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出会い編
第18話
しおりを挟む彼はこの世界では嫌悪されてしまう容姿を持っている。
シュッとした輪郭を持つ顔も
綺麗な二重の目も
薄い唇も
高い鼻も
高い身長も
男らしい体躯も
だけど、私にはそれらが魅力的に見える。
美しい芸術品のように見える。
いいの
私だけが彼の素晴らしさを知っていれば
いいの
彼は私以外の女を知らなくても
欲求不満であろう彼をどう誘おうか。
泣きついて縋ればいいだろうか、
優しく、誘導すればいいだろうか、
彼は
私に飛びついてきてくれるだろうか、
私に怯えてしまうだろうか、
私を嫌悪するだろうか、
わからない
だけどそれを覚悟で私は今から彼の元へ行く。
安心して欲しい。
彼の童貞は私が絶対に貰うし、この先も一生私以外を抱かせたりなんてしない。
執着心や独占欲がありすぎとか、
恋人面するなよとか、
気が早いとか、
まだ頑張れよとか思われるかもしれない。
しかし私の心はもう限界を迎えているのだ。
我慢が効かなくなってきているのだ。
フェルさんと一緒にご飯が食べたい。
フェルさんと一緒にお出かけしたい。
フェルさんとゆっくりのんびりとした休日を一緒に過ごしたい。
フェルさんと恋人になるだけでなく、結婚したい。
フェルさんとおばあちゃんおじいちゃんになるまで一緒にいたい。
こんなにも愛してる。
こんなにも求めている。
だから辛い。
フェルさんと会えない日々も。
フェルさんと共にいられない日々を考えた時も。
彼の家の場所はおばちゃんから聞き出した。
この際、個人情報なんてものは気にしなかった。
ごめんなさい
心の中で謝りつつも止めるつもりは無い。
ガチャリ
街で買った魔法具で扉を開ける。
あっさりと開いてしまった扉に少し焦る。それと同時に、簡単に鍵を開けれてしまった彼の家のセキュリティは大丈夫なのか心配になってくる。
だめだ。
確かに、彼に関することだから不安にもなる。
しかし、今はフェルさんの元に行くのが最優先なのだ。
他事に目がいってしまった自分を奮い立たせ、私は1歩、彼の家の中に足を踏み入れた。
広い家の中を慎重に1歩ずつ歩く。
ギシッギシッと踏む度に鳴る床に少し胸がドキドキとしてくる。
フェルさんの家は大きい。
それもあって、多くの扉が目の前に並んでいる。
見る限り、少しの時間で彼の居所を見つけ出すのはとても困難だ。
キョロキョロといろんな扉を開けて彼を探し回った。
キッチンらしき場所の扉も、リビングらしき場所の扉も
しかしどの部屋も生活感のない殺風景な雰囲気を醸し出していた。
少しして、どの部屋よりも大きな扉を見つけた。
手当たり次第に開けていた扉とは幾分か違う。
あそこに、彼がいる。
謎の確信が私の中を電流のように駆け巡った。
正解か、
勘違いか。
ギギィー
ゆっくりと大きな扉を開ける。
視界にすぐさま入ってきたのは大きなベッドとシンプルな机と椅子。
それ以外には何も無い空間だった。
寂しい。
そう思った。
根拠は、ない。
だが、なぜか彼がとても寂しがっているような気がした。
キュッと胸が締め付けられて痛い。
恐らく彼は眠っているのだろう。ベッドの上には不自然な膨らみがある。
ずっと恋焦がれていた私の心がフェルさんを見つけた途端、歓喜するかのように早鐘を打ち始めた。
隠れるつもりはさらさらない。
高まる鼓動を感じながら、外との繋がりを切断するかのようにゆっくりと扉を閉める。
この空間には、私とフェルさんの2人だけ。
ふと、目に入ってきた窓際の机の上に置いてある小さな花瓶。
はっと息を呑んだ。
そしてそこに置かれていたものに自然と涙が溢れてくる。
「なん···で?」
思わず、口から疑問が零れた。
なんで、
なんでなの
ねえ、フェルさん。
今すぐ彼に抱きつきたい衝動に襲われる。しかし、それを私はぐっと堪えた。
ああ、本当に
好きで、
大好きで、
もし貴方に、拒絶とか、
避けられたりだとか、
そんな事されても、私はフェルさんのことを嫌いになることなんてないし、
諦める理由にもならないけど
正直、狂ってしまいそう。
好きで、
好きすぎて。
鼻がツーンとする。
目からボロボロと涙が零れる。
わからない。
フェルさんの気持ちがわからない。
フェルさんの思いがわからない。
でもさ、
どうしてくれるの?
フェルさんのこと、もっと諦められなくなっちゃったじゃんか。
好きになっちゃったじゃんか。
窓際の机の上にある小さな花瓶。
そこに刺されているのは可憐な野花たちだ。
それは彼と一緒に行ったデートの時に、お昼を食べた山で私が摘んだ野花だった。
楽しくて、嬉しくて、フェルさんと一緒にいられることが幸せで、その気持ちをフェルさんにもっと伝えようと綺麗な野花を摘んだ。
それをあげた時、彼は驚いているだけで、
喜んでくれているかどうかなんて分からなかったけれど、
劣化しない魔法がかけられているのか、まだその鮮やかな色合いを保っているそれは大事に大事に飾られていた。
「あーあー。もうフェルさんのせいだからね。」
そう、フェルさんのせい
私を夢中にさせた、フェルさんのせい。
私は静かにするりと自分の服を脱いだ。
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