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第一章 春 ~事の発端、すべての元凶~
その62 こぼれ話②
しおりを挟む「ちょっと! これはどういうつもりよ!」
バン、と机を叩きながら紗琉は生徒会室でありったけの声量で叫んだ。
その傍らには紗琉のスマホが置いてあり、その画面を見て紗琉は驚きを隠せなかったのだろう。
「どうしたの、そんな大声出して」
それとは対照的に、一夜は落ち着いたような口調で紗琉に返す。
二人だけしかいない生徒会室だが、こうして紗琉が大声で叫ぶのはあまりないことだ。
紗琉が叫ぶ時は大抵、物凄い出来事が起こった時だけだ。それも普通に生活していて起こるようなことではない。
教室の窓ガラスが割れたなどではそうそうこんな声をあげない。
しかし、今は違った。紗琉はこうして大声で一夜に訴えかけていたのだ。
「どうしたの? じゃないわよ! これよこれ!!」
と、紗琉が一夜に見せてくるのは、紗琉のスマホの画面だった。
そこには「どん・だー予選出場チーム、私立海老津学園太鼓部」と書かれていたのだ。
「へぇー。ウチの太鼓部が「どん・だー」の予選に応募したのね」
「それもだけど! 鍵に聞いたところ、太鼓部の誰も予選に応募してないって言うのよ!」
つまり、太鼓部でない第三者がウチの太鼓部を「どん・だー」に出場させようと企んでいるのだ。
「じゃあ、誰が応募したのかしらね」
「……とぼけてもムダよ。どうせアンタが応募したんでしょ」
「あらら……。バレてたのね」
「バレてたのねって……どうせアンタだと思ってたわよ」
紗琉は呆れてしまった。まさかバレていないとでも思っていたのだろうか?
こんな工作をするのは大抵一夜に決まっている。何年の付き合いだと思っているのだろうか。
「まぁいいわ。それで、どうしてウチの太鼓部を応募させようとしたのよ?」
紗琉にとって、問題はそこだった。紗琉が問題視していたのは応募した人物ではない。応募した理由だった。
ウチの太鼓部は確かに、この前の練習試合にも勝利した。しかし、まだ紗琉としては正式な部活動としては認められなかったのだ。
そのため、「どん・だー」に出場させることも紗琉は認められなかったし、許可を下すことはできなかった。
そんな中、一夜はこうして勝手にウチの太鼓部を「どん・だー」に出場させてしまっていたのだ。
「どうしてって……そりゃ、太鼓部としては「どん・だー」に出場するのが夢でしょ? それを私が後押ししただけよ」
「でも、太鼓部はまだ正式な部活として認めて……」
紗琉の話の途中なのに、一夜は椅子から立ち上がり、窓の方へと向かっていく。
「私はね、賭けてみたいの」
と、一夜はそう唐突に告げた。
「彼らがどこまで行けるのか……。私たちの行けなかったあの場所へ、彼らが向かえるのかどうかを……」
「……ムリよ。あいつらは練習なんてしてない。その上、時間をムダに浪費しているだけ。そんな部に「どん・だー」の予選突破なんてムリよ」
呆れた表情を見せながら紗琉はそう呟いた。「どん・だー」の予選を突破できるのは、汗水垂らして頑張った人だけだ。
あんなちゃらんぽらんな部じゃ、「どん・だー」の予選を突破することなんて不可能だと紗琉は思った。
しかし、一夜はそれでも
「……本当にそうかしらね?」
まるですべてを見透かしているかのようなその瞳で、訴えかけてきたのだった。
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