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番外編
ある女の幸せ①
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ある女の話、の続きみたいなものです。
─────────────────
もう、諦めていた。
私の努力は今までなんだったのだろうか、と。
綺麗になる努力をして、皆を魅了する容姿を手に入れて、
───だから、今起きているこの状況に私の理解は直ぐには追いついてはくれなかった。
「レオノーラ、迎えに来たよ」
懐かしい金色の髪の毛が、穏やかに風に揺れている。
あまりに突然のことに、私の口から情けないほど掠れた声が漏れた。
嘘だ、と思った。
だって、彼は─────
「···どうして···」
口元を手で覆いながら一歩、一歩と後ずさる。
目の前に立つ人を、彼を、私は知っていた。
「···ルー」
彼は私の遠い記憶の中にいる人で、
私とこれからも会うことは無いと思っていた人で、
────生きているはずのない人で、
私の漏らした言葉に目の前の彼がふわりと笑う。
その笑みは恐ろしい程に美しかった。
震える体を抱きしめるように目の前に立つ彼の瞳を見つめる。
この国では珍しい、赤を持った瞳は彼が本物だということを示していた。
「レオノーラ、僕、頑張ったんだよ」
彼の言葉と共に細められる目は異様な程に綺麗で、私の身体にまとわりつく様に私のことを離してはくれなかった。
────彼は、ルーは、私が子供の頃に出会った少年だった。
ゴメス商会の娘という肩書きのおかげで、勉強、呪い、お金、色んなものに周りを囲まれていたあの頃の私は、気分転換に今私が立っている小道に来ていた。
人通りが少なく静かなここは、私の心を落ち着かせてくれるには絶好の場所だった。
あの頃にはあった思い出の木は、今はもう、ない。
それはいつもの様に家庭教師の目から逃れるようにここにやって来た時だった。
ここに来る度に、凭れるようにして座っている定位置に私以外の誰かがいた。
顔を伏せるようにして足を抱き抱えるように座っている、見たことも無い子だった。
興味、だろうか。
この時の私も、友達という存在がなかったから、だろうか。
『アナタはだあれ?』
まだ十にも満たない私は、蹲って縮こまっているその子に声をかけた。
不思議と恐怖とか、怯えとかはなかった気がする。
私の声にびくりと肩を揺らした後に、ゆっくりと顔をうつむき加減に上げた彼を、私は一生忘れないと思う。
彼は、綺麗だった。
嘘偽りなく、綺麗で美しかった。
けれどすぐに、彼は兄や家庭教師の言う醜い者だということが分かった。
この世界では嫌悪される容姿を持った子供だった。
でも、手入れをすればもっと綺麗に輝くであろうパサパサの金の髪の毛も、濁って光を見失ったように死んだ目をした赤い瞳も、透き通るように白い肌も、やっぱり私には美しく見えた。
『泣いてるの?』
私は許可無しに彼の隣へ座ると彼をのぞき込むようにしてそう問いかけた。
それによって彼の薄く開いていた瞳が、大きく見開かれる。
『···だ···』
小さな声で何かを言う彼に、耳を済ませてみるも聞き取れなかった私は家庭教師のセンセイみたいに彼に言った。
『もっと大きい声を出さなきゃ』
『僕に近づくな!』
すると彼がそうやって投げやりに発言したので、驚いた。それと同時に、女の子だと思っていた私はあまりに力強いその言葉に面食らった。けれども子供の好奇心は凄い。
私は小首を傾げて、彼にまた問いかける。
『んー、どうして?』
分からなかった。
こんなにも美しく、綺麗で女の子みたいな子が、これほど自分を拒絶することが。
むしろ、私は友達になりたかったのに。
『···だって、ボクは···ミニクイ···から···』
彼が絞り出すようにそう言ったのに、私はまたも首を傾げた。
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もう、諦めていた。
私の努力は今までなんだったのだろうか、と。
綺麗になる努力をして、皆を魅了する容姿を手に入れて、
───だから、今起きているこの状況に私の理解は直ぐには追いついてはくれなかった。
「レオノーラ、迎えに来たよ」
懐かしい金色の髪の毛が、穏やかに風に揺れている。
あまりに突然のことに、私の口から情けないほど掠れた声が漏れた。
嘘だ、と思った。
だって、彼は─────
「···どうして···」
口元を手で覆いながら一歩、一歩と後ずさる。
目の前に立つ人を、彼を、私は知っていた。
「···ルー」
彼は私の遠い記憶の中にいる人で、
私とこれからも会うことは無いと思っていた人で、
────生きているはずのない人で、
私の漏らした言葉に目の前の彼がふわりと笑う。
その笑みは恐ろしい程に美しかった。
震える体を抱きしめるように目の前に立つ彼の瞳を見つめる。
この国では珍しい、赤を持った瞳は彼が本物だということを示していた。
「レオノーラ、僕、頑張ったんだよ」
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あの頃にはあった思い出の木は、今はもう、ない。
それはいつもの様に家庭教師の目から逃れるようにここにやって来た時だった。
ここに来る度に、凭れるようにして座っている定位置に私以外の誰かがいた。
顔を伏せるようにして足を抱き抱えるように座っている、見たことも無い子だった。
興味、だろうか。
この時の私も、友達という存在がなかったから、だろうか。
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不思議と恐怖とか、怯えとかはなかった気がする。
私の声にびくりと肩を揺らした後に、ゆっくりと顔をうつむき加減に上げた彼を、私は一生忘れないと思う。
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嘘偽りなく、綺麗で美しかった。
けれどすぐに、彼は兄や家庭教師の言う醜い者だということが分かった。
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でも、手入れをすればもっと綺麗に輝くであろうパサパサの金の髪の毛も、濁って光を見失ったように死んだ目をした赤い瞳も、透き通るように白い肌も、やっぱり私には美しく見えた。
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『んー、どうして?』
分からなかった。
こんなにも美しく、綺麗で女の子みたいな子が、これほど自分を拒絶することが。
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『···だって、ボクは···ミニクイ···から···』
彼が絞り出すようにそう言ったのに、私はまたも首を傾げた。
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