「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和

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「きゃーー! ステラ、綺麗~!」
「あ、ありがとう」

 あれから三ヶ月が経ち、今日は私とアシュリー様の結婚式。

 控え室に来るなり、アオイが大袈裟なくらいの黄色い声で褒めてくれたので、私は照れてしまう。

「この世界でも結婚式って純白のドレスなんだね」
「アオイの世界も?」
「うん……」

 私のドレスを繁々と見つめ、遠い目をするアオイは、どこか寂しそうだ。

 生まれた国を離れ、一人、この国で生きて行くことを決めたのだ。まだ寂しさが残って当然だろう。

「ステラ、本当に似合ってる! 綺麗!」

 アオイを心配そうに見つめていると、そんな私に気付いてか、パッと顔を明るくしてアオイが言った。

「……アオイも、その聖女の正装、よく似合ってるよ」

 明るく努めようとする彼女に気付かないフリをして、私も笑顔でアオイの装いを褒めた。

「そう? これ丈が長すぎない? まあ、レトロ風で可愛いわよね!」

 淡いパステルブルーのロングワンピースに、同じ色のローブ。シンプルながらも、上品で美しい。自身の装いを見回しながら、アオイが笑う。

 いつもの彼女だ。

 最初、この聖女の正装でさえ、彼女は「可愛くない」と着るのを拒否していたらしい。私が初めて出会ったとき、未だあちらの格好をしていたのはそのためだったみたい。

 彼女もこの国で生きて行くことを決めてから、聖女の力の制御を学んでいる。随分聖女らしくなった。

 そうそう、彼女の魔法の先生は、私が務めることになった。何でも、彼女のご指名だそうで。

 あれから、私はアオイと随分仲良くなった。二人、名前で呼び合うほどに。

 アシュリー様からは、「俺のことも忘れるなよ?」と真剣な顔で言われたほど。可愛い。

 その話をアオイにすると、「ばっかじゃないの?!」と一蹴されてしまった。

 信じられないくらい、仲良くなった私たち。

 私は一息つくと、アオイを真っ直ぐに見て言った。

「ねえ、アオイ……」
「何?」
「アオイはもう本当にアシュリー様のことは良いの?」
「……相変わらず、ストレートよね」

 私の問に、アオイは目を一瞬見開くと、すぐに笑顔になった。

「ステラに言われた通り、私は恋に恋をしていただけなんだと思う。誰でも良いから誰かに愛されたくて、それが王子様なんて最高、なんて思い上がって……」
「アオイ……」
「でもね、私はこの世界に呼び出されてツイてると思ってるの! あそこに私の居場所は無かった。聖女として求めてくれるなら、必要としてくれるなら、この国で生きていきたい」

 真ん丸の黒目が強く光を宿している。

 そうキッパリと言い切った彼女は、すっかり聖女の顔だ。

「でも……」
「?」
「愛してくれる人は絶賛募集中だから、良い男、紹介しなさいよ、ステラ!」

 アオイは、バチン、と片目をつぶって、いたずらっぽく笑った。そんな彼女らしさに、私も思わず笑ってしまった。

「全力を挙げて頑張ります……」
「あー、絶対だからね!」

 はい。アオイの幸せのお手伝いも絶対にしてみせます。

 頬を膨らませるアオイに、私は心の中で手を上げて誓った。

 一段落ついた所で、コンコン、と控室のドアがノックされ、アオイが「はーい」とドアを開けてくれた。

「ステラ………綺麗だ………」

 ドアが開くなり、準備を終えたアシュリー様が、私を見つめながら部屋に入って来たのを見て、私は思わず見惚れた。

 アシュリー様の方がカッコイイです!!

「うわー。ご馳走様ですー。てか、アシュリー様も王子様みたいで素敵ですよ? あ、本物の王子様か!」
「アオイ!! 私が言おうと思っていたのに!」

 アオイに先を越されて、思わず抗議をすると、彼女はニマニマ笑いながら、ドアに向かった。

「はいはーい、邪魔者は退散しますよー。……また後でね、ステラ」
「うん」

 アオイを見送り、アシュリー様に向き直ると、彼は甘すぎるくらいの蕩ける笑顔で立っていた。

 な、何ですか、その顔!!

「彼女とは随分仲良くなったみたいだね?」
「お陰様で……」

 クスクス笑うアシュリー様は、私の近くに寄ると、私を椅子から立ち上がらせた。

「さっき、兄上と話して来たよ」
「レオノア様と?!」

 驚く私に、アシュリー様は話を続ける。その表情は穏やかだ。

「兄上は一人の女性の人生を奪ってしまう、聖女召喚には反対だった。そして、君という存在がいれば召喚なんてしなくても大丈夫だと思ったそうだよ」
「私……?」
「ステラなら魔物を一掃してしまいそうだと」

 首を傾げて目を丸くする私に、アシュリー様は可笑しそうに笑って言った。

「わ、私……っ、いつもアシュリー様のためって必死で……!」

 うう、私、そんな可愛く無いイメージなのかな。

 ちょっと泣きそうになりながらアシュリー様に弁明しようとすると、彼はふわりと優しい笑顔を向けた。

「わかっているよ、ステラ。君がいつも俺のために頑張ってくれていたこと」
「アシュリー様……」

 アシュリー様の優しい言葉に、今度は嬉しくて泣きそうだ。

「俺は、君以外を愛する気は無いって言っただろ?」

 私の頬に手をやり、甘く微笑むアシュリー様。

 私は恥ずかしさを紛らわすように、気になっていたことをアシュリー様にぶつけてみる。

「アシュリー様は、いつからそう思ってくれるようになったんですか?」

 私の好き好き攻撃をいつも静かに受け止めてくれていたアシュリー様。だから、嫌われていない、とは思っていた。

 でもアシュリー様から行動に示されることは無くて。

「いつだと思う?」

 にこり、と不敵に笑ったアシュリー様の顔が近付き、私は答える間もなく、唇を塞がれた。

 アシュリー様との久しぶりのキスは長くて、心臓が止まりそうになった。

 これから結婚式なのに!!

 長いキスからようやく解放されて、顔を真っ赤にしながらアシュリー様を見上げると、彼は、とびきり甘い表情で私を見ていた。

「!!」

 その表情を見れば、アシュリー様がどんなに私を好きでいてくれているか、わかった。

「さあ、行こうか……。ようやく、君の全てが俺の物になる」
「!ひゃう?!」

 まだ赤い私の手を取り、アシュリー様がとんでもないことを言ったので、私は思わず飛び上がった。

「これからは俺が押すから、覚悟して?」

 私の手に唇を落とし、そう囁いたアシュリー様に、私の心臓は破裂寸前。

 結局、答えははぐらかされたものの、アシュリー様が私を好き過ぎる、というのは伝わった。私がアシュリー様を好きなように。

 今までは、私が猪突猛進に彼にぶつかっていただけ。アシュリー様の甘い反撃に、私は耐えられるのかしら?!

 真っ赤な顔でアシュリー様を見つめれば、大好きな私の菫色の瞳も、柔らかく細められた。
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