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恋人編(後編)
第43話
しおりを挟むセレーナ達が部屋から退出した後、俺はセレーナの父親の方に顔を向けた。
俺の顔は恐ろしい程に醜い。
しかし、セレーナはこの顔をも愛してくれている。
大丈夫だ。そう勇気づけ、俺はすっとセレーナの父親と目を合わせた。
セレーナの父親は眉間に皺を寄せ、じっと俺を観察するように視線を巡らせている。
「───君が、セレーナの恋人で間違いはないかい?」
彼がまた、先程と同じように問いかけてくる。数分前までは、セレーナが答えるばかりで俺が口を開くことはなかったが、「はい」とすぐに俺はその言葉を肯定した。
フェルディナンド程ではないが、セレーナの父親はあまり好かれるような顔をしてはいなかった。
しかし、その瞳は力強く、我が子を大切に思う父親の瞳をしていた。
「セレーナは、可愛いだろう?」
何を聞かれるのだろうか、
セレーナとの仲を否定されるのだろうか、
そう覚悟しながら彼の言葉を待っていた俺は、それに拍子抜けしてしまった。
俺のきつく結ばれていた緊張の糸が少し緩まる。
セレーナの父親はいつの間にかゆるゆると頬を緩ませていた。あまり見てて良いものではなかったが、セレーナの父親らしいなと思った。とても、いいと思った。
「はい。とても可愛らしい女の子だと思います。それに、彼女は優しく思いやりがあり、街の仕事場でも皆から慕われています。」
背筋を伸ばしながらそう言えば、セレーナの父親はウンウンと嬉しそうに頷いた。ますます頬が緩みまくっている。
俺もセレーナのことを考えてしまい頬が緩みそうになった。が、慌ててそれを引き締める。
セレーナの父親の前でそんな醜態を晒す訳には行かない。元々が醜いのだから、そんなことをしてしまえばドン引きされてしまうだろう。
「フェルディナンド君は、セレーナで良かったのかな?」
ふと、セレーナの父親の顔が真剣なものとなった。
セレーナで良いのか、答えは悩むまでもなく決まっている。
彼の問いに、俺はすぐさま答えた。
「はい。セレーナがいいんです。」
俺は彼と目をしっかり合わせてそう言い切る。
俺はセレーナがいいのだ。
優しくて、可愛くて、気が利いて、甘え上手で、頑固で···セレーナのいい所なんて、セレーナがいい所なんて、上げ続けたらキリがない。
それくらい、俺は彼女を愛している。
それくらい彼女以外、考えられない。
セレーナの父親は「そうか」と呟いた後、ゆっくりと俺から視線を外し、ティーカップに口をつけた。
静かな空間が、俺の肌をピリピリと撫でる。
「フェルディナンド君。君のその容姿はあまりいいものとは言えない。」
「俺もだが···。」と頭を掻きながら言うセレーナの父親に「はい、分かっています。自分の容姿が醜いことも」と言った。
知っている。
俺の容姿が醜いことも、
皆から嫌悪されていることも、
全部、わかっている。
小さな頃から言われ続けてきたのだから。俺は醜い。
そんなこと、分かっている。
─────でも、
「俺はセレーナがいいんです。セレーナでなければ駄目なんです。こんなに醜い僕が彼女のように可愛らしい女の子を求める権利など無いかもしれません。だけど───!」
セレーナは俺の全てを好きだと言ってくれた。
ずっと一緒にいたいと言ってくれた。
こんなにも醜く、心まで歪んでしまっていた俺を。
あんなにも俺を気にかけて、あんなにも俺を愛してくれる存在は彼女が最初で最後だった。
そして、俺が愛したいと思った、信じたいと思った唯一の存在だ。これからもこの先もそれは彼女だけだ。
「お父さん、セレーナさんを僕にください!」
俺はそう言った後、素早くソファから下りた。そして床に正座をした後、セレーナの父親に向かって土下座をする。
頼み込む。
彼女と、セレーナとの仲を認めてもらうために。
最愛の恋人との仲を本当の意味で成立させるために。
俺のその姿にセレーナの父親は無言だった。床に額をくっつけている俺には、彼の姿は見えない。
少ししてから床から顔を上げ、セレーナの父親の目を見て俺は口を開いた。
「俺の容姿に戸惑うのは分かります。娘の恋人が醜いことに驚いていることも分かります。でも、彼女は、セレーナはこんな俺を受け入れてくれました。愛してくれています。俺もまた彼女をとても愛しています。」
また床に額をくっつけた。お願いしますと頼み込む。
グリグリと赤くなるまで、強く強く額を床に押し付けた。
「お願いします。娘さんを僕にください!」
断られても、俺は何度も頼み込むだろう。
セレーナじゃなければ駄目だから。
セレーナだけが俺の最初で最後の最愛の恋人だから。
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今日はあと二話です~よろしくお願いします!
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