【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり

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恋人編(後編)

第52話

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 セレーナの両親に促され、セレーナの実家へと足を踏み入れる。
  何度目だろうか。
  数え切れぬほど、この家にはお世話になっている。

 「セレーナは、あの部屋···よ」

  セレーナの母親が悲しげに眉を下げる。
  俺は「はい」と返事をした後、その部屋の扉に手を掛けた。

  この向こうに、セレーナはいる。
  ガチャリと音を立てて扉を開ければ、

 「フェル、遅かったわね!」

  と、相変わらずニコニコと元気に笑うセレーナがいた。

  ほっと安堵の息をつく。

 「悪い。薪を割ってて」

 「わあ!ありがとう。この村の冬、すっごく寒いの」

  ふふふと笑うセレーナに、愛しさが込上げる。
  そして、セレーナが生きてくれていることに胸の内が温かくなる。

  あの日、セレーナが魔物による攻撃を受けた時、俺は混乱に陥っていたが、すぐさま転移魔法を使った。

  行き先は、セレーナの両親の元だ。

  村の入口に転移したことで、あの女性がいち早く俺に気づき、そしてセレーナに気がついた。
  泣きじゃくるその女性の声に、ワラワラと集まる村人。

  殴りかかってくる者もいたが、あえて避けはしなかった。俺が悪いのは事実だったからだ。

  しかし、俺には村人に構ってやる時間などなかった。セレーナを助けねばならなかったのだから。
  セレーナが助かれば、俺は村人からのどんな罰でも受けるつもりでいた。

 『すまない』

  すぐさま転移魔法を使い、セレーナの実家へ無礼にも侵入する。
  そしてセレーナの母親に泣きながら縋った。

 『お願いしますお願いしますセレーナを助けてくださいお願いしますお願いします』

  あの時の俺はみっともなかったと思う。しかし、俺にとってはプライドよりもセレーナの方が大事だった。助けたかった。

  突然侵入し、突然発した俺の言葉にセレーナの母親は驚いたようであったが、「分かったわ」と俺にすぐさま指示を出した。俺の腕の中のセレーナを見て、今の状況をいち早く理解したのだ。

 『そこにセレーナを下ろして。できるだけそっとね。傷口が凄いことになってるわね。まさか、もう死んでる?』

  セレーナの母親が恐ろしいことを言ったことで、俺の胸は潰されそうな程に痛んだ。
  俺の表情を読み取ってか、セレーナの母親は薄らと微笑みを浮かべる。

 『嘘よ嘘。まだすっごく弱いけど心臓は動いているわ。ギリギリって所かしら』

  そう言ってセレーナの母親は横たわったセレーナの悲惨な状態になったお腹に手を当てる。

 『セレーナ、よく頑張ったわね。あなた、どうせフェルディナンドくんを助けたのでしょう?』

  意識のないセレーナに向かってふふふと笑うセレーナの母親の横顔が不思議とぼやける。俺は、泣いているのだろうか。

 『私はこれでも、聖女だからね』

  柔らかい光がセレーナの体を包み込むようにして輝く。
  それはあっという間で、セレーナの傷だらけの体は一瞬にして癒された。

 『私の力は傷を癒すだけで、体力の回復とかは出来ないの。あとは、セレーナの頑張り次第ね』

  そう言って笑ったセレーナの母親。    
  俺は、セレーナが無事に回復してくれることを一生懸命に願った。

  セレーナが目を覚ました時、どれほど嬉しかったことか。
  どれほど泣きだしそうになったことか。
  感謝してもしきれないほどの恩が、彼らにはある。
  こんなにも醜い俺に、
  こんなにも汚い俺は、

  これほど恵まれていてもいいのだろうか。

 「フェル?聞いてる?」

  愛しい彼女が小首を傾げて俺を見る。
  セレーナの大きな瞳は俺を映していて、俺の瞳にはセレーナが映っていた。
  
 「セレーナが生きてくれていてよかったと思ったんだよ」
 「ふふ。あたしもフェルがいてくれて良かったって思ってるよ」

  愛しい彼女を抱き寄せる。
  俺の唯一無二の、大切な存在。

 「セレーナ、愛してる」

 「私も愛してるよフェルディナンド」

    
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