できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―

愛朱ひいろ

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26話「つづく毎日と、あまい話」

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朝の光が家の中にゆっくり入ってきていた。

私はいつもの場所に立つ。

足をそろえて背中をのばす。

(……よいしょ)

少し前まではすぐに座ってしまっていた。

今日は、ぐらっとしない。

「最近、上手になったわね」

お母さんの声が、少し驚いたみたいに聞こえる。

「前はすぐ転びそうだったのに」

私はそのまま立ったまま、顔だけ向けた。

(……できてる)

胸の奥がじんわりあたたかくなる。

外に出ると、お父さんと並んで歩く。

前は後ろからついていくだけだった。

今は、同じ速さ。

「歩くの早くなったな。足もちゃんと前に出てる」

私は自分の足元を見る。

短い足。
でも、止まっていない。

(……あるいてる)

花畑でエルが言ってくれた声を思い出す。

『体力ついてきたんだね』

その記憶が、胸の奥でもう一度あたたかくなった。

***

午後。

家の前のベンチに座っていると、エルがやってきた。

「やっほ」

「……える」

隣に座ると、いつもの距離になる。

「今日はなにしてたの?」

私は、少し考えてから答えた。

「……たった。ぐらぐらしない」

エルは一瞬考えてから、納得したように笑う。

「そっか。続けてるんだ」

その言い方が、前より自然だった。

いつも通り、なんてこともない話を色々話してから私は胸の奥にあったことを思い出す。

「……える。このまえの、ごはん」

エルは、首をかしげた。

「サンドイッチ?」

私はこくん、と頷く。

「おいしかった」

「おいしかったね」

私がこくん、と頷くとエルはふわっと笑った。

楽しかった記憶が蘇ってくる。
だから、今度はお菓子作りを一緒にしてみたい。

でも、たぶんエルはわからないと思う。

(せつめい……)

「んと、」

言葉を探しながら、続きを考える。

「あまい、やいて、たべる」

エルは思っていた通り分からなかったみたいで、少し困った顔をした。

「甘いのを、焼く?パンとも違う?」

(……ちがう)

私は両手で小さく丸を作る。

「……さくさく……ちいさい」

エルは、その仕草をじっと見ていた。

「うーん……」

考え込むように視線を上げて、それから小さく笑った。

「想像はできないけど」

そう前置きしてから

「でも、なんか楽しそう」

その声には、迷いがなかった。

私は、顔を上げる。

「……たのしい、エルとしたい」

私がこくん、と頷くと「焼いて、甘くて、さくさく……」と、エルは私の言葉をなぞるように呟いてからにっこりと笑った。

「それ、できたらさ」

少し先を思い描くみたいに、エルは目を細める。

「いい匂いしそうだね」

それから、私を見る。

「やってみたいな」

「える……つくる?」

私がそう聞くと、エルはすぐには答えなかった。

少し考えて、それから頷く。

「うん、どうやったらできるか一緒に考えよ」

(……いっしょ)

胸の奥がぽわっとする。

できないことは、まだたくさんある。

――でも、

考えること。
話すこと。
選ぶこと。

それなら、もうひとりじゃない。

風が吹いて、足元の影が揺れた。

エルは空を見ながら言う。

「続いてくと、いいね。毎日のことも。その、あまいやつも。楽しいがいっぱい」

私はその横顔を見て、小さく頷いた。

(たのしい、つづく……いい)

すごくいい。

(いって、よかった)

まだ拙い言葉だけど、伝わって良かった。
チャレンジして良かった。

私はぎゅっと手を握った。
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