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出会い編
第16話
しおりを挟む「ギルドの食堂にすげえ可愛い子がいるんだってよ。」
姿くらましの魔法をかけた俺のそばで、二人の男が話している声が聞こえてきた。
「ああ、セレーナって子だろう?聞いた話だと、顔面の良い奴から告白されても断ってるらしいぜ?もったいないもんだぜ。」
「へえ。そうなのか。まあ俺には関係ないがな。」
「ふん。そんなこと言って、狙ってるんだろう?」
ガハハッと下品な笑い声で終わったその会話に、俺の心はとくりとした。
セレーナ
醜い俺を見ても変わらず接してくれる優しい女の子。
とても可愛くて、少し頑固
でもそんな所も、それら全てが───
『フェルさん···すき。』
彼女があの時、俺に向かって言った言葉がずっと頭から離れない。
俺は彼女の告白を断った。
彼女のことが嫌いだったからではない。
むしろ、
すきだ
好きだ
好き、なのに···
怖い。
彼女に拒絶されるかもしれないことが怖い。
今の関係を壊して、
恋人になった時に、
彼女がいなくなってしまったらどうしよう
そんなことばかり考えてしまっている。
前までは彼女に期待なんてしていなかったのに。
いや、
しないようにしていたのに。
こんな醜い俺に告白してくれた彼女。
同情なのかもしれない。
────だけど、
俺は今日も、ギルドで彼女が声を掛けてくれるのを楽しみに待ってしまっている。
彼女は怒っているかな
こんな醜い男が振ったから
彼女は泣いてくれたかな
こんな醜い男のことを思って
期待と、
不安と、
恐怖と、
歓喜と、
彼女の事になると色々な感情が混ざりあってしまう。
わからない
だけど、好きだ
欲張りになってしまいそうなくらいに
独占したくなってしまいそうなくらいに
彼女への思いが強くなる度に、
もっといろんな彼女が、その笑顔が見たくなる
好きだ。
だけど、怖い
今まで、こんな気持ち知らなかったのに
彼女が
俺を惑わす。
「フェルさん!」
彼女が、キラキラとした笑顔で俺の元まで走り寄る。
いつもすごく可愛いらしいけれど、今日は彼女のそれが倍増していた。
クラクラしてくる。
いつもより大人びて見える彼女。
お化粧を、しているのかな。
いつもの様にあの席に座る。
大人びた雰囲気を持たせた彼女が、目の前の席に座る。
俺と彼女の2人きりの世界。
「分かりますか?」
彼女が聞く。
お化粧をした、ということだろうか。
俺が彼女を振ったことで生じた、彼女の気持ち、だろうか。
怒っている、のだろうか。
不安を感じて彼女を見る。
しかし、彼女はニコニコとこちらを見ていた。
お化粧をしたことで一段と可愛らしくなった彼女。
つやつやとした唇は、色気があった。
クラクラとした気持ちがまた、甦ってくる。
こんなに可愛らしい子を、周りの男は放っておかないだろう。
それを考えて、少し胸がズキンと痛んだ。
「怒って···いないのか?」
彼女に問う。
この醜い男を、彼女は怒っていないのだろうか。
周りの雑音が遮断される。
彼女の答えだけを待つ。
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「フェルさんの方こそ怒ってないんですか。」
彼女の問いに狼狽える。
俺が、彼女に怒る?
どこに、怒る?
彼女は優しくて、こんな俺とも話してくれて───
「私の事、嫌い···ですか?」
息が詰まる。
苦しくなる。
ありえない。
ありえるわけがない。
俺が彼女を嫌う···だと?
そんなこと思ったこともない。
感じたこともない。
俺は彼女の言葉を否定する。
ありえない。
ありえるはずがない。
俺の答えに、彼女は安心したようにへにゃりと笑った。
わからない。
彼女がなぜそんな表情を見せるのか。
わからない
彼女の気持ちが
でも俺は続けて言葉を紡ぐ。
「それに···。」
「それに?」
「ーーッすごく、可愛いと思う。」
本当にそう思う。
彼女の笑顔も、
心も、
全てが。
彼女が顔を真っ赤にして狼狽する。
俺も自分の言ったことに少し赤面する。
こんなセリフ、今まで言ったことがない。
彼女にだけ、言える言葉。
彼女が照れる。
ああ、
本当に────
勘違いしてしまいそうになる。
期待してしまいそうになる。
同情だと思うようにしているのに。
全て諦めていたのに。
こんな醜い男を惑わせる彼女。
ああなんて罪深いんだろう。
俺も
彼女も
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