄せて甘く囁く。
「やっと君を捕まえたんだ。もう逃がさない」
「私は悪女ではありませんでしたが……」
上目遣いで窺えば、にやりと口角を上げた彼に視線を捕らえられる。
「俺の心を乱して奪った悪女だ。一生離さない」
そうして私は、アンディ様に甘く捕らわれた。
おわり
寝ていた部屋とは別の部屋に通されると、涙目のアネッタが抱きついてきた。
「アネッタ……怖い思いをさせてすみませんでした」
私が抱きしめ返すと、彼女はきょとんとして、すぐに笑顔になった。
「ふふ、どうしてリリー様が謝るんですか? やっぱりあなたは人のことばかりですね」
「アネッタ、さあ時間がないよ!」
部屋の奥から見知ったハークロウ家のメイドたちがわらわらとやって来た。
よく見れば、アネッタもお揃いのお仕着せを着ている。私の視線に気づいたアネッタが嬉しそうに言った。
「リリー様、私、ハークロウ家のお屋敷で雇ってもらえることになったんです!」
「本当ですか? 良かった……」
後ろにいるアンディ様を振り返れば、彼は優しい笑顔で頷いてくれた。
アンディ様のお屋敷なら、アネッタも幸せに働ける。そう思った私は安心した。
「それに、リリー様の専属を賜りましたので、これからもずっと一緒です!」
「えっ?」
嬉しそうに話すアネッタに、またアンディ様を振り返る。
「俺と結婚するのだから、君がここに住むのは当然だろう」
「ええと……?」
しれっとそんなことを言うアンディ様に私は人差し指を頭に付けた。
「さあ坊ちゃん、そのためにも急ぎませんと!」
「ああそうだな、頼む」
急かすメイドにアンディ様はくすりと笑うと、私との距離を詰めて顔を寄せた。
「皆に任せるといい。また後でな」
「!!」
ちゅ、と頬にキスをされてしまった。
笑顔で去って行くアンディ様を見送る私の後ろでは、アネッタとメイドたちがにやにやと見守り、私は恥ずかしくてここから逃げ出したくなってしまった。
「ラブラブですねえ」
「ラ……」
満足そうににっこりとするアネッタにますます赤くなる。
「さあ、リリー様」
メイドに促され、部屋の奥に進むと、そこには大聖女用の銀色のドレスを着たトルソーが置かれていた。
「さあ、支度をしましょう」
一人のメイドの合図で私はあっという間にそのドレスに着替えさせられた。
「あの……」
「まああ、お似合いですわ! さすが坊ちゃまの奥様になられるお方!」
メイドたちは私を称賛しながらも髪をハーフアップにし、お化粧を施していく。
「あの……皆さんはアンディ様のお相手が私なんかでいいのでしょうか?」
リリーの中にいたとき、お嫁さんとして望んでくれていたけど、それは地味な私なんかじゃなかった。
不安を吐露すれば、皆きょとんとする。
「私はリリー様のように美人ではないですし、地味ですし、貧乏令嬢ですし……」
私の声がだんだん小さくなったところでアネッタがくわっと目を開いた。
「リリー様は綺麗な方ですよ!! あ、えっと、リリアン様のことですからね!? 私、言いましたよね?」
「そうですよ、私たちはあの悪女が婚約者だなんて認めておりませんでした。でも、あなたしか考えられないと言ったお相手は、あのリリー様なんかではなく、あなたなんです」
「リリアン様、どうかハークロウ家に嫁いできてください!」
「そうですよ! 坊ちゃんを幸せにできるのは貴女だけなんです!」
アネッタに続いてメイドたちが一斉に私を囲んだ。
「みなさん……」
「どうか自信を持ってくださいリリー様。私たちが望むのはリリアン様だけなのですから」
私の頭にティアラをそっと載せてくれたアネッタが私を鏡の前に連れて行く。
鏡に映る私は、みんなが綺麗に着飾ってくれたおかげで、聖女のようにキラキラとしている。
「あ、あの、これからもリリー様って呼んでもいいですか? 私のリリー様はリリアン様だけなので」
鏡越しに私を窺うアネッタに私は思わずくすりと笑って言った。
「はい! もちろんです」
アンデイ様もアネッタも、リリーは私だと言ってくれる。それが嬉しくて、温かい気持ちになった。
「それではいってらっしゃいませ」
アネッタ以外のメイドたちに見送られ、部屋を出た。
「リリー……綺麗だ」
「……リリー様にも同じことを言っていましたよね?」
部屋を出るなり、アンディ様がうっとりとした瞳を向けてくるものだから、私は恥ずかしくなって可愛くないことを言ってしまった。
「……俺があの悪女に気付かれなかったのは君のおかげなのにな」
アンディ様がじっと私を見つめる。
「俺はずっと君に接するつもりであいつを見ていた。だからあのときの言葉も全部君へのものだ」
「!?」
「本当は君に触れたくて、君に直接言いたくてたまらなかった」
「ア、アンディ様!?」
どんどん近付く彼の顔にたじたじになる。
「俺の心は君だけにあると何度も伝えているのに……君はやっぱり悪女だ」
目を伏せたアンディ様に、傷付けてしまったかと不安になり手を伸ばした。
彼はその手を取ると、逆の手を私の背中に回し、引き寄せた。
「そんな可愛いことを言って俺の心を惑わせるなんて」
「かっ!?」
至近距離で甘い言葉を吐くアンディ様に顔が熱くなる。
「君に伝わるまで何度でも言おう。俺のリリーは君だけだと」
目を細め、キスしようとするので、私は慌てて彼の胸を両手で押しのけた。
「アンディ様、キャラ変わってませんか!? 初めてお会いしたときは、もっと冷たくて……」
「君は俺のことを優しいと言ってくれた」
アンディ様の言葉にうぐっとなる。まさか覚えてくれていたなんて。
「俺が変わったとしたら、君が変えたんだ。俺も自身の中にこんな気持ちがあるなんて知らなかった――」
「ア、アンディ様……」
彼の胸を押していた手を取られ、私はあっけなく唇を奪われてしまう。
彼の愛しいという気持ちが溢れ出て、私に伝わる。
「……アンディ様のキス魔……」
ようやく解放された私がアンデイ様を赤い顔で睨めば、彼は嬉しそうに目を細めた。
「君にだけだ。だからこれからも覚悟して欲しい」
そう言うと、またキスされてしまった。
「やーっとお出ましですか!」
「ダンさん!?」
アンデイ様に解放されて屋敷の外に出ると、馬車の前にダンさんが立っていた。空気を読んでいつの間にかいなくなっていたアネッタも。
「俺もハークロウ家で雇ってもらえることになったんですよ! よろしくお願いします、リリーお嬢様……じゃねえ、奥様!」
「おく!?」
みんな、なじみすぎじゃないだろうか。私だけ頭が追い付かないというのに。
「じゃあ行こうか」
くすくすと笑うアンディ様に手を取られ、私は馬車に乗り込んだ。
「あの……それでどこに行かれるのですか?」
私は大聖女の恰好をさせられている。まさか、と思いつつも疑問を口にした。
アンディ様は口の端を持ち上げると何も言わず、私の頬にキスをした。
「リリー!!」
「シスター!」
馬車が止まった場所はやはり教会で、アンディ様の手を借りて降りるとシスターが走って来た。
私もドレスの裾を持ち上げ、急いでシスターの元へ行く。
「シスター! 巻き込んでしまってすみませんでした」
勢いよく下げた私の頭からティアラが落ちそうになって、シスターがそっと支えてくれた。
「あなたこそ巻き込まれた張本人でしょう。なぜ謝るのですか」
「そうですよリリアン」
「副神官長様……」
優しい二人が元気そうで良かった。
「ジェイコブと呼ぶように言ったでしょう?」
「でもそれは、大聖女のリリー様だったときの話ですので……」
副神官長は今度こそ神官長としてこの教会の頂点に立つ人だ。私とは身分が違いすぎて、気安く呼べない。そう思っていると。
「次の大聖女は貴女なのですから、問題ありませんよ?」
「………………え?」
聞き違いかと一瞬固まった私は、副神官長に聞き直す。
「リリアン、教会を預かる私が貴女を大聖女に任命いたします。王家からも承認を得ております」
「ええ!?」
「これからは堂々と私を支えてくださいね」
驚く私の手を握り、副神官長が茶目っ気のある笑顔で言った。
「これでハークロウ侯爵である父も俺たちの結婚を認める。俺は肩書きなんてどうでもいいが、一緒になるためには必要だからな」
後ろで私たちの会話を聞いていたアンディ様が得意げに話す。
「ええ……職権乱用で捕まりませんか?」
「ふふ、元々リリアンこそ相応しいと思っていたので大丈夫ですよ。ほら」
副神官長が指し示した先には元準聖女だった子たちが神殿の入り口に並んで手を振っていた。
「おめでとうございます!」
「私たち、あなたがいる教会でなら力を尽くします!」
こちらに向かって叫ぶ彼女たちを見て、副神官長が笑みを向けて言った。
「貴女がこの教会を変えてくれたのですよ。これからもどうか力を貸してください」
「さあ、これから大聖女の就任式だ」
アンディ様が私の肩に手を添えて言った。
「い、今から!? あ、だからこの服装!?」
「そのまますぐに結婚式もしよう」
「えええええ!?」
怒涛の超展開に目を白黒させる。
「ははは、諦めろ、こいつからは逃げられやしないんだ」
「本当ですね。聖騎士団団長に目を付けられたら最後です」
マークさん、副団長さんもいつの間にか合流して、呆れて笑った。
「みんなリリー様の大聖女ご就任を見たくて集まったんですよ!」
アネッタが嬉しそうに笑っている。
私を望んでくれているのが嬉しくて、私はみんなの顔を見渡すと覚悟を決めた。
「……はい。こんな私ですが、精一杯努めてまいりたいと思います」
「リリー!」
「きゃっ!」
みんなに頭を下げたあと、アンディ様に横抱きに抱えられる。
「先に行ってますね」
「早く来いよ」
私たちに笑顔を向けると、みんなが聖堂へと足を向けた。
「ア、アンディ様? 私も行かなくてはならないのでは……」
「君は皆に愛されているからな。少しだけ独占させてくれ」
「ええっ!?」
私を抱えたアンディ様が顔を寄せて甘く囁く。
「やっと君を捕まえたんだ。もう逃がさない」
「私は悪女ではありませんでしたが……」
上目遣いで窺えば、にやりと口角を上げた彼に視線を捕らえられる。
「俺の心を乱して奪った悪女だ。一生離さない」
そうして私は、アンディ様に甘く捕らわれた。
おわり
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