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第二章 夏 ~それぞれの想い、廻り始めた歯車~
その99 飛翔するG
しおりを挟む「で…出たぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
と、物凄い轟音とともに望子先輩は叫んだ。ここが部室であることなんて眼中になかったのだろう。
「どうしたんですか、先輩?」
「で、出たんだよ……」
「出たってなにがですか?」
「……あの黒光りするアレが」
と、ガタガタ震えながら望子先輩はそう告げる。そこで僕はすべてを理解し、悟ってしまったのだ。
……まさか、そんなところでも出るとは思ってなかったからである。
「……殺虫剤とかないんですか?」
「ないよっ! だから困ってるんだよっ!」
望子先輩は必死だった。まるでソイツをかなり嫌っているかのように見えた。……まぁ僕もフツーに嫌いなんだが。
「嫌ってるよっ! 私がまだ小さい頃に頭に乗ってきたんだからっ! あの屈辱は今思い出すだけでも吐き気が……うっ」
「吐かないでくださいよ、先輩」
口元を抑えながらそう必死に訴えてくる。……これじゃ望子先輩は戦力にはならないだろう。ここは(一応)男子である僕が、ソイツを退治しなくてはと思った。
しかし、ヤツが今どこに潜んでいるのかなんて僕にはわからない。望子先輩が叫んだ頃にはどこかに潜伏してしまったのだから。
「……っ」
自分の上履きを片手に構え、僕は部室を見回す。それらしき姿は見当たらないが、ヤツがいつ、どこから襲ってくるのかなんてわかったものではない。
身構えておかないと死ぬのは逆に僕らのほうだ。ちぃと路世先輩はおつかいに向かったばかりだし……ここは僕一人の手でヤツを倒さなくてはいけない状況だった。
「……どこに行ったんだ」
部室内をくまなく見回ってみるが、それらしき姿は見当たらない。……望子先輩が見間違えた、なんてことなのだろうか。
「鍵くん、後ろっ!」
「えっ」
望子先輩に言われるがままに後ろを振り返るとそこにヤツはいたのだ。
黒光りするボディ。カサカサと音を立てて四足歩行で歩くヤツ。そう、そいつこそが僕らの敵だった。コードネームは……「G」!
「貰ったっ―――――!」
すかさず僕は持っていた上履きで襲い掛かる。……ここで仕留めてしまえばすべて解決だ。思いっきり上履きを振りかぶる。が――――
「あっ……!」
「くっ……!」
カサカサ―――、と音を立ててヤツはソファの下へと潜り込んでしまったのだ。僕の上履きは空を切り裂き、何もない床にべしん、と音を立てて振り下ろされるだけだった。……完全なる空振りだった。
くそ……。なんとしてでもGを倒さなくては………。そう思いながら、僕はもう一度その上履きを握りしめ、構える。
……ここで仕留められなかったのは失態だ。次こそ仕留めなければきっと、次なんてないと僕は悟った。……この一度で決着をつけなければいけない。
僕はソファの下に顔を向け、その中へと上履きを入れる。こうすればヤツもきっとソファの下から飛び出してくるだろう。そこをすかさずこの上履きで仕留めれば……それで決着だ。
カサカサ―――――!
「出てきたっ!」
ソファの下から飛び出してきたGにすかさず上履きの鉄槌を下す! ばしん、と鋭い音ともに床が少しばかりか揺れたような感じがした。
……果たして僕はヤツを仕留め切ったのだろうか。そっと上履きを裏向けてみる。すると……
「…………」
……上履きの裏。そこにヤツは死んでいた。ぺしゃんこになりながらヤツは、その黒光りするボディを一ミリたりとも動かさずに撃沈していたのだ。
「おしっ!」
すかさず僕は勝利のガッツポーズ。完璧だ。これでこの部室の平和は保たれたのだ。
「先輩、やりましたよ」
「ホント!? やっぱり男の子って頼りになるねー」
と、ずっと天井にへばりついていた望子先輩もご満悦。天井から降りてきて僕の方へと駆け寄ってきたのだ。……なんか、初めてこの部室の中で男の子と認められたような気がしたが、今はそんなことはどうでもよかった。
なんとかこれで、この部室の平和が保たれてよかったと僕は安堵の息を漏らした。と、それと同時におつかいに行っていた二人が戻ってくる。
「ただいまー……って、なにやってんだ二人とも?」
「あ、路世ちゃん! ちぃちゃん! 見て見て! 鍵くんってば、この部室にいたGを退治してくれたんだよー」
と、僕からひょいとGの死体のついている上履きを取り上げ、二人に見せる。
「あ、……」
そこで僕の視界は反転してしまった。何故なら……世界で一番、Gを見せたら危険な人間がそこにいるからだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
「ま、待てちぃ! 違うっ! それはゴキブリじゃなくてだな……!」
その僅か数秒の間で平和だった部室が、まるで台風でも通り過ぎたような現状になってしまったのは言わなくても分かるだろう……。
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