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恋人編(前編)
第26話
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彼女は確かに言った。
『あら、すっごくイケメンね。』と。
もう一度思い返して欲しい。
この世界の美醜感覚と、私の美醜感覚は逆転している。
なので通常、この世界の皆は私の基準のカッコイイを不細工だと認識しているのだ。
彼女は一体何者なのだろうか。
私みたいに前世の記憶を持った人?
ラノベみたいなのによくあった、異世界転生者?
聖女みたいなそっち系で召喚された人?
それとも、元々の美醜感覚が周りとは違う人ってだけ?
わからない。
だが、どっちにしろフェルディナントを渡すつもりはない。
せっかく手に入れた私の幸せな生活を崩されてたまるか。
私はメラメラと燃える闘志を心の中で掲げたのだった。
*****
ほら、今日も来た。
「フェルディナント~。」
甘い声に甘ったるい香水の匂いを纏いながら、フェルにぴとりと引っ付く目の前の女。
むかむかとする胸に、
イライラとする心に、
おかしくなってしまいそう。
なぜ彼女はフェルに目をつけたのだろう。
フェル以外にも選択肢はあるではないか。
まあ、彼が滅茶苦茶かっこいいことは私が一番知ってるから、彼を選びたいのはわかる。
だが、彼を選べば、私という邪魔者が付いてくると分かっていただろうに。
私は刻み込まれる眉間の皺を自分でぐりぐりと解した。
ああ、もう本当に──────
もう一度言おう。
やめて欲しい。
フェルに関わるのも、私の平穏で幸せな生活にひび割れを作ろうとするのも。
キッと彼女を睨みつければ、彼女は綺麗に唇の両端を吊り上げて馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
むり、なんなのこの女!
当然、フェルには私達の家でこの女が気に食わないことを伝えた。
彼もうんと頷いて聞いてくれたし、私の言いたいことが分かってくれたようなので良かったのだが、
この女からフェルに近づいてくるのでどうしようもない。
それも彼女は、気安くフェルのことを呼び捨てまでし始めたのだ。
許せない。
本当に許せない。
私だけの、フェルなのに。
私だけの、最愛の恋人なのに。
フェルの取り合いを今日も今日とてむかつく女と何度も繰り広げる。
私が右手に、彼女が左手に。
私の手は強く握られているが、彼女の手は宙ぶらりん。どちらが彼に愛されているのかがハッキリとわかる。
ふんと彼女に優越感で、ニヤッと笑ってみせるも、
「フェルディナント~あのねぇお父様があ。」
私の顔を見ようともせず、愚痴みたいな言葉をつらつらと彼女は話し始めた。
正直、興味無い!そしてうざい!
彼も鬱陶しそうにしてるのになんで気が付かないの?!
鈍感?いや、ただメンタル強いだけ?
本当に可哀想!
ふんっと鼻で彼女を笑ってやれば、高いヒールの踵で思いっきり彼女に足を踏まれた。
「ひぎっ!」
あまりの痛さに変な声が漏れでる。
あの尖った踵を薄い靴の上から突き刺すようにされたら痛いに決まっているじゃないか!
「おい!」
彼もこのことには黙っていられなかったのだろう。
彼女の手を強引に振りほどき、私の足の心配をし始めた。
だが、彼女は本当にすごいと思う。
憎悪を通り過ぎて尊敬した。
「あれ~?間違えちゃったあ。虫かと思ったんだよね~ごめんねぇ~ムシかと思っちゃってぇ~。」
悔しそうにこちらを見たも、そう甘えるような声を出してそう言ったのだ。
彼女の本当の目的はわからなかったが、私の怒りは頂点にまで達しそうだった。
*****
「ええ?ゴメス商会のご令嬢?!」
「···ああ。そうらしいんだ。だから下手に手を出したりしたら、大きな商家だし危ないかもしれない。」
彼の言葉に私は絶句する。
彼女がそんなに大きな家の小娘だったなんて···。
ゴメス商会。
この街だけでなく王都にまで名を広げている有名な商会である。
主に衣服系の事業を中心に行っている。
ゴメス産のそれらは大変丈夫で美しいと有名だ。
恐らく、お金持ちの大半の人達はゴメス商会のドレスやら装飾品やらを身につけていると思う。
「でも!私は嫌だよ?フェルがどっかに行っちゃったりしたら。」
不安で不安でしょうがない私はそう叫ぶ。
さらさら彼女にフェルを渡すつもりは無い。
だが、万が一、どうしようもない状況下で連れていかれてしまったら?
離れ離れに、なってしまったら?
そう思うと体の震えも寒気も止まらない。
「ーーー大丈夫だ。あの女はこんな醜い男のことをからかっているだけだろう。過去にもそういう奴を見たことがある。」
フェルが安心させるようにそういうが、聞き捨てならない言葉が混ざっていたような気がしたのでハッキリと訂正する。
「醜いだなんて。フェルはかっこいいんだから、そんな事言わないで。」
ふんと拗ねるようにそう言えば、彼は眉を下げて私の頭を撫で始めた。
子供扱いされてる気がするが、振り払わずにフェルに撫でられ続ける。
彼の手はすごく気持ちよくて安心する。
「大丈夫だから。セレーナ。」
フェルがぎゅっと私を抱きしめてそっと唇にキスをした。
そんな無責任なこと言って
本当に、不安なんだから。
私は、頬に伝う涙をそっと拭った。
『あら、すっごくイケメンね。』と。
もう一度思い返して欲しい。
この世界の美醜感覚と、私の美醜感覚は逆転している。
なので通常、この世界の皆は私の基準のカッコイイを不細工だと認識しているのだ。
彼女は一体何者なのだろうか。
私みたいに前世の記憶を持った人?
ラノベみたいなのによくあった、異世界転生者?
聖女みたいなそっち系で召喚された人?
それとも、元々の美醜感覚が周りとは違う人ってだけ?
わからない。
だが、どっちにしろフェルディナントを渡すつもりはない。
せっかく手に入れた私の幸せな生活を崩されてたまるか。
私はメラメラと燃える闘志を心の中で掲げたのだった。
*****
ほら、今日も来た。
「フェルディナント~。」
甘い声に甘ったるい香水の匂いを纏いながら、フェルにぴとりと引っ付く目の前の女。
むかむかとする胸に、
イライラとする心に、
おかしくなってしまいそう。
なぜ彼女はフェルに目をつけたのだろう。
フェル以外にも選択肢はあるではないか。
まあ、彼が滅茶苦茶かっこいいことは私が一番知ってるから、彼を選びたいのはわかる。
だが、彼を選べば、私という邪魔者が付いてくると分かっていただろうに。
私は刻み込まれる眉間の皺を自分でぐりぐりと解した。
ああ、もう本当に──────
もう一度言おう。
やめて欲しい。
フェルに関わるのも、私の平穏で幸せな生活にひび割れを作ろうとするのも。
キッと彼女を睨みつければ、彼女は綺麗に唇の両端を吊り上げて馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
むり、なんなのこの女!
当然、フェルには私達の家でこの女が気に食わないことを伝えた。
彼もうんと頷いて聞いてくれたし、私の言いたいことが分かってくれたようなので良かったのだが、
この女からフェルに近づいてくるのでどうしようもない。
それも彼女は、気安くフェルのことを呼び捨てまでし始めたのだ。
許せない。
本当に許せない。
私だけの、フェルなのに。
私だけの、最愛の恋人なのに。
フェルの取り合いを今日も今日とてむかつく女と何度も繰り広げる。
私が右手に、彼女が左手に。
私の手は強く握られているが、彼女の手は宙ぶらりん。どちらが彼に愛されているのかがハッキリとわかる。
ふんと彼女に優越感で、ニヤッと笑ってみせるも、
「フェルディナント~あのねぇお父様があ。」
私の顔を見ようともせず、愚痴みたいな言葉をつらつらと彼女は話し始めた。
正直、興味無い!そしてうざい!
彼も鬱陶しそうにしてるのになんで気が付かないの?!
鈍感?いや、ただメンタル強いだけ?
本当に可哀想!
ふんっと鼻で彼女を笑ってやれば、高いヒールの踵で思いっきり彼女に足を踏まれた。
「ひぎっ!」
あまりの痛さに変な声が漏れでる。
あの尖った踵を薄い靴の上から突き刺すようにされたら痛いに決まっているじゃないか!
「おい!」
彼もこのことには黙っていられなかったのだろう。
彼女の手を強引に振りほどき、私の足の心配をし始めた。
だが、彼女は本当にすごいと思う。
憎悪を通り過ぎて尊敬した。
「あれ~?間違えちゃったあ。虫かと思ったんだよね~ごめんねぇ~ムシかと思っちゃってぇ~。」
悔しそうにこちらを見たも、そう甘えるような声を出してそう言ったのだ。
彼女の本当の目的はわからなかったが、私の怒りは頂点にまで達しそうだった。
*****
「ええ?ゴメス商会のご令嬢?!」
「···ああ。そうらしいんだ。だから下手に手を出したりしたら、大きな商家だし危ないかもしれない。」
彼の言葉に私は絶句する。
彼女がそんなに大きな家の小娘だったなんて···。
ゴメス商会。
この街だけでなく王都にまで名を広げている有名な商会である。
主に衣服系の事業を中心に行っている。
ゴメス産のそれらは大変丈夫で美しいと有名だ。
恐らく、お金持ちの大半の人達はゴメス商会のドレスやら装飾品やらを身につけていると思う。
「でも!私は嫌だよ?フェルがどっかに行っちゃったりしたら。」
不安で不安でしょうがない私はそう叫ぶ。
さらさら彼女にフェルを渡すつもりは無い。
だが、万が一、どうしようもない状況下で連れていかれてしまったら?
離れ離れに、なってしまったら?
そう思うと体の震えも寒気も止まらない。
「ーーー大丈夫だ。あの女はこんな醜い男のことをからかっているだけだろう。過去にもそういう奴を見たことがある。」
フェルが安心させるようにそういうが、聞き捨てならない言葉が混ざっていたような気がしたのでハッキリと訂正する。
「醜いだなんて。フェルはかっこいいんだから、そんな事言わないで。」
ふんと拗ねるようにそう言えば、彼は眉を下げて私の頭を撫で始めた。
子供扱いされてる気がするが、振り払わずにフェルに撫でられ続ける。
彼の手はすごく気持ちよくて安心する。
「大丈夫だから。セレーナ。」
フェルがぎゅっと私を抱きしめてそっと唇にキスをした。
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本当に、不安なんだから。
私は、頬に伝う涙をそっと拭った。
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