「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和

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 テーラー。

 銀色の長い髪に銀色の瞳を持つ神官らしいその美しい顔立ちで、彼はキッとこちらを睨んでいた。

「殿下、聖女様の訓練の途中です……! いきなり抜け出すなど……」

 どうやらアシュリー様は、アオイ様の訓練の途中で抜け出して来たらしい。

「訓練にはお前がいるから大丈夫だろう、テーラー。こっちはそれどころじゃなかったんだ……」

 『それどころじゃなかったんだ』

 私は頭の中でアシュリー様の言葉を反芻する。同時に、慌てて訓練場に走って来た時の彼の様子を思い出す。

 え………、アシュリー様………!

 そんなに私のこと心配だったの?そう思って、彼に期待の目を向ければ、アシュリー様は絡んだ視線を逸らして、照れ臭そうに言った。

「仕方ないだろう……。親密そうな距離で、君がマシューにあんな顔を見せているなんて……」
「あんな顔……?」

 マシューには愚痴や弱音ばかり溢していたが、あんな顔とはどんな顔だろうか。

 しかし、アシュリー様に見られていたなんて、恥ずかしすぎる。

 確か、聖女様の訓練室はこの騎士団の訓練場が見渡せる位置にあったっけ……。

「幸せそうな可愛い笑顔を見せていただろう」

 私がそんなことを考えていると、アシュリー様が私に迫って言った。……少し怒ってる?

 幸せそうな……可愛い顔?!可愛い顔とは。

 必死に記憶をたどり、私がニマニマしたことを思い出す。というか、私が幸せそうな顔をしたなら、それしか思い付かない。

「それ……、アシュリー様のことを思い出していたからですよ!」
「は?」

 私の返答に、アシュリー様が間の抜けた声を出した。

 珍しい!可愛い!

「えっと、だから、私アシュリー様と聖女様のことをマシューに相談していて……そしたらアシュリー様のことを思い出して、会いたいなあ、好きだなあ……って思ってたら………って、アシュリー様?!」

 私が一生懸命説明していると、アシュリー様は、手で口を覆って、その場に座り込んでしまった。

「……まったく、君って人は……」
「アシュリー様?」

 アシュリー様がいない所でも彼のことを考えていたなんて、重かったかしら?引いちゃったかしら?

 心配してアシュリー様を覗き込むと、手を引かれる。

「きゃっ!」

 座り込むアシュリー様に合わせて、手を引かれた私も座り込む形になる。と、同時に、私の身体はすっぽりとアシュリー様の腕の中に収まってしまった。

「ア、アシュリー様?!?!」
「もう、可愛すぎるよ、ステラ……」

 ええええ??

 今の所、可愛い要素ありました??

「殿下! いい加減になさってください!」

 あ、忘れてた。

 すっかり二人の世界に入ってしまっていたけど、テーラーが怒鳴り込んで来ていたんだった。

「殿下、貴方は聖女様と結婚するお立場にあるのです! それを、こんな……」

 テーラーは軽蔑する目でこちらを見てきた。

 『聖女様と結婚』

 その言葉に、チクリと胸が痛む。

 そうだ、いくらアシュリー様が私しか愛さないと言ってくれても、この国の決まりを動かせる訳じゃない。

 私はずっと放置されていた問題を急に目の前に突きつけられ、真っ暗になってしまった。でも、その暗い気持ちはすぐに払拭された。アシュリー様によって。

「そんなことを言っているのはお前だけだ、テーラー」
「「へっ????」」

 テーラーと私の言葉が不本意ながら、被る。

「聖女は確かにこの国に恩恵をもたらす。しかし、皇太子と結婚はしなくてもこの国に留まってもらい、幸せに暮らす手助けをすれば良いだけだろう」

 確かに。

 アシュリー様の説明に、ポカンとしながらも、私は納得した。テーラーはそうじゃなかったみたいで。

「何を言うのですか! この国の王族と結婚してこそ、聖女様を守り、この国を守ることになるのです!」

 テーラーは興奮気味に食ってかかった。アシュリー様は、そんな彼にも動じずに淡々と話す。

 ……カッコイイ!!

「別に皇太子じゃなくても良いだろう。聖女殿の意向だってある」
「……そのアオイ様は、殿下に好意を寄せているのは明らか。貴方が幸せにして差し上げるべきです」
「……私の婚約者はステラだ」

 アシュリー様は、きっぱりとテーラーに宣言をしてくれた。

 夢……じゃないよね……?

 えっ!これは何のご褒美ですか??

 アシュリー様の言葉に、ジーンと噛み締めていると、テーラーは激昂して叫んだ。

「貴方の我儘が許されると?! 聖女様を優先するのは、この国の第一事項!! 貴方は聖女様と結婚しなければならないのです!!」

 ビリビリと身体に叫びが伝わり、私は不安になった。そんな私を、アシュリー様はそっと抱き寄せてくれた。

「何をそんなに焦っている? テーラー」
「!」

 アシュリー様の言葉に、テーラーは口を固く結んだ。

「アオイ殿の気持ちを盛り上げさせたのはお前だな、テーラー? あることないこと吹き込んで、ステラを悪者にして、完全に私に気持ちがいくように仕向けた」
「なっ……」

 アシュリー様の言葉に、テーラーは言い返せない。どうやら、本当のことらしい。

 初耳なことに、私もただ驚きながら、アシュリー様の言葉を聞いていた。

「この二年、国の平和はステラの魔物討伐のおかげで保たれていた。だからこそ、私の婚約者として揺るぎない地位にいた。それを無理矢理聖女召喚の儀式を執り行ったのは、お前たち神官だ」
「なっ……! それは殿下もお認めに……!」
「ああ。聖女が召喚され、魔物からの脅威が無くなるならば、私の可愛いステラを危ない目に遭わせなくて済むからな」
「だから大人しく聖女様に付き合っていたと……?」
「ああ。ステラはこの国に充分すぎる貢献をしてくれた。父上も結婚を認めてくれている。後は、アオイ殿が聖女として一人立ちしてくれれば問題ない」

 冷ややかにテーラーに言い渡したアシュリー様は、冷徹無慈悲な皇太子のようだ。

 痺れる!!!!

 というか、第一部隊と行っていた魔物討伐が、そんなにも役立っていたなんて。

 私はアシュリー様のためならって、がむしゃらにやってきたことだから、考えもしなかった。

「ステラ、不安にさせてすまない。君が頑張ってくれたおかげで、根回しもすんなりいったよ」
「アシュリー様……」

 さっきマシューが、『アシュリー様も頑張ってるんだから、お前も我慢しろ』って言った言葉を唐突に理解する。

 アシュリー様は、私が婚約者でいられるために、この二年間、頑張ってくれていたんだ。私と同じように。

 その事実に、私は嬉しさと愛しさで涙が溢れる。

「ステラ、俺は君しか愛さないって言ったろ?」
「はい……」

 私の涙を拭って、アシュリー様が優しく微笑む。

 アシュリー様も私と同じくらいの愛を持ってくれてたってことですよね?

「何それ………」

 私たちの後ろで低く呟かれた声に振り返ると、そこにはアオイ様が立っていた。
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